概要
和名 | オニテナガエビ |
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学名 | Macrobrachium rosenbergii (De Man, 1879) |
分類 | 節足動物門汎甲殻亜門多甲殻上綱軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目コエビ下目テナガエビ上科テナガエビ科 |
体長 | 30㎝以上 |
分布 | 日本には産しないが、養殖個体の逸出と思われるものが浜名湖や西表島などから散発的に記録されたことがある。国外では西部太平洋からインド洋の亜熱帯・熱帯地域(オーストラリアからインドまで)。また養殖個体の脱走や遺棄などで世界各地で外来種化 |
名称
漢字表記は鬼手長海老・鬼草蝦。
種小名rosenbergiiはドイツの博物学者ヘルマン・フォン・ローゼンベルク(Hermann von Rosenberg 1817–1888)への献名。
英名はGiant Freshwater Prawn、Giant River Prawn、Malaysian Prawnなど
漢名は淡水長臂大蝦、羅氏沼蝦、泰國蝦、など。
形態
南米産のM. carcinusと並んで世界最大級のテナガエビであり、雄成体は第2胸脚(腕)を伸ばした状態では50㎝以上になる。
体色は黄色みがやや強い黄褐色や茶褐色。第2胸脚は鮮やかな藍色から群青色で、全体が青く染まるものもいれば、指部のみ色が薄く、特に可動指が赤褐色や橙色に染まるものもいる。。尾肢(尾扇)も同系色だが、やや色が濃い場合が多い。頭胸甲には薄い縦条が走るが老成個体では殆ど消失する(若い個体や、後述の多型では比較的明瞭)。腹節には尾肢と同色の横帯を呈する。
額角は細く、先端はやや上方に曲がり、触角鱗先端には達する。上縁歯数は11~14(頭胸甲上には2歯)。下縁歯数は8〜11。
第2胸脚は左右相称形だが、長さが僅かに違う場合が殆どである。掌部断面は円筒形。全体に鋭利な小棘を多数呈する(コンジンテナガエビのものと比べて明らかに大きい)。可動指・不動指ともに先端が内側に彎曲し、咬合面に目立つ歯はない。可動指は剛毛で覆われる。。可動指は掌部と同等から1.2倍程度、鉗は腕節の1.5倍程度、掌部は腕節と同等。
生態
変態を終えたばかりの稚エビと老成個体はマングローブ内の水路などの汽水域に多く、若い個体は淡水域に多い。
基本的には夜行性で、昼間は岩陰や流木の下、抽水植物の根元に潜み、薄暮時から夜間に掛けて特に活発になるが、薄曇りの日には日中に活動することもある(特に若い個体)。
食性は肉食性が強い雑食性で、小魚や貝類、同種を含めた甲殻類を好み、水草や藻類なども食べる。動物の死体にも群がるため、捕食者と同時に分解者としての側面もある。
雄は社会的関係による多型が知られている。
・小型雄(Small Male:SM。これとは無関係。これとも):第2胸脚は歩脚と同大で小さく透明。頭胸甲に緑がかった明確な黒縦条が走る。雌と区別が難しい。
・中型雄(Orange Claw:OC):第2胸脚が橙色で体長の0.8~1.4倍程度の長さになる。頭胸甲の縦条はやや薄れる。
・大型雄(Blue Claw:BC):第2胸脚は青く長さは体長の2倍以上になる。頭胸甲の縦条殆ど消失する。老成個体とほぼ同義。
BCとOCは縄張りを持ち、BCはOCを排除し、OCはSMを排除する。SMは群れていることが多い。またBCの存在によって、OCはBCへの変化を、SMは成長そのものを阻害される。これら全ての雄は性的には活性で、BCは交尾前脱皮を終えたの雌を保護し、OCとSMは雌の保護をしない(つまりはこれ)。
一見するとBCが子孫を残す上で有利に見えるが、雌の保護中は他の雌を求めることが出来ず、また体サイズが大きくなることで、天敵に襲われる確率が寧ろ高まる(目立つことや瞬発力が劣ること、可食部が多く積極的に狙われることなど)ことや、採集脱皮の失敗率が高くなることなど、OCやSMに比べて不利な面もある。
(これも逆に、そのような不利な条件の中で生き延びてきたBCは、生存に於いて有利な遺伝的性質や形質を持つ可能性が高いという、ハンディキャップ仮説の一例と見做しうる)。
この多型は、遺伝的に決定されているものではなく、ある個体群からBCを取り除くと最も体サイズが大きいOCがBCに変化する。
(表現型可塑性とよばれる現象である)
繁殖期はほぼ周年で、栄養状態が良いと1年間で5回も繁殖を行うこともある。1回の繁殖で雌は長径0.5㎜程の卵を10000~50000卵ほど抱える。卵及び幼生の発生には海水と同等から50%の塩分が必要。齢数が若ければ若いほど、高塩分・高温度を必要とする。産卵から3週間以内に孵化し、それから1ヶ月程度で稚エビとなる。
性成熟には1年程度を要し、寿命は5年以内とされる。
人間との関係
クルマエビを通り越して、小ぶりのイセエビと同等の大きさの本種では、ステーキや鉄板焼き、バーベキューとしても賞味され、小ぶりな個体は唐揚げや塩ゆで、あるいは剥きエビにして炒め物やスープにも向く。いずれの品々も非常に美味である。
温暖な地域を中心に世界各地で養殖が行われているが、カリブ海地域やアフリカ沿岸などで、養殖場から脱走または遺棄された本種が外来種化している事例が知られている。
また、イエローヘッド病などウイルス性の甲殻類疾患の感染源となり得る(放置すると生態系ピラミッドの底辺を支える小型のエビ・カニが感染・死滅することが考えられ、最悪生態系そのものが崩壊してしまう自体もあり得る)ことが指摘され、日本では本種を含めたテナガエビ科のエビは水産資源保護法により、生きたものと養殖用飼料に供されるものについては、輸入が規制されている。
これらの問題を解決する方策の一つとして、閉鎖循環式養殖(飼育水を循環濾過して、外水面に放出させない養殖方法。水質を適宜検査することで病原体の蔓延を防ぎ、立地を選ばないため、マングローブや干潟を中心とした沿岸の自然環境保護や、過疎地の雇用創出などに繋がる)が世界各地で行われており、日本でも山梨県や岡山県などで、新たな地域特産品としての開発が行われている。
葛西臨海水族園やアクア・トトぎふなどで飼育展示されている。また、ペットショップや熱帯魚店で売られることもある(かつてはタイやシンガポール、インドネシアなどから輸入されていたが、現在は前述の事情により国内で養殖されたものが主に流通する)。大型雄の場合、最終的な飼育容器は90㎝水槽程度のサイズが必要になる(雌や小型雄の場合、60㎝水槽程度でも飼育可能)。低温に弱いことと(水温18℃で動きが鈍くなり、12℃で仮死状態、8℃で凍死)、調子が上がらない時は、海水の25%程度の汽水を用いることなどが飼育のポイントである。