Tシャツのように薄手で伸縮性に富んだ胴に、丈夫な既存の戦闘服の袖を組み合わせたもの。
最初は兵士らの改造品だったが、後に正式な軍服となった。
概要
アメリカ軍は世界に先駆けてベトナム戦争の頃からボディアーマーの普及に取り組んだが、現場の兵士には不評だった。確かにボディアーマーは身体を守ってくれるが、冬用のウールコートより分厚いベストはベトナムの酷暑では不快この上ない。
軍は命令によってボディアーマーの着用を義務付けたが、兵士らはボディアーマーを着用する代わりに戦闘服の袖を切断したり、ジャケットを脱いで半裸の上にボディアーマーを着込んだ。
ボディアーマーと熱帯気候、そして分厚い戦闘服はいかにも相性の悪い組み合わせであった。
コンバットシャツは同時多発テロに起因する対テロ戦争やイラク戦争の際、アメリカ軍の中でもある程度装備の改造が許されている特殊部隊の兵士が、Tシャツに迷彩服の袖を縫い付けたものが発祥と言われている。
やがて、迷彩服を製造するメーカーによって量産され、兵士らが各自で購入して上官の許可を得て着る「私物の装備品」として販売された。
後にアメリカ軍では有効性が認められて正式な軍服(官給品)として使用されるようになり、中東地方に展開する各国軍でも同様のものが使用されるようになった。
構造・材質
ボディアーマーがカバーしない袖の部分は従来の迷彩服と同様に丈夫な生地でできており、過酷な軍務に耐え、既存の迷彩服や作業服と同程度の防御力がある。
一方で胴体の部分は、上にボディアーマーを着込むため、肩や首回りなどの強度の必要な一部を除けば従来の戦闘服のような丈夫な生地は不要である。
よって、Tシャツやスポーツウェアのように耐久性よりも伸縮性や肌触りの良さ、速乾性に優れた生地が使用される。このため、従来の戦闘服や迷彩服との組み合わせよりも、快適性は格段に向上した。
胴体
胴体の材質は多種多様で、兵士や民間人などに向けて販売されているものの場合、速乾性や快適性を重要視して胴体の部分を一般的な化学繊維としたものが多く、中には本家スポーツウェアも顔負けの機能素材を用いているものもある一方で、官給品を納入するメーカーなどでは着用感を少々犠牲にして綿などの比率を上げて難燃性を高めるなど、メーカーのコンセプトやユーザーのニーズに応じた様々なものが存在する。
現在アメリカ軍に官給品として納入されているものは難燃繊維を使用している。
上にボディアーマーを着込む前提なので胴体の部分のポケットが使えなくなるために胴体の部分にポケットはなく、左右の二の腕の部分に付く事が一般的。また、胴体の部分はボディアーマーに隠れるうえに、プリント処理をするとコストが上がり着用感を損ねるため無地のものが一般的である。
一方で、単体で着用したりプレートキャリアやチェストリグなどの小柄な装備でも迷彩効果を確保するために、わきの部分(胴体側面)のみ迷彩柄のものや、胴体全面に迷彩柄をプリントしたものも現れた。これらは製造コストが上がるため民生品が多い様子だが、アメリカ軍の場合納入メーカーによっては官給品にもこのようなものが存在する。
襟はジッパーで開閉できるものと、ジッパーそのものが無いものの2種類に分けられるものの、何れもボディアーマーが首と擦れないように、スタンドカラー(立襟)或いはタートルネックである。
袖
前述のとおり、二の腕にポケットがあり、左右で合計2箇所というのが一般的である。
最近では戦闘服にも人間工学の応用が積極的に進められているため、袖の部分はライダースジャケットのように立体裁断され、体に沿った着用感と動きやすさを両立してるものが多い。
近年の潮流に則って、ポケットには面ファスナーが取り付けられて国旗、部隊章、階級章、赤外線反射材などの任意のパッチを貼り付けることができるものが殆ど。
肘の部分に、着用者の肘を保護するための硬質樹脂製のエルボーパッド(肘当て)、またはクッションを入れることが出来るモデルもある。
至近距離での戦闘では激しい動きが多く関節を損傷しやすいため肘や膝などの保護は重要だが、単体の保護具ではズレたり紛失したりといったトラブルが多いので、これを防ぐことができる。
