※当記事は「呪術廻戦」単行本17巻に当たる148話~152話のネタバレを取り扱っています。 未読の方、アニメ派の方は閲覧注意です。
概要
これだけ置いていくわ あとは捨てなさい
呪力も何もかも私が持っていってあげるから
……一つだけ約束して
「全部壊して」
「全部だからね」
「お姉ちゃん」
『呪術廻戦』第148話から第152話において描かれた禪院真希と禪院真依に起きたあまりにも救いのない悲劇。
経緯
壱
渋谷事変の最中、漏瑚の一瞬の攻撃で上半身を焼かれ、戦闘不能に陥った真希。持ち前の打たれ強さで一命を取り留めたが、家入の反転術式でも火傷の跡が残るほどの後遺症を負ってしまった。
彼女は来たる「死滅回游」に備えて禪院家の次期当主である伏黒恵に協力を仰ぎ、禪院家の忌庫に保管されている呪具を回収するため実家に戻る。
そこで彼女を待っていたのは、歪んだ顔を嘲るように椅子に座る禪院直哉だった。
呪力もなく、呪霊も見えず、さらに(本人曰く)唯一の取り柄である顔にまで消えない傷を負った真希は最早誰の眼中にも無いと辛辣な言葉を重ね、最後に「どうすんの?」と皮肉な疑問をぶつける。
そんな彼に真希は女を顔で判別出来た事を指摘して言葉を返す。
質問に答えようとしない真希に不機嫌な態度をとった直哉の描写で二人の会話は終わる。
場面は変わって禪院家の地下通路を進む真希の姿が描かれる。実の母から戻るように諭され、真希は伏黒から貰った鍵を見せつけて歩を進める。
自分の制止を無視して進もうとする真希に対して彼女は「なんであなたはそうなの?せめて一度くらい産んでよかったと思わせてよ」(単行本0巻にも同じような台詞が描写されている)と母親らしからぬ暴言を浴びせた。
忌庫の扉を開けた真希を待っていたのは大量の呪具ではなく、禪院扇と、満身創痍の真依の姿だった。
扇は伏黒が次期当主となる事に納得がいかず、直哉、甚壱と協力して上層部の通達を利用し、五条悟を解放させようと目論んだ謀反者であるという建前で伏黒、真希、真依を誅殺しようと目論んでいたのだ。
落花の情を応用した居合の構えを取る扇に対し、真希は組屋鞣造の最高傑作である呪力を溜めて打ち出す刀型の呪具『竜骨』で応戦する。
一瞬の隙をついて扇の刀身を折り、攻撃を見舞う真希だったが、彼女の右半身を扇の呪力の刃が深深と切り付ける。
膝から崩れ落ちる真希に扇は「何故私が当主になれなかったか、それは子供のお前達が出来損ないだからだ…!!」 と、あまりに薄っぺらい慟哭と共に理不尽な暴言をブチ撒いた。
弐
内臓が露出する程の深手を真希に負わせた扇は「子が親の足を引っ張るなどあってはならない」と身勝手な説教片手に二人を引きずって歩を進める。
そんな扇に対し真依は「この国では足の引っ張り合いが美徳なのよ」と精一杯の精神力で皮肉った。
真希と真依の二人は訓練と懲罰に使われる二級以下の呪霊が飼われている部屋(甚爾もこの部屋に突き落とされた経験があり、口元の傷はその時にできた物)に突き落とされる。
扇は実の娘二人を「我が人生の汚点」と揶揄し、その扉を閉めてしまう。
絶体絶命の中、意識のない真希の顔に、真依は顔を近づける。
「いつか……こうなるんじゃないかって思ってた」
「最悪」
そう呟き、口付けを交わす。
見知らぬ浜辺の上(恐らくは真依の生得領域)で目を覚ました真希。その隣には真依が座っていた。
「私の術式もう大体分かってるでしょ。でも大きい物とか複雑な物は作れないのよ」
「あの人に斬られた傷もあるし、これ作ったら私死ぬから」
淡々と言葉を放つ真依。
「じゃあね。後は一人で頑張んなさい」
そう言って、真依は海の中へと入っていく。
制止の声をあげる真希に、後ろを振り向き、真依は『何で呪術師にとって双子が凶兆か』について語り始める。
「アンタは私で私はアンタなの」
真依が真希に語った内容は、呪術において一卵性双生児は兄弟姉妹ではなく同一人物とみなされるということだった。
本来なら一人の人間として生まれてくる筈が二人に分かれてしまったため、生まれつき持っていた筈の力も互いが半身であるため半分になっていた。
