「どうしたどうした 可哀想に 俺は優しいから放っておけないぜ」
「命というのは尊いものだ 大切にしなければ」
「さぁお前らは鬼となり俺のように 」
「十二鬼月…上弦へと上がって来れるかな?」
概要
吾峠呼世晴による漫画『鬼滅の刃』の登場人物。童磨の「ま」は「魔」や「摩」ではなく「みがく」の「磨」。
鬼舞辻無惨配下の精鋭十二鬼月の中でも最強の上弦の鬼に属する一人であり、比較的新参ながらも最古参の黒死牟(上弦の壱)に次ぐ“上弦の弐”の座に君臨する鬼。
その席位に従い、左目に「上弦」、右目に「弐」の文字が刻まれているが、かつて妓夫太郎・堕姫(梅)兄妹と出会って鬼にした頃(少なくとも113年以上前)は"上弦の陸"に位列されていたので、当時右目に刻まれていたのは「陸」であった。
ちなみに作中で昇格が判明した唯一の鬼でもある(逆に降格したのは元下弦の陸の響凱のみ)。
初登場
初登場は妓夫太郎の走馬燈の中。
まだ人間だった妓夫太郎と堕姫(梅)兄妹の前に現れ、遊郭の人間に酷い仕打ちを受け瀕死だった彼らに無惨の血を分け与え、鬼へと変えている。
この時は着流し姿に裸足に草履と言うメイン登場回とは異なった服装。優しげな顔をしているが肩に担いだ女の死体の脚を齧り、生首を小脇に抱えながら堂々と往来を闊歩するという猟奇的な姿。
そのアンバランスさによって強烈に印象付け、当時の“上弦の陸”という事で一躍、読者の関心を集めた。
そしてその兄妹の敗死を受けて、無惨が残る上弦達を拠点の無限城へ召喚した事で再登場。
召集の遠因となったという経緯もあり、無惨へのお詫びとして自分の目玉をほじくり出して差し出す事を(妙にわくわくしながら)提言したり、玉壺から貰った壺に女の生首を生けてあると嬉々として語るなど、ここでも猟奇的な言動を見せつけた。
また鬼にしては珍しく、人間であった頃の記憶をはっきりと保持している(他には同じく上弦の鬼である獪岳や黒死牟などが該当する)。
人物
表向きは新興宗教「万世極楽教」の教祖。
表面上は常に柔らかな笑みを浮かべる気さくな好青年に思えるが、その言動の節々には人間性がすっぽり抜け落ちたような歪な印象があり、油断ならない曲者がひしめく十二鬼月の中にあってさえ異質な存在感を放つ掴みどころのない男。
誰に対しても優しく穏やかなに振る舞うが、感情が無いゆえか、相手の神経を逆撫でするような発言が目立ち、他者からの罵詈雑言に対しても何も感じないのか、飄々とした態度を崩さない。
上記の通り鬼には珍しい喫煙者であり、いくら煙草の煙を肺に入れようと鬼である以上癌などの病になる心配が無く数十年吸い続け病で死ぬ人間よりよっぽど向いていると言える。
同僚達への態度
本来なら競争相手としてしのぎを削る上弦の鬼達にも友好的に接しているも、無惨含め上弦の面々からは煙たがられている。
特に猗窩座とは自ら「一番の親友」と称するものの相性は最悪で、何か口にする度に殴られたり頭を消し飛ばされたりするが、鬼の再生力故にすぐ元に戻っては何事も無かったかのように笑っていた。
一方で上記の通り玉壺から壺を貰った事があるらしく、『女の生首を生けて部屋に飾ってある』と述べて玉壺本人から『あれは生首を生けるものではない…』と言われながらも『それもまた良し』と肯定されており、再会した際にも玉壺の新しい壺を見て『綺麗だねぇ』と称賛していた事から、他の上弦の鬼と比べれば比較的仲が良かったのがうかがい知れる(実際に彼の部屋の壺には頭蓋骨が生けてある)。
自ら『救済』して鬼の世界へ引き入れた妓夫太郎・堕姫とはさらに良好な関係だった可能性もあるが、本編内では描かれなかったため実際どうだったのかは不明である。
