もしかして→バルログ
概要
原語表記はBalrog。
別名「ヴァララウカール」で、クウェンヤ語で「力の悪鬼」を意味する。
かつてはマイアール(単数形:マイア)という神霊の如き存在(ヴァラールが「神々」とも表現されているので、下級神とも言えるだろうか)だったが、初代冥王モルゴスに懐柔または屈服させられ、我欲またはモルゴスへの賛意または恐怖などから堕天し悪に走った者達の総称。まるで、ルシファーが神に反旗を翻した時に追従した天使のようである。闇と炎を纏ったその姿は、モルゴスを真似たものだとも推測されることもある。流れる焔の鬣も持っていた。
- 屈服させられたというよりは、実質的に自ら追従した可能性の方が高いかもしれない。「アイヌアの唄」の際には既にバルログは存在していたという意見もある。
固有名詞ではなく7体(トールキン自身によるウンゴリアントの討伐に召喚された個体数とクリストファー氏による後期稿)または数多く(初期稿)のバルログが存在した(名前が判明しているのは1~2体ほど)。某ゲームでは、青の魔法使い達に封じ込められた個体もいる。いずれも悪魔のような外見に変貌しているが、マイアであるガンダルフやサウロンなどと種族的には全く同じで、属性が異なるだけの存在である。初代冥王モルゴスの配下ではサウロンが最強だった。
ただし、モルゴスに追従したマイアの全てがバルログではなくて、あくまでも一部である。仮にガンダルフやサルマンなどが堕落しても、力で物事を解決するようなバルログにはなり得ないという意見もある(参照)。
ちなみに、作中の設定では「バルログ」とはエルフ達の使う言葉で「力の悪魔」や「炎の悪鬼」という意味である事になっている。
能力
アイヌアであるため、基本的には不死。肉体が滅んでも魂だけで行動可能である (サウロンがヌーメノール人を堕落させて第二紀に肉体を失っても復活したのはそのため)。
それなりにたくさん数がいたであろう初期稿の設定では「そこまで」化け物じみた強さではないが(参照)、後期稿で個体数が限定された時の設定では竜と並ぶ暗黒勢の二強であった。敵味方問わず恐怖を植え付け、ゴスモグは、超種族である古代のエルフの軍勢にも恐怖を撒き散らし、二つの木の光の力を持つフェアノールを倒し、第一紀のサウロンにも例えられるほどの力を持っていた。
右手に「炎のムチ」、左手には燃えさかる「火の舌のような剣」を持ち、その吐息は灼熱の業火であり、触れる物全てを焼き尽くす。ゴスモグは斧を得物としていた。またその瞳も爛々と燃えさかる炎の様に輝いている。
使用する描写は少ない、というかバルログの性分に合わないからなのかも知れないが、魔術も使える模様。また、恐怖と「力」または威光のようなものを(日本語に直訳して)カプセル化したり放射することもできた。
内部構造があったとはいえ、山を部分的に怪力で崩したこともあるし、ガンダルフとの戦闘は10日間ぶっ続け、山頂で2日ほどの戦闘があった時は遠方からも激しい雷と焔の嵐が見てとれたほど。また、ガンダルフとの魔力のぶつかり合い(扉をこじ開けようとしたバルログと閉めようとしたガンダルフ)で壁が破壊された。かなり素早いらしく、「焔の嵐」に例えられる走力を持つ。
映画では端折られたが状況に応じて身体構造を変化させる能力を持ち、後述の「ドゥリンの禍」がガンダルフとの戦闘で水中に落ちた際はゲル状になって生き延びている。媒体によっては、蛇身の悪魔のような姿になることもある(この場合、元の姿も翼を持つライオンの獣人のような見た目である)。
翼があるのかどうか、また飛べるかどうかは現代でも結論がついていない。
第二代冥王サウロンが自分のペットの猫と呼んでいたシェロブ、その先祖にあたる大悪魔ウンゴリアントとモルゴスが揉め事になり、モルゴスが喰われそうになった時に大絶叫した際には、瞬間移動でもしたか飛んできたかのように瞬時(5秒ぐらい?)に駆けつける描写がある。この時のウンゴリアントの大きさは実際には不明だが、肉体を得たモルゴスが6~7m程度、モルゴスと出会ったころのウンゴリアントが全高5~6m程度、二つの木を殺めた際のウンゴリアントは全高10~15m程度だという考察がある(参照)。