そのため、何かを差し出して何かを得るという利害が成立しないということ。
そのため真希がどんなに努力したとしても、真依が強くなりたいと思わない限り真希は半端な強さしか手にできない。自分が術式を持っているために、自分がいる限り真希は一生半端者のままなのだと語る。
真依を引き止めようと、真希は荒々しく海へと踏み入り、真依の手を掴む。
しかし、そんな真希の手を振り払い、記事冒頭の言葉で今生の別れを告げて浜辺での描写は幕を閉じる。
残った左眼で涙を流しながら必死に真依に呼びかける真希だったが、彼女は既に事切れていた。そして真希の腕の中では、呪具の刀が形作られていた。
懲罰房を後にしようとする扇が感じたのは中の呪霊たちの気配が消えたという違和感。
そして懲罰房から出てきた真希を目にした彼の脳裏にとある光景がよぎる。
「体が覚えている」
「忘れるよう努めたあの、恐怖」
真依の遺した呪具を手にした真希の姿が甚爾と重なり、扇の背筋に悪寒が走る。呪力至上主義を説く禪院家の扇でも、彼の存在は異質であり、恐怖の象徴だったのだ。
自分の中の恐怖を振り払って己を鼓舞し、術式を解放し『焦眉之赳(しょうびのきゅう)』で応戦する。
「来い!!! 出来損ない!!!!」
今まで吐いてきた中でも最大級の世迷い言と共に刀を振りかぶった瞬間、既に真希の姿は遥か遠くにあり、扇の頭は真ん中から両断されていた。
殺されたことも認識できぬまま崩れ落ちる扇には目もくれず、歩みを進める真希は呪具を構えて呟いた。
「真依」
「始めるよ」
参
連載三周年記念の巻頭カラー。
虎杖や伏黒などの主要メンバーに代わって真希と真依が夕暮れを背景に手を繋ぐ場面が描写された。
当主になる目的を全て失った真希は、真依との最後の約束を果たすため、禪院家を「すべて壊す」為に動き出す。
禪院家の屋敷に半鐘の音が響き、禪院蘭太が甚壱と直哉に扇の訃報と真希が逃走したことを報告する。
地下通路を出て屋敷へと進む真希を禪院信朗率いる術式を持たない精鋭部隊 躯倶留隊(147話にて、この一員と思われる人物が夜蛾を襲撃している)が迎え撃つ。
隊員に囲まれた真希の脳裏に直哉や真依の問いかけ そして真依の最期の呪いの言葉がよぎる。
襲いかかる兵士達の腕や頭部を容赦なく切り裂き、精鋭部隊はなすすべもなく血の海に沈む。
その直後、彼女に最強の精鋭部隊「炳」に属する甚壱、蘭太、そして禪院長寿郎が立ちはだかる。
長寿郎の発現させた両手に押しつぶされ、その隙をついて信朗と長寿郎が襲いかかる。真希は両手に持った刀を宙に投げ、自由になった両手で喉に貫手を見舞い、二人の喉を潰して仕留める。
蘭太の術式である巨大な両眼によって体の自由を奪われ、そこに甚壱が攻撃を仕掛けるが蘭太の力では止めきれず、逆に眼球に強烈な攻撃を受けてそれに連鎖するかのように彼の両目からも血が吹き出す。
蘭太の負傷に驚く甚壱に対して彼は「今の真希は本気を出せば簡単に禪院家を潰すこともできた甚爾と同じ存在になったんだ!!」と決死の様相で甚壱に今ここで真希を仕留めなければならない と訴えかける。
甚壱は空中から大量の拳を具現化させる術式を発動し、真希に大量の拳を見舞う。
大量の土煙が舞う中で 失明した蘭太は甚壱の勝利を確信するが、煙の中から出てきたのは甚壱の生首を手に持った真希の姿だった。
池に首を投げ捨てた直後、駆けつけるや「非道いなぁ、人の心とか無いんか?」と呆れ顔で挑発する直哉に対し、真希は
「あぁ、アイツが持ってっちまったからな」
と、今までの自分は完全に捨ててしまった事を告白する。
一切の容赦なく殺戮の限りを尽くす彼女に、かつての面影は何処にもなかった。
肆
直哉の幼少期の一幕
彼は幼い頃から【天才】と称され、直毘人の次の当主として期待されて育っていた。
そんな彼はある日禪院家に呪力が全くない落ちこぼれと称される男がいると言う噂を聞き付け、興味本位で男の元へ赴く。
しかし直哉を待ち受けたのは彼の期待を裏切るかのように堂々と佇む甚爾の姿だった。
