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軍艦旗とは、海軍が用いるの所属を示すために掲げられるである。

なんの断りもなく軍艦旗という場合は、公海上において常時掲揚する必要のある旗、いわゆる艦尾旗を指す。

概要

日本では明治以来、

軍艦:船尾に軍艦旗、船首に国籍旗

商船:船尾に国旗、船首に社旗等

というルールでやってきたため、これが国際ルールか何かだと思われている場合もあるようだが、実はこれはイギリス式を中途半端に真似ただけの単なる日本のローカルルールでしかない。海洋国際法によって求められているのは、視覚的手段によって国籍を明示することのみで、海軍専用の軍艦旗を使用する必要もなければ軍艦と商船を区別する必要も特にない。どのような艦船がどのような場合にどのような旗を使用するかは国によりけりである。

なお誤解のないように付け加えておくが、謎のローカルルールはどこの国にも多かれ少なかれ存在している。日本が見習ったイギリス式ルールにしても、あまりにも奇抜過ぎて、英連邦諸国にすら完全に準拠している国は1ヶ国もないほどである。

そんなに多いわけでもない軍艦旗

海軍専用の軍艦旗の規定があるのは世界で70ヶ国くらいで、内陸国やカリブ海やオセアニアの小規模国家のように海軍を保有していない国を考えると半々というところである。アメリカ合衆国フランススペインポルトガルオランダといった強力な海軍を保持している国や伝統的海軍国を含めて、軍艦旗と言えるようなものが存在しない事は特別珍しいことではない

「世界で70ヶ国くらい」という雑な数え方に不満を感じる人もいるかとは思うが、軍艦旗のうちに含めていいか微妙な場合が多数あるため、どうしても数え方の問題が出てしまいなんとも言えない。以下は例。

イギリス:ロイヤルヨットスコードロン(ワイト島の名門ヨットクラブ)とトリニティ・ハウス(灯台等を管理する半民半官組織、ただしこちらは限定的)でもホワイトエンサインを使用するため、細かい事を言うと海軍専用の軍艦旗というわけではない。

イタリア:ヨットクラブイタリアーノ(ジェノヴァの名門ヨットクラブ)でもイタリア海軍と同一の旗が使用されているため、重箱のスミをネチネチ突くようなことを言うなら、海軍専用の軍艦旗というわけではない。

ボリビア:かつては太平洋に面していたが現在は内陸国。いまだに海軍が存在し、軍艦旗も実際に使用されている。と言っても実態は陸軍傘下の小規模な河川パトロール部隊でしかない。雑学本などでネタにされがち。

ハンガリー:かつてはアドリア海に面していたが現在は内陸国。いまだに軍艦旗の規定が存在し、陸軍の河川哨戒艇などで実際に使用されている。ボリビアと違って海軍とは名乗っていない。

ウズベキスタンアラル海にソ連から引き継いだごく小規模な舟艇部隊が存在していたが、そもそもアラル海が干上がってしまった。軍艦旗の規定自体はいまだに存在するが、海軍組織は存在しない。

ジョージア:ロシア侵攻時に海軍が壊滅状態となり、それ以来海軍組織が存在しない。ただし軍艦旗の規定自体は現在でも存在している。

類例

実際にどのような旗を軍艦旗として使用するかは国によるが、実際の例を大きく分けると以下の通り。軍艦旗はそもそも公海上で国籍を示すために使用されるものなので当然と言えば当然なのだが、国旗もしくは国旗の一種という国がほとんどすべてである

国旗:国旗に用途に応じたバリエーションというものが特に存在せず、軍艦旗にもその単一の国旗を使用する。アメリカ・ポルトガル・オランダ等多数。

政府用国旗:国旗に政府用国旗と民間用国旗の違いが存在し、政府機関である海軍は政府用国旗を使用する。ドミニカ・ノルウェー・スペイン等。ただし、スペインなど政府用・民間用国旗の使用区分がかなり緩く実質的には前項に近い国もある。

