ズムウォルト
ずむうぉると
老朽化・退役が進むスプルーアンス級駆逐艦の後継として計画された艦。
DD-21の計画名通り21世紀の駆逐艦に相応しい最新技術を満載、内外から大いに注目された。
その最新技術とは
ステルス性の高いスタイル
昨今の軍艦ではステルス性を持つのが常識だが、本級は非常に徹底しており、上部にいくにしたがって小さくなるタンブルホーム船型に跳び箱状の艦橋構造物が載る、他に例の無い形状をしている。
レーダー・アンテナ類も平面形で艦橋に貼り付ける、火砲は未使用時にカバーをかける等細部も抜かりない徹底ぶりである。
外見とは関係ないが、戦後の艦としては非常に珍しい装甲区画を持つ。
その武装
・155mmAGS(先進砲システム)単装2基
戦後の艦の艦砲はおまけみたいな物だが、これは胸を張って主砲と言える。
LRLAP誘導砲弾を使えば最大射程154kmの対地支援が可能。単価の高いトマホークよりずっと安く大量に投射できる。
・57mm単装砲2基
沿岸警備艇の装備と同じ、対水上対空両用砲。
・Mk57P(舷側)VLS10基80セル
前述の装甲区画の外に配置することで被弾時の損害を抑える新型VLS。
ミサイルの大型化に対応する為セル自体の大きさも現行のMk41に比べ大きくなっている。
SM-2、SM-3、ESSM、トマホーク、アスロック等の各種ミサイルを搭載可能。
・3連装魚雷発射管2基
これは別に最新ではない現行のもの。
統合電気推進方式
一部の揚陸艦と同じくガスタービン発電機で発電してモーターでスクリューを回し、さらに艦内の電源としても使用する方式。略称はIEP。
COGLAGなど、従来の推進用エンジンと発電機を別々に積む方式と違い、エンジンは発電専用でスクリューとは繋がっておらず、モーターのみで推進する。推進用エンジン方式と比べて、水中放射雑音が小さい、発電量が桁違いに大きい等の利点がある。
コンセプト
- 巡航・対地ミサイルと主砲による持続的な火力支援と戦力投射
- 対潜・対艦・対空ミサイルと電子戦による戦闘空間支配
- Sensor-to-Shooterコンセプトに基づく指揮・統制および監視
要するに、圧倒的な戦闘力で迫る敵をねじ伏せながら敵の地上目標に艦砲とミサイルを叩き込む。
最早コンセプトが駆逐艦ではなく戦艦である。
……と、まさにぼくのかんがえたさいきょうの駆逐艦となる筈だったが、技術が追いつかなかった。現実は非情である。
新型レーダーとコンピュータシステムの開発が遅れ(失敗とも)、弾道ミサイル迎撃用のSM-3が積めず、コストと重量低減の為にアスロックと魚雷発射管も非搭載。57mm両用砲は対水上専用30mm機関砲に変更された。更に建造数削減の影響で、155mmAGS用の砲弾も価格が高騰(1発約1億円とも噂される)し、最終的に155mmAGSは撤去された。将来的に搭載を視野に入れていたレールガンは開発中止。更にステルス性を意識しすぎて使い勝手が悪かったのか、アンテナ類が増設された。
これらの結果として武装は…。
・155mmAGS単装2基→撤去→共通極超音速滑空体(C-HGB)発射管(MAC)4基
単価の高いトマホークよりずっと安く大量に投射できる。→トマホーク(米国価格で約3億)と砲弾(約1億)の値段が大差ない状態となり、完全に存在意義を失ってしまった。
将来装備予定だったレールガンは開発中止。
主砲撤去後に極超音速兵器であるC-HGBを搭載予定だが…。なおC-HGBは発射管1基に3発搭載可能なため、最大12発になる予定。
・57mm単装砲2基→30mm機関砲2基
沿岸警備艇の装備と同じ、対水上対空両用砲。→対水上専用砲…つまり対空砲としては使えない。
・Mk57P(舷側)VLS10基80セル
SM-2、SM-3、ESSM、トマホーク、アスロック等の各種ミサイルを搭載可能。→SM-2、ESSM、トマホークのみ搭載(SM-2は2020年に発射実験に成功しているが、常に搭載しているかは不明)。
・3連装魚雷発射管2基→非搭載or魚雷防御システム(?)
