マグス
まぐす
ギリシャ語では単数形でマゴス、複数形でマゴイ。
新約聖書の福音書に登場する東方の三博士も原書では「マゴイ」表記である。
こちらはイエス・キリストの誕生を祝福する善の側の人間だが、『使徒行伝』に登場するシモン・マグスという奇跡を金で買おうとした悪の側の人間にもこの語が使われている。
アラビア語文献ではマグや一般ゾロアスター教徒をひっくるめた呼称としてマジュースが現れる。
これはイスラム教聖典『クルアーン』22章でゾロアスター教徒が「マギ教徒」という呼び方で登場するため。
英語での単数形はメイガス、複数形はメイジャイ(magi)であり、魔法を意味するマジック(magic)とよく似ている。
これはギリシャ語でマゴスたちの知識や技を意味する「マゲイア」が魔法を指す言葉となり、同時に英語に持ち込まれたという事情による。
聖典アヴェスターに用いられる言語ではマグといい、中世ペルシャ語ではモウという。
かなり古い時代からあったようで、ヴェーダにもこれに相当する「マガ」というサンスクリット語がある。
イランやインドのパールシー共同体を中心にゾロアスター教信仰は現存するが、マグスやマゴスといった他文化に基づく呼称は用いられない。
ゾロアスター教の聖職者で、基本的な訓練を修め上位聖職者のアシストも行う「ヘールベド(エルワド)」、寺院管理も担う「モウバド(モーベド)」かつては法律家であり現在も掟を元に共同体の問題に対処する「ダストゥール(ダスタバール)」がある。
ペルシャ系祭官としてのマギはキリスト教発祥前にもヨーロッパに知られていた。
歴史家ヘロドトスの著書には鳥葬や犬葬を行い、(アンラ・マンユの被造物とされる)蟻や爬虫類を殺す風習を持つマギが紹介されている。
しかし神学や教義に踏み込んだ理解はなされず、異国人として奇異に見える儀式や天文学の知識が魔法・魔術として映り、マグスやマゴスには本来と異なる意味合いが付加された。
「マグス」の呼称を持つ人物が魔術師として聖書に登場することから、キリスト教化以降もこれは続いた。
近代以降のいわゆる「西洋儀式魔術」を報じる各魔術結社においても、高位の魔術師の呼び名として用いられている。
創作作品にもマグスやそれに関連する語は登場する。日本でもっとも有名なのは漫画作品の『マギ』と『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する三つ組のコンピュータ「MAGI」だろう。