概要
ギリシャ語での表記:ΑΡΤΕΜΙΣ, Ἄρτεμις, Artemis
ギリシャ神話に登場する狩猟・純潔の女神。後に月の女神になった。
ローマ神話ではディアナ(英語読みでダイアナ)と同一視される。
また、セレーネーとも同一視されており、セレーネーはアルテミスの一部になっている。
誘導
アルテミスの名を持つもの
実在
欧州宇宙機構(ESA)の人工衛星
その他、企業・団体・船舶等の名称に用いられている。
関連キャラ
『月』の機甲神アルテイヤー
その他
宇宙要塞アルテミス(コズミック・イラ)
LBX世界大会アルテミス(ダンボール戦機)
無人防衛システム・アルテミスの首飾り(銀河英雄伝説)
『特攻!アルテミス』森左智による漫画作品。
『幻想のアルテミス』PS用ゲームソフト。
エフェソスのアルテミスも参照。
概要
主神ゼウスとティターン族のレトの間に生まれた狩猟と純潔の女神。
大勢のニンフ達をお供に、狩りを楽しんでいる。オリュンポス十二神の一柱で、
父・ゼウスに可愛がられ、彼女の所持品の多くは彼から授かったもの。
永遠に処女神でいる保証も父から得ている(その父が下記の様に彼女のお供に手を出す事もあった)。
女神らしくプライドが高く、普段は凛とした冷静な女神だが、
逆鱗に触れた時その怒りは留まるところを知らない。
自身が純潔の女神である為、侍女を務めるニュンペー達にも純潔の誓いを立てさせ、それを破った者には厳罰を与えた。
ただし、彼女が嫌うのは「愛の名を借りた性行為」である為、
心底お互いを愛し合って結婚する信者は祝福し、快く送り出したという。
生まれてすぐ母親のアポロンを産む際の難産を手助けしたという逸話から『子宝の女神』という神格も持ち、純潔の神でありながら慈母神という特異な立ち位置にいる。
もともと地母神として崇拝されていた女神と習合した結果と思われ、
ギリシャ神話はこういう対極的なものが多いので仕方がないが。
この為にアルテミスの方が姉とされる事もある。その一方、神話内の役柄を考えた場合、「処女神」のイメージが定着すると彼女は「少女」とされやすく、
アポロンがそれより年少の神とは考え難い事から、
アポロンが兄、アルテミスが妹として扱われる事が多い。
象徴とされる動物はクマ、鹿、猟犬だが、象徴の生物と結びついた神話が少ないギリシャ神話では珍しく、がっつり絡んでくるエピソードが多い。(後述)
お供のニュンペーの一人が…
カリストはお供のニュンペーの一人で、アルテミスの特にお気に入りだった美少女。ところが彼女に浮気性のゼウスが一目惚れしてしまう。
貞節の固い彼女を誑かす為にゼウスが使った手段は、
実の娘であるアルテミス自身に姿を変えること。
カリストはすっかり騙されて偽物に身を任せてしまうのだが、
この誘惑が成功した事は、元々アルテミスと彼女が百合だった可能性を示している。
絵画にしばしば描かれる誘惑の光景はそれにしか見えない。
アルテミスに気に入られていたカリストだったが、この一件で妊娠してしまう。
数か月後、水浴びの時にそれがバレるとアルテミスの寵愛を失い、追放される(あるいは、そのまま熊に変えられる)事になる。彼女はゼウスの被害者なのだが、事情を問わず純潔を失った者には容赦しないのがアルテミスである。
アクタイオンの事件
テーバイ王カドモスの孫であったアクタイオンは、狩りの途中で森深く迷い込み、
聖なる泉でアルテミスとお供のニュンペー達が水浴びしている所を見てしまった。
アルテミスは怒り、「この私の裸体を見たと吹聴できるものならしてみるがいい」と呪詛を放った。途端にアクタイオンの姿は牡鹿に変わる。
彼は鹿の姿のまま逃げ出したが、自身が連れていた猟犬たちに襲われて、殺される悲惨な末路を辿った。アクタイオンも悪気は無かったが、恥をかかせた者には命の代償を求めるのがアルテミスである。
崇拝を怠ると……
カリュドン王オイネウスはその年の豊作を祝い、感謝の為に神々に捧げものをしたのだが、
アルテミスへの供物だけは忘れてしまった。
蔑ろにされた事に激怒した女神は、巨大な猪をカリュドンに送り込んだ。
猪は田畑を荒らし、人々を襲って手がつけられず、並みの狩人の手に負えるものではなかったという。この猪を退治する為に、ギリシア中の勇士達を集めたチームが組まれた程。
