ラディーチェ・リロト
らでぃーちぇりろと
CV:深川和征
1期で同じ立場だったメリビット・ステープルトンと比べても効率性に強いこだわりを持ち、それ故にファミリー企業的な気風が強く時に合理的・理論的な考え方の出来ない鉄華団に対して苛立つ場面がある。
更に、団員は未就学者が多く事務知識が乏しい上、現場主義の風潮からか事務仕事への理解は希薄。
現実でも監査は現場から敵視ないし倦厭されがちだが、この鉄華団でも例に漏れず「テイワズ本部から自分達を監視・牽制する為に派遣された=スパイ同然の輩」として、地球支部メンバーの大半からは疎まれている。これは地球支部メンバーの大半が、CGSの少年兵達よりも大人に酷使されていたブルワーズの出身だった経緯も大きく、数少ない温厚系のチャド・チャダーンやタカキ・ウノからは仲間として見られているが、彼等は彼等でラディーチェを軽視している節があった。
そんな折、本来鉄華団では対抗不可能な大海賊「夜明けの地平線団」に火星本部が狙われた際、地球支部に配備予定だった獅電を、テイワズトップとの合意の下で本部に回すのが決定した。
ラディーチェは「支部の功績を優先して本部切り捨て」を主張するが「本部が潰れれば支部も終わる」とするチャドの意見が通る。これがきっかけなのか、それともこの後に更なる不和が生じたのかは不明だがガラン・モッサの誘いを受け、多額の報酬と引き替えにアーヴラウ防衛軍発足式典で爆破テロを手引きし、蒔苗東護ノ介とチャドを意識不明に追い込んだ。
その後はチャドの現場不在を利用し、地球支部と火星本部との連絡役として情報を操作。アーヴラウがSAUと紛争状態に陥る。その過程で間接的に多くの団員を死に追いやってしまう。
しかし、火星本部の増援部隊の手で自身の不正が明るみに出てしまい、更には形勢の不利を悟ったガランからも、何の連絡もなく見捨てられてしまう。ユージン達に身柄を拘束されると、ガランに全ての罪を着せて潜伏先の情報をリーク。そして己の正当性を主張するが「けじめを付ける為」にと覚悟を決めた、タカキの銃弾により討たれた。
彼の死後の整理で、地球支部の一通りの事務が派遣である彼の一手に握られていた(外部監査に自社の経理関係を一任するのは「弁護士」や「検察官」と「裁判官」の役割を、一個人が兼任するに等しい異常事態)事実が分かり、皮肉にもその死をもって、ようやく彼が当初訴えていた鉄華団の支部運営における、事務処理の軽視など重大な欠陥が露になっている。
鉄華団との確執
前項の通り哀れな末路を迎えた彼であったが事業規模が火星本部とそう変わらないであろう地球支部において、たった一人で事務運営を成立させていた彼の手腕は、事務員としては間違いなく優秀と言うべきものであっただろう。単身の能力はデクスターやメリビットよりも高かったと思われる。
しかし、それ故に己の仕事や能力に対する自信やプライドも相応に持ち合わせていた事は容易に想像でき、そんな中で事務作業に対して知識も理解も持たぬ鉄華団員達から、ラディーチェの苦労も知らずに頭ごなしに邪魔者、スパイ扱いされる地球支部の環境は人格を否定されるレベルの相当なストレスを生じさせていた筈である。
