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ゴルシワープ

ごるしわーぷ

競走馬ゴールドシップ(2011~15年現役)の、ワープしたかと見まがうような最後方からの高速の追い込みを讃える言葉。特に、最後尾からの鮮やかなごぼう抜きで初のGⅠ制覇を果たした2012年皐月賞の走りを指すことが多い。
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「ワープ」の前提編集

競走馬ゴールドシップ(2009年生)は、父ステイゴールド・母父メジロマックイーンという血統を持つ。

後年「ステマ配合」と呼ばれるようになるこの組み合わせは、ゴールドシップがデビューした2011年の時点で既に、2009年の宝塚記念有馬記念両グランプリ制覇馬ドリームジャーニー、2011年のクラシック三冠馬オルフェーヴル、重賞2勝のフェイトフルウォーといった活躍馬を輩出しており、ゴールドシップも彼らに続けるかという世代注目の一馬であった。


期待を背負ったゴールドシップは新馬戦を函館競馬場の2歳コースレコードで勝ち順風満帆のデビューを果たす。しかしその後、札幌2歳ステークス(GⅢ)・ラジオNIKKEI杯2歳ステークス(GⅢ)ともに2着と、2歳時(2011年)は重賞を獲れずに終わった。


クラシックシーズンの2012年、2月の共同通信杯(GⅢ)に勝利し初重賞を獲得。その後はクラシック初戦・皐月賞の前哨戦となる3月のトライアル競走には出走せず、皐月賞へ直行した。


大注目馬には違いないが、2歳時に勝ちきれないレースが続き、トライアルも未出走で力を測りづらい。さらに「芦毛 ⇒ 母父メジロマックイーンの遺伝が強い ⇒ マックは生粋の長距離馬、その血は2000mの皐月賞では不利なのではないか」という予想も働いていた(何なら彼の評価は、皐月がメインではなく2400mの東京優駿と3000mの菊花賞が本命とされていた)。


こうした要素から、皐月賞当日のゴールドシップは、グランデッツァ→ワールドエース→ディープブリランテに次ぐ単勝7.1倍の4番人気。人気馬の一角には違いないが、「誰もがターフでゴルシに大注目」という立場ではなかったのだ。以上のような状況も、目を離した隙に「あの馬いつの間に!」「どこから出てきた!?」と観衆をあっと驚かせる結果を生んだ一因であったことを踏まえておいて頂きたい。


2012年皐月賞編集

2012年4月15日。この日の中山競馬場は前日の雨で馬場状態は不良から稍重に回復したばかりと思わしくなく、11Rのメイン皐月賞までに、特にコース内回りは多くの馬が通過したために芝がボロボロになっていた。なおこの中山競馬場、2014年の夏に暗渠管の設置と砕石層導入などを伴う路盤改造工事が行われるまでは、中央10場の中でもワーストクラスの排水性で有名であり、特に内回りコース4コーナー付近は内外を一目見るだけで違いが解かるほどに芝が剥げて不良馬場のように荒れ果てていた。



レースはメイショウカドマツ・ゼロスの2頭が逃げ、ハナを争う展開。一方、7枠14番・鞍上内田博幸のゴールドシップは最後方からの競馬となった。向こう正面の時点で馬列は延び先頭から最後尾まで10数馬身、ここでTV中継のカメラは先頭から徐々に後方へとカメラを回しつつ、各馬の位置を確認していく。


(実況:ラジオNIKKEI中野雷太アナ)「……2馬身空いてこれを見ながらワールドエース構えて、最後方からゴールドシップ。3コーナーを回ります……」


この時点で、ゴールドシップの馬券を買っていた人すら、これは厳しいと思ったろう。前走の共同通信杯は3・4番手からの直線抜け出しという先行戦術で勝利していたのである。その前の札幌2歳SやラジオNIKKEI杯は後方からの追込戦術を取っていたものの勝てなかったのだから、ましてクラシックの舞台でこの展開では、もう脱落と思われても無理はない。

そしてTVカメラは、スーッと先頭へと戻っていく。この一瞬、ゴルシが俄然追い込みを開始するのがカメラの端に捉えられたが、これに注目した観衆は少なかったろう。


3コーナーから4コーナーへ。どの馬も足場の悪い最内を避け、外回り気味に加速していく。大逃げを図ったのは16番ゼロス、それを追う各馬。

この場面、最終コーナーを回る先頭集団を大きく映すTVカメラの奥に灰色の馬が映っていた。ゴールドシップがただ一馬、荒れた芝をものともせずにコーナー内側に突っ込み、ショートカットを決めるかのように一気に順位を上げていたのだ。

しかし、偶然の角度の妙というべきか、4コーナー出口側から斜めにコースを映すカメラで、最内を突っ込んでくるゴルシは馬の正面に近い角度となり、動きが分かりづらくなっていた。また、中山競馬場のスタンドの観衆からも、手前側に馬群が密集したためにゴルシは最も背景側の見えにくい位置にいた。


