ウォルター・アイランズ
うぉるたーあいらんず
自由惑星同盟の政治家で、同盟末期において国防委員長(現在の日本でいう防衛大臣)を務めた。
年齢は50代半ば、頭髪はない。(石黒版OVAでは特に後退はしていない。)
元々、自由惑星同盟を牛耳る口先だけの煽動政治家、ヨブ・トリューニヒト派の幹部の一人。
トリューニヒトに骨董品を贈って政治家になり、公費を私用に使い込み、利権をかすめ取るだけの三流政治業者で、政治的手腕を発揮することも特になく、原作地の文で「権力機構の薄よごれた底部に潜む寄生虫」と評されるような人物であった。
第8次イゼルローン要塞攻防戦後、国防委員長に就任したが、これも単にトリューニヒトの子分として地位をもらったに過ぎず、トリューニヒトの意思を代弁する程度のことしかしていなかった。
トリューニヒト派に属さない宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコックをはじめとする軍部の良識派からの受けも最悪であり、銀河帝国からの大侵攻の危険を訴えられても手を打とうとせず結果として帝国の侵攻を許してしまった。
その上、トリューニヒトは侵攻に伴って雲隠れしてしまう。
実際に帝国が侵攻してきた際にトリューニヒトに代わって議会をまとめたのがアイランズであったが、彼は突然、「寄生虫」であったかつてとは別人のようになっていた。
平時においてはトリューニヒトの腰巾着に甘んじ、昼行灯のように佇む三流政治家であったアイランズ国防委員長は、実は有事には滅法強いタイプの政治家であり、国家存亡の危機に際しその能力を覚醒させることになったのだ。
最高評議会を格調高い弁舌でリードし、「降伏はしない。武力を交えてなるべく有利な条件での講和に持ち込む条件を整える」という政府の基本姿勢をまとめ、ビュコック以下軍部の協力を取り付けた。
政府そのものと言ってもいいほどに東奔西走し、帝国領侵攻作戦、救国軍事会議のクーデターを経てボロボロになっていた宇宙艦隊を何とか戦えるよう環境を整え、首都ハイネセンの住民の僻地疎開、イゼルローンからの難民の受け入れ、守り切れない同盟惑星への無防備宣言(無抵抗を宣言して侵攻損害を避けるある種の降伏)の容認など、政治家としてなすべきことを次々と行っていったのである。
第一次ランテマリオ会戦で同盟軍は大損害を受けつつも、ヤン・ウェンリー率いるヤン艦隊がなお健在で残ると、アイランズはヤンをハイネセンに召還して、ヤンを史上最年少となる元帥に任命。
その上で、ヤンの行動に対して政治部門からは拘束を加えず、全面的な協力を約束。
自由な采配権を得たヤンは銀河帝国の事実上のトップであるラインハルト・フォン・ローエングラムを討ち取って帝国に内紛を起こさせるという戦略の元、ラインハルトとバーミリオン星域会戦での直接対決にこぎ着けた。
しかし、バーミリオン会戦のさなか、同盟はウォルフガング・ミッターマイヤーとオスカー・フォン・ロイエンタール率いる艦隊に、既に艦隊の出払って警護する兵力のないハイネセンを突かれてしまう。
さらに、そこに雲隠れしていたトリューニヒトが現れて議会を招集、議長として降伏を決断した。
アイランズはヤンの勝利を信じ(実際ヤンはラインハルトを討ち取る一歩手前まで行っていた)、たとえ自分たちが死んでも後継政治指導者とヤンの協力で同盟は立て直されるとトリューニヒトに諫言し、同盟に殉じようとする。
しかし、トリューニヒトに自身の真っ当とは言えない三流政治業者ぶりを晒されたが、怯みながらもそれらの事実を肯定。その上で恩義のあるトリューニヒトが亡国の指導者としての悪名を歴史に追わせたくない旨、ラインハルトさえ討ち取ればまとめ役を失った帝国は分裂し同盟は立て直せることを進言し翻意を促したが、トリューニヒトには響かなかった。そして、トリューニヒト子飼いの地球教徒に制圧されてしまい、結果として同盟は正式に帝国に降伏。
アイランズの半年ほどの奮闘は報われず、気力を使い果たしたアイランズは半ば廃人状態で病床に伏し、物語からフェードアウトしてしまった。
後に旧同盟の政治家は「オーベルシュタインの草刈り」で大量に逮捕され、さらに収容先のラグプール刑務所での暴動事件で少なからず死傷していたが、いずれの件でもアイランズについての言及はない。