- 有名なバルログの姿はPJオリジナルのもので、本来はもっと人型に近く翼の有無も不明。原作で纏う煙と影が翼の様に見える描写はされている。
映画でも言及されていたように、エルフなど魔法種族に鍛えられた特殊な武器でないかぎり、通常の武器は歯が立たない。実体があるとはいえ、腐っても下級神だけなことはある。映画でガンダルフが剣で対抗できたのも、彼自身が下級神であることと、使用していた剣がゴンドリン王トゥアゴンの佩剣であったため。
歴史
まだメルコールと呼ばれていた時代のモルゴスがDQN化して産みの親の創造神イルーヴァタールの創造の歌「アイヌアの歌」に不協和音を奏で始めた後、モルゴスに従事して堕落した、または強制的に歪ませられたのが始まりとされている(もっぱらモルゴスは、最終的には自分の被造物もすべて自らの意思で灰燼に帰させていただろうと思われるが)。その後、モルゴスによる中つ国建設の邪魔に加担し中つ国はヴァラール達が本来抱いていたような理想的な世界にはならなかった。そして、エル(イル)の子らの受難が幕を開ける(余談だが、モルゴスという不協和音を創造し放置、というか滅ぼさずにおいたのもエル自身であるため、誰が全ての元凶かを論じることは困難である)。
エルフの天敵とされ、バルログとの戦いの中で非常に多くの惨劇が生まれた。その後、第一紀に発生した大戦「怒りの戦い」で、ヴァリノールの軍勢と戦い、竜同様にその殆ど全員が滅ぼされた(龍は下手したら2体のみ、バルログもごく僅かなもののみが逃れ潜んだのみで、後は殲滅された。
- この戦いは旧中つ国の北西部が海に沈むほどの規模だった。他にも、ワーグより遥かに巨大な巨狼、トロル、吸血鬼(巨大な蝙蝠)、悪霊や闇の精霊、闇の怪物達、などといった当時の暗黒勢のモンスター軍団の殆どが壊滅し、数千万レベルで参戦したオークや闇の人間&ドワーフなども尽く滅びた。我々が良く知る指輪物語やホビットの時代に巨大モンスターが少ないのも、この戦いの影響が大きい。
ちなみに、ゴンドリンの陥落ではゴンドリンを守っていた12の氏族でもハンマーを得物としていた最強の肉体派の氏族が全滅し、泉のエクセリオンやグロールフィンデルもバルログ共と相討ちになったが、ゴスモグ含め多数のバルログが倒されたのも事実であり、グロールフィンデルはその後に(おそらく)生き返り、指輪戦争の終焉まで活躍し続けた (「アングマールの魔王は人間の男では倒せないだろう」と予言をしたのはグロールフィンデルであり、この予言を自ら口にしていた魔王自身はグロールフィンデルから逃げていたが)。
知られる個体
作中の世界では、映画の影響から「ドゥリンの禍」という名で呼ばれている第三紀末のモリヤの坑道で発掘されたバルログが有名である。ドワーフ達に叩き起こされてから、モリアのドワーフ達を簡単に全滅させた。というのも第三紀当時のモリアはドワーフの個体数が大幅に減っており、空室となった場所が目立つ有様で、全盛期(第二紀)をとうに過ぎていたからである。ドゥリン6世も第三紀の1980年に犠牲になり、その子息のナイン1世も翌年に犠牲となってしまった。ドゥリンの禍が最後の個体であったかどうかは賛否両論あり、初期と後のバルログの設定の誤差が影響している(参照)。スマウグと共通しているのは、どちらも歴史上に記録された範囲では両種族における第3紀末の著名な個体であり、また、ガンダルフ一行と遭遇していた。
ドゥリンの禍はモリア坑道内に登場し、フロドたち主人公一行の前に立ちはだかった。ちなみに、脇役1レゴラスと彼に人気を奪われた脇役2ギムリは、バルログの名前を聞いただけでそれぞれ弓と戦斧を思わず取り落とした。
