概要
東方Projectの第14.5弾作品である『東方深秘録』で使用された楽曲を収録したサウンドトラック作品。
全体の名称は「深秘的楽曲集 宇佐見菫子と秘密の部室」。
タイトルにもある「秘密の部室」については、同じくタイトルにも登場し本サウンドトラックにもその姿が描かれている宇佐見菫子と関連して、菫子の「秘封倶楽部」にまつわるものであると思われる。菫子はとある目的からオカルトサークルである「秘封倶楽部」を結成し、その「初代会長」を名乗っている。
本作で描かれているのは、「 秘密を曝く 」サークルである秘封倶楽部の拠点たる実際の部室であるのかもしれない。
その場合、秘封倶楽部自身の秘密が一つ曝かれた作品であるともいえるだろう。
本作の形式
本作はプラスチックケース形式でディスクの他に各種シート、帯シートが付属し、一枚のクリアシートが付属する。クリアシートには本サウンドトラックのメインタイトルが記されているほか四つのアイテムが上からつりさげられているようにデザインされており、メインのシートと共にケースの定位置に収めることでメインシートに描かれた菫子の周辺が鮮やかに飾られるような仕組みとなっている。
三つ折りによるメインのシートには『深秘録』製作者の黄昏フロンティアのあきやまうにと『深秘録』制作にも携わった東方Project原作者である上海アリス幻樂団主催のZUNの二人がコメントを寄せている。
ZUNは『深秘録』のテーマにもかかわったオカルトについて自身の少年時代に触れたオカルト番組などの体験を回想し、そこから今日のオカルト界隈についても思いを寄せている。
またここでは『深秘録』に登場した「八尺さま」についてもコメントがある。
あきやまうには同じく黄昏フロンティアが制作による『東方緋想天』のサウンドトラック作品である「全人類ノ天楽録」において、楽曲にまつわるコメントを執筆することが苦手であるとしており、本作においても「 二年に一回くらい発生する 」というサウンドトラックにおけるコメント執筆に苦労した様子を綴っている。
またシートのメインデザイン含め本CDの各シートは『深秘録』でキャラクターデザインを担当した春河もえが手掛けている。
アレンジ参加サークル
『深秘録』ではその音楽に関連して黄昏フロンティアと上海アリス幻樂団(ZUN)以外の複数の音楽サークルが編曲者として参加している。各参加サークルは主に同作に登場するキャラクターたちのテーマ曲のアレンジに携わっており、アレンジ作品は実際にゲーム中のオンラインを含む対戦モードなどでBGMとして選択できる他、作中の音楽室でも鑑賞することができる。
同アレンジは本サウンドトラックにも収録されており、二枚組のCDのうち「 ARRANGE DISC 」に収録されている。また本作が初登場の楽曲についても、本サウンドトラックには先述のあきやまうにによるアレンジが収録されている。
同CDに収録された各楽曲の原作者は、一曲(あきやまうにによる「明かされる深秘」)を除きすべてZUN。
収録されたアレンジ楽曲と編曲者
次の表は本サウンドトラックにおける「 ARRANGE DISC 」に収録された楽曲と各楽曲のアレンジを担当した編曲者の表である。個人名やサークル表記等は同サウンドトラック同梱のシートを参照している。掲載順は「 ARRANGE DISC 」収録順。
曲名 | 編曲者・サークル | 楽器・演奏 | 楽曲関連キャラクター |
---|---|---|---|
二色蓮花蝶 ~ Red and White ※1 | コンプ(豚乙女) | Guitar & Bass:コンプ、Piano:パプリカ | 博麗霊夢 |
恋色マスタースパーク | oiko | 霧雨魔理沙 | |
時代親父とハイカラ少女 | しゃばだば(Sound CYCLONE) | Guitar:しゃばたば、Bass:sou、Piano:HearTribe | 雲居一輪&雲山 |
感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind | NYO(Silver Forest) | 聖白蓮 | |
