柊木芹菜
ひいらぎせりな
北宇治高校の1年生で、どの部活動にも所属していない帰宅部の女子生徒。
切れ長の美しい双眸(そうぼう)が目を引く端正な顔立ちの少女で、他者に興味を抱かない無愛想な性格の持ち主でもある。とりわけ、中学時代には大勢のなかに混じって馴れ合うことをよしとせず、クラス内のどの女子グループにも属さずに一匹狼を気取っていた過去を持っている。
北中学校(大吉山北中学校)の出身である彼女は、クラスのなかで孤立していた際に同じクラスメイトの佐々木梓から声をかけられたことをきっかけに、次第に梓との親交を深めていく。一時は特別な友達同士として互いを認め合っていた芹菜と梓だったが、受験を間近に控えた冬のある日に修復不可能なほどの深い決裂を起こし、以降は別々の高校に通う現在に至るまで「冷戦中」の関係を引きずっている。
容姿
冷ややかな感情をたたえた切れ長の双眸を惜しげもなくさらす、端正に整った美しい容貌の女子生徒(立華編前編、191ページ、立華編後編、91ページ、306ページ)。その頭髪は、高校生になった現在では指導を受けない程度に明るく染められ、緩やかな螺旋を描くようにセットされているが(立華編前編、190ページ、立華編後編、103ページ、308ページ)、中学生のころまでは目元を覆い隠すほどに伸びた長い黒髪をまっすぐに落とした、少しばかりの不気味さを漂わせるものであった。(立華編前編、172ページ、177~178ページ、立華編後編、89ページ、177ページ)
また、目鼻立ちのみならず、透きとおるように瑞々しい白い肌や手入れの行き届いた白魚のような指先など、彼女のまとう一つひとつのパーツも繊細な美しさを内包するものであり(立華編前編、172ページ、192~193ページ、立華編後編、134ページ、137ページ)、それらすべてをまとめた出で立ちは同学年の佐々木梓や名瀬あみかたちから「美人」として高く評価されている。(立華編前編、190ページ、272ページ、立華編後編、177ページ)
性格
他者に対して興味を抱かず、「友達」という関係を表面上だけの生ぬるいものと捉えて嫌悪感を示す、棘のある言動の目立つ不愛想な性格の持ち主(立華編後編、92ページ、短編集2巻、77ページ、80ページ)。特に中学生時代は周囲の人間を意図的に拒絶して一匹狼を気取ることにより、自身の存在を”特別”なものとして意識していた。(立華編後編、135~136ページ)
そのような振る舞いの根幹にあるのは、強い自己否定からくる卑屈さと、自身と他者とを比較した際に生まれる臆病さであり(立華編後編、308ページ、短編集2巻、85~86ページ)、表面上では周囲を遠ざけて強がる素振りを見せつつも、本心では心から通じ合うことのできる親友を強く欲している。(立華編前編、175ページ)
経歴
中学時代はどの部活にも所属しておらず、クラスの端でひとりきりで本を読んで過ごすのが常であった。どの女子グループにも混ざることなくぽつんと孤立する芹菜を遠巻きに見ていたほかの女子生徒たちからは「ちょっと面倒なところがある」と、あまり関わりを持ちたくないとして遠ざけられていた(立華編後編、134ページ)。しかし、中学3年生のときの修学旅行においてクラスの女子生徒の中心的存在であった梓と一緒に行動したことをきっかけに彼女との交わりを深めていった芹菜は、次第に自信と社交性を身につけるようになり、梓以外の女子生徒とも好意的な関係を持ち始めていくことになる。(立華編後編、202~203ページ)
高校受験と梓との決別を契機として、いままでの孤独だった自分を捨てて新しく生まれ変わることを思い立った芹菜は、北中学校からの進学希望者があまり多くない北宇治高校を進学先に選んだ(立華編後編、307ページ、短編集2巻、77ページ)。一般受験を経て同校に進学したのちは、これまでの暗いイメージを払拭(ふっしょく)することによって数名の同級生たちと良好な関係を結ぶことに成功し、日々のささやかな生活を満喫するようになっている。(立華編後編、102~103ページ、209ページ、306ページ、短編集2巻、78ページ)
その他
- 趣味は読書。中学時代の梓と関わる場面のなかでも、たいてい小説などを読んでいるワンシーンが挿入されている。(立華編後編、83ページ、133~134ページ、141ページ、175ページ)
