代々牡羊座と牡牛座の黄金聖闘士は仲の良さそうな描写があったが、今作では37話にて会話シーンが実現。貴鬼をハービンジャーが手助けしようとするという、立場の差からの険悪ムードもなく朗らかな雰囲気で安定ぶりを見せた。
- 以下、聖闘士星矢Ωのストーリーに沿って解説しています。ネタバレ注意。
ハービンジャーは「都会を徘徊していたチンピラ出身。七~八歳のとき左顔面に危害を加えられたのがきっかけで偶発的に小宇宙に覚醒。その後格闘家などをしつつ二十歳前後まで一般社会で成長したのち、イオニアに見出されて聖闘士になった」という、聖闘士星矢の世界では異色の経歴を持つ青年である。
対する貴鬼は、八歳当時にはすでに先代牡羊座の黄金聖闘士ムウの弟子となっていて、ほぼ聖闘士の世界しか知らずに育ち、長じてのちは師の後を継いで黄金聖闘士兼聖衣の修復師になった、アテナ陣営生え抜きのサラブレッドである。(ちなみにCVを当てている中原茂は、OVA「聖闘士星矢 冥王ハーデス十二宮編」にて先々代牡羊座聖闘士のシオンの声を担当している飛田展男と声が似ていることで知られている。両キャラは世代に隔たりがあるものの、どちらも並外れたサイコキネシスを有するジャミール一族の出身で、ムー大陸に淵源を発するという謎めいた超能力者の血統を表わすキャスティングなのかもしれない)。
また生育した環境も、ハービンジャーは大都会の犯罪が頻発するスラム地区育ち。貴鬼は外部の人間はほぼ訪れないチベット辺境のジャミール地方出身で、おそらく互いに聖闘士にならなければ出会うことすらなかったほどかけ離れている。
いわば野良育ちと血統書つき、おまけに育った環境の文化も言語も違うという、意気投合どころかまともにコミュニケーションを取るのも難しい関係のように思えるが、得てして生まれ育ちのかけ離れた者同士こそ、互いに強く惹かれ合う、というベタ展開のCPとも言えよう。
ついでに言うと、貴鬼はいわゆる無印星矢の時代から子役で登場している古参キャラで、「あの小っちゃかった貴鬼がこんな立派な大人に!」というオールドファンの感慨をかき立てるためか、聖闘士星矢Ωでは、陶器人形のように端正な顔立ちとすみれ色の大きな瞳を持つとんでもない美人に成長した姿に描かれている。
実際ファンの間では「成長した貴鬼の活躍を見れただけでもΩを見た甲斐はある」という意見もあるくらいで(※下記の関連動画参照)巨体で隻眼、しかもスカーフェイスのハービンジャーとは「美女と野獣」系CPでもある。
(もっともハービンジャーも左半面の傷をのぞけば、充分に美青年なのだが)。
そんなふたりだが、マルスの十二宮に馳せ参じる前から互いに知り合い、所属陣営は敵味方ながら、ある程度は交流があったらしいことが、37話の会話からわかる。貴鬼はマルス侵攻後のある時期以降、弟子の羅喜を連れて逃亡生活を送っていたことが17話で示唆されており、その時期にイオニアの手先として、彼の追跡に当たっていたのがハービンジャーだったのではないか、というのが、このCPの書き手の間での一般的な見解となっている。
ただ、ハービンジャーは「より強い相手と戦って勝ちたい」という動機で聖闘士になった一種の戦闘狂であり、一応は師であるイオニアにも、主君であるマルスにもほぼ忠誠心を持っておらず、貴鬼の追跡任務を任されていたとしても、どの程度真面目にやっていたか非常に疑わしい。また貴鬼は、マルス・アテナ両陣営にとって大変貴重な(世界にひとりだけの)聖衣の修復師であり、仮にハービンジャーに追跡・補足されたのだとしても、それほど手荒な扱いはされなかったと思われる(もっとも前述の通りハービンジャーは根っからの戦闘狂を自認している男なので、血統書つきの黄金聖闘士である貴鬼に一戦くらいは挑んだかもしれないが)。追跡者と逃亡者の関係が、何らかのきっかけで変化した可能性は大いにあり、書き手の想像力というか妄想力をかき立てる。
というかこの時期に何かなければ、37話であんなにすんなり共闘しないよね。ハービンジャー明らかにもう貴鬼に惚れてるもんねというのがこのCPの最初の萌えどころである。pixiv投稿作品の「#ハビ貴鬼」タグに、ハービンジャーが貴鬼に一目惚れする設定が多いのは、そのためと思われる。
