速水正樹
はやみまさき
『珍しいでしょう? 同じ名前の兄弟なんて。僕も、兄も、別に気にしてはいませんでしたけどね。』
『ケンガンオメガ』に登場する、東洋電力の新たな所属闘技者。
速水勝正の息子で本作の2年前に死亡した目黒正樹とは同名の弟とのことだが、年齢が若いものの目黒と同じ名前と顔を持ち、戸籍上では該当する人物はいない模様。表情はムーミンやセサミストリートに出てきそうなまん丸な目で、愛嬌があるがどこか不気味な様子を漂わせる。
欧慶大学に在学中のお坊ちゃんで、性格は素直で和気藹々としている。場所を問わず本をよく読んでおり、豊富な知識を活かした解説役もこなすなど、狂人で話が通じなかった目黒と違ってコミュニケーション能力が高く、天性の人たらしで、場の空気を和らげられる「リーダーの資質」を持っている。学友からは頼りにされ、中学卒業まで通っていた柔道教室でも評判は良好で、今でも時々顔を出しては子供達に柔道を教え、礼儀正しい好青年として父兄の信頼も厚く、東洋電力会長の御曹司であることを鼻にかけず非常に謙虚、という欠点のない人物。
ただ、クローン技術を巡って謎の組織『蟲』が暗躍しており、さらにクーデター未遂を起こした速水勝正が前作の時点で『蟲』と繋がっていたという事実からも、この「速水正樹」が果たして本当は何者なのかを疑う余地は多い。
戦闘スタイルは柔道がベースで、それに打撃技を組み合わせて戦う。小中高大と学生生活を通じて柔道部には所属した経験はなく、大学では柔道同好会J-BOYSとボランティアサークルを兼部しているだけだが、ある事情から実戦経験は豊富であり、形勢判断が素早く的確。勝てるのなら構えにこだわることもなく、右構えでも左構えでも戦える。
初登場は5巻。煉獄との交流戦における代表者探しで速水の屋敷を訪れた山下一夫と秋山楓に対して姿を現し、二人(と読者)の度肝を抜いた。
本来山下たちにとって、拳願会に刃を向けた速水にはなんの用もないはずであったが、煉獄との交流戦における代表者探しが難航を極めたこと、『ニュージェネレーションズ』最強の打吹黒狼をあっさり倒したという実績から、渋々貸しを作っての正樹の代表者抜擢と相成った。
対抗戦が始まってからは煉獄の選手についての情報、カポエイラのスタイルの差異、煉獄ルールの脅威性などを冷静に伝えるなど、寧ろまともすぎる姿を見せている。
しかし、以前の彼を知るユリウスからは鋭い視線を向けられており、雇用主がかつて片原滅堂に弓を引いた速水ということもあり、大久保直也や若槻武士からは『蟲』の一員である可能性を挙げられるなど、仕方のない部分はあれど割と風評被害を受けている。
が、剣呑な空気になり始め、苛立ちに任せて参戦を試みる大久保や、それを多少きつい言葉で諫めようとする若槻の存在などが噴出し始めると、柔らかな言葉で仲裁に入った上ですぐさま話題を転換。空気の軌道修正を手早く行うべく、柔らかな仲裁→共に仲裁に入った徳尾徳道に対し彼の小説に関する話題を展開→十鬼蛇王馬に対する話題振り→大久保の調子を狂わせ場を鎮静化…といった具合に、絶妙なやり取りで場の空気を和らげてみせた。
第七試合、煉獄側からは「柔王」、そして「双王」の異名を持つ嵐山十郎太が参戦。彼がロロン・ドネアに比肩する実力者であること、スタイルが柔道と思われることから、経験や体重が段違いである若槻の出場が一考されるが、速水が大将格を安売りするべきではないと告げた上、山下に対抗型も悪くないが同型をぶつけてみないかと進言。その姿に王馬からは笑みを浮かべられ、勝利を収められるかを問われながら遂に出場。
嵐山からは目黒の血縁者かと問われた挙句、速水がかつて目黒によって引き起こされた柔道家連続殺人事件への関与が疑われている少年M(目黒正樹を指す)であると嵐山に判断されてしまうが、当の本人は血縁者であると素直に告げ、嵐山の眼光に対しては笑みを浮かべたまま首を傾げるなど、あくまで普段の調子を崩さなかった。
仕合では嵐山必殺の投げである「振り」の速さに対応できず、受け身も取れないまま何度も投げ飛ばされるが、ゾンビのようなしぶとさで笑みを浮かべたまま立ち上がり続け、次第に起き上がるまでのスピードが速くなっていく。鼻や左肘を破壊されながらも、兄より強いが殺すための技を使わない嵐山には恐怖を感じておらず、不殺ルールで相手が攻めあぐねている隙を突いて鎖骨を肘打ちで叩き折る。そして片腕となって「振り」をかけ損ねた嵐山を一本背負いで投げ飛ばし、顔面へ鉄槌の連打を加えてノックアウトを奪い、柔道家として自分より三回りは強い相手にジャイアントキリングを達成した。
その正体(ネタバレ注意)
その正体は、速水勝正により『蟲』の技術を利用して生み出された目黒正樹のクローン。(年齢を逆算すれば目黒が出奔して速水と出会った頃と合致する)
目黒は生まれながらに格闘家としての類希なる才能を持っていたものの、狂気に呑まれていることによりその真の実力を発揮出来ないという欠点を抱えていた。(結果的にトーナメントで死亡することとなった)
彼が理知的なのも「目黒がもし狂気を抑止することが出来たら」という想定で作られたため。ある時期までは爽やかでまともな少年であった(様に見せかけた)目黒正樹がそのまま成長したのが彼というわけである。
尚且つオリジナルにあった痛覚を快楽に転化する体質は受け継いでおり、嵐山の強烈な投げを受け続けてもゾンビの如くすぐ様立ち直るなど尋常ならざるタフネスを持つ。
彼本人は人格者であることには違いないが、普通ならば立ち上がれないダメージを受けてもなお立ち上がり、血塗れの状態と目が血走った形相で笑みを浮かべる姿は拳眼会チームからはかつての『泣き男』を想起させるほど。その様な状態で普段と変わらぬ言動を振舞っているため却って異様さを引き立てており、彼もまた十分化け物である。
さらに「速水正樹という人格」を「完璧な目黒正樹」に作り変える為に呉氏の洗脳技術「回生」を現在進行形で施されており、生前の目黒の独白をイヤホンで幾度も繰り返し聴き続けている。その事を察したかは不明だが、速水勝正の実子である倉吉理乃からは、すれ違いざまに「かわいそうな義弟」と呟かれている。
対抗戦終了後に勝正を「あなたはクソだ」と言い放ち護衛もろとも殺害した。
その後も大学に通ってるらしく殺害はバレてない模様。