🐘概要
現生で陸上最大の哺乳類である。漢字表記は「象」。頭は大きく、首は短いのである。鼻と上唇が長く、地面の物を口に運ぶことが出来る。上顎の門歯(前歯)が長く伸びて、牙になる。アフリカと南アジアに生息する。
インドゾウとアフリカゾウ、マルミミゾウの3種が現存する。絶滅したマンモスもゾウの仲間。柱状の太い肢、手の代わりを務める器用な長い鼻、団扇のように大きな耳が特徴。鼻は豆腐のようなすぐ壊れる物も掴んでしまう事が出来、握り加減が効く模様。ちなみに、鼻は上唇と一体化しており、口から伸びる象牙もサーベルタイガーのような牙(犬歯)が発達したものではなく、門歯が発達した物である。
植物食。大きな身体のため必要とするエサもまた莫大であり、生息には広大な土地を必要とする。鼻と耳が大型化した事からもわかるように嗅覚と聴覚に優れており、人間が知覚できない超低周波で仲間と会話している。足も振動に非常に敏感な作りをしており、地震や雷などの災害を察知する事が出来、かのスマトラ沖地震が起きる前にはゾウ達が津波を予期して高地へ避難したという事例が確認されている。
なお耳が大きいのはあくまで体温調整のため。先の通り、遠くの音は足から骨伝導を利用した感知機能を駆使している。
野生の寿命は平均で60年から80年だが飼育下だとストレス及び運動不足のためなのか寿命がやや短く、平均で48年程。
母系社会の群れを作る習性があり、オスは12歳前後の繁殖期に差し掛かると生まれた群れを離れる。
上下関係ははっきりしており、飼育下でも先輩ゾウがリーダーとして仕切り上位のゾウには好物の食べ物の順番などは逆らえない。
動物園でもよく見かける人気動物だが、似た立ち位置であるライオンやキリンなどと異なり繁殖が非常に難しい。その理由にバカにならない食事量に加え、性成熟するのが17歳にして妊娠期間が人間の280日の更に倍である650日(2年近く)であり、また発情を見極めることが難しく、2年から4年以上に1匹の間隔でしか子供を産まないため非常に繁殖しにくい。又、野生下ではオス同士の闘争に勝った個体がメスの群れに接近して交尾するという一種の一夫多妻制のため、オス一頭につきメスが2~3頭以上でないと繁殖が難しい。更に発情したオスにはマスト期と呼ばれる狂暴化する時期があり、この期間のオスは場合によってはメスを殺す事もあるほど危険極まりないため、オスの飼育にはリスクがつきまとう。こうした事情のため日本の場合オスの個体数が少なくゾウをペアで飼育している動物園は限られているため、これまで生まれたアジアゾウの個体数は14頭しかいない。しかも、仮にゾウを新しく導入する際、オス一頭とメスを最低でも三頭以上飼育できるほどの広さを持つ飼育施設を用意しなければならない。そのためほかの大型草食獣に比べ絶滅の危機に瀕しやすい。(数を減らしている理由に関しては後述。)
インドゾウは人間に馴れやすく、現在でもインドや東南アジアではアジアゾウを使って人を乗せたり、荷物の運搬に使用している。霊長類に次いで知能が高いと言われている。
仲間が襲われたらお礼参りしにきたり、逆に親切にしてくれた人間の死を追悼しに来たという話や、溺れている人間を助けに駆け寄って来たり、密漁者に傷付けられた際には保護施設の職員に助けを求めに来たという話もある。
ただ、慣れやすいと言ってもそこは猛獣であり力も強く、温厚な方と言われるアジアゾウですら気難しい個体も少なくなく人間の言うことを簡単に聞いてくれると思ったら大間違いである。飼育員が殺された事故も諸国で多く、気に入らない飼育員をイビる個体もおり、接するのにも個体の性格を見極めた上で一定のノウハウや手順を守る必要がある。
動物園では鼻で筆を器用に掴んで絵を描く芸を見る事が出来るが、ゾウを描いて見せた際には特徴を上手く捉えている他、海外では美しい風景画を描いている。これ以外にも人間の男女や言語の違いを理解している他(かつてゾウ狩りをすることもあったマサイ族の男性を恐れる一方で、狩りをしない女性は全く恐れない等)、鏡映認知も出来る。霊長類に次ぐ知能持ちは伊達ではないのだ。
一方で最も想起されやすいアフリカゾウは警戒心が強く、特にオスは縄張に入ったものを容赦なく撃退しようと襲い掛かるため、アフリカでは人気猛獣「ビッグ5」(ライオン/豹/犀/バッファロー/ゾウ)の一角に数えられる。
かつては動物兵器(戦象)として使用され、巨体を生かした敵側への突進力や心理的効果も含めて有効な戦力ではあったものの、その特性上小回りが利かず、また御者である象遣いを狙い撃ちされると暴走する等の欠点も目立ち始め、火器の発達と入れ替わるように前線から姿を消した(それでも後方での補給や工兵としての活動は後々まで続いた)。
大きな身体のため、天敵は基本的に存在しない(子象はライオンやトラ等に襲われることがある)が、開発で生活圏を減らし、さらに牙(象牙)を狙った狩猟のため個体数が激減している。かつては象は死期が近づくと特定の洞窟などに向かう、通称:象の墓場と言われる伝承が信じらており、象牙目的でこの場所を探す者もいたという。実際にこう言う習性はあるのだが、象牙は湿度に弱く、成分が分解しやすいため象牙の獲得には至らない。
