前提
現代貨幣理論と一口に言っても様々な学説・流派があるため、ここでは一般的かつ基本的な部分についてのみ解説する。
概要
現代貨幣理論とは、有り体に言えば財政に関する主流派経済学の見解に対するアンチテーゼとして誕生した理論・学説である。
現行の経済体制においては、モノやサービスは貨幣によってやり取りされるが、この取引に必要な現金が手元にない場合は借金という形で、現金を借入れたうえで、取引をする。そしてこれはいずれ返さなければならず、期限までに返さないと債務不履行に陥ったとして破産してしまい、様々なペナルティを科されることになる。
これは政府も同様であり、政府は借金と引き換えに国債を債権者に発行する。そしてやはり期限までに返済されないと政府が破綻(デフォルト)したとみなされ、政府は信用をなくしてしまう。
なので国債もなるべく少ないほうが良いのだが、これが「通貨発行権を持つ政府の自国通貨建て国債」だと話が変わってくる。期限が到来次第借入金を返済しなければならないのは同じだが、その金銭を発行しているのは他ならぬ自分自身であるため、返済期限がきたらその分お金を刷って返しちゃえばいいのである。そのため、通貨発行権を持つ政府が自国通貨建て国債を発行し続ける限りにおいては、その政府は破綻しないということである。よってそのような政府は財政赤字を気にする必要はなく、インフレ率にのみ気をつければ際限なく貨幣を発行することができる。これが現代貨幣理論の基本的な主張である。
この理論は主流派経済学が提唱するところの「均衡財政論」と真っ向から対立するため、登場以降様々な議論を巻き起こした。特に日本では、財務省が「財政健全化」と称して増税・緊縮を繰り返していることから、それに対する反論として特に反体制派から注目された。
主な理論的枠組み
主に以下のような理論を支柱としている。
租税が通貨を駆動させる、すなわち徴税力が先にあり、税金の支払いに使わざるを得ないために通貨需要が発生し、通貨に価値をもたらすという考え方。
通貨発行権を持つ政府にとって、税は財源ではないし国債は資金調達手段にはならないとする考え方。前述の国定信用貨幣論と併せて、「税収が財源であるならば、最初に発行された貨幣はどこから来たのか?」という卵が先か鶏が先か問題に対する一つの回答となっている。
銀行が企業や個人に資金を貸し付けたときにこそ国全体の貨幣量が増加するという考え方。一般的に信用創造として知られている。
方向性は少しづつ異なるが、いずれも貨幣はその供給量によってではなく、需要に基づいて発行量が定められる(べき)とする点で共通している。
他方で現代の主流派経済学は、
貨幣はそれ自体に価値があり、皆が共通して持っている貨幣に対する信頼に基づいている。
財政の収入と支出は一致すべきである。
物価は貨幣の流通量の多寡に基づいて上下する。
としており、現代貨幣理論はこれらとは真っ向から対立する理論である。「主流派経済学では現実の経済動向を説明できない」という疑問から出発した学説であることを考えれば、当然と言えば当然である。
なお、「税収は財源ではない」というフレーズが独り歩きした結果、主にSNS上で「税金を無くすことができる夢の理論」と認識されている節があるが、上を見ればわかる通り現代貨幣理論における徴税は、場合によっては主流派経済学以上に必須の要素であるため、税金が減ることはあってもなくなることは決してない。
問題点
「理論」とはいうものの、そのほとんどが経験則に基づくもので数理モデルがないため、「この程度こうすれば、この程度こうなる」という定量的かつ具体的な予測が立てにくい。許容可能なインフレ率まで貨幣を発行してよいとするが、では「許容可能なインフレ率(またはその算出方法)」とはどの程度なのか、というのもMMTでは特段示されていない。また、現実にこの理論に基づいて財政政策を行っていると明言している国がないため、その経験則もあまり蓄積されていない。
現代貨幣理論は通貨発行権を持ち、自国通貨建て国債を発行する政府を前提としているわけだが、もう一つ「政府の信用力は(ほぼ)無制限である」という暗黙の前提をおいている。信用力が無制限であればこそ財政赤字を全く気にしなくてよくなるわけだが、ここについては特段根拠がなく、完全な机上の空論である。
インフレは資源高等の外部要因によっても進行する(2024年現在時点の日本がまさにそうである)ため、仮にインフレが既に許容範囲を超過している場合、国はおいそれと通貨を発行できなくなり、現代貨幣理論が主張するところの積極財政を行うことができなくなる。
上記の支柱的理論にも節々に穴があり、例えば国定信用貨幣論によれば貨幣価値の源泉は徴税力であるが、この理屈だと「徴税の対象でもなんでもない単なるデータ値」にもかかわらず決済手段として機能しているブロックチェーン型仮想通貨の存在を説明できない(むしろ主流派経済学の商品貨幣論のほうがうまく説明できてしまう可能性すらある)。
それもそのはず、ブロックチェーン型仮想通貨の走りであるBitcoinは、中央集権型の貨幣制度からの脱却を目指して作られたものであるため、そもそもの発想の根幹がMMTと真逆なのである。なお、そのBitcoinが誕生したのはMMTが提唱された後のため、少なくとも初期のMMTは非中央集権的貨幣の出現を予期していなかったのではないかと思われる。
提唱されてまだ10年ほどの若い理論であるため、今後の発展に期待したいところである。
主な提唱者
主な支持者
自由民主党
立憲民主党
国民民主党
れいわ新選組
無所属
経済アナリスト
反財務省の急先鋒の一人。均衡財政派に対するザイム真理教という蔑称の生みの親でもある。
漫画家
関連人物
元日本銀行総裁。世界恐慌の時代において、積極財政を行うことにより日本をいち早くデフレから救い出した人物として知られている。
解説動画
前編
後編