第二期が始まると、ハービンジャーは詳細な経緯は不明ながら正式にアテナ配下の黄金聖闘士となっており、貴鬼とも同僚の関係に落ち着いている。
マルスからアテナに鞍替えしたのちも「戦いそのものが目的」である戦闘狂を自認し続けており、仕える神に対する忠誠心は相変わらず薄く、アテナである沙織に対しても不遜な態度を貫き、平気で非難を浴びせるなど態度の悪さが目につくが、当のアテナならびに黄金聖闘士仲間の貴鬼・フドウ・星矢・インテグラ・玄武らからは、すでに不思議なほど篤い信頼を寄せられている(謹厳な玄武だけは、態度の悪さに苦言を呈しているが)。
ハービンジャー本人にもその理由は謎だったようだが、82話で星矢ならびに貴鬼がそろって「お前は口で言うほど悪いやつじゃない」と明言しており、パラス戦役開始以前の段階で、すでに黄金聖闘士は全員(と言ってもこの時点ではハービンジャー含め5名しかいないのだが)そういう共通認識を持っていたようである。これはマルス支配下時代からハービンジャーを知っており、マーシアンとの戦いに助力してもらったこともある貴鬼が、ハービンジャーを仲間に加えるために、アテナ以下陣営の首脳部を説得したことも一因ではないかと思われる。アテナ陣営の生え抜きで、星矢ら古参メンバーとは子どもの頃から親しく、マルス支配下でも最後までアテナのために働いた貴鬼の意見は、おそらくそれだけでも重く用いられただろうが、沙織や星矢の好意的な態度の裏には、どうも「貴鬼が選んだ人なら間違いはないだろう」という身内の感情もあったように思われる。ハービンジャー本人は、この生ぬるい扱いに居心地の悪さを覚えていたようで、最後までアテナや星矢に反発していたが、実際にはすでにしてヨメの実家に気に入られている婿どの状態になっている。
また星矢は82話の同じ場面で、「お前(ハービンジャー)は牡牛座の黄金聖衣に選ばれた立派なタウラスの聖闘士だ」とも言っており、彼独自に聖衣の意思を感じ取ってもいたようである。星矢は青銅聖闘士時代に先代タウラスのアルデバランから目をかけられて可愛がられており、その彼がハービンジャーをアルデバランの後継として受け入れ、「真のタウラス」と呼んだ意義はきわめて大きい。
ことほどさように、聖闘士星矢の世界では、「聖衣に選ばれる」ことは聖闘士にとってもっとも重要なことである(逆に「聖衣に見捨てられた」ヤツは、その後ほぼ聖闘士としての市民権を失い、派生作品においても悪い扱いをされ、この世界の創造神によって文字通り「未来永劫、鬼畜にも劣る賊の烙印を押される」のである。結局誰も罰を受けていない例の禁じ手の使用より、よっぽど罪が重い)。ゆえに「牡牛座の黄金聖衣が所有者としてハービンジャーを認めている」ことは、有無を言わせぬ事実として彼のアテナ陣営内での地位を安定せしめたと思われる(だからどんなにハービンジャーが「オレは強いやつと戦って骨を折る音を楽しみたいだけだ」とワルぶっても、首脳である沙織本人を含むほぼ全員が、ハイハイわかったわかったと受け流してしまうのである。このやりとりは、第二期の終盤まで何度も繰り返されることになる)。
ちなみに同じ82話で、貴鬼はハービンジャーに対して「わたしは幼い頃から星矢に憧れていた。今こうして共に戦えることを誇らしく思う」と語っており、それを聞いたハービンジャーがめちゃくちゃ面白くなさそうな顔をする場面がある。
貴鬼が言う「憧れ」は、あくまで聖闘士としての怖れを知らない戦いぶりに対してのものなのだが、ハービンジャーはそうは受け取らなかったようで、「お前らの昔話なんか聞いてねぇよ」と拗ねたそぶりを見せる。新参者であることへの劣等感もあるのかもしれないが、このときの「星矢について語る貴鬼の表情」は、気合いの入った作画により、思わず見とれるほど美しいので、そりゃハービンジャーも誤解しようってものである。
このシーンの「星矢について語る貴鬼を、面白くなさそうに睨むハービンジャー」の表情も、全般的に作画が微妙なことが多い聖闘士星矢Ωの中では、例外的に出色の出来なので、ハビ貴鬼好きの各位には、是非ストップモーションでご覧頂きたい。「こいつ後で絶対滅茶苦茶食う」と決意しているオスの顔が堪能できる。貴鬼逃げて超逃げてー!
