概要
中華文化や道教において、金運や財運を授けるとされる神仙・神明の事。
その絵や像において、金銀財宝を無尽蔵に集める伝説上の鉢「聚宝盆」、縁起物として解釈されたインゴット型貨幣「元宝」やそれを宝塔のように積み重ねた「元寶塔」が持たされる事がある。
督財府
天界にあるとされる、富と財を司る役所。趙公明はここを統括する「督財府中大元帥」に任じられているという。
また、関羽や趙公明、比干を描いた掛け軸を中心に聯(字や文が書かれた垂れ幕)をかけ、燭台や香炉を置いて屋内の礼拝スペースとしたものも「督財府」と呼ばれた。
中国では、一定規模以上の商家には必ずいっていいほど存在していたが、第二次世界大戦後に幾度となく行われた迷信排除施策により廃れてしまった(千葉商科大学学術リポジトリ 趙軍「異民族の目に残された歴史の記憶
──日本語ガイド・ブックに記録された旧満洲の建造物・装飾物を中心として」参照)。
財神のグループ
中央とそれを取り巻く方角と結びつけられ、メンバーは「(方角名)路財神」と呼ばれる。
単一の神が「○路財神」と呼ばれる事もある(旗山開基八路財神廟における「八路武財神趙公明」等)。
五路財神
- 中路(趙公明)/東路(簫昇)/西路(曹寶)/南路(陳九公)/北路(姚少司)
明代の神怪小説『封神演义(封神演義)』の最終盤で「金龍如意正一龍虎玄壇真君」に封神された趙公明とその「部下四位正神」たる招財使者(陳九公)、招寶天尊(蕭昇)、納珍天尊(曹寶)、利市仙官(姚少司)からなる。
陳九公と姚少司は作中における趙公明の弟子、蕭昇と曹寶は生前は敵側で、蕭昇は趙公明の硬鞭で直接撲殺されている。
『封神演義』が道教信仰その物に影響を与えるようになった事で実際にこの枠組みで祭祀されるようになった。
- 中路(王亥)/東路(比干)/西路(関羽)/南路(柴栄)/北路(趙公明)
王亥は先商(殷)の君主で華商の始祖。黄帝の曾孫である嚳と共に「高祖」として祭祀の対象となった。『初学記』において牛を飼い慣らした人物「胲」と同一人物とされる。「中斌財神」とも呼ばれる。
比干は殷の時代の王族で帝辛(紂王)の叔父。『封神演義』にも登場する。「文財神」として財神の中でもよく祀られる。
関羽は『三国志』の代表的英傑。忠義と武勇で知られ「関聖帝君」として篤く信仰される。趙公明と同じく「武財神」とも呼ばれる。
柴栄は五代十国時代の後周の第2代皇帝。天界の星神の生まれ変わりとされ「天財星君」ともいう。張果老や呂洞賓の弟子という伝承がある。「君財神」「柴王爺」とも呼ばれる。
『封神演義』由来のリストを「小五路財神」、こちらを「大五路財神」と呼ぶ事がある。
八路財神
五路財神に「天・地・人財神」もしくは「天官財神、彌勒財神、錢袋財神」を加えたものとされる。
九路財神
中央+八方の財神。「大五路財神」に西南、東北、東南、西北の財神を加えたリスト。
- 西南財神(端木賜)、東北財神(李詭祖)、東南財神(范蠡)、西北財神(劉海蟾)
端木賜は一般的には「子貢」の名で知られる。孔子の高弟で「孔門十哲」に数えられる。
李詭祖は北朝北魏6代目皇帝・孝文帝に仕えた役人。太白金星の化身といわれ「財帛星君」の異名がある。
范蠡は春秋時代の越の王・勾践に仕えた政治家・軍人。主君に「春秋五覇」の一人に数えられる程の力を獲得させた功臣。「陶朱公」とも呼ばれる。
劉海蟾は五代十国時代の後梁で役人となり、道士に転じた人物。八仙のメンバーに数えられた事もある。
以上の追加メンバーは全員が「文財神」である。
「小五路財神」に四名を追加したパターンもある。
- 西南路偏財神(劉海)、東北路財神(沈萬山)、東南路大賭神(韓信)、西北路文財神(陶朱公)
劉海とは、民間伝承「劉海戲金蟾」における劉海蟾の別名。「偏財祖師」と呼ばれ、元宝や揺銭樹(お金のなる木)を持物とする。劉海蟾は禅僧ではないが、財神として独自発展した劉海は「劉海禅師」とも呼ばれている。
韓信は漢の高祖劉邦の将の一人で「背水の陣」等で知られる大軍師。賭け事・ギャンブルに御利益のある財神とされる。
沈萬山は明代初期の商人。大富豪として知られ、聚寶盆の功徳によるものだという伝承もある。
十路財神
『封神演義』系の「小五路財神」を「五路武財神」とし、「五路文財神」を合わせたリスト。
「五路文財神」は天官如意財神范蠡、文財神比干、金財神石崇、招財王沈萬山、正財公包拯からなる。
石崇は西晋の官僚。字(あざな)からとって季倫財神ともいう。官僚として大出世し、富豪としても名を馳せたが、商人を殺害して富を奪う盗賊、任侠徒としての顔も併せ持つ。
包拯は北宋の政治家。賄賂が絶対に通じない役人。その厳格さは閻魔に喩えられ、死後に閻羅王に着任したと信仰される。
その他の財神、財神と見做される事のある神
鍾馗:「武財神」や「偏財神」とされる。鬼退治の伝承で知られるが、一方で鬼を使役する神ともされる。鍾馗が使役する五人の鬼は財運を運んでくるという(五鬼搬運)。
福德正神:「土地公」の異称を持ち、土地神としての神徳がメインだが、「福德財神」としても信仰される。
異文化圏の神に対する使用
チベット仏教の尊格のように他文化圏における同様の神徳を持つ神に対しても用いられる。
例えば五柱のジャンバラ(Jambhala)を「五姓財神」、各メンバーを緑財神、白財神、黄財神、赤財神、黒財神と呼ぶという塩梅である。
チベット仏教系の財宝天王(ヴァイシュナヴァラ、毘沙門天、多聞天)が従える「八駿財神」が「八路財神」と呼ばれる事もある。
商売の神であるガネーシャは中華圏では「象頭神(象头神)」と呼ばれる事が多いが「象頭財神」とも呼称する。
オオクニヌシの形象を持つ日本式の大黒天も財神と呼ばれており、台湾・台北市には俵の上に立ち、小槌と袋を持つ大黒天を祀る「台灣大黑天財神總殿」がある。