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概要

偽鰐類(ギリシャ語の ψεύδος (pseudos)、「偽」とギリシャ語の σούχος (souchos)、「ワニ」に由来する)とは、現存するワニ類および鳥類よりもワニ類に近縁な全ての主竜類を含む、主竜類の二大グループの内の1つである。非公式にワニ系主竜類と称されることもある。

分類

分類
爬虫類 Reptilia
双弓類 Diapsida
主竜形類 Archosauroformes
真鰐脚類 Eucrocopoda
主竜類 Archosaur
偽鰐類 Pseudosuchia

偽鰐類という名前は、1887年から1890年にかけてカール・アルフレッド・フォン・ジッテルによって、表面的にはワニに似ているが実際にはワニではない爬虫類のグループとして作られた。そのために偽のワニと名付けられた。

その後、槽歯目の亜目の1つになったり、三畳紀の所属の良く分からない爬虫類が入れられるごみ箱のような分類群として扱われたこともあった。

ワニ系主竜類のグループとしてかつて腿跗類(クルロタルシ類)という名前が使われていた。腿跗類は偽鰐類と同義として扱われることもあるが、どの研究を採用するかによって意味合いが変わってくる。2010年の研究では腿跗類がワニ系主竜類のクレード名として扱われていた。

2011年のネスビットの研究ではクルロタルシ類の基底メンバーだった植竜類が、鳥中足骨類(アヴェメタタルサル類)よりも遠縁であるという説が提唱され植竜類は主竜類には含まれなくなった。その結果、腿跗類という名は植竜類と主竜類を含むより包括的なグループに使われた。代わりにワニ系主竜類には偽鰐類という名前が使われることとなった。

2017年のEzcurraの研究はネスビットの研究を修正し、植竜類を再び基盤的な偽鰐類に配置した。(腿跗類の代わりに主竜類の上に真鰐脚類”Eucrocopoda”というグループが作られた)

このように植竜類を系統樹のどの位置に配置するかによって偽鰐類と腿跗類の立ち位置が異なってくる。

現存する偽鰐類の末裔であるワニ類は細かな違いはあるが、すべての種が半水棲で、ほかの爬虫類と同じように這って歩いている肉食性の動物である。しかし彼らの祖先である三畳紀の偽鰐類は恐竜類と同じように体の真下に手足を伸ばし、直立歩行を行う爬虫類だった。

だが直立歩行を行う方法は2つのグループで異なる方法をとっていた。

直立歩行を行うためには大腿骨が地面に対し、垂直になっている必要があるが、恐竜の場合大腿骨の骨頭が横に突き出し、骨盤の寛骨臼に入る形でそれを実現している。

対して、偽鰐類は骨盤が水平に張り出し、寛骨臼が下を向いているため大腿骨を垂直にして熱くことができた。

また、くるぶしの構造も異なっており、くるぶしにある距骨と踵骨の可動面が恐竜と偽鰐類で異なっていた。

植竜類 フィトサウルス類(Phytosaur)

スミロスクスSmilosuchus

Phytosaurは植物トカゲを意味し、このグループで最初に発見されたフィトサウルスPhytosaurus)が植物食であると誤って考えられたことに由来するが実際には彼らは肉食性の動物だった。このグループは長い鼻づら、鎧で覆われた体、外見や生活様式など様々な点で半水棲への適応を示しており、現生ワニ類との収斂が見られる。

半水棲の種がほとんどだったが、陸棲傾向のあるニクロサウルスNicrosaurus)やより水中生活に特化し、海洋または汽水域で暮らしていたとみられるミストリオスクスMystriosuchus)のような種類も存在していた。

最大の種はスミロスクスやルティオドンRutiodon)などで全長は8mほどになる。

研究によって基盤的なワニ系主竜類に分類されることもあれば、主竜形類とされることもあるが、最新の研究では偽鰐類に分類されている。

オルニトスクス科(Ornithosuchidae)