というか、当人達が自覚をしていないだけでアストン達の態度はかつてクダル・カデルらブルワーズの大人達にやられていた事をベクトルを変えて、彼等の来歴とは無関係なラディーチェやアーブラウ防衛隊員達にやり返していただけだとも言える。大人達相手に教官職をやらせるにはそもそもが人選ミスであった事は否定できない。
もっとも、彼の役職から『ストレスを溜めるぐらいならテイワズに報告すればよかったのに』という意見も当然存在するが、それは現場の直接の管理者であるチャドに現状のダメ出しをした時点で(形式としては)果たしているし、テイワズからの出向という身分的には先任者といえるメリビットが団員達と問題なく関係を維持出来ている以上、成果もなく本部に出戻りすれば『(事実上のNo.2が徹底的な男尊女卑主義者である事もあって)女にも出来た仕事の出来なかった無能』というレッテルを貼られ、己のキャリアに傷が付くと危惧したのかもしれない。
そもそも監査対象に正規の事務員が存在せず、監査役も自分一人な時点でテイワズは元からまともな監査をするつもりが無いと邪推した可能性もある。
あくまで原理・原則主義的な観点でいえば、問題を指摘されながらも具体的な対応を取らなかったチャドにも管理・監督責任があるのだ。
(事実、外様の監査役であるラディーチェが地球支部の事務運営を単身で管理しているという異常な環境を、自らも事務についての猛勉強に努めている最中のオルガが容認していたとはとても考えにくいため、事務関連を軽視していたチャドが「オルガに余計な負担を与えない為に」地球支部の運営状態を正確に報告していなかった可能性が高く、オルガもまたチャドの報告を鵜呑みにする事で必要な対応を採る事が出来なかった事が推測される。)
無論、チャドの能力を考えればその様な適切な対応を取る事は困難であり、その不備はラディーチェがフォローすることが望ましい訳であるが、余計な仕事を増やす現場から悪態を吐かれながら、尻拭いと辻褄合わせに忙殺されている彼に自発的にそれをしろと言うのは無理があったであろう。
チャドも事務作業の苦労を知らない、解らないにしても、せめて「ラディーチェは自分達に出来ない仕事をしてくれているのだから」と団員達の陰口や野次を諌めるぐらいのことは出来た筈である。が、結局は『自分達が馬鹿過ぎる』事が対立の原因である事に気付いていながら、ラディーチェが完全に鉄華団を見限るまで目に見える対応を取る事はなかった。
少なくとも、チャドが倒れた以降の地球支部は支部長代理含めた正規構成員ほぼ全員が自分達の帳簿の内訳どころか開き方すら知らず、かつ指摘されるまでそれを問題だとは認識していなかった。
ユージン・セブンスタークがタカキを擁護する際に主張した「地球支部はラディーチェに乗っ取られていた」という評は、そこに至る内情を考えれば当人たちの事務に対する無理解、無関心を棚上げし過ぎだと言うほかない。
こうなってくるとどちらが悪いというよりは『双方共に相手側に歩み寄る意思がなかった』事による感情的対立が、ラディーチェの暴走の引き金となった直接的な原因と見るべきだろう。
効率・利益を最重視し、融通を利かす事のない極端な四角四面っぷりは、デスクワークを軽視する鉄華団に対する彼なりの意趣返しだったのではないだろうか。「大人気ない」と言えばそこまでだが、『普段は大人の存在を軽んじながら、出来ない部分だけは大人に依存する』鉄華団のあり方がそうさせた一面もあるのである。
何が目的だったのか?
