概要
「私はニック・カッター。8年前失踪した妻ヘレンは、時空の亀裂を通り抜け、過去の世界に足を踏み入れていた。今、過去の生物が人類の未来を脅かしている。それを知るのは調査チームのメンバーだけだ。」
この主人公ニック・カッターの台詞が簡潔に作品の内容を解説してくれている。
イギリスで存在が確認された時空の亀裂(いわゆるワームホールや時空間の裂け目)から現代に侵入する古生物や未来生物を相手に、人類の安全を守るため政府が組織した調査チームが立ち上がるという内容である。ドラマであるため脚色も多いが、古生物の描写として厳密な箇所も多々見られる。
なお日本で放送したNHKが"恐竜SFドラマ"と銘打ったためそう呼ばれることも多いが、実際に正しい意味での恐竜が登場することは多くない……が、大概の視聴者は気にしていない。
歴史
『プレヒストリック・パーク』などの古生物ドキュメンタリー番組を数多手掛けてきたインポッシブル・ピクチャーズ社がそれらで培った経験を活かして製作したSFドラマ。筆頭脚本家は『マスケティアーズ パリの三銃士』が代表作のエイドリアン・ホッジス、プロデューサーはティム・ヘインズ。2人で2000年代前半に既に企画を立てており、BBCに持ち込んだが却下されてしまい、ライバル局であるITVで放送に至った。
なおBBCではこの頃ラッセル・T・デイヴィスが怪物的なSFドラマ『ドクター・フー』のリブートを始めようとしており、さらに2005年から放送に至ったため、『プライミーバル』製作陣やITVも『ドクター・フー』とBBCを意識するようになる。
2007年2月に第1章第1話「太古への扉」が放送。その後2008年に第2章、2009年に第3章が放送された。第3章の終了と共に打ち切りが決定したものの、昔の敵は今日の友と言うべきか、BBCや海外の放送局がスポンサーに就いて2011年に第4章と第5章が製作・放送された。全5章。
2012年には『PRIMEVAL NEW WORLD』という題でカナダ版スピンオフが製作されたが、こちらはダークな雰囲気がウケなかったのか1シーズン限りで打ち切られてしまった。同作は2016年に日本でもDVDがリリースされたが、その際の邦題は『ジュラシック・ニューワールド』という映画『ジュラシック・ワールド』のパチモンのようなタイトルであった。
主な登場人物
調査チーム側
ニック・カッター
主人公。セントラルメトロポリタン大学の古生物学教授で、ゼミに全く顔を出さない放任主義者。実力は相当のもので、現場の状況に基づいていち早く侵入した生物や亀裂の通じる時代を特定する、状況ごとの最適解を導く能力に長けている。その手腕や異常現象を受け止める臨機応変さが買われ、調査チームのリーダーに抜擢される。ただし女に関する判断能力は高くないとのことで、まあ奥さんを見れば納得できる。
第3章では超人的な知性を用いて亀裂の発生を予測する3Dモデルを製作し、「私の考えが正しければ第一の預言を授けられそうだ」とまで豪語する。しかしそれは彼の暴走の一部を体現していたのか、やがて彼が劇中最大のヴィランにもなりえた可能性が浮上する。
スティーブン・ハート
ニックの助手。銃の扱いに長けた肉体派のイケメンで、一時期はヒロインのアビーからも好意を寄せられていた。ニックの相棒として行動を共にし、彼が改変された世界の歴史を元に戻そうとした際にはド正論で彼を押し留めている。
しかし第1章最終話でニックの妻ヘレンと不倫していたことが暴露されており、残念イケメンな一面もある。
コナー・テンプル
ニックの教え子。第1章時点では『スター・ウォーズ』や『ギャラクティカ』が大好きな、古生物学専攻のヲタク大学生であった。しかし何故か第2章からは工学の才能に目覚め、政府機関に役立つ発明をいくつもした上、電磁気学の世界的権威から一目置かれる存在になる。異世界転生か?