軍事用国旗:一般用(非戦闘用)国旗と軍事用(戦闘用)国旗の違いが存在し、軍事組織である海軍は軍事用国旗を使用する。スウェーデン・フィンランド・ペルーなど。

海上用国旗:陸上用国旗と海上用国旗の違いが存在し、海軍は海上用国旗を使用する。陸上・海上の違いであって、軍艦と商船等は区別されない。フランスとガイアナのみのレアケース。フランスは三色の比が、ガイアナは縦横比がそれぞれ陸上用国旗とは違うだけでパッと見では分かりづらい。

軍事用かつ海上用の国旗:軍事用かつ海上用という狭い用途の国旗が存在し、それを軍艦旗として使用する。狭義の軍艦旗。イギリス・ドイツ・イタリア・ロシア等多数。イタリア・コロンビアのように紋章が微妙に異なるだけだったり、デンマークのように色味が若干異なるだけだったりと、見分けがかなりつけづらい国もある。

国旗ではない:国旗ではない固有の隊旗の掲揚を以て国籍の掲示としている。実はレアケース。海上自衛隊・アメリカ沿岸警備隊等。儀礼上、国旗と同様の扱いがなされる。

掲示方法

艦尾旗と言う名称もあるが、これは艦首旗と対比するための便宜的なもので、国際法上はわかりやすい場所にわかりやすく掲示しさえすれば良く、細かい決まりは特には無い。ただやはり艦尾とメインマスト(と言うか信号檣)が常識的な線ではある。艦尾についてはヘリの発着の障害になるなどの理由で現代では省略する国が多くなりつつある。

戦時国際法では国旗・軍旗・部隊旗等を降納した場合、降伏の意思を示すと言うことになっており、軍艦の場合もこれにならって軍旗を降納した場合は降伏を表すことになる。ただ、実際問題として現代の軍艦が有視界戦闘をすることはまずないので、死文もいいところではある。

降納すれば降伏の意思を示す軍艦旗ではあるが、掲揚したからと言って攻撃の意思を示しているわけではない。ただ単に国際法に従って国籍を明示しているだけである。かつては大きめの軍艦旗(あるいはそれに類する何か)を別途掲げて交戦の意思を示す戦旗とするような国もあったが、日本海軍におけるZ旗と同様の国際法上の立ち位置などが特にないローカルルールでしかない。現代でもアメリカ海軍は無駄に巨大な星条旗を軍艦に掲揚する場合があるが、単に乗員の気勢をあげているだけで、それ以上の意味は特に何もない。

国籍を明示する手段は旗に限定されておらず、船体への塗装などでも一向に構わない。ただ、ホバークラフト等、技術的に旗を使用することが極めて困難な場合以外は極力避けられている。

艦首旗

港湾での停泊時・満艦飾の際に艦首に掲揚される旗。艦隊の先頭艦(ヴァンガード)は公海上でも常時掲揚するイギリス海軍のような例外もあるが、基本的には公海上で使用されるものではなく、国際法上は特になんの決まりもない。フランス・ドイツ・エジプト・トルコのように艦首旗に関して正式な規定が無い国も存在する。

日本では国籍旗などとも言われるが、これは明治期にイギリス式ルールを導入したときの辻褄合わせのようなもので、実際海上におけるユニオンジャックが本来国籍を表しているかと言えば少々微妙なところではある。ただ、現代では複数の国で艦首旗を共有している国は1ヶ国もなく、国籍旗を見て国籍がわからないなどと言うことはない。そういう観点で言えば国籍旗という表現も間違いではない。

オランダでは海軍用艦首旗の海軍艦艇以外での使用を明確に禁じており、民間用船首旗が非公式ながら別途(しかも複数)存在している。曲がりなりにも国籍を表す旗が非公式でいいのかと思うかもしれないが、船首旗にはどうせ国際法もへったくれも無いのでどうでもいい。

