鬼童・伊吹丸
きどういぶきまる
CV:古谷徹
『大逆の四将』の一体にして、鬼の総大将酒呑童子の息子。口調や物腰は平安貴族を思わせ、古めかしくも威厳を感じさせる。一人称は「われ」。
姿は人間に近いものの左の額に一本角があり、短い牙、尖った耳が特徴。
鬼道衆に封印されたものの、彼らに恨みは無く、零の故郷を焼いた犯人ではなかった(真犯人は最後の四将である玉藻前)。
第69話『地獄の四将 鬼童伊吹丸』と第74話『地獄崩壊⁉玉藻前の罠』(回想~)第75話『九尾の狐』、第96話『第二次妖怪大戦争』~第97話『見えてる世界がすべてじゃない』に登場し、四将の中で唯一『地獄の四将編』以降も出番が用意されている。
酒呑童子の息子というだけあって鬼族の中でも最強クラスの実力者で、ねこ娘や零を圧倒し、鬼太郎とも互角に渡り合った。
赤鞘の日本刀を得物とし、鞘による打擲も組み合わせた撃剣術の使い手。真言の冠詞「唵」を唱え、刃を鞘でなぞる事で刀身に妖力を充填し、ダムをも斬り砕く斬撃波を放つ。
鬼道衆の秘技にも通じており、零と同じく両腕を「鬼の腕」に変えられる他、空中に浮いたり物を復元したりする特殊能力を持つ。
過去
1000年前に父の酒呑童子と共に京の都を滅ぼし、その住民たちを大江山の住処に拉致してきた。
だが“ちはや”という人間の娘と恋に落ち、それを機に伊吹丸の中で良心が芽生える事に。
そして大江山に捕らえていた住民たちと共に豊かな村に移り住み、そこで人間も鬼も関係ない異文化交流を受けて幸せな生活を送っていた。
しかし伊吹丸が不在だった隙を突いて近隣の村の領主が村を焼き、住民も殺されてしまう。
特にちはやは伊吹丸を挑発する目的で首を斬られて胴体を持ち去られる、要はその場に生首だけが置き去りというあまりに惨い仕打ちを受けていた。
この仕打ちに怒り狂った伊吹丸は激しい復讐心に刈られ、国を滅ぼし、その国にいただけの関係者も問答無用に殺害。それでも怒りの収まらない彼は近隣の村の住民達をも国ごと滅ぼした事で、鬼道衆に封印されてしまった。
現代
その後ぬらりひょんによって解放されて現世に戻ると、ちはやの胴体を探すためにまなを憑坐(よりまし。神霊などの依代になる者)に選んで、ねこ娘を人質に取り彼女を荒れ寺に連れ去った(その直後に彼女の帽子が手掛かりとして残された)。
しかしまなに危害を加える事はせず、過去の所業は隠し通しつつも事情をきちんと説明していた。
そして彼女が承諾したのかその力を借り、ちはやの胴体のありかはかつて自分達が住んでいた村だった事、そしてその跡地は現在ダム湖の底になっている事が判明。
手がかりを得られたので、力を貸してくれた礼として、不思議な札をまなに与えた。このお札は後に玉藻前との戦いで役立つ事となる。
そしてある晩そのダムを破壊しようとしたところで鬼太郎、砂かけばばあ、ねこ娘と遭遇。
鬼太郎たちは元々「首の無い女性の幽霊(正体はちはや)がダムに現れる」という情報を得て調査しに来たのだが、まなを確保してある荒れ寺の位置をあっさりと教え、鬼太郎・零・一反木綿・応援のぬりかべ(零と直接対面するシーンはなかった)と戦闘に突入。
しかしねこ娘に救助されたまなの証言と彼本人が語る(しかもまなの前で)所業によって全てを知った鬼太郎はカッパ達と砂かけ婆から事情を聞き、彼女の依頼を渋々受けた零の協力によって「大渦を起こしてちはやの胴体を埋めてある箇所の周囲だけを擬似的に干上がらせる」という方法で水を引かせ、その窪みに自分が回収したちはやの頭蓋骨を置いて成仏を見届けた。
その後、鬼太郎達に感謝の気持ちと人間と妖怪の共存を願う彼に激励の言葉を伝え、零には自分と同じ復讐に縛られた者として「復讐を果たした満足は一瞬 後に残るのは押し寄せる苦しみ以外にない」と指摘。
そして心残りの無くなった彼は、閻魔大王が使いとしてよこした牛頭と馬頭によって拘束され、地獄に戻っていった。