アビー・メイトランド
本作のヒロイン。格闘技を得意とする女子力(物理)な人物で、必要があれば古生物や未来生物を鉄拳制裁して場を切り抜けることもある。一方で前職は動物園の飼育員であり、仮に危険生物であっても動物の幸せを重視した行動を採っている。
クローディア・ブラウン
内務省の女性職員。ディーンの森から報告された怪物騒ぎの調査をニックに依頼したことをきっかけに調査チームと出会い、レスターと調査チームの間の橋渡し役になる。次第にニックと惹かれ合ってゆくが、彼女の存在は第2章と第3章に爪痕を残すことになる。
ジェームズ・レスター
調査チームに指示を下す内務省の官僚。第1章時点では無実の罪を民間人に着せて事態を揉み消す、重要参考人の人生を破滅させても良いと脅しをかけるなど、問題解決のためには黒い手段をいくらでも取れるような人物として描かれている。しかし第2章で亀裂調査センター長官となってからはジョークを口にする場面が増え、第3章にもなるとカワイイ系おじさんの地位を確立してジョーク担当の座をほしいままにしている。
ジェニファー・ルイス
第2章で亀裂調査センターに揉み消し担当として雇用された広報ウーマン。容姿はクローディアに瓜二つであり、ニックにクローディアと呼ばれることも多々ある。婚約者がいたが亀裂調査センターの不規則な業務を不倫と疑われて破局。第3章以降ではニックに接近するが、後に亀裂調査センターを退職し、ニックとクローディアの呪縛から解放される。
ヒラリー・ベッカー
第3章から登場する特殊部隊の大尉。スティーブンに続くイケメン枠かつ武闘派枠であり、第4章ではジェスから何度もアプローチを受ける(なおベッカー自身は気付いていないが)。調査チームの安全を守ることが使命であり、極力生物を生かして返そうとするニックやアビーとは意見が食い違うこともある。
サラ・ペイジ
第3章から登場する女性考古学者。ニックのような"古生物学者"ではなく人文科学を専門分野としているため注意されたい。博士課程修了後博物館に勤務していたがあまり良い待遇を受けられずにくすぶっていたところ、ニックたち調査チームと出会い、亀裂調査プロジェクトに考古学的アプローチをもたらした功績を買われてチームに配属。特に第3章第7話「ドラゴンと騎士」では中世から亀裂を通ってやって来た騎士の対処で活躍する。
ダニー・クイン
第3章から登場する元刑事。14歳の弟が廃屋で未来生物に襲われて行方不明になっており、事件を捜査しているうちに調査チームと出会う。事件の真相を知ってからは生物を打倒するため調査チームに所属し、学者であるニックよりもアクションを使った調査をする。
マット・アンダーソン
第4章から登場するチームリーダー。
その正体は破滅した未来からやってきた未来人であり、破滅の未来に繋がる過去を改変するため、現代でその滅亡の原因を突き止め阻止しようとしている。
ジェス・パーカー
第4章から登場するオフィスガール。コンピュータの扱いに長け、コナーが不在の間に亀裂調査センターのコンピュータ担当を請け負った。ベッカーに好意を寄せているが、上司であるレスターとも腐れ縁のような関係にある。
エミリー・マーチャント
第4章から登場する、19世紀ヴィクトリア朝出身の女性。イーサンと共に現代に到来して彼の脅威をマットに伝え、成り行きで数件の亀裂調査プロジェクトにも参加する。
ヴィラン
ヘレン・カッター
ニックの妻。本編の8年前に死亡したと思われていたが、実際には時空の亀裂やそこから侵入した生物と出会い、太古の世界への憧れや知的好奇心からタイムトラベルを続けていた。映画版ジョン・ハモンドのような人物。
……だったのだが、第2章では"人為的に歴史を書き換える"実験を行うためにリークに手を貸したほか、リークの計画が瓦解した後は第3章で彼の部下のクローンを製造して亀裂調査センターにテロ攻撃を仕掛ける、果てには後述の未来生物を歴史から抹消するために根源である人類の祖先を絶滅させるという凶行に出る。第3章が最後の登場となったものの彼女の策略は第5章まで深く爪痕を残し、本作における最大のラスボスにして元凶の1人と言える。
オリバー・リーク
第2章に登場する亀裂調査センターの管理担当。何を考えているのか分かりにくい人物として描写されていたが、終盤にて亀裂が繋がった時代の生物を捕獲して収容施設で兵器化していることが判明する。SCP財団かな?亀裂が発生する現状では金よりも知識と力がものを言うと主張し、古生物や未来生物を完全に制御して強大な力を手に入れようとする。