そんな彼の本性はどこまでも虚無的かつ機械的。
単純な快・不快程度は感じているものの、喜怒哀楽といったおおよそ人間らしい感情や、それに対する共感性も無く、他人と己の命に対して一切の執着が無い。
普段見せる陽気で表情豊かな言動も、「誰に対しても優しい教祖」の顔も、人間の感情を模倣したただの演技であり、持ち前の高い知性を活かしてそれと気づかれないように振る舞っていたに過ぎない。
しかし死の間際に「あーやっぱり駄目だ」と口にした様子から、人間の感情を理解したいと言う思いはあったようだ。
教祖として
「俺が喰った人は皆そうだよ、救われてる。もう苦しくない、つらくもない。俺の体の一部になれて幸せだよ」
〝愚かな人間達を救いたい〟と願う使命感だけは本物で、幼い頃から鬼になるまで教祖を続けている。信者達の血と肉を喰らい、取り込むことで共に永遠を生きるとする独特な価値観の下、食人を繰り返している。
その家庭事情
元は「万世極楽教」の教祖夫婦の子として生まれ、虹色の瞳、白橡色の髪といった特異な容姿に加えて高い知性を併せ持っており、「神の声が聞こえるに違いない特別な子」として神格化し、勝手に祭り上げられ、以後、神の子として信者を集めるための「看板」として利用されることになる。
しかし当然と言うべきか、神の声など聞こえるはずもなく、両親や信者の前では「神の子」を演じながらも、「地獄や極楽は人間の妄想」「人間は死んだら無になるだけ」と非常に冷めた無神論者となっていった。神など信じていなかった童磨だったが、両親に与えられた『教祖』以外の生き方を見いだせなかった彼は「愚かで気の毒な人間を救って幸せにしてやるのが俺の使命」と考え、両親や信者に求められるまま教祖を続けていた。
その後、色欲狂いの父親が信者の女に手を付け続けた事で、半狂乱になった母親に滅多刺しにされて殺され、母親の方も直後に服毒自殺を遂げたのだが、童磨がその凄惨な光景を見て感じたのは、両親を亡くした悲しみでも、愚かな両親から解放されたという喜びでも、勝手に『神の子』として育てられた恨みでもなかった。人並みの感情がなかった童磨には「部屋を汚さないでほしいなぁ」「血の匂いが臭いから早く換気しなきゃ」としか感じられなかった。
20歳の時に無惨と初めて出会い、彼を生まれて始めて出会った〝神〟と崇め、自ら望んで鬼にして貰ってからは、『真の教祖』として愚かな行為に勤しむ人間達を苦しみから解放する為に喰らい、自らの一部として永遠の存在にしてやることで救済するという歪な「善行」を積み重ねていった。誰からも手を差しのべられず惨めに死ぬ運命であった妓夫太郎と堕姫に、彼だけが救いの手を差しのべ鬼に変えて「救済」したのもまた事実である。
鬼の人格はかつての記憶や人間性を元に非常に歪んだ状態で形成されるが、彼の場合は人間だった頃と何一つ変わっていないのも大きな特徴。
鬼となって「信者を救済する方法」だけは変わったが、本質そのものはそのまま引き継いでおり、生前の記憶を失っている大多数の鬼とは一線を画している。
しかし救済と言っても共感性が欠落しているため『救う』対象者の心中は配慮できず、無限城に連れてきた信者からは怯えて逃げられるところであった。
教祖だけあってか信者達から相談を持ちかけられることもあり、「もっと金が欲しい」やら「出世したい」やら「誰それが好き」等といった欲望で身を持ち崩す様を馬鹿馬鹿しく思っていたが、同時に感情の欠落した自分にはない人間の行動には興味を持っており、そういった好奇心からくる〝人間観察〟は何にも楽しみを見いだせない童磨にとって数少ない娯楽といえる。
