概要
日本語では「ハーケンクロイツ」のほか、「鉤十字」とも呼ばれる。欧米では忌まわしきナチスが国旗として使用したため、その象徴として世界的に使用を禁忌とされている。
1920年、ナチスが党のシンボルを公募した時に選ばれて以来使用、頒布されていた。ヒトラー内閣が成立した1933年には国旗に準ずる扱いとなり、1935年には正式な国旗となった。デザインは、赤地に白い丸を配置しその中にハーケンクロイツを描くというものである。
ちなみに、ナチスの党旗はハーケンクロイツが旗の中央に描かれているが、ドイツ国旗のハーケンクロイツは中心からやや左にずらして描かれているという違いがあった。
アニメ・ゲームなどでも使用自体を避けるか、別のマークに置き換わっている。第二次大戦を主題とする映画では使用されるが、過去に犯した戦争犯罪の重さ故、肯定的に扱うことは不可能に近い。
ハーケンクロイツの置き換えとして良く使われるのは、中世以来、ドイツを中心に使用されてきた伝統のある鉄十字(✠)である。
ちなみに嘗てナチスが誕生したドイツでは、現在ハーケンクロイツを公の場で出すことを完全に禁止されており、展示又は使用すると民衆扇動罪で逮捕される。
鉤の向きを逆にした卍のようなマークのため、非ナチ団体が誤解を避け、卍マークの使用を自主的に制限する例もある。
その為、表現の自由の例外とも言える異端な存在である。
由来
元はトロイ文明の遺跡の碑文に用いられていた文字であり、インド・ヨーロッパ語族でも文明にかかわらず広く伝播していた文字で、この記号そのものに忌避すべき意味は特にない。現在でもヒンドゥー教においてはシンボルマークであり、フィンランドでもメダルや装飾品の飾り文字として目立たないようにあしらわれていたりする。
ナチスがこれをシンボルとしたのは、ハインリヒ・シュリーマンがこの記号がインド・ヨーロッパ語族における宗教的シンボルとみなし、それの頂点に属するアーリア人たるドイツ帝国のシンボルとして相応しいとしたからである。
ただこの記号自体は第一次世界大戦後にドイツ国内で結成された反革命義勇軍・エアハルト海兵旅団のシンボルとして起用されたことがあり、そのほかにも歴史上の各所で使用されていた。
……と言っても前述の通り、ナチスの大規模な人道的犯罪にこのマークが加担していたことは事実であり、現代社会においてこのマークをナチスを抜きにして語ることはほぼ不可能である。
公の場でこのマークを持ち出すようなことはやめるのが賢明である。特にヨーロッパにおいては取り返しのつかない事態に発展する恐れがある。冒頭に書かれてある通り、ドイツではこのマークを提示するだけで犯罪なのだ。ただし「歴史上の資料」として解説を添える形での使用や、マークを燃やす・ゴミ箱に突っ込む・×印を付けるなどそのシンボルが意味するものに対して否定的な評価を下していることが明らかな場合の使用は容認されている。
ドイツ以外ではナチスから直接の侵略を受けたフランスやポーランド、ハンガリー、チェコ、ヒトラーの出身国であるオーストリア、ユダヤ人国家であるイスラエル、そして敗戦後にナチスの幹部が相次いで亡命したブラジルでもマークの使用が規制されている。
そのため欧州で発売されているプラモデルのデカールなどではそのままハーケンクロイツを印刷する訳にもいかないので、分解して印刷しユーザーの手で組み合わせるようになっているなど回りくどい小細工を施して流通させているものも多い。
パロディ
チャップリンの映画『独裁者』では劇中でナチスをモデルにした「トメニア」のマークとして、楕円を縦にして「×」を二つ入れた『ダブル・クロス』なるものが登場する。
このダブル・クロスは「裏切り」「欺き」の意味を持っているという。