大神神話伝 | 鯛の小骨 | 物部布都 | |
聖徳伝説 ~ True Administrator | 鷹(CROW'SCLAW) | Guitar & Bass:鷹 | 豊聡耳神子 |
芥川龍之介の河童 ~ Candid Friend | ゆうゆ | 河城にとり | |
ハルトマンの妖怪少女 | 岸田(岸田教団) | Guitar & Bass:岸田 | 古明地こいし |
幻想郷の二ッ岩 | 秀三(石鹸屋) | Guitar & Bass:秀三 | 二ッ岩マミゾウ |
亡失のエモーション | どぶウサギ | Guitar:わさもん、Violin:JUN | 秦こころ |
月まで届け、不死の煙 | ziki_7 | 藤原妹紅 | |
輝く針の小人族 ~ Little Princess | あきやまうに | 少名針妙丸 | |
華狭間のバトルフィールド | あきやまうに | Violin:JUN、Cello:荒井英理也 | 茨木華扇 |
ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師 | あきやまうに | Violin:JUN、Cello:荒井英理也 | 宇佐見菫子 |
明かされる深秘 ※2 | あきやまうに | Violin:JUN、Cello:荒井英理也 |
※1:本曲に関して原作表記では間の空白が「_~_」(前が全角空白、後ろが半角空白)であることも多いが、本ブックレットではいずれも半角(「_~_」)で表記されている。
※2:先述の通り、本曲のみ、原曲はあきやまうに作曲による。セルフアレンジ。
デザイン
本CDにまつわる各種シート及びCD表面には先述の通り春河もえによるデザインが描かれている。
メインシート
三つ折りのメインシート背表紙には同作に初登場した菫子が正面を向いて着席する様子が描かれている。
背面には赤色のカーテンが全体の八割から九割ほどまで引かれており、菫子の周辺には同作中で菫子が使用したアイテムなどが置かれている。
菫子はシート全体の中央に位置し、正面方向に向かってまるで今まさに写真に収められようとするかのようにポーズをとっている。その服装は『深秘録』に登場した際のもので、これは『東方茨歌仙』でも高校の制服として登場したものでもある。
周辺にあるアイテムとしては菫子が実際にアクションで使用したものと類似したバスの標識や道路標識、パンダカー(アニマルカー)、3Dプリンターガン(銃符「3Dプリンターガン」)と思しきもの、タブレットなどがある。
加えて菫子の立ち絵に登場する紫の頭蓋骨が菫子の傍らにある他、大型動物のものと思われる頭蓋骨もある。いずれも実物かレプリカかなどは不明。
さらに東方Projectに菫子が登場するに至る経緯の重要アイテムであるオカルトボールと思しき紫色の玉もまた菫子と共にある。
なおこのとき菫子の座る椅子とマントが掛けられたサイドテーブルは趣のこもったものであるが、それ以外のアイテムがテーブル代わりにしてるものはいずれも学校などで使用される事の多い金属製のパイプと木材からなる椅子である。
これは菫子の今の年齢的社会的状況・境遇とその活動がどのようなものであるかが象徴的に描かれるシーンともなっており、オカルト的な、例えば覗き込んでしまえば「 現実世界から帰れなくなりそうな 」(ZUN、『東方外來韋編』)要素と、学生生活という菫子にとっての現実という両端なシンボルが同時に描かれているシーンでもある。
各シート・帯
本作に同梱されたシートは主に先述のメインシートを除くと背面のシートと全面のクリアシートの二つである。ここにCDの封の際に背にあたる部分に収まる帯シートが加わる。
このうち、クリアシートの仕掛けは先述の通り。
背面のシート内側(CDが収納されている側)はどこかの部屋の外側を描いたもので、引き戸形式の扉は閉じられ、窓には内側にカーテンなどの目隠しがあるためか光が遮断されているようなデザインとなっている。
扉には何かの資料だろうか複数の紙が貼りつけられておりその一つには大きな円で囲まれた五芒星のデザインが見られる。
その傍らには「 秘封倶楽部 」と筆書きされた看板が床に立ってかけられている。
