概要
めでたい事、特に結婚を機会に従業員(主に女性)退社すること。俗に「家庭に入る」とも言われ、主婦になることを暗に前提にしていることが多い。
「寿退職」とも呼ばれるが、この場合は結婚を機に家庭に入るのではなく「他の職場や業界に転職する」という意味であることも多い。近年に社会問題として取り沙汰されるのは主にこちらの意味である(後述)。
歴史
1980年代のバブル期に差し掛かるころまで、女性は20代のうちに結婚し、職場を離れるのが当たり前であった。当時は家庭収入は男性ひとりで養えるとされ、女性は就職しても補助的な役割しか与えられず、企業側も労働者側も「結婚して退職」が前提であった。さらに、女性社員の採用条件に「結婚したら退職」というものを付けていたところもあり、裁判に発展したことも。
男性も「ひとりで家を支えることが当たり前」とされ、妻が働いていると「収入が少ないから妻にも働かせている」と後ろ指を指され、退職しようとする女性を止めることが憚られたという。
戦後の日本は、極端な話「女性は男性(夫、父、息子)の収入に頼る」ことを前提に、社会保障も雇用制度もすべてが組み立てられていたのである。...実際のところは(教師、看護師、電話交換手など)特定業界では結婚後も仕事を続ける女性はいたし、大正生まれの特定の世代では、先の大戦で男性が大量に戦死した影響で、生涯独身を強いられた女性もかなり多かったのだが。
現状
1986年の男女雇用機会均等法の施行以降、女性の社会進出や働き方の多様化が進み、「女性が結婚後も長く働く」ことを想定していなかった日本の雇用・社会保障制度は大きく変わった。このためいわゆる「寿退職・寿退社」は、特定業界(後述)以外では減ってきている。
また、人々の意識にも変化が見られる。NHK放送文化研究所による「日本人の意識」では、1973年は「結婚したら、家庭に専念した方がいい」が35%、「結婚して子どもを持っても、できるだけ仕事を持った方がいい」が20%だったのが、2018年には前者が8%、後者が半分以上の60%に達している。また、2020年代の20代から30代はいわゆる「寿退職・寿退社」の意味を知らず、「定年退職すること」と誤って捉えている人も多いと言う。
一方で厚生労働省の調査(平成24年・成年対象)では、結婚後に「仕事あり」から「仕事なし」に変化した割合は、男性0.2%の一方、女性は18.1%と結婚を期に退職する人は圧倒的に女性が多い現状はまだ変わっていない。
また、ITmediaの調査(2012年)では、結婚しても働くのが理想とする一方、実際では結婚を期に退職せざるを得ないという現状が浮かび上がっている。いまだに「育児・家事は女性がするもの」という価値観が根強い中、子どもを持ちながら働くのが難しい実態が垣間見える。古い調査だが、日本での男性育休がまだ普及には程遠い現状、あまり変化はないと思われる。
メリット・デメリット
結婚を期に退職すると、パートナーの生活や働き方に合わせられる、体面よく退職できる、家事・育児に専念できるなどの利点がある。一方で、ブランクが開くことでキャリアに傷が付き再就職しづらい、家に籠ることで社会交流が途絶えストレスがたまる、世帯収入が減るなどのデメリットがある。
フィクションでは
かつて、漫画やアニメ、ドラマでも母が「専業主婦」としていつも家にいることが多かった。しかし、2000年代以降の漫画・アニメでは「両親が共働き」「両親が仕事のためずっと海外にいる」という設定が増えている。家に兄弟姉妹のみでいることの理由として使われることも多い一方、この設定をネガティブに捉える作品も少なからずみられる。
男性の寿退職
男性が「寿退職(寿退社)」をすることもある。
といっても、普通の会社員が「主夫として家事と子育てに専念したい」などと言って会社を辞めることはそうそうなく、「結婚を機に、待遇のマシな業界に転職したい」という、どちらかというと後ろ向きな理由であることが多い。
薄給激務が常態化している業界....具体的には介護業界では多発し、貴重な男手が抜けてしまうとして深刻な問題となっている。また、男性保育士が結婚とともに退職するのもよくあることである。
これは、介護や保育の仕事は「給料が安すぎて家族を養えない」し、「将来の昇給の見込みもない」からである。障害者福祉やアニメーターなども同様の理由で結婚を機に退職する男性スタッフは多いという。
なお、介護や福祉、保育の業界では女性の寿退職も多い。介護士は肉体労働の側面が強く、妊娠しながらの仕事は難しい。保育士は薄給の上持ち帰りの仕事も多く、家庭との両立は容易ではない。このため同僚同士で結婚した保育士は、結婚を機に夫婦そろって保育の仕事から離れてしまうこともある。
外部リンク
寿退社って、定年退職のこと? | NHK | News Up | ジェンダー