女も、金も、地位もそして無惨に与えられた「老いず、傷つかず、病にもかからない」不死身の肉体にも、何も感じられなかったため、相手を替えながら子供の様な恋愛ごっこもしていたらしい。そしてこの経験の積み重ねこそが、彼の最期の感情への気付き(【無限城決戦編にて】の項目ラストを参照)に繋がったのかも知れない。
女喰いについて
男よりも女を喰う方が強くなれるからと女を好んで喰っている。
ただこれは人に例えれば、最高級の牛や豚(もしくは筋力増強のプロテイン)を食べるのと同じ意味合いであり、効率よく強くなるために手っ取り早い方法を取っているに過ぎない。
ほぼ全ての鬼は食人をしているため、彼だけが特別好色でも残酷なわけでもない。
能力・技
上弦の弐に君臨するだけにその身体能力もずば抜けている。
“柱”である胡蝶しのぶと対峙した際には「今まで会った柱の中で一番速いかも」と評しながらもすれ違いざまに肩から肺にかけて斬り裂いて致命傷を与え、動体視力に秀でた栗花落カナヲや皮膚感覚に優れた嘴平伊之助を相手取っても二人が視認できない程の速度で、鬼殺隊の命綱とも言える日輪刀や大切な被り物をかすめ取りまるで子供の遊びに付き合うかのように楽々と手玉にとるなど、随所で〝格の違い〟を見せつけている。
また、しのぶの毒の調合方法、カナヲの目や嘴平伊之助の皮膚感覚が優れている事を瞬時に見抜くなど、高い観察眼と洞察力も併せ持ち、一度見た技はすぐに見破る。
また、他の上弦の鬼同様に再生能力も高く、しのぶが那田蜘蛛山で使用したものよりさらに強力な藤の毒をも簡単に分解した上、受ける度に効果が低くなっていることからもわかるとおり、耐性をつける速度も異常に速い。
そして、思考に感情を差し挟まないおかげで、如何なる時も冷静さを失わず戦えるのは童磨にとって最大の強みであり、逆に巧みな挑発で意図的に相手の感情を煽ることで冷静さを失わせ、有利に戦闘を進める心理戦にも長けている。
扇
武器にも血鬼術の起点ともなる鋭い金色の扇。
黄金の地に蓮の文様が描かれ、高貴な雰囲気を漂わせる至高の一品である。
仮にも扇子なのだが刃物のような斬れ味を持ち、当然人体などたやすく両断する。
それどころか、これで斬られた相手はそれに気付かず生存しているというからとんでもない代物で、これを扱う本人の技量も相当なものである。
劇中でも、この扇で信者の女性を惨殺し、胡蝶カナエと胡蝶しのぶ両者に致命傷を負わせた。
血鬼術 『冷気発生』
鋭い刃のような扇を武器として、自らの血を凍らせ冷気を操る。
一見単純な血鬼術ではあるが、その殺傷能力は上弦の中でも随一。
応用性が非常に高く技数も豊富な上に、どれも高威力かつ広範囲で熟練の隊士であっても回避するのは至難を極める。
しかも全ての技に「冷気を吸うと肺が凍りついて壊死する」「息を吸ってはならないので、鬼殺隊の要である呼吸が制限される」恐るべき効果があり、全集中の呼吸を操る鬼殺隊士にとってはまさに天敵である。
- 粉凍り(こなごおり)
童磨の戦術の基礎となる技。
自身の血を凍らせて微細な霧を発生させ、これを吸った者は肺胞が凍りついて壊死する。
扇を用いて周囲に散布しており、彼との戦闘ではこれを吸わないように行動する必要がある。
知らなければたとえ“柱”であっても餌食となる凶悪な初見殺しであり、知っていたとしても鬼殺隊の基本である呼吸に制限をかける非常に合理的かつ計算された技である。
- 蓮葉氷(はすはごおり)
扇子を振るうことで蓮の花のような氷を発生させる技。
その冷気は掠っただけでも凍結させられる程に強烈。
- 蔓蓮華(つるれんげ)
蓮を模した氷の蔓を四方八方から伸ばし、相手を絡めとる拘束技。
- 枯園垂り(かれそのしづり)
冷気をまとった二つの扇子を連続で振るい、湾曲した氷柱を生み出す技。
