概要
『北斗の拳』を題材としたスピンオフコメディ漫画。作者は『北斗の拳拳王軍ザコたちの挽歌』の倉尾宏。
あらすじ
我々が知る漫画、アニメとしての『北斗の拳』が存在しないパラレルワールドの1980年代。
世界は核の炎に包まれる事もなく、日本は平和であった。
そんな時代に、世音(ぜのん)テレビと創天スタジオはバイオレンス特撮アクションドラマ『北斗の拳』の制作を決定。特撮とアクションの両方に長けた原口監督指揮の下、83年9月の放映に向けて撮影を開始した……!
放送枠は金曜夜8:00の1時間実写ドラマ枠。果たして、『東武警察』『必勝仕事人』『絶好野郎Aチーム』を超える大ヒット作は生まれるのだろうか……!?
概要と作風
武論尊&原哲夫による数々の漫画的トンデモ描写を、あくまで「特撮」としてトリック撮影・特殊メイク・生身のアクションで作り上げていく熱い挑戦が描かれる。
過酷ながらも和気あいあいとした撮影現場で生まれる喜怒哀楽や、数々の難題を創意工夫で乗り越えていく姿は、原作北斗とは異なる感動を読者に届けてくれるだろう。
単行本では撮影合間の諸々を描いた1ページ・1コマ漫画や、令和の時代にリメイク版『北斗』が制作される『北斗の拳 FUTURE』も収録。
本作そのものは「モノクロの漫画作品」だが、作中での『北斗』は「総天然色の実写特撮」である。
実際に実写作品としての『北斗の拳』は1995年にハリウッド映画として公開されている他、2021年には舞台化もされている。
現実には『北斗の拳』の初見が実写というファンは極めて珍しいが、今作ではそれが基本という逆転の構図も見どころだ。
2021年10月からは、宣伝企画として「金曜ドラマ 北斗の拳」名義で原作である『北斗の拳』の配信(あくまで本作とのタイアップの関係上「本放送版」という名目になっている)が開始された。
登場人物
演者
橘優李
「また特撮班に無茶をさせてしまった…」
我等が主人公・ケンシロウ役。若手俳優で女性ファンもいる。それなりに鍛えてはいるが現実的な筋肉量しか持たないため、7つの傷が入った肉襦袢を来て撮影に臨んでいる。もちろん暑苦しい(劇画の描写的な意味ではない)。普通の人間なのでプロレスラー演じるモヒカン役などに普通に力負けする。太い眉は、男らしさの表現を追求する監督のこだわりで付け眉毛だが、「味付け海苔でも張り付いてんの!?」と視聴者を困惑させた。
監督がその場の思いつきで要求してくる表現を即興で具体化し、様々なアイディアを提案できる柔軟性・発想力の持ち主。撮影話数を重ねる度に、数々の名場面を生み出す「持っている」男。
一方で、たまに見せる天然な言動にはサイコみも見え隠れする。
安西守
「完璧じゃダメなんです! 台本を飛び越してその先へ!」
バット役。地毛は黒髪でカツラを着けて演技している。役柄とは正反対な真面目かつ素直な少年で、演技力も監督が将来有望と語る程。撮影現場では貴重な常識人だが、周囲の熱量に当てられてより危険な撮影にも挑む役者魂に目覚めていく。
氷室さやか
「未来の大女優…いや既に大女優!!」
リン役。こちらは守とは逆に、役と歳に似合わぬ高飛車な性格の持ち主。本人いわくそこらの新人よりも芸歴は長い。度胸と行動力は大人顔負けで、監督や脚本家に直談判する事も。その演技力や現場での威風堂々ぶりは、主役の筈の橘を「喰われかねない」と奮起させるきっかけになった。
木村正
「あっさりボツにされた…! リングの上とはまた違った厳しさがここにはある!」
普段はモヒカンではなくスキンヘッドな、ジード役のプロレスラー。その体格は世紀末の世界では重宝されるようで、シーズン2でもデビルリバース役として特殊メイクで再登場。「巨人は流石に世界観が壊れないか」と悩む監督にプロレスラーなりの娯楽論を語り、背中を押す。
『北斗』出演をきっかけに増えたテレビの仕事には「プロレスの宣伝にもなる」と積極的で、橘に試合のチケットを送ったりと営業努力も惜しまない人。しかし橘本人は忙しくて試合を観に来てくれていないのであった。
田丸恒夫
「世紀末農法は過酷だのぉ…」
ミスミのじいさん役。時代劇の斬られ役など死ぬ演技で有名な超ベテラン俳優。命乞いの芝居は本当に殺されそうに見える程。撮影当初のケンシロウは毎週同じように北斗百裂拳を使う予定だったのだが、彼の指摘をきっかけに、北斗神拳には多彩な必殺技が誕生していく。