そして最終直線、高所から馬列全体を映すカメラに切り替わった時、ゴールドシップは既に3番手にいた

コース内側で脚を使い果たし失速していくゼロスと、これを外側から飲み込もうとする後方の馬群。その間を裂いて、ゴールドシップがぬっと現れたのである。中山のスタンドも、TV観戦組も「!?」となった。


(実況)「ゼロスが先頭、ゼロス先頭!また差を詰めてメイショウカドマツ!あっその内からゴールドシップ上がってきた!ゴールドシップ!200を切ってゴールドシップが先頭に替わる!」


ゴールドシップはそのままメンバー最速の上がり3ハロンの末脚で伸び切り、2馬身半差の勝利。管理調教師の須貝尚介に、現役騎手時代に獲ることができなかったGⅠ制覇をもたらし、鞍上の内田博幸にとっても、前年の落馬負傷による長期離脱からの復活GⅠとなった。


以上のように、皐月賞の「ゴルシワープ」は、まだゴールドシップの注目度が後年ほどでなかった、前走で初重賞を先行戦術で獲った馬が最後尾なのでもう目を離した観客が多かった、TVカメラの位置やレース展開がたまたま観客に錯覚を与えるように働いた……さまざまな要素や偶然が積み重なった結果、「まるでワープした」との印象を与える、観衆にとって大変面白いレースに仕上がったのである。


もちろん、まだ3歳と成長途上ながら、荒れた馬場を最後尾から駆け上がっても力を失わなかったゴールドシップのパワーと、それを捌いた地方競馬出身の内田博幸の好判断を伴った騎乗があってこそなのは言うまでもない。


なお、2着はゴルシのスパート開始直前、後方2番手にいた2番人気のワールドエース(福永祐一)である。この馬はゴルシとは逆に大外からの追込を選択し、もっとも距離ロスの多いコース取りから連対を果たしており、これも大した走りなのだがゴルシとは2馬身半差。

ワープ有無の差は大きかったと言えよう。

こちらはフジテレビカンテレ)版の映像とアオシマバクシンオーによる実況。ゴールドシップの動きがよりわかりやすい。

その後編集

その後、ゴールドシップの豪脚はたびたび競馬ファンを沸かせた。京都競馬場の登り坂からロングスパートという悪手じみた仕掛けからまくった2012年菊花賞、ずっと大外を走らされながらなおスタミナを切らさず最終直線で一気に全頭吞み込んで逆転した2012年有馬記念、ゲート入りを盛大に嫌がり目隠しの末に何とかスタートするも最後方から見事な逆転を収めた2015年天皇賞(春)など。

また、決して最後方からのレースしかできない馬ではなく、2013年・2014年と連覇を果たした宝塚記念はどちらも好位先行からの直線抜け出しで勝利している。なお三連覇を狙った2015年は(ry


2015年12月27日、第60回有馬記念。結果に関わらずこのレース限りでの引退が決まっていたゴールドシップ。6歳になった芦毛の馬体はすっかり白くなっていた。最後方からのレース運びになるが、2周目の向こう正面、カメラが馬列を先頭から最後尾までなめ、展開を確認する中、最後尾のゴールドシップがロングスパートを仕掛けた。最後尾から先頭に戻っていくカメラについて行くほどの脚で、最終コーナーで3・4番手につけた。

場所は中山競馬場、鞍上は内田博幸。あの皐月賞や2012年有馬がフラッシュバックし、競馬ファンは沸きに沸いた。

しかし最終直線、ゴールドシップの末脚が出ない。失速こそしないが伸び切らない。結果は8着。必勝形に持ち込みつつも敗れたその姿に、競馬ファンはこの日の別れが仕方のないものなのだと実感せざるを得なかった。


レース履歴が重なるにつれ、その追込戦法は認知度・注目度が高まり皆が見ていたため、後年のレースは「ワープ」と評するにはちと苦しい。しかし現在も、ゴールドシップの並外れた追い込みを端的に表す言葉として「ゴルシワープ」は語り草となっている。


余談編集

今でこそ語り草となっている「ゴルシワープ」であるが、彼を担当した今浪厩務員が日刊スポーツの取材で語ったところによると、2012年有馬記念の際「皐月賞は内をすくってワープとかも言われて。『力で勝ったんじゃない』と言われたこともあった」そうな。そもそも実力と力の両方が無ければワープと言う奇策は成立しないものだが、その有馬記念では出遅れ最後方になるも、3コーナー先の700m付近から大外を廻して中団の外側まで押し上げると、直線で一気に9頭を抜き去り1着をもぎ取った。いわば皐月賞とは逆の終始大外を廻らされながら勝ったレースであるが、今浪氏は「有馬でああいう勝ち方をしてくれて。誰も文句言えないよな」と語っている。


関連項目編集

競馬 ゴールドシップ 内田博幸 皐月賞 逆転

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