概要
リドサウルス(Rhedosaurus)とはユージーン・ルーリー監督の特撮怪獣映画『原子怪獣現わる』に登場した架空の怪獣である。
カラーリングはムック本の人形の写真などからネイビーかグレー、あるいはポスターイラストのようなモスグリーンと思われる。企画段階では「リドザウラー(Rhedosaur)」や「ハーマン(Herman)」という呼称も使われていた。
推定全長60.96m(200ft)、推定体重500tとされる。体高は、『霧笛』によれば推定27.4 - 30.5m(90-100ft)とされる。
ニューヨーク沖ハドソン川流域から北極海までの北アメリカ大陸に分布した。
鎖骨は一つにつながっている。ドラキュラのように左右の犬歯が鋭く伸び発達している。頭部から背中、尻尾にかけてトゲ状のうろこが一列に生えており背びれのようになっている。
脇ばらにもトゲ状のうろこが一列に生えており胸鰭のようになっている。頭部から首にかけてのS字曲線が美しく骨格的な破綻がない。両手が太く長く発達しており後ろ足より長い(通常のトカゲ、恐竜は逆である)。尻尾は太く頑強である。体全体は不規則な形のうろこでおおわれる。
きわめて狂暴、町を破壊・人を捕食する。
また、後述の通り、血液には未知のウイルスが含まれており、人間側はうかつに攻撃できない。
劇中でのリドサウルス
北極海パフィン湾でアメリカ軍が行った水爆実験によって目覚めた1億年前に絶滅したとされる四足肉食恐竜の生き残りとされる。
サーグッド・エルソン教授(演:セシル・ケラウェイ)が主人公トム・ネスビット(演:ポール・クリスチャン)に見せたイラストでリドサウルスと同定される。ニューヨーク沖ハドソン川流域で見つかった同種の化石から推測するに帰巣本能でニューヨークに上陸したと思われる。分厚い頭蓋骨はアメリカ軍の攻撃も寄せ付けなかった。
灯台を破壊し、調査のため海中に潜ったエルソン教授を乗せた小型潜水艇を沈めマンハッタンに上陸した。
アメリカ軍は大砲で応戦、電気柵と砲弾でリドサウルスを一度海に撃退するも血液中に未知の病原ウイルス(細菌)があるらしく、攻撃で流血すると近づいた兵士がばたばたと死んでいく。
再上陸したリドサウルスはコニー・アイランド地区の遊園地のジェットコースターで主人公トムとストーン伍長に傷跡にアイソトープ弾を撃ち込まれ苦悶の声をあげのたうち回りながら息絶える。
撮影
本作のリドサウルスは特撮・人形アニメーションの神様レイ・ハリーハウゼンの名を世に知らしめた。金属でできた骨格に各種ゴムやラテックスでできた外皮をかぶせコマ撮りし恐竜の人形に命を吹き込んだ。
余談だが、リドサウルスのモデルはブロントサウルスの胴体にティラノサウルスの頭部を取り入れたものである。また、企画段階では頭が二つあるデザインも検討されていた。
鳴き声は、1952年の映画『The Lion and the Horse』に登場した馬の鳴き声を加工したものになっている。
日本で出版された書籍には「ティラノサウルスの一種」と記載されている。
分類
まだ怪獣という概念が定着しきっていない時代の存在ゆえ曖昧な部分も多いが、その特徴は当時の目から見ても純粋な「恐竜」と異なっており、厳密に言うと「恐竜ではない未知の大型爬虫類型特殊生物」または「怪獣」と定義しても差し支えないと思われる。
- 「怪獣」という日本語の語源やこれまでの使用例は妖怪や怪物のような存在だけでなく「当事者から見てよくわからない生き物」にも見られ、「クリーチャー」や「モンスター」等との違いがわかりづらい。
- 一部の例だが、キングコングしかりKaijuや『怪獣黙示録』シリーズの怪獣や往年の海外や日本の作品の怪獣しかり、「飛び道具や特殊能力を持たない」「ミュータントでもない」「圧倒的な巨体を持たない」「人間の力でも倒せる」存在でも怪獣と呼ばれている。
- 予算の都合がなければリドサウルスも放射性の火炎を吐く予定だったし、1億年前の古代生物が氷の下で眠り続けて復活して行動する時点で十分に怪獣の定義に入る。
他の怪獣映画との関連性
リドサウルスと海獣ビヒモス
こちらはハリーハウゼンの師匠、ウィリス・オブライエンが特殊撮影を手掛けた。
すでにハリーハウゼンの技術は師匠のオブライエンの技術をはるかにしのいでいたためビヒモスは後発の作品ながらリドサウルスと比較にならないほど完成度が低かった。
ビヒモスは核実験の放射能をあび怪獣化した恐竜パレオサウルスとなっているが、造形物はただのブロントサウルス(現在のアパトサウルス)であり「恐竜か怪獣か」と論議するのもはばかられる。