事の顛末だけを見れば『ラディーチェという男が何をしようとしていたかのかが分からない』と評する視聴者は少なくない。
が、それは劇中の事象のどこまでが彼の計算の内であったかを考察すればいくらかは推測可能で
恐らくラディーチェ本人としての当初の目的は、非協力的な上に自分に負担を掛けてばかりで事務方面での欠陥を改善する気がまるでない、将来的に運営の破綻が目に見えている鉄華団とは手を切りたい、しかし自分以外に事務の知識を持たない鉄華団をそのまま放り出してテイワズに帰還してしまうと結果として自分にも責任が飛び火してしまう、故に
「事務方(即ち自分)に責任が及ばない形で鉄華団地球支部が存続不可能な状態を作る」
事にあったと思われる。
防衛軍発足式典において爆破テロをけしかけたのも、あえてその日に元首である蒔苗を暗殺することで『晴れの舞台に目の前で国家元首を暗殺されておいてなにが軍事顧問か』という風潮をアーブラウ側に作ることで、鉄華団の面目を丸潰れにさせるつもりだったのだろう。
鉄華団を「マクギリス・ファリドの私兵」と認識しているラスタル陣営との利害が一致し、結託したのもこの点からだと推測出来る。鉄華団とアーブラウは蒔苗とのコネによって繋がっているため、ガランも(鉄華団に責任のある形で)蒔苗がいなくなれば鉄華団がアーブラウとの繋がりを維持するのは不可能になると見越した可能性が高い。
仮に蒔苗の暗殺に成功していた場合、蒔苗自身が国内外に敵の多い人物であるだけにテロの容疑者が一切特定出来ず、ガランも姿を現す事なくラスタルの暗躍を察知する手段が失くなり、いち監査役兼事務員に過ぎないラディーチェ個人に疑いが掛かる事もまずありえないという、鉄華団(とマクギリス)にとっては八方塞がりな状況になるところであった。
実際にはチャドが身を呈して蒔苗を庇ったために「鉄華団は最低限の義理を果たした」という結果になってしまい、裏方の工作員に徹するべきガランが表に顔を出す必要が生じ、ラディーチェの手元にはテイワズとアーブラウに対する『蒔苗暗殺未遂事件に関与した』という弱味だけが残ってしまった訳である。
後半の彼の行動が支離滅裂に見えるのは実際に彼の中では計画が完全に破綻していたからであろう。
末路の考察
裏切った際の行動の酷さから、一説には「ジャスレイ・ドノミコルスの派閥だった」と見れているが、その様な描写が無く(=後に手を組んだものの)テイワズの傘下である鉄華団を、アリアンロッドに半ば売り渡す行為をしている為に信憑性は薄い。
当初こそ、ラディーチェ自身は反りの合わない相手でも私情は挟まずに仕事はしており、地球支部に対してもオルガ・イツカ達とは異なり真剣に考えていたし、「口うるさい大人だから」を理由だけでブルワーズ組に一方的に嫌われていた現状には、同情できないわけではない。しかし…
- 「鉄華団を裏切った結果、テイワズの面目を潰す(しかも気づいていなかった可能性大)」(テイワズ)
- 「蒔苗氏に爆破テロを行う」(経済圏)
- 「協力していたガラン・モッサも裏切り、自害の遠因となる」(ギャラルホルン、厳密にはラスタル・エリオン個人)
作品世界の権力者全てに対し喧嘩を売っているに等しい真似をしているので、万が一放逐されていたとしても、別の組織に逮捕か暗殺されていたと思われる。
愛想を尽かした少年兵達と同様、感情に任せた行動を取ってしまったために最期を迎えたのは皮肉でしかない。もっとも、この時点の彼は最早正常な判断が利かなくなっていたのだろうが…
マクマードの意図
マクマード・バリストンが鉄華団とは真逆の思考の持ち主であるラディーチェを、どうして同組織へ配属させたかについては
- 支部を持つ以上、今までのやり方が通じない事態に備え、それ以外の方策を教える(=運営ノウハウの伝授)
- 団員が増員すれば自分たちとは真逆の考えの人間も来るであろうから、そのような人間ともちゃんとコンタクトを取り、巧く手綱を握られるか?(=試験の一環)
- ジャスレイと彼に同調する古参幹部たちへのガス抜き(組織全体を潤滑させるための小細工)
等が考えられる。しかし、そもそもにして拠点を複数持つ大組織の運営ノウハウのない鉄華団に必要だったのは『監査役(審査員)』ではなく『アドバイザー(教師)』であり、地球支部の事務員不足の問題に関与せず運営を開始させ、監査するにしてもラディーチェたった一人だけを監査役として放り込んでそのまま放置していたというのは(直属の上司にあたる名瀬も含めて)監督者としてあまりに薄慮だったと言わざるを得ない。
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