九尾の狐こと玉藻前との最終決戦では、獄卒に無理を言ったねこ娘とまな達に魂のみを解放され零に助力。
全てが終わった後はその功績からか半身を解放され、鬼道衆としてはまだ未熟な零を鍛え直すべく、共にどこかへ旅立っていった。
第96話では零と共に再登場。鬼太郎がいる『あらざるの地』へ向かう方法を、まなやねこ娘達に示した。
彼が『大逆の四将』という極悪妖怪の身へと堕ちる切っ掛けを作ったのは他ならぬ人間達であり、その点は同情の余地がある。もちろん惨殺したちはやの胴体の隠し場所を里を襲撃した領主があっさりと隠し場所を教えていたなら、領主も他の住民も村と一緒に滅びる事は無かった。
ただし伊吹丸はかつて父と共に都を滅ぼして非道な振る舞いを行っており、一方的に酷い目に遭わされたとは口が裂けても言える立場ではない。ちはやの件での報復では、罪のない人々までお構いなしに殺戮している。
ちはや達と暮らす様になった頃には実質改心してはいたものの、それでも過去の行いを反省する様な素振りは一切見せていなかった。
彼らの里が襲われた事も、いきなり付近に多くの「悪逆非道な人間の敵」が住みつけば、国主としては警戒せざるを得ず、襲撃も筋が通った決断である。過去に犯した罪を考えれば、伊吹丸は隣国と交流し、害意が無い事を証明し続けるべきだっただろう。
ちはやの件についても、里を襲撃した領主から胴体の隠し場所を聞き出し、その場所に首を置けば、彼女はもっと早くに成仏出来ていただろう(もっとも、領主側の軍勢が『ちはやを生かして捕らえておけば』伊吹丸も自重せざるを得ないばかりか、取引材料あるいは抑止力として機能したであろう事を考慮すれば、領主側の監督不行き届きの罪も負けず劣らず大きいが)。
つまり、単純に「伊吹丸は被害者、国主が悪者」と言い切れるものではない。
6期鬼太郎は『妖怪と人間との距離感』『多様性の在り方』をテーマとしており、異なる存在や意見の対立と、互いを尊重し許容する事が出来るかどうかが、全話を通じて繰り返し問いかけられている。伊吹丸の過去も、このテーマに沿って描かれたものだと言える。
CV:山崎和佳奈
伊吹丸が生涯でただ1人心を開き、想いを寄せた人間の女性。
元々は伊吹丸の父・酒呑童子率いる鬼達の軍勢が京の都を滅ぼした後に彼らの住処に攫われてきた高貴な身分の娘の1人だったが、他の攫われた者達に寄り添い励まし、意気消沈する者達の心の支えとなるなどの行為から他の同じ境遇の者達から慕われていた。
また、他の住人達と違い鬼というだけで必要以上に恐れ媚びる事も無なかった。
そんな彼女の人柄は当時、人間に何の価値も見出していなかった彼の心を溶かすのに十分なものであり、後に彼女に思いを寄せる様に。
そして伊吹丸は父が討たれた後、彼女と共に他の捕らわれた者達を連れて人里離れた山奥の郷へと落ちのびると人間と鬼が共存する異種族間の交流を続けて幸せな毎日を過ごしていた。
しかし、幸せな毎日は突然に終わりを迎える事となる。上述にもある通り、伊吹丸を追っていた村の領主達が伊吹丸が留守の隙をついて里を襲撃して滅ぼした上に、伊吹丸を挑発するために彼女を殺害。
その首と胴体を切り離し、体をとある場所へと隠してしまったのだ。
その後、首の無い幽霊として自身の首と伊吹丸を探して現世を彷徨い続けていたが、最終的に鬼太郎と零の協力を得た伊吹丸によって首を元の場所へと戻され千年ぶりの再会を果たし、お礼の言葉と共に昇天していった。
- なお、伊吹丸の目的は彼女の霊魂を成仏させる事であり、今まで登場した他の四将達と違って決して私利私欲のために活動していた訳では無い。ただしその目的を果たす為ならば手段を選ばず、数多の被害や犠牲が出ることも意に介さない非情な一面も覗かせていたが……これは“人ならざる者”故の価値観の違いとでも言うしかないだろう。
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