「魔女教大罪司教、『暴食』担当……ライ・バテンカイトスの餌場へようこそッ」
「愛! 義侠心! 憎悪! 執念! 達成感! 長々と延々と溜め込んで溜め込んでぐっつぐつに煮込んで煮えたぎったそれが喉を通る満足感ッ! これに勝る美食がこの世に存在するかァ!? ないね、ないな、ないよ、ないさ、ないとも、ないだろうさ、ないだろうとも、ないだろうからこそ! 暴飲! 暴食! こんなにも! 僕たちの心は、俺たちの胃袋は、喜びと満腹感に震えてるんだからッ」
「――それじゃァ、イタダキマスッ!」
プロフィール
性別 | 男 |
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年齢 | ? |
身長 | 150cm |
名前の由来 | くじら座ζ星バテン・カイトス(Baten Kaitos) |
能力 | 『暴食』の魔女因子 |
CV | 河西健吾 |
概要
魔女教大罪司教『暴食』担当。
濃い茶色の髪を膝下まで伸ばした少年。外見年齢は14,5歳ぐらい。
『暴食』の名からイメージされるものとは裏腹に、病的なほど痩せ細った体型をしており、その容姿もボロ布を身にまとっただけのような粗末なもの。
『人生』への絶望と渇望が垣間見えるような、非常に嫌悪感を煽る目つきをしている。
もの凄い三白眼。惡の華の華のイメージそのまんま。
相手の『名前』を食べて周囲の記憶から奪い、相手の『記憶』を食べて当人の記憶を奪う『暴食』の権能をもつ。
自らを『暴食』の中でも「美食家」であると称しており、食べる相手の記憶や経験の「質」をなにより重視しているという。
他にも、それぞれ自らを「ロイ・アルファルド」「ルイ・アルネブ」と名乗る自分とは別の『暴食』担当の大罪司教が2人存在している。
なお2人とは兄妹関係である様子。
(個別記事参照)
三大魔獣の一体、「白鯨」をペットにしているらしく、たとえ討伐されたとしても再度生み出す事も可能である模様。
ただし、飼育と育成に400年ほどの期間が必要になるらしい。
自身の目的のために世界各地の人物の名前や記憶を喰らい続けており、
クルシュ・カルステンの『記憶』を喰らい、記憶喪失に追い込み、
レムの『名前』『記憶』の両方を喰らい、例外を除いた全ての人々の記憶から存在を消滅させ、昏睡状態に追いやった張本人。
特にレムの存在を消し去ってしまった悪行からスバル(及び読者)にとっては因縁の深い人物である。
人物
見た目は無害な子供だが、その言動は「食」に対する異常な価値観からくる狂気的なものであり、常にハイテンション。
他人をおちょくるような飄々とした態度が目立ち、煽られようがピンチに陥ろうが激昂する事なく、基本的に自分のペースを崩さない。
一人称も「俺たち」「僕たち」と複数形で表現する上に安定せず、一つの単語を様々な呼び方で繰り返す等、妙な話し方をする。
これは後述する権能によるものであるらしく、他者から奪った自我が多すぎて主人格が定まっていないためである。
権能で相手の名前や記憶を奪うことを「食事」と嘯き、相手の経験を自分基準の価値観で「前菜」「メインディッシュ」などと料理に例えて表現することが多い。
「美食家」を自称する通り、奪う相手は厳選しているらしく、「皿に乗る価値もない」「食欲をそそらない」などと好き放題に評価し相手にもしないこともある。
ちなみに同じく『暴食』で「悪食」を自称する弟ロイ・アルファルドはこういった主張に反し、目に映った相手なら区別せずに喰らいまくる主義であるため、相手に拘る彼としては内心疎ましく思っている模様。
が、反面「飽食」の妹ルイ・アルネブに対しては「可愛い妹」と呼んでおり、彼女をバカにされた際には珍しく怒りを顕にする等、彼なりに大事に想っている様子。…あくまで「彼なりに」であるが。