「弟子の作ったリドサウルスの影に師匠の作ったビヒモスあり」である。
リドサウルスとゴジラ
『原子怪獣現わる』のリドサウルスは後年の『ゴジラ』に大きな影響を与えた。
また、近年では1942年の『氷河の古代怪獣』が、リドサウルスやゴジラに与えた影響が大きいのではないかと指摘する声が増えている(参照)。
- 『原子怪獣現わる』の原題は『Beast From 20,000 Fathoms』であり、1ファソムは1.8mほどで水深を表す単位である。そして、『ゴジラ』は企画段階では『海底2万哩から来た大怪獣』という思いっきりアウトな仮のタイトルが付けられていた。
- リドサウルスも当初は放射性の炎を口から吐く予定だったが、予算の都合でダメになった。このことも、ゴジラの放射火炎に影響を与えたのではないかとする海外の研究者もいる。
- 「予算の都合で変更されたが、当初はストップ・モーションを使って撮影されていた」「古代の海洋生物の生き残りが原水爆で復活する」「怪物の人類への主だった最初の襲撃は漁船に対してである」「最後は新兵器で倒される」「事件を担当した学者が、件の怪獣または同族の出現に関して予言めいた発言をする」「怪獣が灯台を襲う予定があった」なども共通している。
特撮部分を見てみれば、人間の入ったぬいぐるみのゴジラより、ハリーハウゼンのアニメーションの方が洗練された高い技術と言えるが「ゴジラ」の方も生ゴムを焼成して作ったのギニョール人形(当時はまだ造形用ラテックスがなかった)を使うなどしてゴジラの巨大感、迫力を演出しており甲乙つけがたい。
オマージュ
『恐竜時代』
1970年の作品で、リドサウルスに似た生物が登場した。
『恐竜の惑星』
1987年の作品『恐竜の惑星』にリドサウルスそっくりの恐竜が登場する。スタジオを訪れたハリーハウゼン自身がアニメートしたという。オマージュあるいはパロデイでカメオ出演のような内容でありこれを「リドサウルス」と呼んでいいかはわからないが関連するので記載した。
『Dinosaurs Attack!』
1988年から続くトレーディングカードシリーズ。リドサウルスをモデルにした怪物が、上記の通りリドサウルスと関係性が強いパレオサウルスをモデルにした怪物と戦う場面が二度あったり、とある場面では他の作品の怪獣たち(パレオサウルス、ゴジラ、ラドン、ゴルゴ、レプティリカス、恐竜ガーティ、その他など)などと共に進撃する場面が描かれている。
『The Creature from 20,000 Fathoms』
バットマンとロビンと共演。タイトルからしてオマージュ色が強い。
こちらでは「バボンガ」と呼ばれ、立ち上がったり、リドサウルスで実現できなかった火炎を吐く場面がある。
『ゴジラ・ザ・シリーズ』
コモディスラックスがリドサウルスへのオマージュとして、当初予定されていた「雌ゴジラ」の代わりにゴジラの嫁として登場した。
バボンガ同様に、リドサウルスで実現できなかった火炎ブレス攻撃を使用している。
その他の客演
- 『ロボット・モンスター』:公開時期が『原子怪獣現わる』と3日しか違わず、コラボの一環としてリドサウルスがポスターに描かれた。
- 『グレムリン2 新・種・誕・生』:グレムリンたちが『原子怪獣現わる』をテレビで観ている場面がある。
- 『Whose Line Is It Anyway?』:第6話に少しだけ登場した。
- 『フィラデルフィアは今日も晴れ』:シーズン6第6話に、背景にリドサウルスが映っている場面がある。
- 『クローバーフィールド』:スチルが画面に映された場面がある。
- 『ゴジラS.P』:二話劇中に数秒だけ、リドサウルスが映っていた。
立体商品
他のレイ・ハリーハウゼンのキャラクターと違って版権取得が難しいため、商品化に恵まれていないキャラクターである。
- ビリケン商会 ソフトビニール人形「リドサウルス」 絶版
- 個人作家製作 ソフトビニール人形「いぐあな」 ただし個人製作人形であり正規許諾商品ではない。
別名・表記ゆれ
リドザウルス レドサウルス レドザウルス Rhedosaurus
関連タグ
原子怪獣現わる 霧笛(レイ・ブラッドベリ) レイ・ハリーハウゼン
KAIJU:『パシフィック・リム』はハリーハウゼン作品へのオマージュも込められているという旨が公式で発表されており、「陸棲のような姿をしているが、突然海中から現れた」や「体内に内包する物質のために人類が迂闊に攻撃できない」等の点が共通している。