オレに殺されるべきなんだ―――っ!!!!!
むいみなわるあがき
ナメック星における孫悟空とフリーザの激闘は、錯乱状態に陥ったフリーザが自分の技を使いこなせず自滅するというあまりにも呆気ない形で終わりを迎える。このままではナメック星の爆発に巻き込まれるだけとなったフリーザは宇宙の帝王の面影も戦士としてのプライドも消え失せた惨めな命乞いをする。
今までフリーザに命乞いをした者たちへの悪逆非道な言動を忘れてあまりにも身勝手な救済を求めるフリーザに対し、当然悟空は「勝手な事ばかり言いやがって！貴様はそうやって命乞いした奴を一体何人殺してきたんだ！」と激しく拒絶する。しかし、あまりの哀れさと惨めな姿に思うところがあったのか、ナメック星から脱出できるだけの気を分け与えた。
悟空のまさかの行動にフリーザも驚く。が、直後にフリーザは悟空を嘲笑う。
宇宙空間で生きる事ができる自分とは違い、悟空は星の爆発から生き残っても宇宙空間に放り出されれば死ぬ。宇宙船は壊れていて使えない。悟空が脱出する術はこの時点では皆無。待っているのは”死”だけだった。
フリーザ「皮肉だな。勝負に勝った貴様は死んで、オレは助かるんだ！！！」
気を分け与えるという悟空の温情を愚かな行為と罵るフリーザ。
しかし悟空は生き残る事を諦めず、脱出する方法を求めて立ち去る。
それを眺めるフリーザ。ここに、ナメック星での長い死闘は、正しく「試合に勝って勝負に負けた」という形で終焉を迎えた…。
かに、思われた……。
（オ……オレは宇宙一なんだ……！！）
「試合に勝って勝負に負けた」。
そんな終わり方は宇宙の帝王たる自分にあってはならない。
「全てにおいて勝つ」。それこそが宇宙一たる自分に与えられるべき栄光。
例外は認められない。存在してはならない。
（だから…だから貴様はこの俺の手によって死ななければならない…！！！）
自分からプライドを捨てて命乞いをしたにもかかわらず、フリーザはまだ生きる希望を捨てない悟空を逃そうとしなかった。
背を向けて飛び去ろうととする悟空に対し、フリーザは戦士としての全ての尊厳をかなぐり捨て、ただ「宇宙一である」というあまりにも自己陶酔的な執念と自尊心のみにしがみつき逆上。あろうことか分けてもらった気をも利用して渾身のエネルギー波「デスファイナル」（媒体によってはデスキャノンやラストエンペラーとも）を放ち、不意討ちを狙った。
（貴様は…俺に……！！………俺に…………！！！！）
「オレに殺されるべきなんだーーーーーっ！！！！！」
それすらも読んでいたのか。あるいは例え気を分けてもらったとしても、所詮あっさり反撃される程度の力しか残っていなかったのか。
もはや救いようのない外道になり下がったフリーザに対し、悟空はカウンターで怒りのかめはめ波を叩き込む。あっさりデスファイナルを返されたフリーザは抵抗や回避すらできずにエネルギーの爆発に消えていく。
かめはめ波によって地面に空いた大穴を悟空は見つめる。
その顔は蔑むようで、憐れむようで、悔やむようで、哀しむようで……
悟空「…………………………」
それは、今まではっきりと見せたことのない、思い悩むような複雑な表情を見せた悟空の姿だった。
この時の悟空が(この決着に対して)何を思っていたのかは不明だが、(クリリンの仇とはいえ)今まで様々な悪人と戦ってきた悟空にとって、歓喜も達成感も無い虚しすぎる勝利だったに違いない。
その後ナメック星は爆発。悟空は間一髪の所、ギニュー特戦隊が乗ってきたポッドに乗り込んで脱出。「フリーザ」という存在は完全に消滅した…誰もがそう思われたのだが………。
アニメ版においては
「オ……オレは宇宙一なんだ……！！」
「宇宙の帝王、フリーザなんだ……！！」
（だ……だからァ……貴様はっ……猿野郎の貴様はっ！）「このオレの手によって！！死ななければならないっ！！」
