前提
MMT(現代貨幣理論)と呼ばれるものには種類が有る。
- 本家MMT
国家、市場間の金の動きを既存の経済学を用いて説明したもの。
- 和製MMT
本家MMTを和訳する際に誤訳した事で生じた、本家MMTを大いに拡大解釈した理論。
否定派からは「偽MMT」などと呼ばれる事もある。
この記事で以下に解説している内容は全て「和製MMT」のものなので、本家MMTとは異なる事に留意されたい。
概要
通貨発行権を有する政府の自国通貨建ての国債いわゆる国のシャッキンをいくら発行しても通貨そのものを発行できるのだから債務不履行デフォルトになることは絶対に起こり得ず、単年度インフレ率の微増までを上限に政府支出を拡大させれば、物理的な生産力の上限まで経済を拡大させることができるという理論が有名な論である。
勘違いしている人が存在するが、MMTには租税を否定するものでも、大きな政府を作るものでもない。
一方でじゃあ具体的に何をどうするのかと問われると、言を左右にして曖昧なことに終始する論者が多い。
現実にこの理論に沿った経済政策を行った国は存在せず、主張の根拠は「そうなるだろう」「そうなるに違いない」という机上の空論でしかない。
税金を下げて国債を刷りまくるだけで経済が何とかなるなら、その方が支持率が上がるのだからどんな政治家もそうしているはずだが、そうなっていないのが厳然たる事実である。
歴史的背景
詳しくは下記に挙げられているが、MMTとはケインズ学派オールドケイジアンやマルクスの時代からずっと言われつづけている事でその中から実証され続けてきた事実のみを取捨選択した理論であり、旧来の様々な経済学に固執せず現代に即した理論をまとめたものである。
このため下記の「なぜ攻撃されるのか」に通じる話だが、「現代貨幣理論」という名称の時点で歴史的に古く理論要素の強い古典派経済学や各種財政論とは対立する立場にある。
身も蓋もない表現をすれば古典的な知識からアップデートできていない人が反発するものと考えて差し支えない。
断っておくが、古典派経済学や各種財政論は、経済学の歴史的に重要な役割を果たしたことを否定する人は誰もいない。
一方で現代の事実から考えると否定されるものもあることを示しているだけである。
一例として明らかにおかしい点には、主流派経済学の想定する「合理的経済人」が挙げられる。
合理的経済人とは、自己利益を合理的に計算して追求する人間を示すが、「合理性」の前提に対して非現実的とする批判も見られる。
あくまで分析可能なように事態を単純化するための想定ではあるものの、合理的でない人間の行動まで合理的な想定をすると誤認する場合もある(要するに冗談を冗談と見抜けず盲信しているようなものである)。
特に、企業行動に関しては、合理的利潤最大化にかなった者だけが結果として生き残っているので、あたかも合理的最適計算をしているかのようにみなしてよいとの反論がしばしばなされる。
政府債務を増やすだと!?気は確かか?