逮捕される前に死亡したか、半廃人状態なので放置されたか、名前が挙がらなかっただけで逮捕されていたのかは不明である。
覚醒以前においてはお世辞にも真っ当な政治家ではなく、アイランズ自身そうであることに甘んじていた上、親分であるトリューニヒトからさえも、信頼厚い同志とは見なされていなかった。
トリューニヒトが出奔してアイランズが評議会をまとめると聞いて、石黒版OVAでは「口先だけの煽動政治家」であるトリューニヒトより「何ができるとも思えない」アイランズの方がもっとタチが悪いという意見もあった。
トリューニヒトは口先だけの煽動政治家と市民に疑われるようになったが、その分市民をまとめる能力はあり、そうした能力も戦争においては必要なものだった。
しかし、覚醒後のアイランズはそれまでの自らの態度を率直に自己批判し、ヤンや軍部に腰の低い対応に終始し、足を引っ張るようなことは最後までなかった。
それは単に媚びを売って丸投げをするのではなく、政治部門のなすべき仕事には精励しつつ、軍部に最大限に力を生かしてもらうべく自らの役割を果たそうとしたものであった。
ビュコックはアイランズを苦々しく思っていた一人であったが、その覚醒については「守護天使が勤労意欲に目覚めた」と評し、全面協力を惜しまなかった。
ヤンも、論法的に好かない部分はあったものの、愛国的公僕としての意識に目覚めたアイランズに対してはいつもの皮肉は鳴りを潜め、水を差すことなく期待に応えようとしていた。
しかし、そんな彼もトリューニヒトにとっては所詮は一人の子分でしかなく、最後に自らの三流政治業者ぶりを暴露されてしまった。
アイランズはそんなトリューニヒトでも三流政治業者に過ぎない自分を取り立てた恩人として必死に諫言したが、結末を変えることはできなかった。
もっとも、仮にアイランズが三流政治業者でなかったとしても、トリューニヒトは地球教による実力行使をしてきたので、結果は変わらなかったであろうが…
作中の自由惑星同盟の高官は腐敗しきった者が多く、また腐敗と無縁であった政治家もジョアン・レベロは責任感が強すぎる余りかえって同盟を追い詰めてしまい、ホワン・ルイは見識は示したが、リーダーシップを取ることはできなかった。
そんな中で、覚醒後のアイランズは自らリーダーシップを取って政治部門と制服軍人を協力させ、この協力あって、ヤンは絶望的なまでの戦力差から、あと一歩で軍事の天才であるラインハルトを討ち取るところまでこぎ着けた。
このことから、作中最高の民主主義政治家は覚醒後のアイランズであると言う評価も多い。
作中では、「彼の名は、半世紀の惰眠よりも半年間の覚醒によって後世に記憶されることになる。」と評された。
藤崎版
基本的な行動は変わらないが、覚醒前がハゲた小太りの男性だったのに対し、覚醒するとスーツの上からでも分かるほどに筋肉が増し、僅かに残っていた髪が逆立つなど超サイヤ人のごとき様相であった。
同盟の降伏後、気力を使い果たすと外見も元に戻ってしまった。
同盟の政治家であるジョアン・レベロとは色々と正反対の部分があり対比されやすい。
初登場時に「アイランズは汚職の三流政治家。レベロは財政家として名を上げた有能かつ清廉な政治家」、「アイランズは同盟の危機に関して覚醒して最善の手段を取る事が出来た。レベロはバーラトの和約以降のレンネンカンプのヤン引き渡し要求を受けた後の対応が後手後手となり、一党の反撃や同盟からの退去を経て帝国の再侵攻を招くなど致命的な失策をやってしまう」、「アイランズは有事の人材。レベロは平時の人材」と比較ポイントが多い。
話の展開としてアイランズの方がレベロよりも危急の事態に対する対応力と精神力を持っていた事は間違いない。しかし同時に小説版の地の文で「平時の人材が、有事の人材に劣っている訳ではない」という事も記述されており、あくまで適材適所の話である事が強調されている。
もっともアイランズが病床に臥す事なく、レベロに代わって臨時政権の首班に収まった場合はより適切な対応ができた可能性が高く、そんなアイランズをレベロとホアン・ルイが支えるという体制であればレンネンカンプのヤン引き渡し要求から始まった一連の事件も大きく流れが変わった可能性は否定できない。しかし、同時に同盟と帝国の状況が決定的な決着を迎えつつあったため、その状況でも同盟存続が果たせるかは疑問も残る。