この状況を見るとき、ここが本サウンドトラックタイトルにもある(宇佐見菫子の)「秘密の部室」なのかもしれない。そしてその扉の向こうに、メインシートに描かれた菫子の「秘密の部室」があるのかもしれない。
一方でその窓面には「 要 立ち退き 」との張り紙がなされており、この場所が失われようとしていることを窺わせるものともなっている。扉の横の積み重ねられた段ボールも、この勧告と関連があるのだろうか。
そしてシート外側(パッケージ全体の裏側)にはメインシートで菫子が座っていたと思しき椅子に菫子のものと同種の帽子だけが残されている。
この時、リボンの位置が菫子が着用していた状態とは異なっているが、椅子から立ち上がって椅子に対して正面を向き、そのまま帽子を脱いで着座部分に降ろすと確かに同デザインのような位置にリボンが来る。
帯シートについては、表の面に特徴的な金色のマークがある。
これは瞳のようなベースデザインの中央にハートマークがあるというもので、上部にはまつ毛のような三本の意匠、両側面と下部にも意匠がある。中央部分は瞳孔部分が大きなハートで表現された、所謂目がハートのデザインを思い起こさせるものとなっている。
さらにその帯シート裏には片眼を閉じた(ウインクした)霊夢と魔理沙が描かれており、霊夢はお祓い棒を、魔理沙は『深秘録』において自身が使用したラストワード「*ステキ!厠の花子さん!*」にも登場する「 女子 」と書かれた紙を手にしている。
CDデザイン
CD表面にも春河もえによるデザインが描かれており、二枚のCDでいずれも別々のデザインとなっている。
「 ORIGINAL DISK 」にはウインクする菫子が数枚のESPカードを背に描かれている。先述のメインシートではマントを着用していないが、こちらでは着用している。
その表情は明るく、強気な意思が表れたものとなっている。
「 ARRANGE DISC 」には、『深秘録』作中で登場したオカルト・都市伝説、関連アイテムなどが象徴的に描かれている。菫子のプリンターガンの他、白蓮のバイクや霊夢が空間の隙間から飛ばした卒塔婆などが特に分かりやすいだろう。
なお「 ORIGINAL DISK 」と「 ARRANGE DISC 」の両者いずれにも本サウンドトラックのタイトルも記述されているが、その表現やフォントには違いがある。
前者は本サウンドトラックのメインにも使用された表記のもので、後者は『深秘録』作中でみられた特徴的なフォントによるものである。
一方コピーライト表記はその逆で、前者は『深秘録』作中で使用されたもう一種類のフォントに近いもの、後者は本サウンドトラックメインタイトルで使用されているものに近いフォントで表現されている。
「秘密の部室」と「秘封倶楽部」
菫子が『深秘録』以前に結成した秘封倶楽部について、そのつながりは不明(2016年4月現在)ながら上海アリス幻樂団作品にはもう一つの秘封倶楽部が登場する。
それが「ZUN's Music Collection」で語られる秘封倶楽部であり、こちらは宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン(メリー)の二人によるサークル活動である。
こちらの秘封倶楽部も、蓮子とメリーのサークルメンバー二人の手さぐりで作り上げる手作りの二人の活動が語られている。
蓮子とメリーの秘封倶楽部と菫子の秘封倶楽部については、「秘封倶楽部」記事を主体に各種関連記事も参照。
蓮子とメリーの秘封倶楽部に関連して「博麗神主」が文々。新聞に寄稿した「 幻想の音覚 」における「魔術師メリー」関連コラム(『東方文花帖』書籍版)には「 ジュブナイル的な学校でのママゴトっぽい感じがたまらない 」とあり、この曲が「メリー」のテーマであることも相まって、少女たちが作り上げるサークル活動である二つの「秘封倶楽部」には、共通するイメージがあることが語られるものともなっている。
なお、ZUNによるジュブナイル的な想像は菫子の造形にも結ばれていると語られており、『深秘録』における菫子(外の世界)と幻想郷との出会いには「 今の日本の病んでる感じ 」と幻想郷との出会いという側面もあった様子である(『外來韋編』、ZUNインタビュー、「純狐」項)。
