剣歯虎
けんしこ
トラなどヒョウ属に近いとする考えから剣歯虎、あるいは、ネコなどネコ属に近いとする考えから剣歯猫と呼ばれているが、実際は、ヒョウ属にもネコ属にも特に近くない系統である。
ホモテリウムの遺伝子による分子系統では、ホモテリウムはネコ科の中で最初に分岐した。すなわち、ネコ属にもヒョウ属にも、ネコ科の一員であるという以上には近くない。剣歯虎全体は、現生ネコ科の系統と姉妹群である。
ウンピョウは現生種の中ではサーベル状の犬歯を持つが、ウンピョウ属は剣歯虎ではなくヒョウ属に近縁で、剣歯虎との関係は収斂進化である。
漸新世後期から鮮新世にかけてはマカイロドゥスの類が発展し、鮮新世後期から更新世にかけてはホモテリウム・メガンテレオンなどが現われた。これらの動物の剣歯は、口を閉じた際には下顎にできた鞘状の長いくぼみに収まるようになっていたが、最後に出現した更新世のスミロドンはそうした鞘がなく、剣歯がじかに外に突き出していた。
剣歯虎の仲間は、ずんぐりした四肢の特徴から、俊足の中型・小形動物を高速で追跡して捕らえる事は困難であったと考えられ、動きの比較的緩慢な大型動物(ゾウやサイの類、メガテリウムの仲間など)を襲ったと考えられる。長大な牙で刺して倒していたと思われるが、大きな牙を大動物に刺すと折れやすく危険であることから、噛み殺すというよりは、柔らかな首に噛みついて器官や血管を切断させることで失血死させたのだろうと思われている。犬歯は頭部上顎部と歯肉と歯根膜を媒介として繋がっているだけで、強い力が加わった場合、抜けたり、梃子作用により局部的に力が加わり上顎骨を破壊する危険性があるからだ。
一方、その牙は死体を切り裂くために使われ、従って剣歯虎は死肉食であったとする見解も一部にある。しかし、古生物学者の鹿間時夫の見解では、攻撃獣の骨は損傷が多いが、腐肉食獣の方は骨に損傷がない。スミロドンの骨には損傷が目立つので、攻撃者だったと思われる。