概要
主に原付バイクやミニカーといった小型の自動車や、発電機(ジェネレータ)などの汎用機に使われる。
後述する特徴から、バイクにおいて最も普及している種類のエンジンであり、本稿でもバイクを中心に記述する。
バイク業界では単気筒エンジンや、それを搭載した車種を「シングル」と通称する。
特徴
メリット
構成部品が少ないため、車両価格の安さ・整備性の良さなど多くのメリットがある。本記事では下にも様々なメリットを述べているが、突き詰めるとそれらのほとんどは「シンプル」であることに由来する。
- コンパクト
サイズが小さいため、作り手側からすると設置スペースに制約を受けにくく、設計の自由度が高い。重量物を車体中心に集める、「マスの集中」もしやすい。
また車体もスリムになりやすいため、跨りやすくなる。
- 軽い
バイクの構成部品で最も重いのがエンジンであるが、それがシリンダー1本しかないため当然軽い。軽さは運動性能・燃費向上・取り回しの改善・タイヤはじめ各部品への負荷低減など様々なメリットがあり、業界で「軽さは正義」と言われている通りである。
- 維持・メンテナンスのコストが安い
上述の軽さに加え、機械部品の少なさからフリクション・ロス(摩擦抵抗によるエネルギー損失)が少ないことや、低回転からトルクが出しやすいこともあって燃費で有利である。原付の単気筒では1リッターあたり110km/L(!)に到達する場合もある。
またエンジンメンテナンスも1気筒分だけで済むので、金銭的・時間的コストが安い。この点は、短時間で整備を行わなければならないエンデューロ競技で特に威力を発揮する。
- ジャイロ効果が少ない
ジャイロ効果とは、バイクにおいてクランクシャフトが回転すると車体が起きようとする力のこと。
クランクシャフトの長さに比例するため、単気筒ではこれが少なく、コーナリングの寝かし・起こしが軽い。
- トルクが大きい
同じ排気量で比較した場合、ストロークが最も長くなる単気筒が最もトルクが大きくなる。
デメリット
- 振動が目立つ
多気筒エンジンでは、シリンダーごとの爆発間隔で振動(一次振動・二次振動・偶力振動)を相殺できるが、単気筒ではシリンダーが1つしかないためこれが出来ない。車種によってはバランサーを追加して対応している。
とはいえ単気筒ゆえに出力は大きくないことから、それぞれの振動自体の大きさは多気筒エンジンに比べるとそこまでのものにはならない。
またこの振動に魅せられる単気筒ファンもいるため、一概にデメリットと決めつけられない面もある。
- 排気音がうるさい
上と同じ理由で、シリンダー同士で音を打ち消し合うことができないため、排気音は雑味も音量も大きくなりがちである。閑静な住宅街では近所迷惑になるかもしれない。
しかしこれも振動同様、ファンに「ドコドコ音」と呼ばれ独特の魅力として捉えられている。
- 高回転化に限界がある
一般的に多気筒ほど許容回転数が上がるため、基本的には単気筒は低回転向きである。高回転重視で設計された単気筒もあるが、せいぜい10000rpm+α程度が限界。
前述の振動の問題は特に高回転域で大きく、スムーズとは程遠い乗り味になってしまい、長距離の高速ツーリングでは手が痺れやすい。
- 最大出力を稼ぎにくい
上に関連する話だが、馬力という単位はトルク×回転数なので、回転数で不利な単気筒は必然的に馬力が低くなる。
またシリンダー1本当たりのトルク許容量も限界があるため、トルクで馬力を上げるのも簡単ではない。
評価
シンプルで軽く燃費も良いが、振動と騒音が大きく質感で劣るということで、一般的には実用性やお財布への優しさが重視される原付バイクのイメージが強い。そのため趣味性を重視する層には敬遠されがちである。ホンダがCBR250Rを発売した時「単気筒がCBRを名乗るな!」という否定の声が相次いだように、車種のブランドイメージによってはバイクファンの批判にさらされたり、気筒数マウントの被害に遭ってしまうこともある。
しかし実際には車体の軽さで勝負できることから、スポーツ走行で独自の存在感を示している。峠の下りはもちろん、実際のレースでもMotoGP(旧WGP)や全日本ロードレースには古くから現在まで単気筒のクラスが存在している。従来マルチシリンダーの大型バイクしか作ってこなかったBMWやトライアンフも、ブランド初の中型バイクに単気筒を採用しているほどである。
このようなスポーツ志向の単気筒車は「シングルスポーツ」と呼ばれ、固有のファンが存在する。特に三~四気筒の大型エンジンを体験した大型ライダーが、後になってシングルの良さを再認識し、回帰もしくはセカンドバイクとしてシングルスポーツを所有することは珍しくない。
オフロード系競技(モトクロス・エンデューロ・トライアル・スーパーモタード…)に至っては路面摩擦の低さからトラクションが限られることや、平均速度がサーキットより低いことなどから高馬力化によるパワーゲインのメリットが少ないため、軽く作れて低速トルクも大きい単気筒の独壇場となっている。
単気筒は唯一、四輪自動車で味わうことの出来ない気筒数なので(二気筒はフィアット500がある)、その意味ではバイクという乗り物の本質を楽しむにはもってこいなのかもしれない。
一般的には「コスパ重視」というイメージが強く、それも間違っていないものの、趣味性の重視されるバイクという乗り物であえて採用されている車種には「シンプル・イズ・ベスト」という言葉こそ相応しいだろう。
代表的な単気筒車
カテゴリ
原付バイク:国産の現行は全て単気筒。
スクーター:一部のビッグスクーターを除き、ほとんどの車種が単気筒。
オフロード:いわゆるアドベンチャーではない、純粋なオフロード用バイクはごく一部を除き単気筒。
"シングルスポーツ"の代表例(生産完了車)
Kawasaki・(CS250、D-TRACKER、Ninja250SL/Z250SL)
SUZUKI・(Goose)ジクサー250/150、ジクサーSF250
BMW・G310R
KTM・690/390/200DUKE
ロイヤルエンフィールド・コンチネンタルGT535
バイク以外
芝刈り機:HONDA製で時速187km/h、0-160km加速が6秒台のものが存在する。
発電機
クーゲルパンツァー:ドイツ軍が開発していた謎の装甲車両。単気筒エンジンを動力としている。