『北斗の拳』撮影を最後に俳優を引退した。
菱川康一
「羽化するところ見せてやるよ監督!!」
宿敵・シン役。ジャミング事務所所属の人気アイドル。地毛は短髪黒髪で、金髪ロングのカツラの有無で印象が少なからず変わる。撮影当初は監督の無茶振り(主に全裸になる演出)を嫌がっていたが、「アイドルから役者に羽化するんだ」等と色々な説得の後に承諾。以後「蛹」「羽化」「羽ばたく」などと言った例えを気に入り多用する。ケン役の橘同様、脚本段階では存在しなかった名台詞・名場面を生み出していく姿は正しく「ケンシロウのライバル」であった。
『北斗』をきっかけに大きく名を上げ、文字通り飛躍。単行本の描き下ろしでは、後にハリウッドにまで進出した事が言及されている。
中沢友美
「あの現場を経験したら大抵のことは平気になりますよ!」
マドンナ・ユリア役。清純派の新人アイドルで、橘がデビュー作から応援しているほどの美人。撮影当初は不慣れなドラマ撮影(と突飛かつ過激な演出)に苦戦して全然喋れず人形のような演技しか出来なかったが、初台詞を撮影前に何度も練習した結果、橘から「(無言から)振り切れている」と評されるほど凄みのある演技が出来るようになった。
『北斗』への出演をきっかけに、女怪盗もの新作ドラマの主役を射止める。
柳乃海虎雄
「た…橘さんが脱皮した!?」
ハート役の元力士。体格の良さを見込まれて相撲部屋入りしたものの、きついシゴキに心が折れて1勝も出来ずに引退。その後CMの力士役やドラマや映画の脇役に出演しているが、今でも軽い痛みで大声を叫ぶ程のトラウマを抱えている。しかしそのヘタレぶりは撮影現場で思わぬ方向へと転じ、「ハート様」の人物造形に大きく寄与する事に。
その後、『北斗』での無茶な撮影をきっかけにかつてのトラウマを逆に克服。単行本描き下ろしでは、悪役レスラーに転身している。
坂本
「やっと俺の出番か! 風呂はもう入らなくていいよな!?」
ジャッカル役。「芸能界 理想の父親ランキング一位」らしいので結構な有名俳優の筈である。撮影現場では悪役メイクのせいか現場の子役達から怖がられて凹む事に。開き直ってヤケクソ化し、子供達を虐げる非道な役をノリノリで演じる。
最初の現場では撮影の出番がなかなか回ってこず、風呂に浸かり続ける羽目になった。風邪をひかなかったのかちょっと心配である。
板野典子
「本物!?」
バットの義母・トヨ役。幼子の死に号泣する場面では、撮影現場の面々が思わずもらい泣きしてしまう程の演技力を持つベテラン女優。
本作での出番はわずか数ページだが、ジャッカル役の坂本と並んで「大ヒットして予算も増えたであろうシーズン2以降の『北斗』が大物役者を呼べるようになった」という背景をうかがわせる地味に重要な役回りでもある。
撮影用の銃を「(これ)本物!?」と監督に尋ねる姿からすると、なかなかお茶目な人柄なのかもしれない。
嘉崎将真
(この現場 暴力に肯定的過ぎる…)
無口・無表情で何を考えているのかわからないマイペースなレイ役。バレエ経験者なジャミングの新鋭。オーディションで披露したその流麗な動きが南斗水鳥拳の生まれるきっかけとなった。演技・アクション面では安定しており、橘と菱川が大苦戦したワイヤーアクションでは一発OKを出して現場を湧かせた程。
実は本人はドラマよりも舞台を志向しており、乗り気ではないまま『北斗』の撮影に臨んでいるのだが……。
二見良子
「いえ喧…実戦というか…」
「アクションには自信あり」を掲げてオーディションを勝ち残ったマミヤ役。実は元スケバンで、バイクや武器も扱えるという世紀末の申し子のような女性。不良上がりとはいえ、現役時代も弱い者いじめなどはしておらず、強い奴としか喧嘩はしていないらしい。その硬派ぶりは、中学生時代にスケバンにトカツアゲされたトラウマを持つ橘を奮い立たせた程。
制作陣
「ドラマのために死… …俺に命を預けてくれ!!」
ドラマ『北斗の拳』監督。撮影現場で得た刺激から次々と当初構想には無かった要素を生み出していく。一旦、撮影してはみたものの「なんか普通だな」と、更なる新しい表現を模索する流れがお約束。