- 読書と並んで音楽鑑賞も好きであり、中学時代は黒を基調としたヘッドホンを愛用していたほか(立華編後編、89~90ページ、175ページ)、高校生になってからもイヤホンで流行りのポップス曲などを聴いている。(短編集2巻、80ページ)
- 自宅の最寄り駅は京阪宇治駅(立華編前編、272ページ)。立華高校に通う梓の同級生、名瀬あみかの近所に住んでおり、彼女とは高校の登下校の合間にときおり顔を合わせることもある。(立華編後編、302ページ)
佐々木梓との関係
概要および中学生時代
立華高校に通う同学年の女子生徒。高校1年生。芹菜と同じく北中学校の出身でもある。
芹菜は梓のことを「佐々木さん」から「佐々木」、やがて「梓」と、その時々の関係性に応じて呼び方を変えており、対する梓は一貫して「芹菜」と呼んでいる。
中学3年生に進級して間もないころ、放課後の教室の片隅に残っていた芹菜は、偶然忘れ物を取りにきた梓とふたりきりになる。気まずさを紛らわそうと他愛ない話を振りかけてきた梓に対し、芹菜は「佐々木さんさ、病気や思うよ」と、梓の振る舞いの根幹にある八方美人ぶりを見抜いた言葉を差し向け、上っ面の友達関係だけを求めて内面では満足していないという彼女の現状を鋭く指摘した(立華編前編、171~178ページ)。また、別の日に梓が思い違いを抱いた友達から責められている現場に立ち会わせた際にも、事実関係を淡々と並べて梓を救うと同時に、思い違いをした友人を許した梓に向けて「友達とかいうくだらん理由のために、アンタはこれからもアイツと一緒にいるん? そんな上っ面な友情、ほんまに必要?」と腹を立て、自身の持つ「友達観」の一片を梓に突きつけている。(立華編後編、83~93ページ)
6月に行われる修学旅行に先駆けて行われた班決めにおいて、芹菜と梓は偶然同じ班になった。芹菜は当初自分ひとりだけで行動するつもりだったのだが、そんな彼女の様子を見た梓に強引に捕まえられてしまう。勝手に自身の領域に踏み入れられたことに不快感を示して威圧する芹菜だったが、逆に梓から自身の一匹狼ぶりを「はっずかしー」となじられ、彼女に対話の主導権を握られてしまうことになる。逃げ道を失って観念した芹菜は、しぶしぶ梓と一緒に行動することを受け入れてふたりで計画を立てるが、その途中で梓から「アンタじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでよ」と催促される。対応に困ってしばしのあいだ逡巡(しゅんじゅん)した芹菜は、「ほかの子と一緒じゃない、自分だけの呼び方をしたい」というひねくれた思いから、梓のことを「佐々木」と呼ぶことを決めた。(立華編後編、133~140ページ)
修学旅行の班行動で一緒に過ごして以降、芹菜と梓の距離感は徐々に近いものへと変わっていき、「佐々木の隣に並んだときに恥ずかしくないようにしたい」と梓に自身の前髪を切ってもらうよう頼むなど、芹菜は梓に対して少しずつ心を開くようになっていく(立華編後編、175~185ページ)。対する梓もまた、芹菜に自身の生い立ちを明かしたり、彼女を自宅に招いてテスト勉強や談笑をしたりと、プライベートな時間を共有する特別な存在として彼女を意識するようになる。(立華編前編、275ページ、立華編後編、303ページ)
しかし、芹菜が梓との交わりを通して次第に社交性を身につけ、梓以外にも友達を作り始めるようになると、梓の胸中には「芹菜にはほかに友達ができたのだから、少し距離をおいても構わないだろう」という意識が芽生えるようになり、ふたりの距離感は日に日に疎遠になっていく(立華編後編、202~203ページ)。受験を間近に控えたある冬の日、そのような不自然な距離感に耐えかねた芹菜はついに「いい加減にして!」と梓に強くつかみかかる。そのまま梓を押し倒して馬乗りになった芹菜は、自分自身の優越感のために芹菜と仲良くなり、芹菜がひとり立ちしたらつまらなくなって距離を置いた梓の身勝手さを罵るとともに、自分自身の自尊心を満たすためだけに他人を利用する彼女の人間性に幻滅して、「梓にとって、私は何?」と、ありきたりな誰かと同じ呼称を使うことによって梓との決別を明確に宣言した。(立華編後編、201~209ページ)
その日を境として、芹菜と梓の関係性はひどく表面的で他人行儀なものへと変わり果ててしまい、破綻した関係のままふたりは別々の高校へと進学することになる。
高校進学以降