魚雷発射管の代わりに、魚雷防御システムを後日装備するためのスペースが確保されているが…恐らく搭載されない。
- 主砲が事実上存在しない。強いて言えば30㎜機関砲だが、これは本来補助兵装で、せいぜい巡視船レベルの武装である。結果として対地攻撃可能な兵装はトマホークのみ(C-HGBが搭載されればこれも含まれる)。
- 対艦攻撃力が低い。元々対艦戦闘能力はそこまで重要視されていなかった(対艦ミサイルであるハープーンの搭載は考慮されていないため)。しかし主砲が撤去され、57㎜砲が30㎜機関砲に変更された事で、小型艦艇はともかく大型艦への打撃力が低下してしまった。一応艦載ヘリにヘルファイヤ(対艦用)を搭載可能な他、威力は劣るがESSM等を対艦攻撃に転用可能(但し、ズムウォルトにその機能があるかは不明)、そして最新型のトマホークやSM-6(両方とも対艦攻撃可能)を搭載できれば解消可能ではあるが…。
- 近距離防空(ハードキル)の手段が無い。CIWSを兼ねていた57㎜砲が、対水上専用の30㎜機関砲に変更された事で、ESSMを突破されると物理的な撃墜が出来ない。電子戦によるソフトキルや、チャフとフレアによる回避は可能だと思われるが…。
- 対潜戦闘が不可能。アスロックや短魚雷を搭載していないため、対潜戦闘が出来ない(一応、艦載ヘリに短魚雷を積めれば可能)。
当初の計画及び就役時からすると、見るも無惨な状態となってしまった。
開発の難航・遅延から建造費も高騰し、1隻あたり30億ドルとも50億ドルとも言われている。
当然スプルーアンス級の後継として30隻近くが予定されてた建造数は3隻で打ち切られることとなった。
ちなみに代役はさらなるアーレイ・バーク級の建造で補われる模様。
さすがにいらん子扱いのまま遊ばせておくのも勿体ないと感じたのか、2023年8月にドック入りし、主砲の155mmAGSを撤去し、極超音速兵器となる「共通極超音速滑空体(C-HGB)」の搭載が行われる予定……お前のような駆逐艦がいるか。
こうなった一番の問題として、新しい技術を当てにし過ぎた面は否めないが、それ以上に当初計画時から実際の安全保障環境の想定が変わってしまった点が大きい。
戦艦のようだと言われがちなズムウォルト級だが、当初予定からハープーンを積まないなど、洋上で同規模の敵艦隊と激突する事は殆ど想定しておらず、敵と想定する武装勢力や途上国でも保有できる対艦ミサイルや自爆ボート、ドローン攻撃などをねじ伏せながら対地攻撃を行う、非対称戦に特化した艦である。
だが現実では対テロリスト戦闘は続いてはいるものの、アメリカの撤退により海軍が出張るような頻度はぐっと減り、代わりに中国海軍が質量ともに想像以上の発展を遂げて大きな脅威となり、同時に一時は雪解けに見えたロシア海軍も中国と組んで引き続き脅威となっており、完全にコンセプトが時代に合わなくなってしまったのである。(そのため同時期に計画された沿海域戦闘艦もコンセプトの失敗とされている。)
タイコンデロガ級の後継として本級の設計を流用した新型ミサイル巡洋艦CG(X)計画があったのだが、2010年に計画自体がキャンセルされている。
一応日本の海上自衛隊では、イージスシステム搭載艦というズムウォルトよりも大きい護衛艦(駆逐艦)が計画されており、VLSの数や多種多様なミサイル、短魚雷、将来装備(レーザー、新型ミサイル)の搭載等、ズムウォルト(計画段階)に若干近いコンセプトの艦とも言える(流石にズムウォルト程極端なステルス設計ではないが…)。
ズムウォルトと異なるのは、今はまだ無い技術の運用を前提としていない点である。
なお過去のアメリカ海軍では、原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチも似たような失敗をしている。こちらも新技術を多数投入し、当初の計画ではほぼミサイルのみを運用する予定だった(流石に軍内部やケネディ大統領から疑問視され主砲を搭載)、更にはポラリス弾道ミサイルを搭載する案すらあった。因みにズムウォルトが搭載予定のC-HGBだが、この発射実験にはポラリスを改造したものが流用されている。
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