オルニトスクスOrnithosuchus

オルニトスクスやヴェナチコスクスVenaticosuchus)などが属するグループ。直立歩行を行う陸棲動物で肉食。

オルニトスクス科の特徴は、顎を閉じると2つの大きな湾曲した下顎の歯が上あごの前上顎骨と上顎骨の間にある空間に収まることである。この歯を収めるための2つの浅いくぼみがある。

オルニトスクスとリオジャスクスRiojasuchus)の大きな下顎の歯は、下顎から突き出した小さな前傾した歯の後ろに配置されている。このような歯の配置は他の基盤的な主竜類には見られない。もう一つの特徴は、リオジャスクスやヴェナチコスクスに見られる、下向きに突き出したした独特な鼻先である(オルニトスクスには見られない)。

鷲竜類 アエトサウルス類(Aetosaur)

スタゴノレピスStagonolepis

鷲竜類の名はアエトサウルスAetosaurus)(鷲トカゲ)に由来おり、この学名はアエトサウルスが先の尖った鼻面を持つことに由来している。しかし、彼らは実際にはワシとは全く似ても似つかない、むしろ真逆の生態をもつ爬虫類だった。鷲竜類はその全てが直立型の4足歩行を行っていた植物食動物で最大の特徴は背中をとげや鎧のように硬い4列の皮骨板で武装していたことである。鷲竜類が絶滅した後に現れる鎧竜類に非常によく似た姿をしていた。これは当時共存していた肉食の恐竜や同族の偽鰐類から身を守るのに大いに役に立っただろう。

力強い前あしや吻部の形状から地中の植物の根を掘り返していたという主張もある。アエトサウルスのような全長1mほどの小型のものからアエトサウロイデスAetosauroides)やデスマトスクスDesmatosuchus)のような大型の種もいた。2010年の研究ではワニ形類の最も近縁なグループだったが、近年ではポポサウルス上科類やラウイスクス科よりは遠縁に位置付けられている。

ポポサウルス上科類(Poposauroidea)

シロスクスSillosuchus

ポポサウルス上科類は偽鰐類の中でも特に恐竜と似たグループで、4つの科といくつかの種から成るグループだが、そのどれもが独特の特徴を備えていた。

他の偽鰐類と同じく直立歩行を行っていたが、4つの科の内の2つ---ポポサウルス科とシュヴォサウルス科は恐竜のように2足歩行を行うことができた。

ポポサウルス科の一種、ポポサウルスPoposaurus)の骨格は獣脚類の恐竜とそっくりで、断片的な頭骨や歯から肉食動物だったことが分かっている。

シュヴォサウルス科は中空の骨、軽量な骨格、直立二足歩行といった特徴を備えており、植物食であったと推測されている。白亜紀に繁栄したオルニトミムス竜類に非常に似た特徴を備えており、収斂進化の例としても知られている。

他には四足歩行で背中に帆のある肉食のクテノサウリスクス科、四足歩行で帆があるがシュヴォサウルス科と似て歯の無い顎をもつロトサウルス科が知られている。

この2つはどちらも背中にスピノサウルスのような帆を持っているが、それは個別に進化させたもので共通の祖先から受け継いだものではないらしい。実際、2011年のネスビットの研究ではロトサウルスはクテノサウリスクス科よりもシュヴォサウルス科に近縁だという結果がでている。

上記の科に含まれない原始的な種として、キアノスクスQianosuchus)やベングウィグウィシンガスクスBenggwigwishingasuchus)のように半水生で川辺や海岸近くで生活していたと考えられるものもいた。

ロリカタ類(Loricata)

ポストスクスPostosuchus

ロリカタ類はワニ形類を除けば、三畳紀までに絶滅した同類の中では最も知られているグループで、かつてはラウイスクス類に分類されていた種のほとんどとワニ形類を含むグループである。ここではワニ形類を除いたものについて焦点を当てて解説する。

学名はラテン語“loricatus”の中性主格の複数形“loricata”に由来し、この言葉はラテン語のlorica(鎧)と、「~を着た」「~で覆われた」という意味の接尾辞-atusがついているため日本語に訳すと「鎧を着た」または「鎧で覆われた」となる。