一方で、使わないときにもずっと袖についているので袖を捲くるときや狭い場所に手を差し込むときに面倒であるため一長一短である。
正確にはコンバットシャツとは呼べないが、コンバットシャツと同様の構造で半袖となったものも民生品としては登場している。
使用
現在では、作戦地域が中東などの比較的暑くなる地域が多い事や、ボディアーマーの着用が必須となっていること、志願制の兵士らの士気を維持するために兵士らの待遇改善を積極的に行っている事から、アメリカ軍のみならず前述の通り他国の軍でも積極的に使用されている。
官給品にコンバットシャツが無い国の軍隊でも、装備品メーカーがその国の迷彩柄のコンバットシャツを販売している場合、装備品に関する権限がある指揮官が認めさえすれば、兵士らはそれらを購入して着用することができる。
治安機関や民間軍事会社等では特に迷彩柄である必要が無い場合もあるため、単色のものも使用されている。
一方で日本では、長らく自衛隊迷彩のものが売られていたもののサバイバルゲーム愛好家などが購入することが殆どで、当の自衛隊で使用される事はかなり稀であった。
2010年代半ばから、国際貢献活動や合同演習などの結果を踏まえて部隊によって民生品の使用が緩和されつつあり、徐々に使用者が増えている。
2016年には、陸上自衛隊の見積書に『コンバットシャツ,国際活動用 ❘ 仕様書のとおり』の一文があることが確認され、官給品のコンバットシャツの存在が確定的となった。
胴体部が柔らかい生地で「綺麗に膨らんでくれる」為にPixivでの男女比は言わずもがなである。
珍しい品々など
コンバットパンツ
膝や腰などに伸縮性素材を使用して、これまでの戦闘服のズボンよりも動きやすく改良された(とされる)ズボン。
デザインは従前の戦闘用ズボンよりもかなりタイトに仕上げられ、代わりに低下した動きやすさを伸縮性素材の使用で補うというもの。
目的はやや異なるものの、全く性質が違う材質を使用する構造などはだいたいコンバットシャツと似たもので、コンバットシャツと対になるものとして紹介されることも多い。
膝の部分に硬いパッドが入れられるので、これも単体の保護具と違ってズレることはないので保護力は高い。
しかしながら、シャツ以上に酷使される衣服に僅かな部分とはいえ耐久性の低い材質(伸縮性素材)を使うのは如何なものかという風潮が根強いためか、はたまた実際に耐久性に問題があるのか、他に問題があるのか或いはただ単に高価なだけなのか、コンバットシャツほど普及している様子では無さそう。
BCS
アメリカ陸軍の研究機関「ナティック兵士研究開発技術センター」は、ボディアーマーを保護能力を補完するバリスティック・コンバットシャツ(BCS:Ballistic Combat Shirt) と呼ばれるものを開発した。
これは肩部や腕など従来のボディアーマーで保護されない部位に、軟質の防護材(ソフトアーマー)を加えたもので、見た目は従来のコンバットシャツに類似しているものの、従来の装備と比較すると人体に対する保護性能が大きく向上した。
冬用コンバットシャツ
本来暑い地域向けに開発されたコンバットシャツの概念を考えさせられる、「冬用のコンバット」も開発された。
曰く、「寒冷期は体温の変化が大きく特に冷えは生死に直結するので、胴回りの快適性や速乾性は夏と同じかそれ以上に重要」というコンセプトで開発され、通常のものより胴体部分の生地が厚手となっている、もしくはグリッドフリース等の通気性と保温性に優れた素材が使われている。
ニッチな品物で日本では知名度が低い品物ではあるが、それなりに愛用者が多い様子。
とは言え、重ね着をする際には分厚く嵩張る袖のうえにジャケットを着なければならず、冬期や悪天候時には環境に応じて薄手の服を何枚も重ね着して小まめに体温調節するという民生品由来のレイヤリングシステムが大半を占めている事も相俟って、通常のものより普及率は低い。
スロベニアのあるメーカーは、袖の部分に保温材を入れた「コンバットシャツ」を発表したが、保温材を入れた衣服を果たしてシャツと呼んでよいのか否か議論の余地がありそうである。