- 凍て曇(いてぐもり)
冷気で煙幕を発生させる。
周囲を凍らせるだけでなく、相手の眼球を凍結させて視界を奪うというえげつない芸当も可能。
- 寒烈の白姫(かんれつのしらひめ)
氷の巫女の上体像を2体作成し、その像から広範囲を凍結させる吐息を発する範囲技。
- 冬ざれ氷柱(ふゆざれつらら)
上方から無数の鋭く尖った巨大なつららを落下させる技。
- 散り蓮華(ちりれんげ)
扇子を振るうと共に細かな蓮華の花弁状の氷を発生させる技。
単純な威力なら蓮葉氷の方が上だが、散り蓮華は範囲の広さが強みで回避は困難。
- 結晶ノ御子(けっしょうのみこ)
扇同士を重ね合わせることとで自分を模した氷人形を作成する技。
大きさは童磨の腰の高さくらい。
愛らしい妖精のような外見に反し、数ある童磨の血鬼術の中でも最も凶悪な技である。
分身と言えば半天狗を彷彿とさせるが、こちらは作り出した氷人形は完全な自律戦闘が可能なだけでなく、あろう事か本体と同じ血鬼術を同等の威力で使用する。
さらに氷人形達が得た情報は記録されて童磨本人へと共有される上に、複数体を同時製作して遠隔操作も可能という実質童磨が複数人になったようなものであり、完全に上位互換の能力である。
半天狗が分身を利用して本体への攻撃を交わす厄介さに重点を置いていたのに対し、こちらの分身は人形1体1体の攻撃力が童磨本体と同等な為、“柱”が複数居なければ人形にすら勝てず、本体に常時情報が送られる為に半天狗の分身に対して行われたような陽動も効かない。童磨が痛手を被れば機能を停止するが、逆に言うならそれ以外では抑えられない技であり、本体も相当に強いので奇襲も通じない。
当然ながら人形に攻撃しても童磨本体にダメージは通らず、本体が人形の遠隔操作が困難な程のダメージを受けない限り、誰も人形を止められない。
加えてこの手の能力にありがちな「数を出すと戦闘力が低下する」や「分身の受けたダメージが本人にも伝わる」といったデメリットも一切なく、反撃を恐れることなく一方的に猛攻を繰り出せる。
そして情報を共有できるので、戦った相手の技や戦術が本体にもリアルタイムで筒抜けになるというオマケまで付いている。
作り出せる人形の数には流石に上限があると思われるが、少なくとも6体前後までは余裕を持って操れる様子であり、半天狗が4体分の憎珀天と恨み鬼の計5体の分身でエネルギー切れを起こしかけていた事を考えると、その燃費の良さと分身操作能力は異常とすら言える。本人は6体も出しておけば鬼殺隊を殲滅できるだろうと予想しており、もしも無限城での決戦において「結晶ノ御子」を序盤で使用していれば、間違いなく鬼殺隊は全滅していたと思われる。本編では猗窩座に止められて実現しなかったが、刀鍛冶の里編で彼が赴いて炭治郎一行にこの分身を6体出していたらどうなっていたかは想像に難くない。
- 霧氷・睡蓮菩薩(むひょう・すいれんぼさつ)
追い詰められた童磨が放った最後の大技。
巨大な氷の仏像を作り出し、自在に繰る。
仏像は一瞬で相手の全身を凍結させる程の冷気を放ち、他にもその圧倒的質量を駆使した単純な打撃だけでも十分に強力。
ただし作中ではしのぶの毒で大ダメージを受け、弱体化した状態(毒の分解するための時間稼ぎ)で繰り出しており、劇中では組成も粗く本来の力を発揮できないままで、万全な状態ならどれほどの力を出せたのか未知数である。
戦闘スタイル
「今後の戦闘に生かす為に相手の手札はなるべく全て出し切らせてから殺す」というのが彼の基本姿勢であり相手の技を観察する等、今後に役立てようとする意外な生真面目さも持ち合わせている。一方で何の感情も持たないのは相手の心理も完全に理解していないことと同じであり、彼には強みでもあり隙でもある。
