『Corolla is Back』
概要
アメリカのカリフォルニア州にて2022年3月31日(アメリカ現地時間)発表された、GRブランドグローバルモデル(ブランド専売車)の4台目に当たる車両で、グローバルモデルとして初の5人乗りのスポーツカーである。
GRヤリスに続き既存の市販車をベースとして開発されており、本車はカローラ / カローラツーリングの兄弟車種であるカローラスポーツをベース車としている。
トヨタにおける世界ラリー選手権といえば古くはセリカ GT-Four、今で言えば130系ヤリスやGRヤリスRally1がよく知られているが、実は最初のトヨタ車のWRC優勝は2ドアのカローラであった。また5ドアのAE111系カローラに至っては、1999年にインプ・ランエボを破ってマニュファクチャラーズ(製造者部門)チャンピオンにもなっている。しかしカローラはただの大衆車というイメージの方が強かったこともあり、栄光の歴史は影に埋もれていった。
そんな不遇なカローラであったが、再び「お客様を虜にするカローラを取り戻したい!」というモリゾウ(豊田章男会長)の強い思いから、GRカローラの開発が始まったとされている。
前述のA111系カローラは市販車としてハイパフォーマンス4WDモデルが設定されることは無かったため、「20年を超えてカローラWRCの市販化だ!」と沸き立つオールドファンも多い。
北米市場では3月にプロトタイプが発表、日本市場でも2022年後半に発売。
また6月1日には社長謹製、レース用タイヤを乗せるために後部座席を外してタワーバーを増設した本格サーキット仕様の『MORIZO EDITION』の限定生産も予告された。この5ドア・2シーターという奇妙なパッケージングで市販された車はルノーのメガーヌR.S.トロフィーRで前例は一応あるが、国産純正車としては初である。ちなみに、GRではこの手の限定生産車は『GRMN』となるのが普通だが、『MORIZO EDITION』となったのは試作車に乗ったモリゾウ(社長)が「野性味が足りない」と言ったのが開発のきっかけだったから、とのこと。
メカニズム
シャシはカローラスポーツをベースとしながらGRヤリスと同様、元町工場の「GRファクトリー」で高剛性モノコックを製造。更にフロアトンネルやタンク下などにブレースを追加することで旋回性能を大幅に引き上げている。
外装はGRブランド共通意匠であるファンクショナルマトリクスグリルを装着。
全幅がフロント60mm/リア85mmとワイドトレッド化され、それに応じてフェンダーもブリスター化。フロントフェンダー後端にはフロントホイールハウスからの空気を整流するエアアウトレットが、リアフェンダーにはリアドアパネルとの段差を整流するためのブリスターパネルが装着される。
ルーフにはGRヤリスと同様にSMC工法で成形されたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ルーフを装備する。『MORIZO EDITION』では構造用接着剤を増やして剛性を強化し、ショックアブソーバーも応答性を高めたモデルが装着される。
エンジンはGRヤリスにも搭載された3気筒ターボのダイナミックフォース・スポーツエンジン「G16E-GTE」が採用されるが、GRカローラ用に高出力化が図られた結果304馬力を発生させる。『MORIZO EDITION』ではさらに高出力化が図られ、最大トルクが400Nmに到達する。
これに合わせてマフラーも制御バルブ付きの「左右2本+センター1本の3本出し」の特異なレイアウトを採る。中央のマフラーは高回転時のみ作動する仕組みである。
トランスミッションはプロトタイプでは6速MTとなっている。『MORIZO EDITION』ではエンジントルク強化に対応し、耐久レースに参戦している水素エンジンカローラに搭載される変速機と同スペックの変速機が搭載される。
駆動系もGRヤリスの4WDシステム「GR-FOUR」を継承するが、あちらが駆動配分のみの制御だったのに対し「駆動配分とは別に、アクセル応答やステアリング制御を変更するドライブモードを設定」したことで、ドライバーの好みや走行環境に応じた選択が可能となった。
マイナーチェンジ
2024年8月1日、北米で発表。
GRヤリスに搭載されたGR-DATを搭載するモデルが登場し、AT限定でも乗れるようになった。また、ローンチコントロールを搭載し加速性能を向上。エンジンは変わらず1600cc直3ターボを搭載するが、トルクは400Nmに向上。セッティングも見直された。さらにフロントグリルもGRヤリス同様の見た目になっている。
インテリア周りはスパルタンな見た目に変わったGRヤリスと違いそれほど大規模な変更はない。
モータースポーツ
社長のプライベートチームである「ルーキーレーシング」が本車の発表に1年先駆けて、ベース車であるカローラスポーツをスーパー耐久へと投入している。
これは「水素を燃焼させて走る水素燃料エンジン車」として、一般メディアでも大きく報道されていたが、この水素エンジンはGRヤリスのG16E-GTSにをベースに水素燃料用の配管類に変更した上で採用。開発が進むに連れパワーが上昇し、最終的には300馬力へと到達させていた。またGR-FOUR搭載・ブリスターフェンダー化・ブリスターパネルを装着しており、「GRカローラのテスト車両では?」と長らく噂されていた。そして発表された本車とPVを見る限り、その噂は事実だったようである。
GRカローラの日本仕様発表に合わせ、2022年シーズン第2戦・富士24時間レースからバンパー類をGRカローラの物に交換。マシン名も『ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept』と改名された。
