概要
1億年くらい前のアフリカ・ニジェールのサハラ砂漠辺りとブラジルの辺りに生息していた大型ワニ。推定全長9mくらい。
1966年に命名されたが、この当時見つかっていた化石は非常にわずかで、2、3個の歯と鱗板骨(背中のウロコ)しかなかった。しかし6センチもある歯のインパクトもあってか「肉食ワニの皇帝」を意味する「サルコスクス・インペラトル」と名付けられた。これっぽっちのサンプルでよくワニの皇帝なんて名前をつけたものだ。
※たった6センチでも今のワニよりかなりビッグ。
ちなみに1997年と2000年には全身の半分程の化石が見つかり、ひとまず大きさの推定はできるようになったので、全長12メートル・体重8トンとされた。
後々9メートルに縮んだが、それでも現代のどのワニよりも大きく、平均的なワニからしたら倍くらいある。そして頭だけで1.8mにも達し、まさに「皇帝」の名に恥じないモンスター。
また遡ること1977年には、ブラジルで19世紀に見つかっていた別種のワニとされていた化石が、サルコスクスと同属と判明し、発見した学者チャールズ・ハートに由来してサルコスクス・ハーティと命名された。今でこそ大分離れたところにあるが、中生代は超大陸パンゲアの名残でアフリカと南米が陸続きであった。
ところで「肉食ワニ」を意味するこの名前、ワニが肉食なのは当然じゃないかと言いたくなるはず。ところがどっこい、植物食だったワニも確かに存在していたのだ。
分類
現代のワニと同じ真顎亜目(正顎亜目)に属すが、中生代に絶滅した「フォリドサウルス類」に分類され、この点で現代のワニとはかなり遠縁(デイノスクスはアリゲーター類に近かった)。
細いアゴ・幅広くて盛り上がった鼻先の形状がガビアルに似ているのでガビアル科ではないかとも見られているが、外見が多少似ているだけで別のグループだという見方が強いようだ。
なおガビアル似のワニにはテレオサウルスもいるが、中鰐亜目のあちらと違ってサルコスクスもガビアルも真鰐亜目に属す。なので別のグループではあってもそういう点では近いのかもしれない。
暮らしぶり
恐竜時代といえどワニはワニ、生態は現代のワニ達と大きくは変わらなかった様だ。
ちなみに寿命は5060年くらいだった模様。現代の野生ワニは40年前後とされるが、飼育下ならそのくらい生きる。
今でこそ荒涼とした岩場の広がるサハラ砂漠だが、当時はオアシスのような環境で、ワニ類にとって棲息しやすい環境だったのだ(モンゴルのゴビ砂漠、北アメリカの中央を横断する浅海などそうしたエリアは各地に点在した)。なおサルコスクスがこれほどでっかくなれたのも、当時の気候が基本的に熱帯~亜熱帯という超温暖なもので、酸素濃度も現在の1.5倍=約30%あったからとされる。
もちろん恐竜もニジェールサウルスやオウラノサウルスといった植物食恐竜から、スコミムスやエオカルカリアなどの肉食恐竜まで多数棲息しており、サルコスクスがその巨体を利用してそれらの恐竜を捕食していた可能性は高い。
ガビアル類は魚を主食にするが、サルコスクスほどの巨体となればパワーもすさまじく、待ち伏せスタイルで不意をつけば恐竜でも倒せたことだろう。しかしながら2014年の研究では、頭骨のつくりから現在のワニの得意技「デスロール」は出来なかった可能性が指摘されている。
またアゴが細長いため、基本的には魚を食べ、恐竜などを狙うことはそうそう無かったと考えられている。
ちなみに
1.海の同期生
ほぼ同じ時代の海には、マキモサウルスという10mもある海生ワニが生きていた。海生ワニは大抵2~3メートル程度なので異例の巨体であり、まさに海の王者であった。
2.ワニ天国
サルコスクスの生きた白亜紀半ばはワニ類の全盛期で、とにかく個性派な連中が各地に現れた。イノシシと呼ばれたカプロスクス、平たい顔つきの「パンケーキワニ」ラガノスクス、アヒルのような幅広い口を持つモウラスクス、殆どアルマジロのアルマジロスクス、いちおう肉食ではあれど他のワニとは大違いなストマトスクス、陸上を軽快に走るバウルスクス……
今でこそこんな奴らはもういないが、歴史上確かに存在した「モンスター」なのだ。
3.巨大ワニの系譜
新生代に入っても10mクラスの巨大ワニは存在し、プルスサウルスやランフォスクスなどがいた。しかし彼らもまた大昔に滅びてしまい、現代ではイリエワニ(ナイルワニ)の7mが最大とされる。
というか現代のワニは平均3~4mくらいである。
4.すごいワニ
英語県では「スーパークロック」の愛称で呼ばれている。時計(Clock)ではなくワニ(Crock)。
英語圏では有名なあだ名。
関連タグ
マキモサウルス←同時代を生きた海のワニ
デイノスクス:サルコスクスも凌ぐ巨大ワニ。やはり頭だけでも1.8mくらいある。
かつては全長15mといわれたが、近年では8~12mくらい(ないし10m前後)と考えられている。