また、意外にも日本人とは長い付き合いの生き物で、石器時代にはナウマンゾウが食料とされていた他、応永15年には南蛮船に乗って足利義持への献上品として入港したり、その後も度々日本に連れてこられた。実はゾウの実物が日本に連れてこられる以前にもトラなどの他の大陸の動物たちと同じく日本人に知られていた形跡が残っており、鳥獣戯画にも描かれている。(ついでに言うと幻獣の貘も鼻がゾウなので名前ぐらいは知っている日本人も結構いたと思われる。)
これに関しては仏教の影響も大きいと思われる。(そもそもお釈迦様の生誕の伝説からしてゾウが登場しているし。)
なお、マンモスが古代の人間に食されていたように現生のゾウも人間が理論上は食用にする事が出来るが、現生するゾウのほとんどは絶滅危惧種である為、一般的に出回る事はない。
ダジャレで「○○だぞ」「○○する(した)ぞ」を「○○だゾウ」「○○する(した)ゾウ」とされるのはお約束。
海外では「ゾウはネズミを恐れる」という言い伝えがあるが、ゾウよりも子供が生まれる数が多く、おまけに子供を産む数が少ない動物にとっては脅威となる感染症を媒介するネズミは確かに脅威だと言える。
鼻は、万能選手
ゾウの鼻は、上唇と鼻が合わさって長く伸びたものである。
- 水に入っても、鼻をシュノーケルのように使って息をする
- 砂浴びの水飲みの時には、スポイトとしても働く
- 高い所の木の葉にも鼻が届く
- 遠くの臭いにも、敏感である
- 仲間の体に鼻で触れて、親しみを表す
- 鼻の先はの出っ張りで、豆等の小さな物も上手に摘める
- 鼻を休める時、牙の上に乗せることもある
ゾウがここまで巨大化できたのは長い鼻を発達させたから、というのも大きい。
首を伸ばさずとも鼻で餌や水を得る事ができるのは非常に便利で効率的であったためである。
植物食の哺乳類は硬い植物を嚙みちぎり咀嚼するのだが、そのために大きな歯と筋肉を持つ巨大で重い頭部は欠かせないため、その重い頭部を支える頑丈な首を維持しつつ伸ばすとなれば、大変な負担になってしまう(キリンが水を飲むときの姿勢をみればわかるように、かなり無理をする構造にならざるをえない)。
その点、ゾウは柔軟で軽く長い鼻を伸ばせば、高い木の葉が採れるし、足元の水を飲むのも容易であったため、無理なく身体(及び頭部)を巨大化できたとされる。
インドゾウとアフリカゾウとの違い
特徴 | インドゾウ | アフリカゾウ |
---|---|---|
体形 | 樽のような形をしている | 楔形をしている |
鼻先 | 鼻先の出っ張りは、上側に一つ | 鼻先に、上下2つの出っ張りがある |
耳 | 小さい | 大きい |
牙 | 雌の牙は小さくて、外からは見えにくい | 雄、雌ともに大きい |
ゾウ科一覧
現存種
現存する陸上哺乳類では最大の動物。雌雄ともに牙が発達している。しばしば(アジアゾウと比較して)凶暴な動物とイメージされがちだが、牙を狙った密猟に晒されて性質が変化しただけと見る向きもある。どちらかと言うと草よりも木の葉を好んで食べる傾向がある。中央アフリカ以南のサバンナに生息。現在の生息地は分散しているが、これは人間の開発に追われたためで、本来の生息地は連結して広がっていたと考えられる。
嘗てはアフリカゾウの亜種と考えられていた。体型はアフリカゾウに似るがより小型で、名前の通り耳が丸く、牙が下向きに生えるのが特徴。西アフリカの森林地帯に局所的に生息。古代では北アフリカの地中海沿岸の森林にも生息する個体群があったようだが、こちらは人間による開発で絶滅してしまった。
日本の動物園で見かけるのは主にこの種類。雄にのみ牙が発達する。木の葉よりも地表の草を好んで食べる傾向がある。老齢個体を「白象」と呼ぶ。
よく怪獣図鑑などで強さの喩えに使われる動物である。
セイロンゾウ・インドゾウ・スマトラゾウ・ボルネオゾウの4亜種に分けられる。古代においては西はメソポタミア、北は中国の華中地方にまで生息していたが、気候変化と人間による開発のために、それらの地域個体群は絶滅してしまい、現在は南アジアと東南アジアおよびその周辺にしか生息していない。
絶滅種
絶滅した象で、長い牙と盛り上がった肩が特徴。寒冷な気候に適応した種が多い象。長い毛に覆われたケナガマンモスは肩高3m程度の小型の種類。一方、コロンビアマンモス、ステップマンモスなどはかなり巨大であった。北米からユーラシア各地に広範に生息していた。
かつて日本に棲んでいたが絶滅した。アジアゾウに近縁で肩高2.5~3m程度の小型の象。寒冷期のユーラシアに広範に生息したパレオロクソドン属という象のナウマンニ種。名前は発見者のハインリッヒ・エドムント・ナウマンに由来。尚、小型なのは日本列島という狭い島に棲んでいたためであり、大陸の同属は遥かに巨大であったようで、南アジアに生息していたナマディカス種は既知では史上最大の陸上哺乳類の一角ともされる(一方で地中海の島々ではブタ並みにまで小型化した種もいた)。