一方で「博麗神主」が寄稿した「科学世紀の少年少女」(「博麗神主」の「 気に入っている曲 」の一つ)に関連した記述において、「 科学世紀 」という語を含めそれがすべて「 古いイメージ 」に基づくものであるとしたうえで、「 レトロな服装を着た少年少女が、オカルト紛いの科学に没頭する世界 」の「 幻覚 」を見ている。
そしてこの世界は「 決して明るいものでは無いけど、常に前向きな世界。セピア色の科学 」だと綴っている。科学世紀といえば、当楽曲が初収録された機会も併せて蓮子とメリーの秘封倶楽部を強く連想させるものでもある。
これは菫子の住まう現代的な世界と、「 科学世紀 」とが、例えば「博麗神主」が見る「 懐古主義 」などを通して結ばれ得ることにもなるともいえるだろう。
「秘密の部室」はこの場所と菫子を通して幻想郷を結び、さらにもう一つの秘封倶楽部へと思いを至らせるものともなっている。
「深秘的楽曲集・補」
『深秘録』は2015年5月の第十二回博麗神社例大祭にて初頒布された後、「“Play,Doujin!”」のプロジェクトを通してPlayStation4をハードとしてさらに展開している(以下、PS4版『深秘録』)。
PS4版『深秘録』の展開では初回特典CDとしてサウンドトラックである「深秘的楽曲集・補」が付属した。
PS4版『深秘録』では鈴仙・優曇華院・イナバを主人公としたストーリーが追加されており、併せて楽曲も追加されている。この追加楽曲などを含めたものが本サウンドトラックである。
先述のように『深秘録』では各キャラクターのテーマ曲を多様なサークルがアレンジするという試みがなされており、PS4版『深秘録』においても鈴仙のテーマ曲である「狂気の瞳 ~ Invisible_Full_Moon」について上海アリス幻樂団・黄昏フロンティア以外のサークルによるアレンジが行われた。
このアレンジはビートまりおが行っているが、同氏は博麗神社例大祭頒布版の最初の『深秘録』において何らかの楽曲に関する楽曲アレンジの参加の声がかかったものの参加を見送ったという経緯がある模様で、『深秘録』の情報が公開された生放送などでは、その無念さもにじませていた。
しかしその後のPS4版『深秘録』発表の機会に合わせて改めてアレンジャーとして参加しており、同アレンジ楽曲は本作「深秘的楽曲集・補」にも収録されるはこびとなった。
デザイン
本作には「秘密の部室」同様に春河もえによる新規のジャケットデザインが採用されており、上記の「秘密の部室」にみる菫子の様子を意識した様子が描かれている。
ただしメインキャラクターはPS4版『深秘録』で新規に参加した鈴仙。
菫子以上に挑戦的な笑顔の表情で、その前のめりの姿勢もあって好調そうである。
手の基本的な位置や体勢などは「秘密の部室」の菫子とも類似するが、先述の姿勢など含め指先などの細かな表情の違いに鈴仙らしさがにじみ出ている。
この他の違いとしては組んでいる足の上下が異なる。
周辺に自身に関連するアイテムを備えている点も共通しており、椅子に乗せた菫子の3Dプリンターガンの位置には同じく椅子に乗せた鈴仙固有の銃器をおいている。
「秘密の部室」では菫子のマントやタブレット端末、オカルトボール等のアイテムが置かれていたが、鈴仙については薬売りの際の衣装やつづら、餅つきのための杵と臼(月都万象展などで餅つきを披露した)、臼から延びるくねくね(PS4版『深秘録』でかかわった都市伝説)が見られる。
鈴仙が着席する椅子についても、その朱色のカラーリング含め、鈴仙の原点である月の都の文化のような中華風の意匠が見られるものとなっている。
さらに鈴仙はにんじん型クッションを三つ備え、それぞれ自身の背中、足元におき、もう一つはサイドの椅子にそれぞれおいている。
さらに「深秘的楽曲集・補」にのみ見られる要素として、そんな鈴仙の様子を誰かが目にしてしまっている様子もまた描かれている。
シートだけではなくCD自体にもウインクした鈴仙が大きく描かれているなど、「深秘的楽曲集・補」は鈴仙づくしの作品となっている。