当然、基本的に他者を獲物か何かとしか見ていないためコミュニケーションは不可能。というか自我すら曖昧なものであるため会話すらまともに出来ている様子がない。
これはアルファルドでもアルネブでも同様である。
他者の記憶を無理やり我が物とする蛮行を繰り返す彼らだが、その目的とは「幸せになる」こと。
それは誰しもが追求するありふれた目標であるが、問題なのはその方法。
権能を利用して他人の人生と存在を丸ごと奪い去り、自分たちが生まれた時点で決して得られることのなかったはずの経験、知見を得ることで豊かな人生に塗り変え、「全てにおいて恵まれた唯一の存在」となることを目指すという酷く独善的で身勝手なものなのである。
自らの幸福の実現のためにはこれ以外に方法は無いと本気で思い込んでおり、その過程で他者の人生を台無しにする事をなんとも思っていない。
記憶の簒奪者、思い出の蹂躙者、絆を食い荒らす『暴食』の常習犯。
他の大罪司教の例に漏れない正真正銘の外道である。
「忘れないとかあれこれ言ってたけどさァ、その程度のことがどれだけ救いになるの? 結局、最後には経験が物を言う。優れた知見の積み重ねってヤツこそが、人生を豊かにして、人を勝ち組ってものにするのさ。つまり、最高なのは俺たちってわけだよ!」
バテンカイトスに限った話ではないが、彼らは恵まれた人生を得るために他者の人生を喰らい続けるあまり最早どんな人生にも酷い既視感を抱くようになってしまっている。
にもかかわらず「自身にはもっと相応しい人生があるはず」という欲望に歯止めが効かない状態となっており、いくら『食』を重ねようと止まるところを知らない。
正しく『暴食』の罪を体現した存在であると言える。
子供っぽい言動と食に執着する歪んだ価値観が目立つが、時折暗い情念を覗かせることもある。
彼の布切れが巻かれただけのような窶れた身体には、
ムチの痕、焼きごての痕、刃物で刻まれた痕、荒く削られた痕、抉られた痕、獣の牙の痕、青黒くなるまで殴られた痕など、思わず目を背けたくなるほどの夥しい傷痕が残っている。
彼の語り口から「大人」からつけられたものであるらしく、悲惨な経歴の持ち主であることが仄めかされている。
が、しかしこれに対してわずかにでも憐れむような目を向けると敏感に察知し「自分たちを商品だと思ってる目だ」として見下されたと判断し激昂する。
それに関連して特に「商人」に対しては「物に値段を付けて、他人に売り払って私服を肥やす連中」「人間の価値も思惑も天秤の上に載せて計算する亡者」と評し、普段の飄々とした態度を一変させるほどの相当な憎悪を向ける。
弟妹のアルファルド、アルネブにはバテンカイトスのように虐待を受けた過去は示唆されていないものの、彼らも総じて自身の人生には「諦観」と「絶望」を抱いている。
彼らが他者の人生に執着する理由は、こうした経歴からのコンプレックスによるところが大きい。
戦闘能力
魔女因子の保有者で、『暴食』の権能を行使する。
一見すればなんの力も持たない痩身矮躯な子供であるが、
その実、他者から喰らい、蓄積された経験から武の達人に匹敵する実力を剣術、武術、魔術に至るまでいくつもの分野で習得しており、その矮躯からは想像もつかないほどの戦闘能力を有している。
また異なった人物達の技術を統合させてオリジナルの戦法を生み出したり、技を派生させたりするなど応用も利く。
更に、対戦相手にとって近しい人物の記憶から対戦相手の戦い方を分析し、弱点を突くなど狡猾な戦法を取ることもできる。
ちなみにバテンカイトスが語るところによると、『美食家』の自身はそういった技術の組み合わせ、応用は得意であるようで、逆に『悪食』のアルファルドや『飽食』のアルネブは然程上手くは無いとの事。
バテンカイトス曰く 「俺たちはインテリ大罪司教なんだよ」