迫力ある映像を撮るためなら妥協は許さず、夜遅くからの撮り直しや、一歩間違えれば事故になりかねない場面でも俳優を説得(?)して敢行する強引な人。とはいえ役者側からの提案を採用する事も多く、人望も悪くはない。全ては「鬼気迫る闘いと、熱い人間ドラマを撮る」という理想のためであり、周囲もそれは理解しているので現場の士気は高い。橘を始めとした若手役者陣を「○○チャン」と呼ぶ癖がある。
「敵を爆死させるの面白くってさ!」
脚本家。老齢の容姿と、監督やプロデューサーからも敬語を使われている事からベテラン作家と思われる。当初は単なる発勁で闘う予定だったが現場で少なからず改変された『北斗』にも好意的なノリの良い人物。……とはいえデビルリバースが現場で巨人化したトンデモぶりには流石に思うところもあるようだ。
剃江プロデューサー
「…生で見るとヤバいことしてるね!?」
ドラマ『北斗の拳』のプロデューサー。残酷な場面が多い北斗の拳をスプラッターやホラー映画と変わらないとお偉いさんを説得し、放送を実現させた敏腕プロデューサー。かつて、地上波が今よりエログロに寛容だった時代もあったのである。
シーズン2では局上層部の「視聴層拡大のために、シンやユリアのような美男美女を増やしてほしい」という要望のために、あえて制限も多いジャミングとの協力関係を継続する判断を下す。
岩瀬
「…弊社の評判も上々で話が早そうですね?」
ジャミング事務所の社員である女性。眼鏡とビシッと決めたスーツ姿の、いかにもな「できる女」という雰囲気の人物。制作側とジャミングの間に立って諸々の交渉・連絡役を請け持つ。
シーズン2では、『北斗』が世紀末アイドルドラマになりかねない勢いで自社の美形タレント軍団の大量投入を提案する。「交渉事では強気に出るのが重要」という判断なのかもしれないが、堅物に見えて意外に大胆とも言えよう。
牙一族編からは、レイ役・嘉崎のマネージャーとして撮影現場にも参加。冷徹そうに見えて、意外に熱い人だったり乙女だったりする一面も明らかになっていく。
用語
当初は発勁(中国拳法)の一種で、倒した敵も目や口から血糊を吹き出すだけであったが、誤作動で破裂した血糊人形から閃いた監督により、敵を爆発四散させる技に変更された。
ハート戦では血糊人形の外側の肉襦袢を柳乃海が着用することで防護服替わりにした(これにより拳法殺しの撮影が上手くいった)ものの、監督が着たまま爆発させたことで伝説の断末魔が誕生。
なお、読切版『北斗の拳』でも当初は経絡秘孔の設定が無かったりする。
ジャミング事務所
シン役の菱川を抱える芸能事務所。男性アイドル専門と思われる。
「自社の所属タレントが残虐性の強い演出で死ぬ描写を許さない」という、『北斗』にはかなり厳しい制約を課してくるため、監督・脚本コンビにとってはなかなか厄介な相手。一方でその制約ゆえに生まれた名場面の存在や、美形がお目当ての女性視聴者層を狙えるという利点も局側には大きい。事務所側としても菱川が大きく名を上げたという点で両社の利害は一致。結果、サザンクロス編以降も協力関係を築いていく事になるが、爆死はやっぱり許してくれない。
特撮班
監督の無茶振りに応えるべく、知恵と技術を総動員した特殊撮影で『北斗』の世紀末世界観を支える職人達。数々の爆死人形を手掛ける他、「巨大ゴリラ映画に便乗して企画されるも制作中止になって封印された巨大造形物をデビルリバースに転用」「その場の勢いで申請量を超えた火薬を使用した撮影を敢行」など、彼らに焦点を当てた回も。撮影現場を描いた群像劇でもある本作では、役者陣だけでなく彼等の奮闘もまたもうひとつの「ドラマ」なのだ。
視聴者
本作ではテレビの前の人々の反応も大きな見どころ。後の世に比べて、娯楽がまだ多様化・細分化していなかった時代。ヒットしたテレビ番組の影響力はまさに世紀末級であった。
リメイク版
単行本の描き下ろしでは、ネット配信ドラマとして『北斗』が令和に復活!
CGの発達や安全面配慮への意識変化などもあり旧作ほどの無茶ぶりはないようで、「伝説」となった当時の撮影現場の過酷さは新世代の役者陣を愕然とさせる。
旧作の出演陣は、お祝いコメントを寄せる形で名前のみ登場。
週刊少年ジャンプ
ドラマとしての『北斗』や「女怪盗」を考えると、おそらくこの世界には存在しないと思われる。しかし、「若手俳優が大きく飛躍する枠」という意味でならまさしく「ジャンプ」であると言えよう。