この一件で直哉は甚爾に疑念や嫉妬、そして憧憬などの様々な感情を植え付けられる(直哉の言動には甚爾の肩を持つような描写が所々に見受けられた)。
甚爾亡き今もその感情は変わっておらず、当主になることはもちろん、自分より上の存在に追いつくために研鑽を重ね続けていた。
自分が見下していた真希が自分の目標である甚爾と同じ強さに達した事を認められない直哉は直毘人直伝の「投射呪法」を駆使して彼女を翻弄する。
加速し続けながら攻撃を重ねていく直哉に対し、真希はその攻撃を捌きながら数を数えていく。
脹相に不覚を取った事を思い出しながら更に加速を重ね、重さと速さを力に変えて最高速度で決着をつける作戦に出た直哉に対し、扇から受けた傷と「躯倶留隊」、「炳」、甚壱との連戦による疲労で長期戦は不利だと判断した真希は相撲の構えの一つ不知火の構えで「抱いてやるよ」と挑発し直哉の超高速の攻撃を真っ向から迎え撃つ作戦に出る。
突進を受け止めると読んで真希の背後に回り、最高速で彼女の首を狙って止めの攻撃を仕掛ける。
瞬間、直哉の顔面に真希の拳が放たれた。
彼女は戦いの中で直哉、そして直毘人の投射呪法の『1秒に24回動きを刻む』という特性を見抜き、一撃で直哉を仕留める。
自身のスピードと真希の超人的な筋力が全て乗ったカウンターを顔面に貰い、直哉の顔面は崩壊する。
「この偽物」と言い切ることも出来なかった直哉に真希は「悪い もう一回言ってくれ」と追い打ちをかけた。
跋
直哉を下した後実の娘に怯える母の元へ来た真希は静かに「戻りなさい」という言葉の真意を問い詰める。
しかし、母の返答は「何の話か分からない」という的はずれなものだった。
母の反応に失望したのか、真希はそのまま彼女の喉笛を切り裂いた。
その頃、真希の攻撃から命からがら生還した直哉は、回復する術を求めて屋敷の中を這いずり回っていた。しかしその背後から同じく満身創痍の母親の凶刃が襲いかかる。
背後から刺されて死にゆく直哉(呪いによって死んでいないので呪霊(もしくは怨霊)として転生する可能性もある)の上で母が遺した最期の言葉は走馬灯の中で幼少期の真希と真依を見守りながら言った「産んで良かった」という今までとは正反対の彼女の本心だった。
娘達に辛く当たっていた一方で、女性であること、そして真希と真依の母親であることから謂れのない責任を問われ続けてきたであろう彼女もまた、禪院家の被害者の一人だったのかもしれない。
息絶えた真依を抱えて歩く真希が出会ったのは真依の様子を窺いに来た西宮だった。
一目で状況を理解し、真依の死を涙を流す彼女に真希は真依の遺体を託し、西宮の「これからどうするの?」と言う質問に答えることなく一人歩き出す。
そしてその日、禪院家に不在だった炳6名、灯(術式を所持している炳の銘打ち条件を満たしていない術師)9名、躯倶留隊21名が殺害される。
後日、御三家の五条家と加茂家から総監部に禪院家の御三家の除名が提議される。
総監部はこの提案を保留するが、これにより禪院家は事実上の崩壊を迎えた。
余談
- サブタイトルの由来である諺の意味は「物事を行うときの準備が完全なこと」。また故事成語の「葦を啣む雁」は遠くへ旅立つ渡り鳥が、枯れ葦を口にくわえて飛ぶ事に由来する。
- 扇の「当主になれなかったのは娘達が出来損ないだからだ」という言い分は作者の「直毘人が当主になれたのは単純に呪術師として強いから」というコメントと、そもそも直毘人が当主に就いたのは真希と真依が産まれるより前であるという事実から見ても、完全な筋違いである。
- 151話(参)の終盤の直哉の死亡フラグの立ち方は「仲間が壊滅状態なのに気にもかけない」「いきなり出てきて相手にナメた口を聞く」など完全にあの人と一致しており、Twitterでは「直哉死す」がトレンド入りするという異例の事態が起こっている。
- 単行本17巻では様々な加筆修正(下書きの加筆や真希の負傷した目の位置など)が行われている。その時の巻末コメントは「何事もなかったかのように」。
関連タグ
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