北宇治高校に進学してしばらく経ったある日、芹菜は帰宅途中の電車内で偶然梓との再会を果たす。その際、梓が隣に吹奏楽部初心者の名瀬あみかを侍らせているのを目にし、彼女の口から梓への日頃の感謝が語られるのを耳にした芹菜は、未練と憎悪をない交ぜにした口調で「梓って、ちっとも変わってないんやな」という侮蔑(ぶべつ)の言葉を梓に向けて口にした。(立華編前編、189~193ページ)
それから月日は流れ、晩秋のある日の下校途中に、芹菜はたまたま同じ電車に乗り合わせたあみかから梓が熱を出して倒れたことを告げられる。彼女のもとに見舞いに行くことを強く勧めるあみかに対し、「ほんま迷惑」と表面上は愚痴りながらも結局勧めを承諾した芹菜は、その翌日に梓への好意と嫌がらせを半々に織り交ぜた形で生のじゃがいもをビニール袋に詰め込み、梓の家へと足を運ぶことになる。(立華編後編、302ページ)
数か月ぶりに顔を合わせた芹菜の突然の来訪に驚きつつも、彼女の顔に懐かしさを覚えた梓からそのままリビングへと招かれた芹菜は、そこで梓から「うちさ、芹菜のことちゃんと好きやった」という真摯(しんし)な想いを面と向かって打ち明けられることになる。大切な友達だよ、という一年越しの梓からの答えを贈られた芹菜は「いまさらやめてよ!」と声を荒らげるが、芹菜もまた、過去と決別して新たな道を歩みたかったこと、そして現在の生まれ変わった自分を見せて、梓に自分を捨てたことを後悔させたかったことを明かした。梓と芹菜の双方が、これまでずっと互いの存在を必要としていたことを打ち明け合った末に、芹菜は「佐々木も、早く体調直しなよ!」という、かつて自分だけが使っていた特別な呼称を残して立ち去っていった。(立華編後編、301~310ページ)
その後のふたりは「芹菜」「佐々木」と呼び合うかつての親密な関係を取り戻し、自身のスケジュール帳に勝手にマーチングコンテストの予定を書き込まれたりするなど、たびたび顔を合わせる間柄となっている。(短編集2巻「友達の友達は他人」)
名瀬あみか
立華高校に通っている同学年の女子生徒。1年生。
芹菜はあみかのことを「あみかちゃん」と呼んでおり、対するあみかは「柊木さん」(※三人称)と呼んでいる。
高校からの下校途中に梓と再会した際に、芹菜はあみかと二言三言交わしているが、そのとき芹菜はあみかを同じ高校生としてではなく、梓の手中にある「彼女の新しい所有物」として認識していた(立華編前編、192ページ)。また、梓が黄檗(おうばく)駅で下車したのち、あみかとふたりで宇治駅まで乗り合わせた際には、現在の梓の親友である彼女に向けて「梓をよろしく」と言葉を残している。(立華編前編、273ページ)
そのようなやりとりを経て芹菜のことを梓の昔の親友と認識したあみかは、その半年後に梓が熱を出して倒れた際に、たまたま下校途中の電車で乗り合わせた芹菜にその旨を伝え、梓のもとに見舞いに行くことを強く勧めている。(立華編後編、302ページ、311ページ)
川島緑輝
北宇治高校の吹奏楽部に所属している同級生。1年生。
芹菜は緑輝のことを「川島さん」と呼んでおり、対する緑輝は「芹菜ちゃん」と呼んでいる。
2年生に進級後、緑輝とは同じクラスメイト同士(クラスは2年3組)になる。人懐っこい性格でありながらも真摯に音楽(コントラバス)と向き合う堂々とした意志の強さも持ち合わせている緑輝のことを、芹菜は「卑屈な自分とは正反対なタイプ」と位置づけている(短編集2巻、80ページ)。また、芹菜はつねに明確な自己を確立している緑輝のことを「幼げな見た目だが、川島は多分、自分よりもずっと聡(さと)い」「川島は嵐のなかでだって鼻歌交じりに走って進むことのできる人間な気がする」などと認めており、梓のような根明な人間でなければ彼女と並び立つことはできないだろうとして敬遠する様子を見せている。(短編集2巻、86~87ページ)
黄前久美子
北宇治高校の吹奏楽部に所属している同級生。1年生。
芹菜は久美子のことを「黄前」と呼んでいる。(短編集2巻、78ページ)
2年生に進級後、久美子とは同じクラスメイト同士になるものの、彼女との直接的な関わりは持っていない。自身と同じ北中学校の出身で、中学当時は梓と同じく吹奏楽部に所属していたことは前々から知っていたが、高校でも吹奏楽部を続けていたことは2年生に進学してから初めて聞くなど、彼女の存在は「どうでもいい相手」として日常生活では意識の外に置いている。(短編集2巻、78~79ページ)
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