が、その一方でフィジカルや戦略については本人のスペック次第なようで、優れた武人たちの経験をもっていたにもかかわらず、劇中では非戦闘員が過半数のグループと戦闘になった際、知略に押されかけていた。
彼ら風に表現すれば「いかに厳選された最高級の素材をもっていたとしても、本人の技量がなければそれを完璧に調理することはできない」ようであるが…
両手首に魔女教徒の短剣を装備しており、格闘戦では短躯の速度と身軽さを活かして戦うスタイルをとる。
また『暴食』の魔女因子自体の特性の一つとして、「因子の分割と統合」ができる模様。
こういった特徴からか現在の『暴食』の大罪司教は3兄妹で1枠分というイレギュラーな形を取っている。
またそれだけに留まらず、分割を利用して自身の複製体を生み出すことすら可能な様であるが、バテンカイトスとアルファルドは使用を避けている。
また、過去に『暴食』の魔女因子に適合した人物が産み出した『魔獣』の支配権が彼らに委譲されており、
獰猛な魔獣たちを自在に操ることができるほか、あの三大魔獣の一角「白鯨」すらペットとして使役することを可能にしている。
権能
「知識は力! 記憶は絆! 思い出を贄にして僕たちは高く! 俺たちは強く! どこまでもどこまでも羽ばたくってわけさァ!」
- 『食事』
相手の『名前』、『記憶』を食べる。
相手の『名前』を食べると、周囲の記憶から当人の存在を奪い、相手の『記憶』を食べると当人の記憶を奪う。両方を食べると、それはもう何者でもないヌケガラが残るだけ。両方食べられてしまった人々は昏睡状態に陥り、摂食も排泄も不要な存在となる。
このような症例から、劇中ではこの状態を『眠り姫』と名付け、原因不明の不治の病として扱っている。
他者が培ってきた人生をまるごと消し去り、自分のものとして奪い取ってしまう極めて悪辣な能力。
食事の仕方はいたって簡単。相手を手で触れ、その掌を舐めるだけ。
これだけで存在は消えて無くなってしまう。
触れられただけでアウトとなってしまうイカレた能力だが、この能力の欠点は「奪う相手の名前を正確に知っていなければならない」という事。例えばニックネームやあだ名のようなものを用意しておけば食事は行えなくなる。
もし違った名前で食事をしてしまうと、比喩表現抜きで激しく嘔吐してしまう。
…尤も、自分から名乗っていなくとも奪い尽くした記憶から芋づる式にこちらの名前を引っ張り出されて知られてしまう事もあるが。
喰われた人物の記憶の保持には例外もあるようで、嫉妬の魔女の寵愛を受けているスバル、外部と隔絶された禁書庫にいたベアトリスは名前と記憶を両方喰われてしまったレムの存在を覚えていた
…が、ベアトリスはスバルと契約し、禁書庫から解放された瞬間に、彼女の存在を忘れてしまった。
ちなみに、弟のアルファルドが奪った記憶はバテンカイトスと共有しているわけではない。
- 『蝕』
『食事』によって得たものを自身へ応用させる能力。
『月食』と『日食』の2種類がある。本体であるバテンカイトス、アルファルド、アルネブを「太陽」とし、奪った名前と記憶を「月」と表現したもの。
即ち『月食』とは、他者から奪い取った『記憶』をもとに、術技や知識を我が物の如く利用する能力。
これによりバテンカイトス、アルファルドは子供の身でありながら歴戦の強者に匹敵する動きを可能にしている。が、欠点としてあくまで技術を引き出しているだけであるため、当人の身体スペック自体には特に恩恵はない。実際に劇中でも十分に使いこなせているとは言えない面も多々あった。
対する『日食』は、他者から奪い取った『名前』をもとに、他者の存在そのものを丸ごと再現してしまう能力。
もとの持ち主の肉体を自身へ再現することで『月食』の欠点をカバーすることができ、もとの持ち主の戦闘能力と遜色ない、どころか使いようによっては上回りかねないレベルの実力を発揮することが可能となる。