「国債を発行しまくればギリシャやアルゼンチンのようにデフォルトするぞ!」
などという意見が主流学派から見受けられる。
確かに誰であろうと借金をしたならば期限までに耳を揃えてキッチリ必ず返さなければならない。
しかし先述のように、制限があるとはいえど、国といういくらでも好きな金額のお金を刷れる存在が、その刷れてしまう自国通貨をいくら借金したところで、政府要人が全員気を違えて返済を拒否するなどでもしない限り自国通貨建て債のデフォルトは起きない。
しかも刷るという表現をしているが、本当にお金を刷る必要すらない。
実際の通貨発行は好きな数字を中央銀行の口座に書き込みエンターキーを押すだけである。
この信用創造、与信行為によるマネークリエイションを万年筆マネーやキーストロークマネーという。
我々のように通貨発行権の無い一般国民がする借金と、国の発行する自国通貨建ての借金とでは、返済難易度が天と地ほど差があるのだ。
そして何よりギリシャやアルゼンチンなどデフォルトした国の借金はすべて外債やドルペッグされた自国通貨である。
ユーロ加盟国がユーロを勝手に刷れないように他国通貨とペッグされている通貨も同じく、いくら自国通貨といえど好き勝手に自国通貨を発行しては為替を固定するための外貨準備高を消耗し底をつけば結局外債を建てざるを得なくなるので、おいそれと通貨発行は出来ない。
デフォルトする国の借金というのは諸外国の諸々の事情に左右されにっちもさっちもいかない通貨から来るものであり、これこそが私たち民間人が想像するタイプの純然たるザ・借金である。
むしろ景気が過熱してもいない内に基礎的財政収支、プライマリーバランス(PB)を無理に黒字化するような、借金を増額し無いということは、まだ温まってもいない水風呂にさらに氷を投げ入れるようなものである。
経済に多大な負荷を掛け財政均衡によって生み出された不景気によって生産力は下がり、円の減少により円高によって国内の生産力供給力を削り、輸入に頼りだすと外債を建てて買っても建てて買ってもなお原料や必要物資が足りない状態になるから、そちらのほうがよほどデフォルトに近づく行為といえる。
事実ギリシャやアルゼンチンと言ったデフォルトする国はデフォルトする直前の数年以内にPBがだいたい黒字になっており、バブルでもない時にPB黒字化するほうが『おれこの戦争から帰ったら結婚するんだ』とにこやかに本国へ残してきた彼女の写真を満面の笑みで見せるレベルの古典的な死亡フラグと言えるだろう。
なおバブルが弾ける前兆もだいたいPB黒字化である。
こちらの黒字はバブル初期に達成しバブルを長期化させないという意図のためなら問題はない。
存分に黒字化してくれ。
オーストラリアのように輸出にてPB黒字化を達成している国もあるが、それもそれで他国との貿易摩擦だけでなくいずれ不穏の種を生みそうな不健全な財政である。
そして国や誰かがした借金とは、裏を返せば我々の財布に入ってる銀行券や硬貨、通帳に付け込まれてる数字と対になる存在で、『国が借金を償還していく』『PB黒字化させる』というのは我々の財布の中身や通帳の数字をゴリゴリ削っていくという事に他ならない。
国のシャッキンを平時に躍起になって返済することが我々国民の害にしかならないというのがおわかりいただけただろうか。
したがって景気が加熱しすぎ、インフレ率が上がりすぎな状況でも無い場合は国の借金は内債である限り国が滅ぶまではゆっくり毎年過去最高額を更新し続け増えていくほうが安全なのであり、
「不景気なんざ財政支出でぶっ飛ばしてやる!」
「日本の供給力をなめるなよ!!」
と死亡フラグをバキバキにへし折ってくれるような政治を目指してほしいものである。
そんなに返済が簡単ならなんで完済してしまわずまた借り換えるの?