なおパラスベルダ突入前の64話にも、星矢と貴鬼が会話するシーンがあるが、ここでもハービンジャーは何だか不満そうにしている。
この会話はごく短いものだが、貴鬼は星矢のことを「いつも心やさしいあなた」と表現し、最前線に出陣しようとする彼を「心はいつもあなたと共にある。どうかご無事で」と丁重に送り出すなど、古参組ふたりの長年の交友を感じさせる温かいシーンとなっている。そりゃアテナ陣営の中では新参者のハービンジャーは心安らかではいられなかっただろう。てゆうか貴鬼も星矢も罪作りよね…。
もっとも、聖闘士星矢Ωにおける星矢は、2期のほぼ全編にわたって沙織さんのことしか考えてないヤツなのが92話で発覚する(まあ古参の人間にとっては周知の事実だったろうが…)ので、ハービンジャーの嫉妬は杞憂にすぎない。ただ貴鬼にとって星矢が尊敬すべき先輩である状態は今後もずっと続くはずなので、おそらくハービンジャーの嫉妬のタネは尽きないであろう。
その後パラスの居城内に侵入したアテナと、その護衛の黄金聖闘士たちは、アテナ・星矢・ハービンジャー組と貴鬼・フドウ・紫龍組に分断されて行動することになるが、貴鬼たち三人は例の禁断技を用いたことで行方不明になり小宇宙も消滅、一時は死亡したかと思われた。それを感じ取ったハービンジャーは「馬鹿野郎どもが…!」と悲嘆し、その怒りのままにパラスの間へ到達。パラスの最側近として控えていたパラサイト四天王最強の男タイタンに、ガチンコ勝負を挑み、聖剣・天神創世剣を独力で粉砕するという誰も為し得なかった大殊勲を挙げ、当初はゴロツキ上がりと侮っていたタイタンに「見事だ。勇猛なるタウラスよ」と賞賛されるに至る。この過程でハービンジャーの「本当の戦う動機」は、「弱い者が弱いからという理由で強いヤツに踏みにじられることへの怒り」であることがわかり、アテナである沙織によって改めて「あなたはわたしの想像以上に心やさしい人でした」と讃えられ、そりゃーこの漢になら貴鬼も惚れるってものですよとハビ貴鬼信者を納得せしめる漢気を示した。
ちなみに貴鬼たちアテナエクスクラメーション組は、その後三人とも無事生存していることが確認された。ハービンジャーとも再会したはずだが、その描写は残念ながらない。ハービンジャーは対タイタン戦で結構な深手を負っていたのですぐには無理だったろうが、たぶんこのあと滅茶苦茶(略)という展開になったはずである。
90話でハービンジャーが立てた武勲も一因となり、激闘の末、アテナ陣営はついに勝利をおさめるが、マルス戦役からの連戦で本拠地の聖域は荒れ放題になっており、これから先長い復興事業に取り組まなくてはならないことは明白だった。そんな中、ハービンジャーは何と教皇に選出される。
聖闘士星矢世界における教皇は、事実上女神アテナの地上代行者であり、全聖闘士の頂点に立ち、戦時・平時を問わず戦女神の強大な武力の指揮権を有して、聖域ならびに世界各地に散在する駐留聖闘士の生殺与奪権を一手に握る絶対権力者である。教皇本人さえその気になれば、世界征服すら夢ではないほど、絶大な権力を持つことになる。それゆえか、過去にはその権力に狂わされてアテナ殺害という非道に走った人物も複数おり、教皇の地位を欲する野心家が、アテナ陣営の命運そのものを傾けかけた事件も実際に起こって、その権力の強大さゆえに、いつの時代も人選に苦慮する存在である。
一般的に誰を次の世代の教皇に据えるかは、先代の教皇による指名で決まるのだが、パラス戦役が起こった時期のアテナ陣営では、諸事情から教皇が不在で、長らく空位のままにされていた。そのため例外的に、貴鬼・フドウ・インテグラら黄金聖闘士から要請されたアテナが(星矢にも相談した上で)特にハービンジャーをと指名したようである(紫龍は戦いが終わるや、息子の龍峰を聖域に残したまま、さっさと妻が待つ五老峰に帰ってしまったらしく、この要請の現場には立ち会っていない)。