一見『月食』の上位互換のように思えるが、この能力を長く利用すると自分自身の存在が上書きされるような感覚に襲われ、自己の本質が揺らぎ、やがて自我を失ってしまう恐れがあるという。
そのため、バテンカイトスとアルファルドはこちらを利用する事を恐れ、忌避している。
しかし、この『日食』のデメリットの影響を全く受けない例外の存在もあり、そちらは二人よりも遥かに強力かつ厄介な敵となっている。
「ロズワール・L・メイザース辺境伯が使用人筆頭……ととと、違った」
「今はただのひとりの愛しい人。――いずれ英雄となる我が最愛の人、ナツキ・スバルの介添え人、レム……だったかなァ?」
「どうだい! 何ならもう一回、あの感動を繰り返そうか! ここから始めようよ、お兄さんッ! 一から、いいや………」
スバル曰く「人間の生きてきた道筋を踏み躙る冒涜者」。
余談
- 三大魔獣との関係
名前の由来である「バテンカイトス」はくじら座の恒星から取られている。更に、ペットと称している白鯨は『消失の霧』という触れたものを周囲の記憶ごと存在を抹消させる彼のものに似通った能力を持つ。
何らかの関係を匂わせる共通点である。
因みに白鯨はバテンカイトスに宿る『暴食』の魔女ダフネの因子に従っていたとのこと。
- 『悪食』と『飽食』との関係
『悪食』のアルファルド、『飽食』のアルネブとは三つ子の関係であることが判明している。
容姿からバテンカイトスとアルファルドは14,5歳程度、アルネブは13,4歳程度とされており、アルネブは二人の妹。また劇中の扱いから、バテンカイトスが長兄として扱われている模様。
- デザイン
実は大罪司教としては結構キャラクターデザインの設定量に恵まれており、衣装の細かい仔細やら横姿や後ろ姿やらが公開されている。
ちなみにデザインを担当した大塚真一郎氏によると、「普段は意外とカワイイ」とのこと。
普段の姿のデザインもあるが、確かにお腹を空かせた年相応の子供らしい姿…と言えなくもないかもしれない。
- アニメでは
アニメでは彼の台詞はねっとりとしたイントネーションになっており、原作のハイテンションな発言とは若干印象が異なる。
なお、彼のCVを担当する事になった河西健吾氏は、演技に入る直前に原作者からキャラクターについて説明を受けたらしく、曰く「作中一番のゲスです。」とだけ伝えられたとのこと。
関連タグ
大罪司教:
『怠惰』担当 | ペテルギウス・ロマネコンティ |
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『強欲』担当 | レグルス・コルニアス |
『暴食』担当 | ライ・バテンカイトス(美食家)、ロイ・アルファルド(悪食)、ルイ・アルネブ(飽食) |
『憤怒』担当 | シリウス・ロマネコンティ |
『色欲』担当 | カペラ・エメラダ・ルグニカ |
ダフネ(リゼロ) - 過去の『暴食』の適合者
レム(リゼロ) , クルシュ・カルステン - 彼の被害者
活躍
初登場は第3章の終盤。
ペットの白鯨が討伐されたとの報告を受け、『強欲』担当の大罪司教レグルス・コルニアスと共に、クルシュ、レムを強襲。
権能を用いてそれぞれを記憶喪失、『眠り姫』状態に追い込んだ。
ここでレムの『記憶』を喰らったためか、会ったこともないはずのナツキ・スバルに強い執着を抱くようになる。
※第5章以降の内容を含みます※ |
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第5章にて再登場。
他の大罪司教とともに『水門都市プリステラ』を襲撃した。
狙いは福音書の記述通り『人工精霊』だったようだが、そんなことも構わず二番街の制御塔の占拠を弟に任せ、勝手気ままにプリステラを散策する。
