概要
かつて中南米を支配していたアステカ帝国および、周辺国家や民族によって宗教儀式などに用いられていた幻覚毒を持つ、所謂マジックマッシュルームと呼ばれる毒キノコの呼称であり、冬虫夏草のように背中からキノコが生えた人間や、キノコの柄の部分に顔がある石像が残されている。
さらに芸術神といわれるショチピリの図像にも、こういったキノコが描かれているという。
ナワトル語で「神の肉」という意味で、アステカ王が他国の王族をもてなす際や、宗教儀式においてしかるべき作法にのっとって摂取され、それから得られた様々な幻想を神のメッセージとしていたとされる。
また戦争に赴く戦士や生贄にされる捕虜にも用いられ、恐怖心を捨て去るほどの高揚感や陶酔感を得ていたと、植民地を築いたスペインから訪れた宣教師たちが記録している。
メキシコに渡った16世紀の植物学者フランシスコ・エルナンデスが、そうした聖なるキノコとされるものは3種類あると報告しており、それは「戦いと悪魔を追い払う力を持つもの」「コントロールできない笑いを引き起こすテイフインティと呼ばれるもの」「とても稀少で徹夜で採集地に向かうほどのもの」で、現在では氏の手稿が焼失してしまったため効能や形状など不明な点が多い。
さらに、同時代にメキシコの風習や文化を61年に渡り研究したというフランシスコ会のベルナルディーノ・デ・サアグンは、「ナンドカトル」と呼ばれる小さな黒いキノコが儀式に使われたと記載したが、どの種のキノコがそれにあたるのかは諸説ある。
この他、アステカ帝国や近隣諸国ではペヨーテと呼ばれる有毒サボテンを摂取したり、リュウゼツランから作られたアルコールを直接腸内に吸収させる方法で酩酊状態を作り出すなど、外科手術にも耐えうる独自の麻酔技術を発展させていたといわれる。
西欧社会の常識では計り知れないアステカ帝国やマヤ王国などでの、理由が不明である早急な遷都や生贄を重んじる思想は、このような幻覚キノコや植物の摂取によって、行動の指針が決められていたからではないのかという説もある。
近代になっても一部の地域ではこのキノコを用いた宗教儀式が続けられており、民俗学者によるフィールドワークによって体験談が発表され、ヒッピームーブメントなどに大きな影響を与えた。
関連タグ
テオ・テスカトル/ナナ・テスカトリ:『モンスターハンター』に登場するアステカ神話の神テスカトリポカとナナワツィンの名がモチーフだという古龍種。