概要
約千年前、人が竜を滅ぼして『封印の剣』『烈火の剣』の舞台、エレブ大陸の覇権を奪い取った戦い。
元々は人も竜も互いの住処を侵すことなく穏やかな生活を営んできたが、人の侵略によってその平和は崩れ去り、どちらともが多くの犠牲を出しながら世界の法則をも無視して相手が滅びるまで争い続けた。
「人と竜の戦い」というものは古今東西の創作界隈で頻繁に見られるモチーフであるが、この戦いにおいて特徴的なのは「穏やかに暮らしていた竜族に対し、人族が一方的に仕掛けた侵略戦争」であるということ。ともすれば狼藉を働いたともとれる人族がそのまま勝利してしまったというのも珍しい。
開戦の動機は作中の時代において「人口増加によって土地が足りなくなってきた為竜達の住む土地を狙った」「すぐ傍に自分達より大きく強大な存在が住む恐怖に耐えられなかった」と推測されているが、ともあれ人の一方的な事情に基づくものだったことは一貫している。
ちなみに恐怖に耐えられなかったとの推測はなかなか理解しづらい部分もあるが、日本でも野犬の徹底駆除など脅威となるものは始末しており、現代的には犬が怖いなどの感情と照らせば多少は理解が進むかもしれない。
そのような経緯であるため「非力な人々を哀れんだ神が手を貸した」といったような展開がある訳もなく、単純に「人の方が数が多く、人の方が増えるのが早かった」からという何とも生々しい理由で大勢は決した。人の歴史においては伝説の戦いであるが、当事者であった最後の竜は繁殖力の違いが生き残りを左右した単なる生存競争であると捉えている。
本作における伝説の武器枠であり、作中の時代には英雄が振るった武器として数々の伝説に彩られている神将器や封印の剣も元を質せば単なる人造兵器に過ぎず、「神竜から賜った牙を刀身とした神剣」や「女神の加護を受けた剛剣」などといった大それたバックボーンは存在しない。その実態も世界を救うどころか世界の理を破壊して大災害を引き起こした原因の一端であり、使用者自身から「危険すぎる」と恐れられ入念な封印を施された負の遺産である。
また伝説においてはあたかも人と竜の全面戦争であるかのように語られているが、シリーズ20周年記念に発売されたファイアーエムブレム大全では相当数の竜が戦いを拒んで自ら住処を離れており、戦うことを選択したのは火竜の一派くらいのものだったと書かれている。侵略に対してほとんどの相手が逃避を選んだとは侵略者にとって何とも都合のいいことである。もっとも、侵略の理由が上記の強大な生物の駆逐であったとすれば、逃避を選択することは何の意味も為さないが。
人においても地方では村を助けてくれた竜への感謝を捧げる秘祭が現代まで伝わっているケースがあり、中央に声の届かぬ少数派ながら竜族に敵対しなかった者達も存在はしていたらしい。
無限に竜を生み出す魔竜の存在と竜を滅ぼすために生み出された八つの武器の存在。荒れ狂う世界。またその八つの武器を操る八人の英雄の存在。圧倒的な力を持ちながら滅びゆく竜族。犠牲となった魔竜。英雄たちが最後に下した決断。そして、全てが終わってなお無様に生き残った最後の竜。それらは後世に尾を引き、ベルン動乱など様々な出来事を巻き起こす。
戦役の流れ
前期
- 「人」と「竜」が共存するエレブ大陸で「人」が突然の侵略を開始。大陸の覇権と種の存亡を賭した戦いが始まる
- 開戦の理由についてはっきりとした明言はないが、一説には巨大な「竜」への恐怖心や増えすぎた「人」の人口問題が背景にあったと考えられている。
- 「人」と「竜」の力の差
- 巨体を誇る「竜」と小さな「人」では種族としての力量の差は歴然としたものであり、当初は「竜」の力が侵略者である「人」を圧倒していた。しかし元より人口問題を抱えるほどの爆発的な数で「人」が仕掛けた戦争は、「竜」にとって終わりが見えない大きな災いともなった。
- 「竜」が「人」に押され始める
- やがて戦いの長期化は繁殖力が「人」に劣るという「竜」の致命的な弱点を明らかにした。年月とともに減少する「竜」と増え続ける「人」、こうして「竜」の強大な力は次第に「人」の圧倒的な数の力へと飲み込まれていった。
中期
- 「竜」の間で神竜族の力をさらに高めること、数を補うために戦闘竜を量産することが検討される
- 戦闘竜とは意思と知性を持たないホムンクルスのような人工生命体であり、敵意のみを察知して反撃する人工のドラゴンのこと。
- 神竜族、力の強化と戦闘竜の存在に反対する
- 「人」の脅威を前に「竜」全体が滅亡を恐れて神竜族にすがる中、神竜族はこれらがやがて世界を歪めることを説き、反対を表明。この決断に他の「竜」と神竜族は二つに分かれてしまう。