過去に喰らったレムの記憶の影響を受け、スバルを探し回っていたのだ。
この不規則な行動に不意をつかれる形になり、同じく魔女教から要求されていた『叡智の書』の回収に向かっていたオットー・スーウェンが不幸にも彼と接触することになる。
(書籍版ではオットーとバテンカイトスはここが初接触となるが、アニメ版では事前にアルファルドと接触したシーンがバテンカイトスと入れ替わっており、2度目の邂逅となっている)
しかし時を同じくして、『憤怒』に攫われたキリタカ・ミューズを捜索中だったダイナス率いる『白竜の鱗』、そしてフェルトとガストンとも合流する。
バテンカイトスはハナからスバルにしか興味が無かったため、オットーはこの場の過半数が非戦闘員だったことを考慮して交渉。
「スバルの元へ案内する代わりに自分たちの命は保証してほしい」と持ちかけられ、バテンカイトスも一瞬それに応じかけるも、彼が「商人」だと察するや否や態度を急変。
怒りのままに襲いかかるが、交渉自体がオットーの仕組んだ罠であり、『言霊の加護』で呼び寄せられた水竜の群れに襲われる。
…が、バテンカイトスは難なくこれをいなし、水竜を容易く屠ってしまう。
フェルトは当たればラインハルトですら無事では済まないとされる魔法の杖『ミーティア』を切り札としていたが、生憎このタイミングでは所持しておらず。
彼女は『ミーティア』を取りに走り、オットー達は彼女が帰ってくるまでの時間稼ぎに徹することとなる。
『白竜の鱗』も合わせて、数では勝っているとは言え、相手は白兵戦では強敵とされる『暴食』の大罪司教。
全力の戦いを展開するも、瞬く間に『白竜の鱗』は指揮していたダイナス一人を除き全滅。おちょくられているかの如く簡単に劣勢に追い込まれてしまう。
完全に万事休すかと思われたが、オットーはこの事態に援軍を要請。ベアトリスが参戦した。
(余談だが、バテンカイトスは偶然にも本来の目的だった『人工精霊』の一つに巡り会えている)
ベアトリスの協力、そして全員の連携もあり、フェルトは切り札であった『ミーティア』を発動。バテンカイトスに狙いを定め、杖から自動追尾式の強力な魔弾を射出した。
とうとう追い詰められるバテンカイトス。その魔弾の威力にもはや影も残らず消滅ーー
「やれやれ、まったく。本当に出来の悪い兄弟を持つと苦労する」
したかに思えたが、突如バテンカイトスはその姿を筋骨隆々の大男に変化。
そして超越した妙技であっさりとミーティアの攻撃を回避した。
「私たちの名前は、魔女教大罪司教『暴食』担当、ルイ・アルネブ」
見知らぬ名前を名乗り始めたバテンカイトスに身構えるベアトリス達だったが、戦いの中で満身創痍となっていたバテンカイトスは逃走。
万策尽きた以上、レムの仇も取れず、訳もわからぬまま逃走を許してしまった。
結局、都市を襲撃していた大罪司教達は各々の活躍もあり『強欲』、『憤怒』を除いて撤退。
都市奪還には成功したが、大勢の人々の命と心を弄ばれ、好き放題に蹂躙された挙句に逃げられてしまったのだった。
そして時は流れ第6章。
第5章においてプリステラを襲撃し、好き放題に蹂躙した『暴食』達。
スバル達は彼らに人生を奪われてしまった人々を救うべく、全知全能の賢者が住まうとされる『プレアデス監視塔』へ赴いた。
紆余曲折あり、スバルは彼らの妹、ルイ・アルネブと接触。
アルネブからスバルの『死に戻り』の情報を得たバテンカイトス、アルファルド兄弟はその『記憶』を喰らわんと大量の魔獣と共に監視塔を襲撃した。
特にレムを喰らい、もとよりスバルに非常に強い興味を抱いていたバテンカイトスは、
スバルを「メインディッシュ」と捉え、まずは「前菜」からと『美食家』としての歪んだポリシーを掲げ、ラム、エミリアと接触。
そしてバテンカイトスはエミリアの『名前』を喰らった。
