概要
腎症候性出血熱(じんしょうこうせいしゅっけつねつ)は、ウイルス感染症の一種。発熱と腎機能低下を主徴とする。病原体はねずみなどのげっ歯類が持つハンタウイルス。
ユーラシア大陸全域で発生しており、特に中国での流行が顕著である。日本でもかつて大阪梅田で流行したり(梅田奇病)、実験動物のラットが感染源となり大学や研究所で流行したことがあったが、現在は発生がみられなくなっている。
腎症候性出血熱は、ウイルスのタイプによって重症アジア型とスカンジナビア型の2種類に分けられる。重症アジア型は主に中国で発生し、スカンジナビア型は軽症で主に北欧で発生している。スカンジナビア型は流行性腎症(りゅうこうせいじんしょう)と呼ばれることが多い。腎症候性出血熱と呼ぶ場合、普通は重症アジア型のことを指す。
ウクライナ侵攻による戦場では不衛生な塹壕で大量のネズミの発生がロシア・ウクライナ両軍ともに発生しており、特にロシア陣地では回収されない戦死者の遺体を食べたネズミによる汚染が深刻化しており、ロシア軍兵士の間でも本疾患が蔓延していると報じられている。
感染経路
ウイルスを持ったげっ歯類の糞や尿が皮膚に直接触れたり、それらが含まれたほこりを吸い込んだり、直接げっ歯類に咬まれたりすることで感染する。
ちなみに、人から人へ伝染することはない。
症状
初期症状として発熱・頭痛・筋肉痛・嘔吐・下痢などがみられる。流行性腎症では初期症状以外には目立った症状があらわれず、そのまま回復することが多い(尿検査で軽い異常がみられる程度)。
重症アジア型では、発熱に引き続き、鼻血や血尿などの出血症状がみられ、やがて腎機能低下のため尿が出なくなり、最悪の場合は死亡する。致死率は5~10%と言われている。
特に有効な治療法はなく、安静・点滴などの対症療法で腎臓の回復を待つ。
予防方法
げっ歯類との接触を絶つことが最大の予防策である。以下のことを心がけたい。
- 流行地域でのキャンプなどの際には周囲環境のねずみ駆除を行う。
- 食品の保管にはねずみがかじらないようにふたをしておく。
- むやみに野生動物に近づかない。
- ねずみの糞尿にはウイルスが含まれている可能性があることを念頭に置いて、漂白剤などで消毒する。