これに参加した紅一点が美貌の女狩人・アタランテであり、
一番槍を挙げる功績も果たしたが、彼女も本来アルテミスの信者だった。
オリオンとの恋
そんな彼女だが、一度だけ身を焦がす程の恋をした事がある。
その相手が狩人のオリオンで、彼の精悍な佇まいとそれに違わぬ豪快な言動から、
メロメロになっていった。気に入らなかったのが兄のアポロンであった。
大地の女神ガイアに相談し、オリオンを亡き者にしようと考える。さらにオリオンを牡鹿と誤認される様に工作し、何も知らない妹を挑発してオリオンを射殺させる。
その後、真相を知ったアルテミスはアポロンの息子で死者蘇生の技術を持つ医師アスクレピオスに依頼してオリオンを復活させようとしたが、冥府の王である伯父ハーデスに断られ、ゼウスもハーデスを支持した為これを断念。
彼女はゼウスにオリオンを星座にしてもらう様に懇願し、
その星座がオリオン座になった。
因みにアポロンにオリオンを殺された事に関して、彼女は特にアポロンに対しては怒っていない。
ヒッポリュトス蘇生事件
ヒッポリュトスはアテナイ王テセウスの王子で、母親はアマゾネスの王女である。彼は男性ながらアルテミスを尊崇してその教えに忠実で、
アルテミスの方も例外的に彼を狩猟の供への参加を許す寵愛を示していた。
ところがヒッポリュトスの父テセウスの後妻であるパイドラーが義理の息子に求愛するという事件が勃発。当然の事ながら、ヒッポリュトスは求愛を拒絶したものの、
これを逆恨みしたパイドラーは「ヒッポリュトスに強姦された」との讒言を記載した遺書を残して自殺。これを鵜呑みにしたテセウスはかつてポセイドンから与えられた「三つの願い」を行使して、海から怪獣を召喚。ヒッポリュトスは狂乱した自身の戦車の馬に殺された。
愛弟子が冤罪で父親に殺された事に憤ったアルテミスは、医師アスクレピオスに依頼してヒッポリュトスを蘇らせた。オリオンの件でも死者蘇生を「自然の理に反する」と叱責したハーデスはヒッポリュトスの蘇生で遂に我慢ならず、それに押されたゼウスの放った稲妻でアスクレピオスは即死。
息子が殺された事に激怒したアポロンは稲妻の製造所で大暴れしてそこで働いていたキュクロープス達を殺害してしまう。結局、アポロンはオリンポスを1年間追放され人間の王の牧場番をする羽目になった。妹の恋人を謀殺した報いとして、自身の息子が殺された。
アレトゥーサの事件
お供のニュンペー達にも貞節を誓わせている彼女は、
誓いを守る者には積極的に救いの手を差し伸べる事もある。
ニュンペーのアレトゥーサは美人だが、処女神アルテミスに仕える身として恋には無関心で、女神のお供として狩りに励む日々を送っていた。しかし、川で水浴びする彼女を見てその川の主・河神アルペイオスが口説こうとし、それが通じないと見るや彼女に襲い掛かった。
アレトゥーサは服を着る間も無く必死で逃げたが、やがて体力も尽き、アルペイオスの魔手が迫ったところでアルテミスに祈り、救いを求める。それに応えた女神の助けで、彼女の身体は溶け出し、水に変じた。
それに気づいたアルペイオスは自らも水に変じて交わろうとしたが、アルテミスは大地に裂け目を開いて逃げ場を用意し、水に変じたアレトゥーサは海底の地下を通ってシチリア島まで逃げ延びて純潔を守り切った。彼女はこの地の泉となったが、随時ニュンペーとしての姿も取り戻せるようで、その姿でこの地に来ていた女神デメテルと会話した事もある。
トロイア戦争では
ミケーネ王アガメムノンが「自身の狩りの腕前はアルテミスにも劣らない」と言った事に立腹しトロイア側を援護する。しかし、トロイアは滅亡し、自身もミケーネ側を援護したヘラとの闘いで負ける結果に終わり、アルテミスがゼウスに泣きつくという意外な一面を見せている。
アガメムノンの件で「長女のイピゲネイアを生贄に捧げれば怒りが解ける」との予言を下すも、アキレウスとの縁談と言う名目に騙されてやってきたイピゲネイアが殺されかけると、同情心を起こしてイピゲネイアを安全な場所に移す等、非の無い相手には優しい一面も見せている。
ミケーネ王妃クリュタイムネストラと勝手に名前を使われたアキレウスの2人は必死でイピゲネイアの助命を願ったが、アガメムノンが生贄の儀式を強行した為に彼に深い遺恨を抱くに至り、トロイア戦争の泥沼化とアガメムノンの破滅を招く事になった。