20巻で設定が明かされた。
本名及び年齢不明。結婚その他諸々詐欺師。
テレビの特番で取り上げられる程に悪名高く、複数の事件に関与するが証拠不十分で不起訴になった。
しかし、ピンクと緑のグラデーションの髪の女の子に声をかけ、その後行方不明になってしまった。
現場では「あなたは嘘をついている気がするの!」「グハッ!!」という男女の争う声が聞こえたということから、この世界線では女の子に殴られる程度の身体能力と言うことがうかがえる。
なお最強ジャンプ連載の『キメツ学園!』(作画:帆上夏希)では、学校に出前を呼ぶことについてのリスクをしのぶが説明した際、「配達に扮した不審者」のイメージで彼が登場している。
余談
無惨からの評価
公式ファンブックで明かされた無惨からの評価は、出世の速さや序列の高さ、本人の無惨に対する忠誠心に反して、「あんまり好きじゃない」と思われていた事が判明。続くFB・弐では、その理由について「強い執着や渇望の無い者は鬼として進化しない」という無惨の持論によるものである事が明かされている。それゆえか、無惨に積極的に意思表示をするも、任務はあまり与えられていなかった様子。
それでも実力で上弦の弐まで上がれた事から、人一倍才覚はあった模様。ただ、無惨の「真の目的」からすれば童磨は「ただ強いだけで望み薄」ではあったろう。
万世極楽教について
公式ファンブック鬼殺隊最終見聞録によると、万世極楽教の教えは「穏やかな気持ちで楽しく生きること。つらいことや苦しいことはしなくていい、する必要はない」であり、信者は250人くらいで、あまり目立つと叱られるのでこれ以上は増えないようにしているとのこと。
ちなみに童磨が鬼になって以降は、明確に無惨を神として信仰している。
年齢について
「二十歳の時に鬼となった」「上弦の鬼は百十三年顔ぶれが変わっていなかった」「猗窩座より後に鬼になった」という事実や、本人の「百年以上生きた」という独白を踏まえると、年齢は133歳以上200歳未満と推測される。
『無限城決戦編』にて(以下、ネタバレ注意)
信者と思われる人間達を喰らっている最中、無限城に乗り込んできた鬼殺隊のうち、蟲柱・胡蝶しのぶと対峙する。
そこで、彼がかつて彼女の最愛の姉の命を奪った仇である事が明らかになり、激しい憎悪を向けられるも、童磨はそんな復讐心も意に介さず「粉凍り」をはじめとした血鬼術の応酬で着実にダメージに加えていき、体格に恵まれないしのぶでは童磨の頸を落とす事は叶わなかった。肩から肺にかけて切り裂かれつつも姉の幻影に後押しされて立ち上がったしのぶに並の鬼ならば即死に至る藤の毒を急所の頚に撃ち込まれたが、情報が共有されていたため上弦の再生能力で分解、完封してみせた。
(ほんと頭にくる ふざけるな馬鹿)
(なんで毒効かないのよコイツ 馬鹿野郎)
姉の仇を討とうと努力しながらも力及ばなかったしのぶを
「え ら い ‼︎ がんばったね ‼︎ 」
「俺は感動したよ!!こんな弱い女の子がここまでやれるなんて」
「姉さんより才も無いのによく鬼狩りをやってこれたよ」
「今まで死ななかったことが奇跡だ」
「全部 全部 無駄だというのに」
「やり抜く愚かさ これが人間の儚さ 人間の素晴らしさ なんだよ」
「君は俺が食うに相応しい人だ 永遠をともに生きよう」
「言い残すことはあるかい?聞いてあげる」
「地獄に堕ちろ」
次々に“賛辞の皮を被った侮辱”で泣きながら徹底的に愚弄し、その場に駆け付けた栗花落カナヲの目の前で両腕で止めとばかりにしのぶを抱きしめて全身の骨を折り砕き殺害した。