これによってエミリアはスバル以外の周りの人物から忘れ去られ、「銀髪の知らない人」という存在になってしまった。
レムに続き、あろうことか二度目のリゼロのヒロイン的キャラクターの食事である。
喰らった名前からエミリアの技術を会得、「アイスブランドアーツ」などといった技を習得し、スバル達に襲い掛かる。
さらにこのタイミングで「何者かが塔のルールに違反した」としてシャウラが暴走。味方だったはずのスバル達にすら牙を剥き、プレアデス監視塔は更に混乱を極める事となる。
「美食家」な『暴食』の末路
スバルの采配により、バテンカイトスらが連れてきた大量の魔獣の対処には『魔獣使い』であるメィリィが、アルファルド(厳密には彼の肉体を乗っ取ったレイド)にはユリウスが、一層にはエミリアが、シャウラにはスバル含むベアトリスが割り当てられ…
そしてバテンカイトスにはラムが当てられることになった。
ラムはかつてこそ「鬼神の再来」とも謳われた鬼族の神童であったが、過去に鬼族として生命線であるツノを折られ、外部からのマナ供給がなければ常に肉体が消耗していく状態にあった。
戦闘など本来もってのほかであり、いざ戦うとなっても肉体への負担を軽減するために枷を架し、全盛期の実力の半分も出せずにいた。
が、この状態をスバルがレグルスから得た『強欲』の権能『コル・レオニス』が請け負った事で、ある程度の制約の解放が可能に。
スバルにかかる負担もあるため制限時間付きで、またそれでも全盛期の力ともいかないが、バテンカイトスと渡り合うには十分な実力を取り戻した。
バテンカイトスは喰らったレムの『記憶』からラムの動きを予測し、最初こそ優勢に立っていたものの、レムすら知らないラムの実力の前に圧倒され続け、遂には抑え込まれてしまう。
『暴食』の権能に奪われた『名前』と『記憶』の解放の方法を聞き出そうとするラムであったが、命の危機を感じたバテンカイトスはここにきて今まで使用することを恐れてきた『日食』を発動し離脱。
ラムからの逃走に成功し、そのまま彼女の制限時間を削るため、パトラッシュが護衛する眠り姫状態のレムを強襲する。
窮地に追い込まれたために恐怖を乗り越え、『日食』を使いこなせた事で自信がついたのか、ここぞとばかりに『日食』を多用しパトラッシュを追い詰めるバテンカイトス。
遂にはパトラッシュを破り、レムに刃を向けようとするが、直前でラムに阻止される。
その時、追いついてきたラムが見たバテンカイトスの姿は―――
「……短時間で、ずいぶんと不細工になったわね」
『日食』を使いこなせた、と考えていたバテンカイトスだったが、その姿は
ありとあらゆる超越者達の肉体をごちゃ混ぜにした、この世の何者でもないナニカと成り果てていた。
更にもともと自身の意思が希薄だった故か、そんな凄惨な状態となってなお自身の異常には気付けておらず、代わりに強く意思として根付いたものがレムの『記憶』となっていた。
やがてバテンカイトスは腕や脚の長さも、体型の部位すらめちゃくちゃに入り混じった歪な人体に、頭部だけはレムのものがそっくりそのままくっついたような姿に変貌。
その状態でレムを語り、レムと同じ喋り方をするという極めて冒涜的かつ悍ましい怪物が誕生した。
文字通りこの世のものではない強さと、無自覚であろうがレムとそっくりな容姿と話し方が躊躇を誘い、枷を外した状態のラムですら圧倒。
しかしラムにはトドメを刺さず、尚もレムに襲い掛かる。
肉体も自我も不安定な状態にもかかわらず、『美食家』としての醜悪なポリシーはカケラも失われておらず、レムを殺害する事で怒りに満ちるラムを味わおうとした。
が、ラムから目を離したその間―――
窮地に追い込まれたラムは、土壇場でロズワールの意図に気づく。
彼の手によって長年使用してきた杖の中にかつて折られた自身のツノが隠されていた事が判明。
そして折られたツノを触媒に、レムのツノの力を双子の力である「共感覚」で取得した。
