概要
一般的に、近世以前の文書によく見られる、草書・隷書・楷書がくずれた字体で書かれている文字のこと。多くは草書の字体が基となっている。奈良時代までの公的記録では、楷書で記されたものが多い。(記録方式として、万葉仮名や宣命体がある)平安時代以降、土地の売買や日記などで使用され始め、中世では武家の文書を中心に、公家の日記や上皇・天皇・皇族の手紙(院宣や女房奉書・綸旨・令旨)などもくずし字で書かれるようになる。
鎌倉・室町時代には幕府や将軍の命令を伝える御教書・下知状がくずし字で記された。この頃の文書の書体は定型に乏しく、時期や筆録者によって様々な書体のものやくずれていないものもあったが、江戸時代の武家文書では、御家流と呼ばれる中世の青蓮院流の流れを汲む流派の書体で記されることが恒例化した。
草書体で縦書きの書状で、「有之候者」「恐々謹言」など定型文・書留文言の複数の字が、一見すると「~~」と繋がって一体の文字のようになっている場合があり、それらは連綿体と呼ばれる。
なお、公家や武家、近現代の政治家などが用いる筆記のサインに花押があるが、これもかつて自分の姓名を草書体で署名していた習慣に由来し、芸術性や偽造防止のための独創性を付け加えた形式へと発展していったことで誕生した。
前近代の識字率は現代に比べて低いが、文字が読める階級の人々は、執筆に当たって書道の流派や流儀をより独創的に表現することを意識していたため、一つの文字でも様々な形のくずし字が生まれた。明治時代にもくずれた書体の文書は私的な手紙・日記などで見られる。むしろ、近代のくずし字の方が、江戸の公文書のような決まった書式の範例が無く、筆者ごとに崩れ方の個性が強まってくるため、解読には一層苦労する。
また、漢字のくずし字を字母として、平仮名や片仮名が生まれた。9世紀以降発展を遂げた平仮名には、その母体である万葉仮名に様々な種類のものがあった。例えば、「ア」の音を表すものにも「安」「阿」「悪」などがあり、それらが併用されていた。しかし、近代の国語教育では字体の統一が行われ、標準の字体以外は使用されなくなった。この時期以降、使用されなくなって現在に至る字体の仮名を総称して変体仮名と呼ぶ。
読み方のコツとして、書き始め(起筆)・書いてる途中(送筆)・書き終わり(終筆)のうち、起筆・終筆は現在の書き順と同じであるため、両者の筆遣いを意識して覚えること、部首・旁の形をまず把握し、その組み合わせで該当する字を探すこと(例えば、「イ」や「氵」のくずし字と、「中」のくずし字をそれぞれ覚え、該当のくずし字が「イ中」の形であれば仲、「氵中」であれば沖 門のくずし字の中に耳のくずし字があれば聞、日であれば間など)など様々なアプローチがある。地道な方法としては、まず部首を覚え、読めない字が出てくる毎に、くずし字用例・解読辞典で調べる方法がある。昨今では、AIによるくずし字解読アプリや、東京大学史料編纂所が管理するくずし字のデータベースを活用する手もある。