イギリスに至ってはユニオンジャックの使用が戦闘艦のみに限られており、民間船はおろか補給艦・給油艦・補助揚陸艦・傷病者収容艦ですらユニオンジャックは使用されない。海軍用艦首旗と陸上用国旗がまったく同一デザインでありながら民間船に厳しい制限をかけるという難儀なルールを採用しているのは、世界中探してもイギリスだけである。なお、どうしても民間船がユニオンジャックを使いたい場合のために通常のユニオンジャックとはデザインの異なる民間用ユニオンジャックが存在する。この民間用ユニオンジャックは本来、水先案内人が乗船している事を示すいわゆるパイロットジャックだったはずなのだが、なんか知らん間になんとなくそういう事になってしまった。

軍艦旗の扱い

こちらも軍旗と同様に、国家元首など統帥権を持つ者から与えられることが多く、非常に神聖な存在として扱われる。

また、国際慣例においては、この旗をマストのトップに掲揚しているときは、戦闘中を表す。

そして、こちらは軍旗と違って唯一無二と言う訳ではなく、掲げられている間は常に強風に晒されるために痛みが早い上、軍旗よりも国際法や慣例において非常に重要な役割を果たす機会も多く、戦闘旗として敵味方の識別にも使用するため常に所属と意匠が明確に判る状態を保てるように予備が用意されている。日本海軍の場合は信号旗を扱う信号兵が傷んだ旗を修繕し、必要があれば補修用の生地で軍艦旗そのものを作ってしまうこともあったようである。

また、何らかの事情で艦を放棄する際は、可能な限り、降納して回収するよう指示されていることが多い。

軍艦旗は、その艦船の戦歴、乗組員の誇りと団結心、闘争心、忠誠心を表す存在として艦内で非常に格別の扱いを受けるということは言うまでもない。

デザイン

既に述べたとおり軍艦旗として特にデザインされた旗を用いる海軍もあれば、国旗をそのまま用いる海軍もある。

  • 大日本帝国海軍・海上自衛隊

言わずと知れた十六条旭日旗

陸軍の軍旗と違って円形がやや旗竿側に寄っている。

海上自衛隊の前身組織である海上警備隊時代は、青い横縞の背景に緋色の桜が入る意匠だった。

  • 大英帝国海軍

イラスト上方に描かれているもの。

前述の通り、白地に赤い十字。その左上にユニオンジャックが収まる意匠。

ホワイト・エンサインと呼ばれる。

  • ドイツ国防軍海軍

赤地に黒い十字が描かれて、十字の中心にハーケンクロイツが描かれる。

中世以降ドイツ騎士団などで用いられてきた伝統がある鉄十字は左上に収められる。

  • ロシア帝国海軍・ロシア連邦軍海軍

斜線が交差する聖アンドレイ十字(Saint Andrew's Cross/Андреевский крест)と呼ばれるもの。

宗教的な意味合いが強く、キリスト教圏で多用される意匠だが、ロシアの海軍では白地に青い斜め十字が入るものが使用される。

社会主義政権時代は、白地に空色の底面、上方に赤い星、鎌とハンマーが並ぶという意匠が用いられた。

  • アメリカ合衆国海軍

独立以来、国旗である星条旗が、そのまま軍艦旗である。

軍艦旗に関する逸話

  • 1801年8月1日に発生したアメリカ海軍のエンタープライズ(三代目)とリビアのカラマンリ朝に所属するポラッカとの海戦では、エンタープライズに接弦斬り込みを仕掛けようとして失敗したポラッカが一度は軍艦旗を降ろして降伏の素振りを見せて接収のために近づいてきたエンタープライズに対し、再掲揚して戦闘を再開するという行為を繰り返して行った。二度目までは成功したものの、三度目はエンタープライズ側が信用せずに戦闘を継続、焦ったポラッカの艦長は手持ちの軍艦旗の予備も含めて海へ投げ入れることで抵抗する意思がないことを示して戦闘を終結させた。
  • 1944年10月25日にレイテ沖海戦で沈没した日本海軍の空母瑞鶴では、艦の放棄に際して軍艦旗の降納が行われ、万歳三唱の唱和があった。この時の万歳三唱をし、降納される軍艦旗へ敬礼する将兵の姿は乗り組んでいた従軍カメラマンによって撮影され、本土へ持ち帰られたことによって、21世紀の現在はデジタルデータ化された画像として見ることができる。

関連項目

軍旗 海軍旗

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