発見と命名
2009年、スペインのカスティーリャ=ラ・マンチャ州クエンカ県のラス・オヤスにある白亜紀前期の地層ラ・ウエルグイナ層からほぼ完全な骨格が発見され、翌年の2010年に発見地とその特徴に由来して「クエンカ県のコブのある狩人」を意味するコンカヴェナトル・コルコヴァトゥスと命名された。
化石は今のところラス・オヤスでしか発見されていないが、一部の研究者は同時期のイングランドに棲息していたベックレスピナクスと同一種ではないかとも主張している。ベクレスピナクスもコンカヴェナトルに似た特徴が見られるが標本が少ないため、この点ははっきりしていない。
特徴
コンカヴェナトルは、ヨーロッパ産の中型獣脚類としては最も保存状態が良い化石が見つかっている。カルカロドントサウルス科に分類されるが全長7メートル程度で、多くの近縁種と比べると小型だった。
最大の特徴は、名前の由来ともなったコブのように発達した神経棘である。これは第11と12胴椎の神経棘が極端に長くなっており、第10胴椎の倍以上もあった。また第13胴椎からは極端に神経棘が低くなっており、尾椎でも前方の神経棘が高くなっている。そのため重心となる腰と後肢付近で、かなり頑丈な構造を作り出すことができたと思われる。
他にも頭骨の後眼窩骨はがっしりして大きな塊が付いていた。
また、尾や右足、体の腹側部には、生前の皮膚の痕跡が残されていた。踝の周囲には2種類の多角形の鱗があり、指から末節骨にかけては肉球と角質の爪の痕跡が見られ、現生鳥類の脚に見られる「脚鞘」に類似していた。足のサイズは脚全体の大きさに比べて相対的に小さかった。
羽毛の有無について
コンカヴェナトルの右前肢の尺骨には、「乳頭突起」に似た隆起物が並んでいた。乳頭突起は現生鳥類や羽毛の確認された獣脚類に見られる突起で、風切羽が靭帯によって骨に固定される場所である。
しかし、尺骨のこぶは鳥類及びコエルロサウルス類にみられる乳頭突起とは並び方や位置が異なり(コンカヴェナトルの尺骨のこぶは骨の隆起で繋がっているのに対し、鳥類の羽軸は互いに離れている。またコンカヴェナトルの尺骨のこぶは不規則に配置されるのに対し、鳥類の羽軸は等間隔に配置されている)、尺骨の突起に基づきコンカヴェナトルに羽毛が生えていたとするのは根拠に乏しい。
アンドレア・カウは系統発生学の観点から言ってもコンカヴェナトルのようなアロサウルス上科は羽軸を持っているとは考えにくいとしている。
生態
発掘された化石などから、白亜紀前期のラス・オヤスは乾季と雨季のある亜熱帯気候の湿地帯で、現在の赤道付近にあったと思われる。コンカヴェナトルがこの地を縄張りとしていたのか偶然やってきたのかは不明だが、当時の生態系の頂点に君臨していたと思われる。カルカロドントサウルス科の特徴でもある薄く鋭い歯を武器に、原始的なオルニトミモサウルス類のペレカニミムスや、イグアノドンに近縁のマンテリサウルスを捕食していただろう。
発達した神経棘の役割は未だ不明である。近縁種のアクロカントサウルスとは異なり局所的であるため、名前通りラクダやバイソンのように脂肪を貯蓄したコブとなっていた可能性もある。また、ライバルやメスへのディスプレイのためにオスだけが発達させていたとする説もある。その場合なら、交尾の時にも邪魔にならないからである。
余談
ちなみにコンカヴェナトルの発見されたカスティーリャ=ラ・マンチャ州は、あの『ドン・キホーテ』の舞台となった場所でもある。