解説
兎を捕まえる猟犬も、兎が死んでいなくなれば用無しになり、煮て食われることから、価値があるときは大事にされ、なくなれば簡単に捨てられることをいう。
本来は、敵国が滅びると、軍事に尽くした功臣であっても不要になって、殺される意味に用いられた。
なお、もともとあった能力がなくなったために、切り捨てられるという意味で使うのは誤り。
誤用例 「狡兎死して走狗烹らるで、営業成績が悪くなったために左遷された」
故事
越王勾践を助け、呉王夫差を破った氾践は、自分が伍子胥の二の舞になると悟り、同僚だった大夫の種に手紙を送り、君も越にいては危険だから勾践の元を去ったほうがよいとすすめたときに言った言葉。
『史記・越世家』に「飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗烹らる(鳥がいなくなれば良い弓も捨てられ、兎が死ねば猟犬も煮て食われる)」とあるのに基づく。
「狡兎死して走狗煮らる」とも書く。
具体例
人物名等 | 国 | 動向 |
---|---|---|
蒙恬 | 秦(中国) | 始皇帝の死後、李斯と趙高により謀反人扱いされ一族誅殺。 |
李斯 | 秦(中国) | 暗愚な皇帝に諫言するのを疎まれ、趙高により謀反の疑いを掛けられ殺される。 |
韓信 | 前漢(中国) | 王朝成立の功臣ながら、陥れられ謀反人となり、上記例を引用した。 |
蘇我石川麻呂 | 日本 | 乙巳の変の実行犯であるが、首謀者である天智天皇に叛意ありと称され一族自害。 |
藤原泰衡 | 日本 | 源頼朝に圧迫されて源義経を討伐するも、結局は自身も頼朝に討たれてしまう。 |
ジャンヌ・ダルク | フランス | 百年戦争を勝利に導くも英国に捕らえられ、国から見捨てられ魔女裁判により刑死。 |
福島正則 | 日本 | 江戸幕府成立後は武家諸法度違反を言いがかりのような形ででっち上げられ改易。 |
河上彦斎 | 日本 | 維新に貢献するも木戸孝允らと決裂し暗殺の咎で捕らえられ刑死。 |
ディンゴ | オーストラリア | 文字通りの走狗。ペロラス島にて野生化・害獣化した山羊を駆除する目的で放たれたが、用が済めば射殺されることが計画されており、さらに体内に時間経過で活性化する毒素カプセルが埋め込まれている。 |
現代においては
「悪の魔王退治後の勇者不要論」や「追放もの」と考えると分かりやすい。
創作のフィクション作品での例
- 『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイは一年戦争でジオン軍相手に活躍したが、そのニュータイプ能力を恨まれて左遷し、続編の『機動戦士Zガンダム』では半ば軟禁に近い状況に追いやられている。
- 『ダイの大冒険』ではラスボスの大魔王バーンがこの諺に近い事例を口にして、人ならざる者である主人公ダイを自軍に勧誘している。
- 『ヒーリングっど♥プリキュア』では最終回で、地球環境を破壊し生きる以上の目的で動物達の命を奪っている人間という種に否定的な妖精サイドが登場し、今後の未来次第ではプリキュアの支援者と人類が敵対する可能性も示されている。
- 格闘漫画『TOUGH 龍を継ぐ男』では、ロシアの武器商人マフマドベコフが配下の突然変異クローン体である悪魔王子に主人公・長岡龍星を襲撃させ、用が済んだら悪魔王子を殺害する計画を立てていた。だが気付かれており、彼によってマフマドベコフは謀殺された。また、上記の「ペロラス島のディンゴ」の事例が悪魔王子によって引き合いに出されている。
史実を元にした時代劇での例
- 『鎌倉殿の13人』での源頼朝は「最も頼りになる者が、最も恐ろしい」として、用が済んだ家臣を幾度も誅殺していった。
- 史実上の鎌倉幕府自体、そうして平家という兎が死んだ後走狗を煮まくり、最終的に自分の将軍家まで根絶やしにした末、他から傀儡を持ってきて何とかしたという恐るべき政権である。