内容
「才能の民主化」とは、2024年1月23日から2月12日にかけ文化庁が募集し同年4月に公開された、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」のパブリックコメントに寄せられた多数の個人の意見のうちの一つに盛り込まれていたキーワード。
とある匿名の男性が寄せたコメントの一つで、生成AIの登場を「私含め多数の(才能を)持たざる人たちに夢と希望を見せてくれて」とし、線を真っ直ぐに引くこともできない者が漫画やイラストを作成したり、音楽センスがない者が作曲をしたり、男性が女声で実況配信をすることなどの例を挙げて「才能の民主化」と表現。イラスト生成AIの規制を主張する(反AI)絵師界隈を「遺伝的才能の特権階級」「才能の民主化の火を絶やそうとする勢力」と断じている。
また、「著作権という物は一市民の私から申し上げますと、遺伝的才能を持った一部の特権階級の為の既得権益でしかないと思っております。」とも述べ、著作権そのものを根本から否定している。
反響
「才能の民主化」というパワーワードは、一部絵師界隈にとっては「生成AIにより自分たちが努力して磨いてきたスキルを陳腐化してしまう」という恐れを端的に可視化するものとなり、強烈に反発を呼んだ。また、この男性が著作権を真っ向から否定していることや「才能の民主化」という語で表された生成AI推進派の未来像は、共産主義や左翼の権力闘争を想起させるとして「AI共産主義」、「努力の共産化」などと揶揄されることがある。
たかが絵の才能を「特権」扱いするのは極端な主張にも見えるが、絵師界隈では本来著作権法上の保護対象とならない作風について「絵柄パク」などと決めつけて私物化するなどの悪習が蔓延しており、絵を描かないオタクを「無産」呼ばわりして見下す者もいたため、絵が描けない、表現のスキルを磨くのに時間を割けない有象無象のオタクにとって、絵師らが特権階級に見えるのも無理はない。
他方、AI推進派界隈においては、「才能がなくても素晴らしい作品を作れる(かもしれない)」という未来像が多くの共感を呼んだ。上記のポストでは「ものすごく心に突き刺さる表現。」「自分の奥底に眠っている才能の一片が開花するかもしれないという希望」と絶賛されている。
ただし、上記のビジョンはAI推進派であっても全員が賛同している意見というわけではない。AIイラストであっても狙った表現を生成するのは相応の試行錯誤が必要である。絵が売れるようになるには、発想力や営業力や自己プロデュースなど「達者に絵が描ける」以外の別の才能やスキルが求められる(これは手描き絵師にも言えることだが)。将来はその辺の努力やスキルもAIがアシストしてくれるかもしれないが、現状は「生成AIを使えば才能の有無に関係なく素晴らしい作品を作れる」「生成AIにより表現の可能性が万人に開かれた」とまでは言えない。また、「才能の民主化」については、趣旨には賛同しても「表現のイメージが良くない」という指摘も少なからずある。
なお、上記コメントでも「もしかしたら諦めた夢を実現できるかもと思いながら日々を過ごしております」とあり、この男性本人は生成AIに夢を抱くにとどまり、「才能の民主化」の実践はまだしていないようだ。
類似する思想
- 反反AI - 「反AI」へのアンチ。「反AI=絵描き」ではない(声優や歌手や音楽家にも生成AIを嫌う者は多い)ものの、反反AIは「アンチ絵師」であることが多い。
- 海賊党 - ファイル共有ソフトへの規制に反発し、著作権や特許権が情報の流通を阻害するとして知的財産権の制限を訴える政党。
- コピニズム - 無断転載などあらゆる情報を複製し共有させる行為を神聖なものとする擬似宗教。
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