国鉄の貨車にコキ50000形(⇒コキ50000の記事を参照)などの例があるが、旅客用では小田急電鉄の例しかない。
概要
2005年3月19日デビュー。
それまでの最新形式であった30000形「EXE」ではそれまでの「ロマンスカー」のかつてのイメージに合わなかったため、「箱根の魅力向上と活性化」&「小田急ロマンスカーブランドの復権」を目的として登場した。
"Vault Super Express"、略して「VSE」の愛称を持つ。Vaultとは、かまぼこ形の天井のことで、どことなく国鉄20系客車のような屋根が目立つ。
バリアフリー非対応の10000形「HiSE」置き換えも兼ねて10連接の編成が2編成製造された。置き換えられた10000形2編成は編成短縮を行って長野電鉄へ移籍した(⇒ゆけむりの記事を参照)。
HiSE以来の連接構造と前面展望席を採用する一方、1車両の長さを増やして11連接から10連接に変更(※左右対称のデザインにするため)され、空気バネによる車体傾斜方式も小田急初採用。
シルキーホワイトをベースにした白い車体に、ロマンスカー伝統のオレンジバーミリオンの帯を窓下に入れた。特徴的なヘッドライトの位置から、どことなく出っ歯に見える。デザイナーの岡部憲明は、直線やエッジを多用した男性的なデザイン(後に登場するGSEは女性的)な車両とコメントしていた。
2006年に鉄道友の会からブルーリボン賞受賞。
ちなみに、豊川駅(日本車輌)からの甲種輸送は白いシートで車体の大部分を隠して輸送された。(参照)
車内
- 1号車と10号車には展望席が設置されている。
- 3号車と8号車にはトイレとカウンタースペースが用意されており、その内、3号車には個室まで用意されている。
- 車椅子対応出入口は8号車のみに設置されている。
- それ以外の車両は座席のみの構成となっている。
運用
「箱根観光特急」として明確な差別化を図るため、車両運用は箱根特急に特化したものとした。「スーパーはこね」「はこね」メインで50000形限定の運用が組まれ、基本的に「ホームウェイ」「えのしま」等には使用されなかった。乗務員も、VSE専用の試験に合格した者のみで構成され、他列車とは一線を置くまさにフラッグシップであった。
しかし、2016年のダイヤ改正で平日の「ホームウェイ」運用が開始されると、江ノ島線でも定期的に運行されるようになり、相模大野駅にも停車するようになる。
2018年に70000形「GSE」がデビューしてからは「前面展望席付き車両」で共通運用が組まれ「えのしま」「さがみ」にも使用されるようになり、箱根専属特急としての役割を完全に終え、マルチな運用が可能となった。
2008年に60000形、2018年に70000形が登場してもなお高い人気を誇り、10周年の2015年にはそれを記念した催しも多く、誕生から11年間「箱根観光専用特急」として走行し、後輩登場後もイメージリーダーとして起用され続けるなど小田急側としても非常に特別な存在であったが……。
退役
2021年12月、翌年3月をもって定期運用から撤退することが発表され、多くの人間を驚かせた。
2019年頃から故障が続き、予備車もなかったこと、下記にもある通り特殊な機構を用いた結果予備部品の確保が難しくなったことなどから早期引退説は流れていたものの、デザインは全く古さを感じさせないことから実際に発表されると大きな反響を呼んだ。
2022年3月12日のダイヤ改正(※小田急ではダイヤ変更と案内)では、社会情勢の変化などを鑑みて「はこね」運用を削減することになり、この結果特急車両に余剰が発生。検討の結果、VSE2編成を定期運用から外すことになった。それ以降は当分の間臨時列車として使用。
2022年からはさよならラッピングも車体に施された。
30000形「EXE」は鋼製車体で改修工事が比較的簡単であったのに対し、50000形「VSE」は特殊な車体傾斜装置の保守面の問題のほか、そもそも改修工事に難があるダブルスキン構造のアルミ車体であったため、早期の退役となった。
VSEに置き換えられたHISE車は25年、HISE車と同じタイミングで引退したRSEは21年と非常に短命であったが、VSEはそれよりも早い18年での引退と20年にも満たなかった。しかもHISE車は長野電鉄に、RSE車は富士急行に譲渡された車両は現役であるが、VSEは特殊構造のために早期廃車となるとされている。HISEとRSEはハイデッカー構造がバリアフリーに対応できないという時流に対応できなかったことが引退原因となったが、VSEも内容は違えど時流に乗れなかったことが原因であり、HISE車の二の舞、さらに悲しい結果となってしまった。
ちなみに、引退理由について現在設置が進められているホームドアの影響だという声があり、発表の数年前から「ホームドアに対応できないから引退するのではないか」という噂もたっていた。結果的に理由は違うものの早期引退説は的中してしまった。
なお、ホームドアには対応できるからそのせいではないと発表しているが、どういうわけかホームドアのせいにしたがるファンも多く、完全引退した現在でもホームドアのせいで引退したという誤情報が拡散して後を絶っていない。
一方、時流の変化期に更新時期を迎えリニューアルを受けたことで時流に乗り、設計時点で長寿化を図っていたLSE、8000形は長期的に活躍し、LSEは2018年までの38年の歴代最長期間の活躍となり、8000形はHISE、RSE、VSEと多くの後輩車両の誕生から引退までを見守り、先輩ながらも長生きすることとなった。
これら一連は、たとえ古くても時流に乗ればある程度生き残れる可能性が高くなること、独自のスタイルを持っていても時流にある程度乗らなければたとえ古くなくても生き残れないということを痛感させる出来事にもなった。
2022年3月11日のホームウェイ87号藤沢行きが定期運用最後の列車となった。この列車はVSEのメイン運転区間であった小田原線ではなく2016年まで運用のなかった江ノ島線での運用であり、停車駅も新百合ヶ丘、相模大野、大和と長らく停車してこなかった駅であり、逆に停車の多かった町田駅は通過した。
2023年の9月には先の検査期限の切れる第2編成が引退。
そして2023年12月10日、秦野発で、VSEを含む千代田線乗り入れ特急以外の特急すべて通過する成城学園前駅行団体臨時列車の運用を持って、全ての運行を終了した。
これにより、66年間続いたロマンスカーの連接車の歴史は終止符を打った。
- 出典:NEWSポストセブン「小田急ロマンスカーで一番映える車両「VSE」が引退を余儀なくされた理由」(ホームドア関連については小田急担当者は「否定」)。
- 参考・余談:他社の事例では近鉄特急の場合、比較的新しい「しまかぜ」や「ひのとり」であっても鋼製車体で製造されている。これはリニューアル工事の際車体の切り貼りをしやすくするためであり、アルミ車体だとその切り貼り自体が難しくなる。
関連イベント各種
- 2022年
3月26日:沿線在住の新入学小学生を対象にした貸切運行
4月16日:親子を対象にしたツアー
- 2023年
2月25日:鉄道系YouTuberとのコラボツアー(がみ・ひろき・かんの・西園寺・ZAKI・たなか)
9月23日、24日:50002編成ラストラン。50001編成と並走、同時発車、追い抜きなどを行うミステリーツアーを実施。
10月14日:海老名にて、現役ロマンスカー5車種を並べた撮影会を実施。
12月9日:50001編成最後の撮影会を実施。撮影会後、海老名→新宿を走行。
12月10日:相模大野→(片瀬江ノ島)→唐木田→(新宿)→秦野、秦野→(箱根湯本)→成城学園前で50001編成ラストラン。