（き、き……貴様は……）
「オレに……！オレにィっ！殺されるべきなんだーーーーーっ！！！！！」
「バカヤローーーーーッ！！！！！」
……という半分ほど譫言のように口に出す形になっている。
フリーザ役の中尾隆聖氏の屈辱にまみれた声色は一聴の価値ありである。
フリーザは通常不意打ちする際は一言も喋らずにデンデやカルゴなどを始末しているのに対し、こちらは大声で叫びながら放っている。
このことから不意打ちというよりは一連の流れの中で自らのプライドを完膚なきまでに木っ端微塵にさせられ、正常な判断ができなかった故のとっさの行動だったとみることもできる(また実際の体力とエネルギー量はどうあれ、この状況で悟空を殺すつもりだけなら、爆発間際のナメック星に追撃した方がよっぽど確実であるともいえる)。
力量差が圧倒的な状況で死に物狂いで放った渾身のエネルギー波をさらに大きな力であっさり返され死亡するという流れは、かつてバーダックがフリーザに対してやられたことと全く同じである。
バーダックが悟空の父親であることを考えるととことん皮肉な最期といえよう(元々アニメオリジナルキャラだったバーダックは、全数コマとはいえ、原作のフリーザの回想内に登場している)。
怒りのかめはめ波を放った直後の悟空の表情は、平成末期までの映像作品では、(当時の技術力では再現が難しかった為)怒りの表情のままか表情を映さなかったが、近年では技術力の上昇で、原作の表情になっている(最初に公開されたのは、ドラゴンボール超の放送が重なっていた時期に放送された復活の「F」の追加された書き下ろしのプロローグシーンである)。
フリーザに無用な情けをかけたために自らの危機を招いたこと（それ以前に超サイヤ人の圧倒的な力でフリーザを精神的に追い詰め、ナメック星破壊を決断させたこともか）への反省からか、悟空は後のセルゲームでは超サイヤ人2に覚醒してその圧倒的な力でセルをいたぶる息子の悟飯に対し「すぐにとどめをさせ!!!」「これいじょうあいつを追いつめるな!!!なにをするかわからんぞ!!!」と強く命じている。
このシーンはフリーザ戦も含め、たとえ敵であっても命を無闇に奪うことを良しとしなかった悟空が早々と敵を殺すべきだと決断したばかりか、それを家族も含めた仲間に命じるという原作では唯一無二というべきシーンである。
しかしその圧倒的な力を得て増長した悟飯は悟空の警告に耳を貸さず、悟空の不吉な予感は最悪の形で的中してしまうことになる……。
後の『超』の力の大会におけるジレンとの最終決戦時に彼の気を悟空、17号とバリアで防ぐ際に「オラたちが束になっても敵わねェかもしんねえ」という悟空の発言に対し、勝利への焦り故に代理出場の条件として優勝した際にドラゴンボールで2度目の蘇生する約束を怒鳴りながら悟空に改めて確認する際には「〝おめェが約束を破んねェ限りオラは約束を守る〟それはおめえが一番よく解ってんじゃねえんか？」とごもっともすぎる発言をされてフリーザも言い返せず、共闘に応じるなど一連の悟空への裏切り行為はフリーザ本人も（全くメリットがない行いであったという点で）痛いところではある模様。
このゲームではデスファイナルを打ち出す直前に顔を上げたフリーザの表情が不気味な笑みになっているオリジナルの演出が加わっている。
宇宙サバイバル編:ジレンに対しても同じ台詞を発している。ちなみに力の大会は本当に殺したら失格である。
スーパードラゴンボールヒーローズ:子供向けゲームの上、攻撃対象が悟空以外になる事か、セリフが「お前は!オレに倒されるべきなんだーーー!」に変わっている。
お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない…同義語。