しのぶの死に衝撃を受けるカナヲを、童磨はしのぶの遺体を自身の体に吸収する様を見せ付けて挑発する。これを目の当たりにしたカナヲはかつて無い程に激昂し、凄まじい怒りと憎悪を胸に、自分を拾い育ててくれた姉同然である胡蝶姉妹の仇を討つべく童磨と対峙する。
途中、竈門炭治郎と冨岡義勇の2人に(一方的とはいえ)友である猗窩座が敗れた事を感知した童磨はわざとらしく涙を流し悲しんで見せるが、すかさずカナヲに
「貴方何も感じないんでしょ?」
「この世に生まれてきた人たちが当たり前に感じている 喜び 悲しみや怒り 体が震えるような感動を 貴方は理解できないんでしょ?」
と図星を指され、更にそれを隠すため上述した感情があるように振る舞う演技をしているのを「滑稽で馬鹿みたいだ」と嘲った上で、
「貴方 何のために生まれてきたの?」
と吐き捨てられ、自身と同じく感情を失っていた彼女に自分自身の隠された本心を見抜かれることになった。
カナヲのこの容赦の無い指摘には流石の童磨もいつもの軽薄な笑みが消え失せ、本来の無感情な本性を露わにし、能面のような無表情で対峙した。
「……………今まで 随分な数の女の子とお喋りしてきたけど 君みたいな意地の悪い子 初めてだよ」
「何でそんな酷いこと言うのかな?」
しのぶは死に際に指文字で「息を吸うな」という意味のサインを出しており、カナヲもそれを正確に読み解いた事で「粉凍り」による初見殺しを回避。
さらに鍛え上げた剣術に煮え滾る怒りを乗せて善戦するも、やはり上弦相手に1対1では分が悪く、その強みが「視力」である事を見切られて、目潰しや「凍て曇」などの血鬼術を矢継ぎ早に繰り出される。
それらを何とか凌ぐカナヲだが、童磨は異常な速度で彼女の手にしていた日輪刀をかすめ取った。
無手となったカナヲを童磨は回避困難な血鬼術「散り蓮華」で弄り殺しにしようとしたが、寸前で嘴平伊之助が天井をぶち破って乱入し、彼女を救う。
伊之助の奇襲によりカナヲの刀は取り返されてしまうが、上半身裸で獣の被り物という今までに出会ったことのないタイプの剣士である伊之助に興味を抱いた童磨はカナヲの刀と同様に伊之助の被り物を奪う。そして、露になった彼の素顔に見覚えがあると言って語りはじめた。
童磨曰く、伊之助の母・琴葉 は夫や姑による家庭内暴力に晒され続けた末に、救いを求めて息子を連れて万世極楽教の門を叩いたのだという。童琴by河CY
童磨自身は寿命が尽きるまで手元に置くだけで母子を殺すつもりはなかったと語ったが頭が鈍い分、感覚が鋭い琴葉に人喰いの現場を見られた事で始末せざるを得なくなり、崖際に追い詰められた琴葉は最後の希望を託して伊之助を崖下に投げ落とした後に、童磨に殺害されたのだった。
童磨も「生きてはいないだろう」と思い伊之助を探そうとはしなかったが、伊之助は辛くも生き延びていた。そしてそれ以降、伊之助と会う今までは琴葉の事は忘れていた。
実母と母の温もりを思い出させてくれたしのぶの仇として怒りを燃やす伊之助だが、童磨は時間が無くなってきたとして「結晶ノ御子」に2人の相手を任せ、その場を去ろうとする。
しかしその場を後にしようと扉に手をかけた刹那、片目が落ちて視界が割れ、童磨の体が突如崩れ始めた。
そして苦しみながら、童磨は自身が喰らったしのぶの幻影を見る。
実は、童磨に取り込まれることこそがしのぶの真の狙いであった。
元より勝てる相手ではないと踏んでいたしのぶは、1年かけて藤の花の毒を服用し続ける事で自らの体を毒の塊となり、自ら身を捧げる事で大量の毒を盛る壮絶な罠を張っていたのだ。
(それだけでなく、珠世との共同研究で作り出した、毒の回りを気付かれなくする特別な加工までも施されていた)。
その毒の量はしのぶの全体重分