ロリカタ類は元々ドイツの博物学者ブラス・メレムが1820年に著した『Versuch eines Systems der Amphibien』においてクロコダイル、アリゲーター、ガビアルを含む目(現在でいうワニ目“Crocodilia”にあたる)の名前として使われた。それが2011年に古生物学者のスターリン・ネスビットによって偽鰐類のクレード名として再使用された。

ロリカタ類は三畳紀のほとんどの動物より大型で、生態系の頂点に立つ捕食者だった。ティラノサウルスに似た大きなアゴを持ち(実際このグループのある種はティラノサウルスの祖先と思われたこともある)、これを用いて当時はまだ小型だった恐竜やその他の爬虫類、ペルム紀から引き続き生き残っていた単弓類を獲物としていたといわれている。

歩行については4足歩行をしていたと思われるが、ポストスクスは2足歩行を行っていた可能性が指摘されている。

全長は4m前後のものが多かったが、全長7mのサウロスクスSaurosuchus)や最大で10mと見積もられているファソラスクスFasolasuchus)も知られている。

進化

偽鰐類の出現

チンデサウルスを襲うポストスクス

偽鰐類は恐竜や翼竜と同じく主竜類に属するグループであるが、その起源が謎に包まれている。今のところ最古の偽鰐類はアメリカのアリゾナ州から見つかったアリゾナサウルスArizonasaurus)で2億3400万年前の三畳紀中期ごろに生息していた。だがアリゾナサウルスは偽鰐類のでも比較的進化したポポサウルス上科類に属する爬虫類であり、背中にある帆など特殊化した体制を持っていた。そのため偽鰐類の起源はより遡ると思われる。少なくとも三畳紀の前期までには出現した偽鰐類中期には生態系の主要な位置を占める生物になっていた。三畳紀の後期には最盛期を迎え、様々なグループが生まれた。

当時の恐竜を超える多様性を持っていた偽鰐類だが三畳紀末にワニ形類を除いてほぼ絶滅してしまった。(植竜類の一部は三畳紀とジュラ紀の境界を越えて生き残っていた可能性がある。)原因は火山の噴火とも隕石の衝突ともいわれるがはっきりはしていない。

この大量絶滅で偽鰐類の他にも主竜形類や単弓類などで多くの種が絶滅し生態系に空白ができた。なぜ偽鰐類が絶滅し、恐竜が生き残れたのかは不明だが、生態系の空白を狙いジュラ紀以降恐竜が急激に進化していくことになった。

中生代の発展

三畳紀末に大打撃を受けたもののワニ形類は大量絶滅を乗り越えることができた。初期のワニ形類はも陸棲生活を行う動物だったが、徐々に水棲生活への適応が進んでくことになった。恐竜が陸上の支配的な動物であった一方で、ワニ類は川、湿地、および海洋で繁栄し、今日よりもはるかに多様性が高かく、大きさも恐竜に匹敵する全長10mに達する種も現れた。

kのような進化を遂げたものには完全海生のメトリオリンクスMetriorhynchus)などが属する海鰐類(タラットスクス類 Thalattosuchia)や、超大型のサルコスクスSarcosuchus)の属するテチス鰐類(Tethysuchia)が知られている。

陸棲種も完全にいなくなったわけではなく、主に南半球を中心に産出される南鰐類(ノトスクス類 Notosuchia)は陸棲でかつてのロリカタ類や獣脚類の恐竜にそっくりなセベクス鰐類(Sebecosuchia)や哺乳類のような歯をもつノトスクスNotosuchus)が知られている。

現生ワニ類に連なるグループも白亜紀にはすでに出現していた。

白亜紀末の大量絶滅により、鳥類を除く恐竜は絶滅したが、ワニ形類はいくつかのグループは生き残ることができた。現存するクロコダイル、アリゲーター、ガビアルの祖先や海生のディロサウルス科(Dyrosauridae)や陸棲で肉食のセベクス科(Sebecidae)は新生代まで生き延びていた。

結局今日まで生き残れたのは半水棲の種だけだが、20種強のワニが現在でも世界中の河川に生息している。

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