概要
V-107は、アメリカ合衆国のバートル社(現ボーイングIDS社のロータークラフト部門)で開発されたタンデムローター式の大型輸送ヘリコプターである。長きに渡り各国で軍民問わず活躍したが、現在ではCH-47チヌークやV-22オスプレイなどのより大型な輸送ヘリ等に更新され、ほぼ完全に退役している。
元はバートル社がアメリカ陸軍にYHC-1Aの名称で提案した機体で、陸軍は有事に空中機動作戦を実施するにあたり、火力支援用の155mm砲を運搬できる大型ヘリを必要としていた。ところがYHC-1Aはエンジン出力などが要求を下回り、採用を見送られている。これを受けて、エンジン出力を向上させるなどした改良型V-107-Ⅱも開発されている。
結局陸軍では採用されなかったが(代わりに同社が後に開発したCH-47を採用している)、アメリカ海兵隊がCH-46シーナイトの名称で採用したことで、大々的に運用された。有名どころだと映画『世界侵略:ロサンゼルス決戦』にも多数が登場している。アメリカ海軍でも輸送ヘリとして採用されていたが、海軍機海兵隊機いずれもMV-22等に交代する形で数を減らし、2015年に全機退役した。
後から開発されたCH-47チヌークとはタンデムローター式で似ているが(開発元も実質的に同じ)、外見上の様々な差異をはじめ、CH-47の方が一回り大きいという点で大きく異なる。また、2020年代現在においてV-107がほぼ退役しているのに対し、CH-47は現在も現役バリバリで活動中。それでも日本だと両機とも自衛隊所属機が災害派遣で一般の目に触れる機会が多かったこともあり、混同されがちな機体ではある。
日本での運用
日本では川崎重工業がライセンス生産しており、同社製の機体は「川崎」の頭文字(K)を冠してKV-107の型番が振られている。改良型もKV-107Ⅱの名称が割り振られた(それぞれハイフンが無いKV107、KV107Ⅱとも)。
日本でのV-107は「バートル」という愛称でも知られていた。
1960年代から自衛隊では陸海空すべてで採用され、2000年代に全機退役するまで長らく活躍した。災害派遣で雲仙普賢岳噴火や日本航空123便墜落事故、新潟県中越地震など様々な現場に出動しており、過去の災害ニュース映像を見ればその姿を拝むことができる場合もある。
- 陸上自衛隊:兵員物資の輸送用と要人輸送用の2種が運用された。
- 航空自衛隊:航空救難団の救難ヘリとして運用された。搭載能力を活かし、僻地のレーダーサイトへの物資輸送にも活躍した。
- 海上自衛隊:上空から機雷を処理する掃海ヘリとして運用された。
さらに警視庁航空隊の警察ヘリとしても運用されたほか、開発元の川崎重工をはじめとする民間企業でも広く運用されていた。1960年代には民間旅客輸送の定期航路まで開航されたこともあるが、採算性が悪いとの理由で長続きしなかった。
退役機の展示
現在は自衛隊で運用された機体が少数各地にて展示されている。
陸自機は山形県神町駐屯地、富山県「クロスランドおやべ」、鳥取県米子駐屯地、香川県善通寺駐屯地、長崎県島原復興アリーナなど。陸自の要人輸送型は千葉県木更津駐屯地の広報館にて、1機だけが保管展示されている。
空自機は静岡県浜松広報館エアーパーク、埼玉県入間基地修武台記念館、石川県小牧基地、宮崎県新田原基地。
海自機は千葉県下総航空基地と鹿児島県鹿屋航空基地史料館にのみ展示されている。