解説
CV:長嶝高士
人物像
「時の勇者」の活躍がはるか昔の伝説になった時代が更に進み、もはや神話として語られるようになった現代…という永い時が経過した故に本人も年老いた姿となっている。
最初の復活後は勇者不在で敵無しなハイラルで暴れまわるも、神が入れてきた横槍によって強引に封印させられて挙げ句に欲しかった世界はほぼ水没。
再復活後は既にハイラルも自身の悪行も遠い昔のおとぎ話になってしまった海ばかりの世界で「ハイラルを取り戻す」為に暗躍を始めるという、かつてハイラルの征服者を目論んでいた時代とは真逆の、そして奇しくもかつてのリンクやゼルダと同じ境遇となってしまう。
加えて勇者がいれば邪魔されて野望は達成出来ず、勇者がいない場合に野望をなし得ても上位存在に出しゃばられ無理矢理ちゃぶ台返しをされるという「邪魔が入る入らない以前に、最後はひっくり返される運命で、策を弄して必死に努力しても無駄」という事例を(ハイラルを海底に没収される最悪のオマケつきで)突きつけられたのは流石の彼も思う所があったようで、大きな野望を抱く悪人かつ全ての黒幕という点でこそ他作品と違いはないが、言動の節々からは自身の運命に疲弊した様子を感じさせられ、どこか哀愁漂う人間味の強い人物としても描かれている(そのような意味では何の因果か「トワイライトプリンセス」の古の勇者に近い人物像となったと言える)。
また、「過去の人物」という描写もされており、当代の勇者たちとは大きな世代差(文明そのものの差異)から善悪といった価値観以前に常識自体が根本的に異なっていて、時の勇者とは別の形で相容れない間柄となりそれを自覚して言葉を選んでいるような節もある。ちなみに同じく過去の人物であるハイラル王には明確に敵対視される一方で、豊かだった過去のハイラルに未練を持つ者という共通点を持ち、ある意味では最大の理解者とも言える関係だった。
活躍
「時のオカリナ」にて時の勇者に敗れ、七賢者たちに封印された後(知恵のトライフォースを持つゼルダ姫だけが地上に残された時代)のガノンドロフで、長い年月を経て封印を破り復活を果たすが、人々の願いに応えた神々によってハイラル王国ごと海に沈められ封印された。
しかしまたしても長い年月を経て自力で封印を破り再度復活。賢者たちを殺害してマスターソードの退魔の力を封印すると、沈んだハイラルの復活のためトライフォースを再生させようと企み、魔獣島を拠点として魔物たちを指揮し、大怪鳥ジークロックを使役してゼルダ姫を探していた。
本編の最終局面では、ゼルダ姫の正体に気付き捕らえる事に成功。
彼女を助けに来たリンクと対峙した際は、野心を抱くに至った己の生い立ちを振り返り、「故郷の砂漠の風は昼であれ夜であれ死を運ぶ。だが、ハイラルに吹く風は違うものを運ぶ。ワシはこの風がほしかったのかもしれぬ」と述べた(彼の風のたとえをいまいち理解出来ない島育ちの現代っ子であるリンクの訝しげな表情が何とも言えない)。
そしてトライフォース所持者が再び一堂に会した事に不思議かつ複雑な縁を感じている様子を見せた上でリンクを強襲しねじ伏せるが、「案ずるな、殺しはせん」と告げ勇気のトライフォースを奪い取るだけに留める。
そしてついにトライフォースを揃え、悲願のハイラル復活とその支配が眼前に見えた…と思いきや、トライフォースの「初めに触れた者の願いを叶える」という特性(揃えるのは資格ある者でなければ出来ないが、願いを叶えるのは資格の有無を問わない)を待ち伏せていたハイラル王が利用、トライフォースに先に触れて「過去の地ハイラルの永遠の封印、そしてリンクとゼルダの光り輝く希望の未来」という願いを叶えた事で、一転して大魔王の野望は完全に潰える事となった。
若かりし頃聖地に侵入しトライフォースを強奪しようとした盗賊王が最後の最後でそのトライフォースの願いを横取りされるという因果応報、己が望みを絶ったのがよりによって自分と同じく過去のハイラルに執着していたハイラル王(過去にすがり己の為に復活させようとする元侵略者、後進の未来の為に滅ぼすべきだと悟った元統治者という対比)であり、その代わりに叶えられたのがかつて自身の封印の為に水没させられ滅茶苦茶になった世界の未来と希望というこれ以上無い残酷で皮肉な末路。
三度の敗北にて遂に全てを失ったガノンドロフは、どう足掻いても叶わない野望とその運命に呆れ果て疲れ果ててしまったのか、怒り猛るのでも嘆き悲しむのでもなく狂ったように哄笑。
ひとしきり笑った後、ハイラル王の決断に対し「(神に滅ぼされたも同然の)こんな世界と勇者たちに未来などあるものか、バカげている」と力なく吐き捨てるも、当の子供たちは「笑うんじゃない」と自身を否定し、消えてゆく過去の地を去って自分たちの世界である海へ帰ろうと未来を見据えていた。
もはやガノンドロフにできるのは、彼らの未来がトライフォースの願いに値する程の物なのかを見届ける為に、ハイラル王国最後の残党として立ち塞がる事だけだった。
力強く、疾く、加えて老練されているゲルド族の二刀流の剣技で、リンクとゼルダ姫の二人と死闘を繰り広げるが、二人のトリックプレイにより動きを封じられ、その間隙を突いたリンクのマスターソードで遂に額を貫かれる。
最期
沈みゆくハイラルを背に風の勇者たちがもたらした一陣の風に「フ、フフ…風が…吹いて…おる…」と呟き、力尽きる。討ったリンクが悲しげでやるせないような表情を浮かべていたのとは対照的にその最期はどこか穏やかであり満足げでもあった。
そしてガノンドロフは石となって役目を終えたマスターソードの台座と化し、子ども達の希望を確かに感じ取り未来を託したハイラル王と共に再び海の底へと沈んでいった。以降、この時間軸にてガノンドロフの復活は有り得ないとされる(たとえ復活したとしても本人のモチベーションが皆無であろう)。
色々な意味で往年の彼らしくないなんとも切ない最期ではあるが、これにより前世から続く三者の呪われた輪廻を断ち切る事になったのではないかとファンから推測されており、それが正しいなら風のタクトのガノンドロフは現状における唯一のハッピーエンドと呼べる世界線の立役者となるのかもしれない。