概要
中心市街地の人口が減少し、郊外の人口が増加する都市問題。決してメインイラストのような事例ではない。
人口分布図で見ると中心部に穴が空き、その見た目が菓子のドーナツに似ていることからこの名前がついた。
この現象が深刻な問題になるのは、地方都市にしばしばみられる都心の荒廃である。
大都市のドーナツ化
ドーナツ化現象は20世紀の三大都市圏でまず顕著になった。例えば東京23区で比較的郊外に位置する世田谷区の人口は2015年9月現在の推計でおよそ90万人と政令指定都市に匹敵するレベルなのに対し、都心の千代田区や中央区は小規模な地方都市レベルとなっている。
一方で、大都市の都心は毎日公共交通機関で膨大な通勤者や通学者、買い物客らを郊外から集めており、千代田区に昼間に滞在している人は居住者の15倍の約85万人にまでふくれ上がる。通勤ラッシュの激化(満員電車)や地域コミュニティの空洞化などの問題が生じる。
高度経済成長期からバブル時代にかけて、下町や地方都市から環境の良い大都市郊外へ移住して、そこから大都市へ通勤通学するというスタイルが憧れとなり、ニュータウン開発が本格化。かつて農地や山だった場所に大都市が建設されていった。ところが人口計画が交通網に対して不釣り合いであったため満員電車が常態化し、憧れの郊外生活は通勤地獄へと変わってしまった。
平成時代にになると、環境規制とインフラ整備で都心部の環境が改善されたこと、バブル崩壊で地価が下がったこと、規制緩和と建築技術向上によって高層マンションの供給が増えたことなどから郊外化の流れは反転し、郊外の「庭付き一戸建て」のニーズが減少して都心回帰の流れに向かっている。1990年代には居住人口3万人台にまで減少していた千代田区は、2021年には6万6000人にまで増加。中央区に至っては1997年の7万人から2016年の14万人に倍増。これら大都市ではむしろ高度経済成長期に開発されたニュータウンの過疎・高齢化が問題になっている。
地方都市のドーナツ化
日本でドーナツ化現象が深刻な問題になるのは主に車社会の地方都市である。都心部の古い市街地は地価が高く、かつ道路が狭く混雑し、駐車場も有料の場合が多いため、自動車でのアクセスが不便である。さらに、土地が狭く権利者が細分化されているので大規模な施設を作るのはなかなか困難。
便数もスピードも料金も不便であり、利用者減少→便数減少の負のスパイラルに陥っている。かつて商店街や百貨店が賑わっていた旧中心市街地などでは今なお公共交通は充実していることも多いが、住民も車社会に慣れているため、数キロの移動に数百円もの料金を払うということに抵抗感を抱く。
一方で郊外部のバイパス沿いは公共交通は極めて貧弱あるいは皆無なことが多いものの、自動車でのアプローチが容易で、しかも(農地転用の問題や規制さえ解決すれば)広大な土地が取れるから、商業施設を作るにせよ公共施設を作るにせよ、郊外にばかり立地するということになる。
一方それまでの中心市街地は取り残され、人が集まらなくなった商店街はシャッター通りとなってしまう。すなわち都市の内部に過疎地域が発生することになる。ひどくなると都心部は空き家と廃墟と更地に駐車場が連なるゴーストタウンとなってしまう。
また、新たな郊外市街地は車でのアクセスを前提としていることから、車を持たない若年層や自動車免許を返納した高齢者にとって不便である。無秩序な郊外開発(スプロール現象)は自然破壊やインフラ整備費の高騰などの問題も抱えており、空洞化した中心市街地の再開発が求められるようになった(コンパクトシティ)。
地方都市でも、過去の郊外化の反省から「コンパクトシティ」のかけ声のもと新しい公共施設は中心市街地につくられるようになり、地権者の世代交代などを背景にシャッター通りがタワーマンションに建て替えられるなどの再開発が進められ、一定の都心回帰現象が観察されている。
一方で車に慣れた人々が不便で高い公共交通や有料駐車場しかない旧都心に戻ってくることは無く、 再開発商業ビルは次々と失敗。郊外のロードサイドに移転した商業機能は都心部にあまり戻ってきておらず、地方の街づくりは車社会を前提とせざるを得ないのが現状である。
車社会の郊外でも衰退するニュータウンは出てきており、「限界ニュータウン」と呼ばれるアクセスの悪い郊外の過疎化・高齢化(郊外の荒廃・限界集落化)が問題となっている。これらはアクセスやインフラの悪さに加え、道路が狭く現代の巨大化した車の利用に適していなかったり、山中に作ったため勾配が厳しいなどといった理由があることが多い。
関連項目
社会問題 シャッター通り 商店街 ゴーストタウン 車社会 スプロール現象