クリスティン・ジョンソン
第3章に登場するMI6ジャマイカ支部に勤務していた内務省女性職員。内務大臣の指示の下で亀裂調査センターと軍の連携を強化しているが、センターから独立した調査も行っており、時空の亀裂と生物の力を軍のものにしようと画策する。レスターからは"上等な服を着たヴェロキラプトル"呼ばわりされている。第二のリーク的立場。
ちなみに演者のペリンダ・スチュワート・ウィルソンはレスター役のベン・ミラーの元妻であり、第3章でのクリスティンとレスターの攻防は政府を巻き込んだ夫婦喧嘩と見ることもできる。
イーサン・ドブロウスキ
第4章に登場する19世紀イギリスの殺人鬼。2011年のロンドンに辿り着くまでに時空の亀裂を幾つも潜り抜けており、その過酷な生活の中で人間と他の野生動物の区別がつかなくなり、人間に躊躇いなく手をかけるようになった。なお19世紀出身であるにも拘わらず21世紀に知人がいたり、乗用車を難なく運転できたりと、謎の多い人物でもある。
その正体は第3章の14年前に死亡したと思われていたダニーの弟、パトリック・クイン。救助に来なかった兄への身勝手な復讐心を抱える一方、兄との絆も抱いており、愛憎の混じった態度を取っている。
フィリップ・バートン
第4章から登場する実業家兼技術者。第4章から民営化された亀裂調査センターのスポンサーであるプロスペロ社の社長で、室温超電導技術を開発した電磁気学の世界的権威。亀裂から侵入する生物に興味はなく、むしろ時空間に生じる異常現象に注目している。時空の亀裂を世界から一掃するための 新しい夜明け計画 を立案し、技術者として高い能力を持つコナーを高く買い、彼と共に計画に着手する。
第5章ではイーサンによるものと推測されていた世界の滅亡は彼が原因であると判明し、終盤では彼が彼自身気付かないうちにヘレンの傀儡にされていたことが発覚する。
登場する主な生物
第1章第1話「太古への扉」で初登場。
ペルム紀に生息した肉食の単弓類。劇中では車を吹き飛ばしたり牛を殺して木の上に放り上げたりとまさにやりたい放題やってのけた。古生物マニアの間ではイノストランケビアと言われることもあるが、モデルとなった生物はゴルゴノプス・ロンギフロンスであるため注意が必要である。
第1章第2話「恐怖の巨大グモ」で初登場。
石炭紀に生息した巨大な多足類。現実では植物食のヤスデの仲間とされ、劇中でも植物食として説明されているが、どう見ても筋肉増強剤を打った肉食ムカデに似た生物として登場した。全長も実際の化石記録よりも大きい。
第1章第3話「海の怪物」で初登場。
白亜紀に生息した海トカゲ。一般に『ジュラシック・ワールド』で有名になったモササウルスであるが、その8年も前に水面からジャンプして獲物を捕食するシーンを見せている。
第1章第4話「ドードーの悲劇」で初登場。
完新世の飛べない鳥。『ハリー・ポッター』シリーズにも登場する絶滅鳥類であるが、本作では新種(というか未記載種)のサナダムシに寄生された個体が登場し、番組史上に残るバイオテロの元凶となる。
第1章第5話「空飛ぶ殺し屋」で初登場。
白亜紀の翼竜。ゴルフ場上空に開いた亀裂から現代に侵入し、コナーを追いかけてゴルフ場で追いかけっこをした後、ロンドン市街に移動してビル群上空を飛行する。ゴルフ場では綺麗に肉をこそぎ落とされた男性客の惨死体が発見され、プテラノドンは当然その犯人と考えられたが……。
未来の捕食動物
第1章第6話「未知なる獣」で初登場。
満を持して登場したシリーズ初の未来生物で、その正体はコウモリの子孫。種にして哺乳類の三分の二はコウモリまたはネズミと言われており、現在のように季節変化のある状況が続けばこのような生物が齧歯類または翼手目から進化する可能性がある。
容姿は大型で無毛の霊長類に似ているが、性質は遥かに凶暴で残虐と説明されている。劇中では相当の体格差がありながらもゴルゴノプスを相手に優位に立ち回り、片目を潰すという快挙を見せた。ただし常識的な生物としての範疇を逸脱しているわけではなく、銃弾で負傷する描写や遥かに巨大・強大な生物相手には劣勢になる描写もある。
なお、ある登場人物によって人工的に生み出された 可能性が劇中で指摘されている。
視聴方法
Huluやアマゾンプライムで配信されている。