2023年シーズンからは液化水素を使用した新仕様での参戦を表明。-253度の極低温の維持・水素の気化(ボイルオフ)抑制など課題もあるが、下記の通りメリットも多いことから今後も目が離せない車両となっている。
・圧縮気体(700気圧)と比較してエネルギー密度が約1.7倍
気体の状態より純粋に多くの水素を貯蔵できる為、燃料タンクの小型化と航続距離の拡大が期待できる。
・水素充填に大掛かりな設備が不要
これまでの圧縮水素では充填に必要な700気圧まで昇圧する機材が必要で(大型トラック2台による充填)、充填するスペースもピットエリアとは別で用意する必要がありピットインだけで5分以上掛かることも珍しくなかった。液化水素ならタンク内の気化水素を排気ノズルから排出するだけで液化水素を充填できる為(差圧方式)、ピットエリア内での水素充填が可能になり省スペース化を実現、ピットイン時間も大幅に削減できることも期待される。
・より多くの水素エンジン車に供給可能
それまで圧縮水素のシリンダー(家庭用プロパンガスを封入しているアレ)を束ねて運搬していた水素も液化したまま運搬・供給ができる為、輸送コストも削減ができる。鈴鹿サーキットなどの5時間レースなら23000Lのローリー1台で水素エンジン車7台/1ウィーク分の水素燃料を賄うことが可能だとか。
本車の市販化が発表された翌日に開催された北米で人気のドリフト競技「フォーミュラ・ドリフト」の開幕戦(カリフォルニア州ロングビーチ)に早速投入されてデビューウィンを飾り、日本シリーズである「フォーミュラー・ドリフト・ジャパン」第2戦エビスにおいてもドリフト競技に造詣が深いラリードライバーであるカッレ・ロバンペラ参戦のため、キャロッセが仕立て上げた個体が単走・追走共に他社の追随を許さぬ戦績を残し優勝している。
ただしこの前者は同シリーズで以前参戦していた、エンジン換装・FR化改造を施したカローラスポーツの外観をGRカローラ風に改造、後者も車両規定の範囲内でエンジン換装・FR化か行われたGRカローラであり、純正のGRカローラそのものというわけではない点には注意。
D1グランプリでも2024シーズンからTeam TOYO TIRES DRIFT・松山北斗のマシンとして参戦が決定。やはりドリフト向けに、エンジン換装・FR化が行われている。
なぜカローラで作ったのか
GRカローラを生み出す大義名分は概要にもあった通りだが、大部分の人にとって疑問に思う点として言えることは『GRヤリスではダメだったのか』であろう。
実はGRカローラを先行発表した現在の北米市場では「ヤリスが販売されていない」のである。
超大型ピックアップトラックが販売台数1位常連になるような北米大陸は、元々Bセグメント車が極めて売れづらい市場である。以前北米の若者向けブランドとして存在した「サイオン」でラインナップ拡充の絡みでマツダ・デミオのOEM車両を『サイオン・iA』として販売、後にブランド廃止を経てマツダ2ベースで『ヤリスiA』として販売していた。しかしその後は伸び悩み2020年には順次販売終了し、現行ヤリスであるMXPA10/MXPH10系は北米市場への投入もされていない。
ベース車が存在しないので当然ながらハイパフォーマンスモデルであるGRヤリスも北米市場には投入されておらず、アメリカ本土の自動車愛好家には不満の声が上がっていた。
一方のカローラスポーツというと「カローラiM」の名称でニューヨークモーターショーでワールドプレミアがなされる位には人気車種であり、先述のフォーミュラドリフトの活躍もあって北米におけるカローラの基幹車種として根強い人気を誇っていた。一つセグメントが違うだけだがCセグメントは彼の地では人気で、カローラとともにホンダのシビック・日産のセントラ(日本名シルフィ)が乗用車市場を席巻している。
そういった事情から「カローラスポーツのハイパフォーマンスモデル」はアメリカを起点として情報のリークが行われており、GRヤリスの取扱がない北米市場にとっては切望されていた1台でもあった。
また「4/5ドアで5人が満足に乗れる広さで、値段も高すぎないハイパワースポーツMT車」というパッケージングは世界規模で車好きに根強い人気があり、前輪駆動ならVW(ゴルフ)を筆頭に、ホンダ(シビックタイプR)、ルノー(メガーヌRS)、フォード(フォーカスST)、ヒュンダイ(i30 N)など大衆車メーカーたちがこぞって投入している。
しかしそこに「スポーツ4WDを搭載した」という条件を加えるとなると一気に数が限られる(VW・ゴルフRか、最近生産終了したフォード・フォーカスRS Mk3くらいしか無い)。
手頃さが売りの日本車としては『ランサーエボリューション(とエボワゴン)やインプレッサWRXSTi・WRXSTIがいずれも500万円台未満からあったが、いずれも今は生産終了で中古車しかない…』という有様で、『GRヤリスは確かに欲しいけど使い勝手が…』と「帯に短し、襷に長し」な状況が続いていた。GRカローラはそうしたニッチな要求を埋められるモデルという面もある。
余談
GRカローラのワールドプレミアは2022年3月31日なのだが、日本時間では日付変更線を跨ぐ都合から「4月1日」のワールドプレミアになっていた。
…よりにもよってエイプリルフールに情報公開されてしまったこともあり、このワールドプレミア自体が偽情報だと取られかねなかった為、情報公開と共に「4/1に空気読まずすいません。」と謝罪ツイートも添えられていた。
関連動画
北米発表・ワールドプレミア
日本仕様発表PV
液化水素GRカローラ開発史
2023年フォーミュラードリフトジャパンの映像
関連タグ
カローラスポーツ:ベース車両。
GRヤリス:エンジン・駆動方式など多くを継承している。