魔法使い、というか元同僚のガンダルフがこれに一騎打ちを挑み、相打ちとなり共に地下奥深くの地獄の業火の中に消えていった。その後、池に落ちたり、中つ国に古くから存在する正体不明の生き物たちが造ったトンネルを抜け、超長い螺旋階段を上登りながら戦い続け、最後はジラク・ジギルの塔の頂上で吹雪の中(原作では快晴)でガンダルフに敗れ去った。一方、当のガンダルフも力尽きたが唯一神によって「まだ仕事が終わってねーだろ」(たぶん)って事で転生、レベルアップして帰ってきた(しかもサルマンのお株を全部取ってしまう程)。結局、イスタリ達の中で任務を真の意味で最後まで完遂したのはガンダルフだけだった。
この時、ガンダルフとバルログが落ちた深さは、直線的に大体3kmほどだと推測されている(参照)。
その他の著名なバルログとして、第一紀に猛威を振るったバルログ達の大将「ゴスモグ」がいる(同名のサウロン軍の武将が『王の帰還』にて登場したが、原作では詳細不明。ナズグールの可能性もありうる。ICE社のRPGではハーフトロル、映画ではオークとされる)。当時の著名なエルフ、泉のエクセリオンと戦い、エクセリオンに泉の中に引き込まれ無理心中させられた(上古のエルフは身長が2~3m程もある云わば半神であり、戦闘力も第三紀のエルフとは比較にならなかった)。
- 第一紀は神々の力が地上に降り注いでいたので、全ての生き物が今より巨大で力強かった(木が雲を突き抜けるほど)。歴史でも名が残る戦いでは、何かとエルフとバルログの心中が多いのが特徴である。ガンダルフも共倒れだった。しかも、戦闘や決着に何かと「落下」つまり「堕」の描写を伴うのだ。
- 余談だが龍の死にもジンクスがあり、殆どの飛龍以外はエルフではなく人間に、それも不意を突かれて倒されるケースが多い。習性上、ドワーフの国と財宝を奪う→ドラゴンバスターが特殊武器で腹をグサッという流れである。
新作ゲーム『シャドウ・オブ・ウォー』では、味方すら攻撃する凶暴な個体ター・ゴロスが登場する(動画)。ドゥリンの禍とは対照的に、常に鎧を装備しており、腕には鎖を巻いている。兜はどこか東夷のそれを思わせるシルエットかもしれない。この個体はサウロン以外には味方としての敬意を払わず、自らを崇拝し召喚したオークの集団を全滅させた。実体ではなくて焔の翼を任意で造り出して限定的な飛行も行う。また、焔のムチから爆炎を飛ばす。凄まじい走力とジャンプ力を持つ。便宜的に「カーナンの禍」と呼ぶユーザーもいる。
第一紀では龍と並びモルゴスの勢力の要であった。
龍同様、あくまでもモルゴスの部下ではあるが、サウロンとの関係は、モルゴスの下ではサウロンの権力は絶大なものがあったとされているため、第一紀の時点ではサウロンの命令に従ったものと思われる。しかしモルゴスが虚空に追放された後は両者の関係は不明である。
- ちなみに二次創作品におけるゲームではウルゴストという火竜が「冥王の配下はどうとでもなるが、冥王その人を敵に回したくはない」と述べていた。
余談
トールキン世界の大部分がそうであるように、バルログが後世の作品(日本のゲームも含む)に与えてきた影響は絶大なものがある。
バルログが仮に一つの指輪を手にしていたら、おそらくは(一つの指輪を持ったサウロンが末期のモルゴスよりもおそらく強いのと同様に)末期のサウロンよりも強くなり、「モルゴスのエレメント」を宿すこと、つまりは中つ国の完全な破壊を目論むだろうという意見もある。これは、中つ国を掌握しようとしたサウロンとは異なる方向性である(参照)。
『ゴッドオブウォー』シリーズの監督の名字はバルログで、スペルもそのままである。
また、『ストリートファイターII』の同名の別のキャラクターが海外では別のキャラクターの名前にすり替わっているのはたぶんトールキンのバルログの影響 (というか、あっちのバルログがこっちのバルログから影響を受けた可能性も)。
関連イラスト
(このイラストは、「バルログ」と探すとヒットする最古のものであり、日本の同人サイトながらトールキン版のバルログの方が古い作品があるという、現実世界との奇妙な偶然である。)
外部リンク
関連タグ
スルト:もしかしたらだが、モデルの可能性がある。
獄卒:性質は異なるがイメージ的には似ているのかもしれない。