先述の通り返済自体は理論上簡単に行えるものの、現実的には一時的とはいえ国民から一気に返済を強いる行為であるため、ハイパーインフレが発生する恐れがある。
無論、再分配されるまでは国民は全ての貨幣を失うことを意味し(理論上はその日本銀行券を用いての民間同士の取引さえ意味を成さなくなる)、生活がままならなくなるだけでなく、その再分配される日本銀行券もまた政府の対応に戦々恐々するような信用リスクを持つため、政府が信用できなければ日本銀行券はやはり単なる紙屑と変わらない状況となってしまう。
このため貨幣の価値を維持しつつ段階的な返済を促し、恒久的な経済活動を続けざるを得ないと言った方が正しいと思われる。
または今まで燃えたり水底に沈んだりと消耗、消失してきた日本銀行券や不良債権の分だけ償還期限のない無利子永久債の発行をして『最後の貸し手』として設立した経緯のある日銀が引き受け、その分は政府と日銀のバランスシートに計上しないという方針でも良いと思う。
じゃあ政府支出を増やしまくれよ
そうも行かない。急な支出は前述のインフレ率の制約に引っかかる。
しかし一般的に税にはそのインフレ率を状況に合わせて吸い取る機序があるのだが、そのためある程度の政府支出を出しすぎちゃった、という状況にも対応出来る法人税や所得税といった累進性の細かく設定された税制がキーポイントとなってくる。
これをビルトインスタビライザー効果という。
そのビルトインスタビライザー効果が無くタバコ税や酒税のような悪要因の排斥効果もない消費税が悪税と言われる所以はそこにある。
話は少し逸れたが、そういうこともあって、現在の日本は前年度比で数十兆程度支出を増やしたところでインフレ率が日銀目標まで上がるわけではない。
財務省が指標としている債務対GDP比率(これを指標として固執するのはあまり意味はないが)は政府支出に対するGDP弾性の乗数が1倍だったとしても2017年度の政府支出はあと約14兆円以上補正予算を増額していれば改善していたという試算がある。
じゃあいくら出せばインフレになるんだよ
インフレ率自体はGDPの名目値÷実質値の商から求めるデフレーターから算出するものなのだが、その年の実質GDPが政府支出だけで正確に予測出来る計算式があるならぜひお聞かせ願いたい。
GDPは
・政府が自由にできる変数、政府部門の支出、(政府最終消費支出、公的固定資本形成)
・政府が自由に操作出来ない変数、民間部門の支出、(民間最終消費支出、設備投資、住宅投資)
・同じく操作できない輸出入の差額である純輸出
おもにこれら3つの部門の要素から変動する
上記のようにインフレ率も経済活動の結果であり実需の履歴であって、政府支出によってある程度の予測は出来ようものの、政府部門以外の変数は政府が決定出来ない。
また、数式が組めない事をいいことに『財政支出がある閾値を超えたらいつ一気にハイパーインフレを起こすかわからない』という意見もあるがこれも非現実的である。
戦争や大災害などで供給力が変わらないという前提条件の元ならば政府支出による民間部門への流入量からインフレ率は大きく逸脱しないのだ。
結論を言えば最低限のラインとして去年度にgdpギャップ分、デフレした分の額以上出していればインフレしたことになるため、コロナウイルスでで不況の真っ只中だった2020年度を例に取ればあとおよそ80兆円追加で補正予算を組んでいればインフレデフレはプラマイ0だったことになる、
日銀目標のインフレ率2%基準で言うならば約120兆足りなかったのだ。
リーマン・ショック以降の日銀目標未達分も回収するとなるとさらに追加で約200兆の合計約320兆ほどの予算を追加すれば日銀目標に到達できるのではないかというラインになる。
リーマン分を一気に投入するとインフレが昂進しすぎるので10年間で分散するにしても毎年20兆円づつなにか長期の投資計画を建てて実行するべきだろう。
日本すっげぇお金お金配ってるというのは事実誤認であって
実際はインフレ率を基準にすればお金を配って無さ過ぎなのだ。
MMTが他に言及してるもの
自国通貨建て債をいくらしてもデフォルトは起こり得ないという論はMMTの一部であって全てではない、他に軸としている論としては
(Tax Drive Money、租税が通貨を駆動させる。徴税力があり、税金に使わざるを得ないから通貨の信任が通貨発行の多寡によってなくなることは無い、租税貨幣論ともいう)