あらゆる超越者の力を取り込んできたバテンカイトスだったが、ツノを得たラムの前にはまるで意味をなさず、あっけなく打ち倒される。
完膚なきまでに叩きのめされ、無意識に『名前』を吐き出したのか、ここでバテンカイトスは本来の姿に戻ってしまった。
最早ラムの敵ではなくなったバテンカイトス。
しかし殺すにしてもその前に彼から情報を聞き出さなくてはならない。
彼に弟妹がいた事を思い出したラムは、ふと彼らの事を引き合いに出す。
「おれ、たちの……ぼく、たちの……妹、に……」
「手を出すな、とでも? 生憎だけど、そんな主張ができる立場だと思うの? 一度でも誰かの訴えに耳を貸したことがある?」
「それ、れもぉ……」
「――――」
「考えて――」
「――姉様は、優しすぎます」
バテンカイトス、逃走。
弟妹達をあっさり見捨て、保身に走り逃げた。
安全を確信し、高らかに笑うバテンカイトス。
しかし、ラムとの邂逅は彼の『美食家』人生に大きな影響を残したらしく、今まで喰らってきた何もかもに意味を見出せなくなってしまった。
そのかわり、得られたものは猛烈な飢餓感。味わいたいのに味わえない、非情な渇望。
喰らいたい、混ざり合いたい、一つになりたい。このかつてなく自身に湧き上がる猛烈な感情を、彼はこう解釈した。
「愛してる、愛してる……そう! 愛してるッ! 姉様を……いいや、ラム! 俺たちはお前を愛して――」
その刹那、バテンカイトスは自身の周りに風の刃が設置されていることに気づく。
ラムの能力、「千里眼」により彼の視界を通し、ラムが先回りし対処していたのだった。
最早退路は完全に絶たれた。
その事を悟ったバテンカイトスは、突然異常な行動に出た。
「あァ! 待って、待ってくれ! 待った待った、あと少し! あと少しだけでいい! あと少しだけでいいからッ!」
自ら風の刃に腕を突っ込み、両腕を切断、そして大量の血を噴き出す腕をすぐそばにあった壁に叩きつけ、
「受け取ってくれ、僕たちの想いッ! 見届けてくれ、俺たちの願いッ!」
そして何やら血で文字を書き――――
「あァ、愛して――」
冒涜者は、風の刃に首を刎ね飛ばされた。
恐らく、彼らはスタート地点に恵まれなかった。
彼らは自分たちの人生に何の希望も、期待も抱いていない。無かったことにしたいほど、悲惨な過去を経験してきたのかもしれない。
が、かといって彼らに選択の余地が全く無かったわけではない。
どれほど自分が凄惨な人生を送ってきたのだろうと、他人が懸命に生き、培ってきた人生を我が物として良い理由にはならない。
それに、彼らはその権能を通し、見てきたはずである。悪意だけでなく、慈しみや労りといった人間の善意、愛情を。
しかしその喰らった『記憶』から何も吸収せず、一方的に羨望を向けひたすらに欲望を重ね続け、踏み外した道を一度も省みようとしなかったのは彼らの選択である。
剣を握るものは剣に、魔に縋るものは魔に、炎に委ねるものは炎に。――そして、鬼に願うものは鬼に、拠り所にしたそれに滅ぼされる
自らの人生になんの価値も見出さず、自身から逃げ続け、あらゆるものを喰らい、あらゆるものに縋り、身勝手な愛を語った『暴食』は、
拠り所とした「愛」に殉じ、滅ぼされた。
最期の最期まで誰も愛することの無かった彼が、愛に生きるラムに勝てる道理など無かったのである。
結局、バテンカイトスは『名前』と『記憶』の解放の仕方を知らなかったと考えられる。
ラムが弟妹達の話をした際、それを出汁に逃走したことが殺害の判断材料となった。
しかし、彼が討伐されたことにより、エミリアの『名前』が帰り、全員がエミリアを思い出した。
が、それでもユリウスやレムは未だ権能から解放されておらず、問題の解決には至っていない。
スバル達は再度解決に向けて行動を続けることになる。