致死量の実に 700倍。
つまり、彼女は最初から童磨に喰い殺されるつもりでこの戦いに臨んでいたのである。
無論、カナヲもその作戦を予め知らされており、彼女が1対1は勝ち目が無いような相手とまともにぶつかったり、あえて上述した挑発するような言動で気を引くなどしていたのは、毒が効くまでの時間稼ぎの為であった。
童磨は毒により体が溶けたことに驚くが、それでも冷静に解毒の時間を稼ぐ為の大技「霧氷・睡蓮菩薩」を放つ。しかし、毒のせいで技の精度が落ちており、カナヲの奥の手、極限の動体視力を獲得する花の呼吸・終ノ型「彼岸朱眼」により彼女の接近を許してしまった。溶けた頚に刀を食い込ませられる童磨。
睡蓮菩薩により体が凍りついたカナヲはそこまで動けなくなってしまうが、機転を利かせた伊之助が自身の刀を投げつける事でカナヲの刃を無理矢理押し込み、ついに童磨の頚を落とした。
頚を斬られた直後は自身より弱いはずの伊之助やカナヲやしのぶに敗れた事が信じられず、「こんな雑魚に負けるなんて俺が可哀想すぎる」と嘆き無惨や猗窩座のように頚の切断を克服しようと試みるが、他の鬼のように執着や渇望が無ゆえに進化の道などあるはずもなく、肉体の崩壊は止まらない。
自らの死が止められないと悟ると、元より自他の命に執着がない彼はあっさりと自身の死を受け入れ、死に行く中においても恐怖や後悔などは微塵も湧かないことを自覚。
己の死をまざまざと実感しながらも
「結局人間の感情というものは、俺にとって他所事の夢幻だったなぁ」
と、改めて認識しながら虚しく朽ちていった。
最期
「あ、やっと死にました?」
「よかった」
「・・・やあ。しのぶちゃんだったかな?カナエちゃん?」
死の間際、意識の中に現れたのは、自身が殺したはずのしのぶであった。首だけの状態で彼女と再会し、仇を討つことができたことへの達成感を口にする彼女と最後の問答をし、カナヲ達への想いを語る彼女の表情を見た事で、生まれて初めて(無くなったはずの)心臓が脈打つ感覚を覚え、驚愕する。初めて感じた感覚に「今はもう無い心臓が脈打つような気さえする」
「これが“恋”というやつかなぁ」と、童のような心からの笑顔を見せ、
顔を赤らめながらこんな感情が存在するのだから天国も地獄もあるのかもしれないと思い直す。
何だろうこれ何だろう
今はもう無い心臓が脈打つような気さえする
これが恋というやつかなぁ
可愛いね しのぶちゃん
本当に存在したんだねこんな感覚が
もしかすると天国や地獄もあるのかな?
ねえ
しのぶちゃん
ねぇ
「 俺と一緒に地獄へ行かない?」
としのぶを口説く。
それに対して、しのぶはにっこりと微笑んで一言だけ告げた。
次の瞬間、残った肉体も伊之助に踏み潰され完全に消滅、童磨は独り地獄に堕ちた。
最後の最後で自分を仇と憎んでいた相手に恋心という感情が芽生えたのは救いだったのか。または悔恨を持たないままの勝ち逃げだったのか。そしてこれが彼にとって幸福だったのかは誰にもわからない。
死後
なお、生前は「地獄や極楽は人間の妄想」「人間は死んだら無になるだけ」
というのが彼の持論だったが、公式ファンブック鬼殺隊最終見聞録によると鬼滅の刃の世界の地獄に堕ちたようである。
(本作は少なくとも地獄は存在する世界観であり、人を喰った鬼は例外なく地獄に堕ちている)。
両親も地獄へ堕ちたと思われるが、罪の数が違いすぎる為再会はしていないと思われる。
ファンブック2巻にて地獄で胡蝶しのぶによる蟲の呼吸を喰らった感想を鬼たちが各々の痛さや恐さに対する意見を述べるなか、彼だけは「いいじゃない かわいいんだからゆるしてあげなよ」と相変わらず陽気に笑って感想を答えていた。