(税は財源ではないし国債は資金調達手段ではない。そうであるならばそれは国家の会計ではなく、ただの家計や会社である。政府が最初に支出を出し通貨を民間に流さねば民間部門は税金を収めることも国債を購入することも不可能である。)
(中央銀行が市中へ貨幣供給量をコントロールできるわけがないし、そもそも景気が良くならなければいくら金利が低かろうが事業を興すための見通しが立たなければ借り入れを増やすわけがない、量的緩和しても無駄&金利のクラウディングアウトなど政府支出を伴わなければ永遠に起こり得ず。借り手の居ない豚積みのカネだけが積もっていく分だけ金利は下がっていく。このクラウディングアウト論も主流派経済学者は借金したカネは当然使うだろうという固定観念から国が借金する=金利上がるという誤謬を抱え続けているが、事実として国が借金しただけでは政策金利は上がらずに下がる。政府支出として出ていく事でインフレの見通しが立ち、そこで初めて金利は上がるのである。)
の3つが挙げられる。
これらはケインズ学派オールドケイジアンやマルクスの時代からずっと言われつづけている事でその中から実証され続けてきた事実のみを取捨選択した理論がMMTである。
そしてこれらを基礎に公的な雇用提供プログラム、ジョブギャランティプログラム(JGP)という政策も提案出来る。
なぜここまで攻撃されるのか
現在の主流派経済学は先述のMMTが基礎としている3つの理論とは真逆の理論を展開しており
・商品貨幣論(金本位制の時代なら理屈は通っていたが・・・)
・財政均衡論(財政が均衡または黒字ということは市中から貨幣が消えていくわけだが・・・)
・外生的貨幣供給論(いくら日銀が市中銀行の国債を買い付けてお金を市中銀行に供給したから貸しやすくなるとて、景気が悪くて誰もお金を借りようとしない社会では・・・)
が主な基礎理論となっている。
これら3つと意見が対立することから多数批判を受けることとなっている。
しかしここ数十年、日本がこれら主流派の掲げる3つの理論に対する反証を提示しつづけたという不名誉かつ不可解な財政原理の元、国の財務は動かされている。
そもそも論として、財務省のトップとも言える矢野康治事務次官の財政に対する見解と言える「矢野論文(『文芸春秋』(11月号掲載))」の内容が緊縮財政であるように、日本の経済会のトップを中心に緊縮財政が広く浸透しているのが問題だろう。
マスメディアによる流布も含め財務省を信じる国民も少なくないため、2023年現在、少なくとも地上波でMMTが議論されたことは一度もない。
ただしネットを中心とした番組でMMTや積極財政を取り上げる機会は増えており、旧来メディアの斜に構えた体制の批判材料となることもある。
一方で既存の財政論の問題点を指摘しつつも納得できない、あるいは現行の主流派を盲信している層からすればあまりにも理想的な話であるため納得が難しい他、上記の単純な問題を0か100で考える短絡的思考の者(そもそも経済学に限らず他の学問や人間活動において0か100かを求めるのはナンセンスなのだが)などもいる。
他にも日本人のMMT支持者は、上述の文章からも推測できるように喧嘩腰の論調が少なくないことで、一枚岩になりきれない現状がある点も反省する必要がある。
とはいえ、旧来の認識を覆すために相応の批判や否定的意見に晒されることは天動説など歴史的に見れば当たり前の話である。
提唱されてまだ10年ほどのMMTの普及はまだ途上であるため、今後の広がりに期待したい。
主な提唱者
上記4名の著書は言わずもがな日本語でも記事を検索するだけで知見が得られるのでかなりオススメ。
主な支持者
自由民主党
立憲民主党
国民民主党
れいわ新選組
無所属
経済アナリスト
ゲームクリエイター
ZUN氏(ソース不明、検索しても該当情報無し)
漫画家
関連人物
先述のビルミッチェルも称賛する日本が誇る大蔵大臣。日本財政のヒーロー。
恐慌が起こるたびに蔵相を務め、原因を即座に看破しては恐慌や経済危機を薙ぎ払ってきた。
世界恐慌を世界最速で脱出してきた手腕は国民からも信頼が厚い。
軍部の予算要求を その額では悪性インフレ招き国防の牢固さを失う、と跳ね除け
6日後の226事件の凶弾に倒れるまでその財政手腕をふるい続けた。
解説動画
前編
後編