- 神竜族、戦線を離脱するも幼い神竜が逃げ遅れる
- 神竜族の力を得られずに苦悩する他の「竜」に対して神竜族は一族全体で逃亡を決意。唯一、神竜族の少女が一人だけ逃げ遅れるも、一族はその娘を見捨てる。
- 魔竜の誕生
- 逃げ遅れた神竜の少女に再び他の「竜」がすがるも、この少女もまた提案を拒否。やむなく他の「竜」は魔力で娘の意思を奪う。その後、操り人形となった神竜の娘は力を強化され、魔竜となる。
- 「竜」が「人」を押し返す
- 魔竜の力によって戦闘竜が次々に召喚され、「竜」の反撃が始まる。しかしこの急激に増加した「竜」の数にやがて「人」は魔竜の存在を察知する。
後期
- 神将器と八神将の誕生
- 魔竜の存在を察知した「人」は魔力によってドラゴンキラーをも凌駕した神将器と呼ばれる「竜」を滅ぼすための武器を作り出す。同時に意識も記憶もすべてを闇に捧げて「竜」を殺すだけの魔力を得たブラミモンドなど、「人」でも常軌を逸する八人の使い手たちに神将器を託し、戦いは最終局面へと移行する。この八人はのちに八神将と呼ばれる。
- 八神将が竜殿へと侵攻、世界の秩序が乱れる
- 強力な魔竜の力と異常な神将器の魔力、この二つが同じ「竜」の聖域である竜殿へ集まったとき、エネルギーの集中によって神竜族の不安通り世界の環境が狂ってしまう。
- 終末の冬の到来、「竜」の人間化
- 大自然の暴走によって四季や昼夜が乱れ、同時に大地や空の力が弱まったことで「竜」は本来の姿を保てず、「人」と同じ人間の姿となる。
- 「竜」が虐殺される
- 力を失った「竜」は「人」と同じ姿でありながらそれ以上に無力な存在となり、もはや「竜」は「人」にとって敵ではなく、抵抗のすべもなく次々と虐殺され、竜殿は一瞬のうちに陥落した。
- 八神将が魔竜と対峙する
- 竜殿は赤子の手をひねるように制圧され、魔竜を残すのみとなった。しかし、ここまで戦いの中で芽生えた「竜」への憎しみを糧に戦い続けてきた八神将は、話し掛けても反応すらない、心を失った一人の少女でしかない魔竜の姿を目にする。
- 魔竜が封印される
- 八神将のリーダーであるハルトムートはここで我に返り、これまでの流れと魔竜誕生の経緯を振り返ると、他の神将を説得。この戦いの罪滅ぼしに魔竜を殺さず、剣と宝珠、封印の剣とファイアーエムブレムの力で封印することにより戦いに終止符を打つ。
終戦後
- 新王国の建国
- エリミーヌ教の成立
- 八神将の一人、エリミーヌによって、戦いで大切な人を失い絶望に暮れる人々を慰めるべく、後に大陸でも多くの人々に信仰されるエリミーヌ教となるいくつかの教えが説かれる。
- 神将器の封印
- 役目を終えた神将器はその力の恐ろしさもあり、終末の冬の再来を恐れてそれぞれの地へと念入りに罠を仕掛けた上で封印される。またその魔力自体もブラミモンドに封じられる。
- 大賢者アトスの隠棲と「理想郷」
- 八神将の一人、大賢者アトスは戦後に各地を旅して周り、その道中にて闇魔法を研究するネルガルという男と出会い意気投合。ネルガルはアトスの旅に同道し、その度の最中にかつてと同じく人と竜が共存する「理想郷」とも言える隠れ里に流れ着く。二人は他の人間にも発見されるのは時間の問題だと考え、「理想郷」をナバタ砂漠に里を移し、そこに隠棲することを決める。しかし、ネルガルは理想郷で暮らすうち、竜の知識を得て生物から「エーギル」という生命エネルギーを採取する方法を知る。そして、アトスの忠告も無視してエーギルの研究を始めた。対象は動物から人間へ移り、挙句は神竜のエーギルを狙おうとするが、神竜と結託したアトスによって倒され、瀕死の重傷を負いながら理想郷を去る。だが、生き延びたネルガルは野心を捨てておらず、力を得るために闇魔法の研究を再開。人造人間「モルフ」を製造し、暗殺組織「黒い牙」に潜ませて実権を握る。更には「魔の島」にある「竜の門」を用い、異世界に住まう氷竜の姉弟を誘き寄せるなど、世界の裏側で暗躍する。…が、目を離した隙に竜の姉弟に逃げられてしまい、それを発端にとある戦乱を引き起こす事となる。
- 生き残った最後の竜
覇者の剣
人竜戦役のとき、「人」でありながらも「人」から遠ざけられ、「人」であるために「竜」にもなれなかった、「人」と「竜」を憎む闇の魔術に長けた民族が登場する。また、この漫画ではハルトムートに「竜」の妻と隠し子が登場するものの、「竜」を滅ぼした男が彼女とともに生きられるわけがないという理由で結ばれることはできなかった。