この件をハービンジャーに伝える際、貴鬼は「聞いたぞ。我らのために憤慨し、パラサイトと激戦を繰り広げたそうだな」と感謝と賞賛の言葉を述べている。当該の戦闘に立ち会ったのがアテナと星矢のみであるため、おそらく両名からハービンジャーの勇戦ぶりを聞かされたのであろうが、ずっと仲間に心を開こうとしなかったハービンジャーが黄金聖闘士仲間の死に怒りを滾らせたと聞いてよほど感慨深かったのか、このときの貴鬼のハービンジャーを見つめる表情がまた格別に美しく、潤んだ目いっぱいに愛しさが浮かんでいる。その上で、「権力ほしさに教皇の位を欲する者よりは、お前のようなまっすぐな者のほうが適任だ」と就任を渋るハービンジャーを説得している。
ベタ惚れだね!!と和んでもいいところだが、この発言にはハービンジャーも与り知らない貴鬼の人生経験に基づく切実な思いもあったようである。
彼から見て先々代にあたる牡羊座聖闘士のシオンという人物は、現アテナ降誕の時点で在位230年を数える偉大な教皇だったのだが、後継指名の失敗から配下の黄金聖闘士に叛逆され、あっさりと命を落とした。そのシオンの弟子で貴鬼の師であるムウは、わずか20年あまりの生涯の大半をこの教皇位簒奪事件への対処に費やさざるを得ず、長らくジャミールに隠棲して一時は牡羊座の黄金聖闘士であることを忘れられていた(貴鬼はこの時期にムウのもとに弟子入りしている)。またハーデスとの聖戦に際して、総大将のアテナ自らが非常手段を用いて単身冥界へ赴き、直接冥王ハーデスの首を狙うという捨て身のゲリラ戦法を取らざるを得なかったのも、この一件によって聖闘士の数が減り、聖戦を前にしてアテナ軍の戦力が大きく損耗していたことが原因である(それがなければ、アテナ軍は冥王軍に対してもっとまともな戦い方ができたはずで、貴鬼自身もわずか八歳にして師を失うことはなかったかもしれない)。
教皇権力への欲望に狂わされた先人たちの痛々しい人生を目撃した貴鬼が、あんな悲劇(アテナ陣営内の内ゲバ)は、自分たちが生きている間は二度と起こさないという強い思いを持っていたとしても不思議はない。その点ハービンジャーは粗野で戦闘狂のケはあるものの、権力への野心など持たない清廉な人柄で、身内同士の諍いを止める良識と、仲間の死を悲しむやさしい心根を持っている。この後の時代の聖域を託すなら、ぜひこの男にという思いを、貴鬼に抱かせるには充分だったろう。
まあ周りの黄金聖闘士たちは「やっぱりベタ惚れだね!!」と思ったに違いないが。
なお師弟三代にわたる黄金聖闘士で、血筋からしてもおそらく候補としては最右翼であっただろう貴鬼が教皇の地位を辞退した理由は「修復師の仕事が忙しいから」であり、就任要請の際の会話からして、トップの地位こそ譲ったものの、今後もアテナ陣営の幹部としての務めは果たしていくつもりのようである(派生作品のひとつロストキャンバスに登場する教皇の座を狙った人物によると、「教皇になるためには膨大な知識が必要」だそうで、現に彼は黄金聖闘士としての任務の合間に占星術・天文学・物理学・歴史学などを旺盛に学んでいる。これが本当だとすると、正直言って野良育ちの無学なハービンジャーには教皇の地位は相当重いはずで、是非とも優秀な補佐役が必要であろう)。
なので今後の聖域の経営は、教皇ハービンジャーと、修復師兼牡羊座の黄金聖闘士・貴鬼のペアが、アテナ軍の車の両輪として回していくものと思われる(インテグラは助力を申し出ているが、フドウや星矢などは戦闘員としての能力が高すぎて事務方としてアテになるかどうかわからないし、紫龍は妻のそばにいたがるだろう)。この復興期の聖域を舞台にした作品もpixivには多い。貴鬼に心酔している弟子の羅喜も、いつの間にかハービンジャーに懐いていたようなので、ふたりの前途は洋々である。
ちなみに星矢Ωに登場した時点で、ハービンジャーは(出生不明の身ながら)推定20歳前後、貴鬼は25歳くらいと思われるので、いわゆる年下攻めCPである。ハービンジャーが年上でしっかり者の恋人に頭が上がらない関係になるか、貴鬼がでっかわいい年下の男に翻弄される関係になるか、どちらにせよ
どうかお幸せに!