- 曖昧さ回避
- 「作業所」は専用の部屋や領域、設備がなされた、専門性の高く大規模な場所を指す傾向が強い。
- 日本における、精神や身体の障害や高齢などで、一般企業に就職することが困難な人向けに、就労継続支援事業を行っていた施設のこと。
- ↓本記事で記述。
作業所(福祉事業)
日本国では、「日本国憲法」第3章に国民がもつ権利と義務を規定している。
第27条第1項の『勤労の義務』を簡単に言ってしまえば、日本国民は原則として何らかの(合法的な)職業に就かなくてはならず、ニートは認められない。
国民全員が一般企業や団体、組織などに就職・就労したり、フリーランスとして勤務することが理想の一つだが、実際には個人がもつ何らかの障害などで、どうしても仕事が困難な状態になる人が存在する。そういった者は教育や訓練、治療などを経て就労を促すことになるが、それでもなお一般組織への就労が困難という者に対し、働く場を提供する傍ら就職支援を行っていたのが「作業所」である。
現在は法改正により「作業所」という概念は法令上存在せず、就労継続支援事業所が正しい名称となっている。ただし、法改正前の名残で、旧法律時代に設置された事業所は名称に「作業所」表記が残ったままだったり、日常的な会話でも作業所という語を聞くことがよくある。
就労継続支援
一般企業の就労が困難な人に対して仕事を提供し、社会的自立を促す福祉事業の一つ。働くことを通じてさまざまな技術を蓄え、日常生活や就職に活用する。
- 等級区分
- 就労継続支援A型
- 労働者側が事業所に対して雇用の契約を結び、従業員として勤務する。パートタイムや契約社員といった「非正規雇用」で雇われることが多い。
- 就労継続支援B型
- 労働者側が事業所に対し雇用契約を結ばず(=非雇用)、個人事業者に近い形態で勤務する。労働の対価として支払われる金銭は「工賃」と表現される。最低賃金の規制対象外。
- 利用条件
- 都道府県や自治体によって異なる。
旧作業所の機能のうち、就職までの支援を行う事業は『就労移行支援』として分離された。本記事では省略する。
B型作業所のシステム
B型作業所は基本的に完全に就労不可の人が利用するので、B型作業所を利用しながらアルバイトをすることは原則として認められない。どんなに短い期間、どんなに少ないシフトであっても、雇用契約を締結した時点でB型作業所の籍は抜かなければならない。これを破ると公費の不正受給となり、それまでに所要した公費を返還するよう請求され、時に数百万円単位のべらぼうな金額を請求されかねないため、絶対にこの点を甘く見てはいけない。
B型作業所は最大で週20時間以上のプログラムが組まれるが、これはハローワークの障害者枠求人を応募する条件として「週20時間以上就労可能」である旨の医師の意見書を提出しなければならないためで、要はそれを見極めるためのプログラムである。
B型作業所は障害者施設の範囲に入るため、65歳以上の高齢者に該当する者は基本的に障害者福祉より高齢者福祉が優先されるということで、高齢者施設の方の利用の優先度が高まる。
B型作業所の実態
B型作業所は表向きは社会復帰の訓練ということにはなっているが、基本的には一生働けない障害者の居場所、重症精神障害者の再入院防止のためのプログラムとなっているのが実態である。
B型作業所からA型作業所、ピアスタッフ、一般就労まで回復できるのは、よほど生活習慣がしっかりしており体力がある人か、手先が器用で技能のある人ぐらいである。
B型作業所は福祉サービスなので公費が掛かり、極端な話をすると数十年利用している利用者だと相当な公費が掛かるが、それでも通所させることが望ましいのはそうした障害者を一切サポートせずに症状が悪化するままに入院させた方が余程公費が無駄になるためである。
B型作業所は作業を行うところではあるが、基本的には利用者である障害者が家で暇を持て余さないため、家族の世話の負担を軽減するための日中活動施設である。
そのため、作業が底を尽きた際や出来高制の内職作業がままならず戦力になりづらい重症の利用者の処遇に困った際は、元請けへの納品補助や併設リサイクルショップの売れ残りを処分しに行く名目で利用者をドライブに連れて行ったり、時には施設の買い出しや公用車の給油の名目で軽作業扱いとして利用者を同行させたり、併設リサイクルショップの店番の名目で事実上休憩させたりと、一般社会とは根本から仕事の概念の捉え方が異なる。
B型作業所に通所する障害者の中には、公的手続きが能力的に難しい知的障害者も存在する。つまり、B型作業所は公的手続きのサポートを行う性質もある。
B型作業所の工賃では基本的に生計を立てることができないため、基本的には実家の世話になるか障害年金・生活保護を受給するしかない。また、障害者グループホ―ム入居の生活保護受給者の中には系列作業所での作業を事実上義務付けられるケースもあり、言い換えると彼ら(彼女ら)は生活のために作業所に通っていることになる。
とはいえ作業所の仕事の中にはある程度手先が器用でないとできない内職などが存在しており、健常者でも手を焼く作業を重度の精神障害者が軽々行うケースもある。また利用者の障害者の中には筋力や持久力だけは人一倍で、荷物運びなどの力仕事やポスティングなどのスタミナ仕事は職員顔負けということも少なくない。
元々一般社会で正社員として長年働いていた人が難治性の鬱病で作業所通いを始めたケースもあり、そうした人は作業の能力には問題がないケースが殆どである。そのため「作業所なら流石に俺でも一番になれるだろ!」と甘く見ていると大抵は痛い目に合う。
職員の待遇・労働環境について
作業所の職員の待遇は、誇張抜きに平職員であればその辺のスーパーの社会保険付きパートで正社員相当の勤務時間働いたのと大差ない手取り年収であることもざらである。また、サービス管理責任者であっても所帯を持つのには厳しい収入であり、男の寿退社も常態化している。
ハッキリ言って大学や専門学校で時間と予算を掛けて福祉系の訓練を受けるというのは、本当に福祉業界に惚れ込んだ場合でもない限り、非合理と言える。
一方で時間的な余裕は、特にB型作業所であれば一般企業よりも大きい傾向にある。
というのも、B型作業所は職員の配置基準が達成できない状況であれば、収益構造上そもそも時短営業にするという選択肢があるためである。そうでなくとも、作業において優秀な利用者が多い作業所では作業が底を尽きるケースも多く、こうしたところからも職員の時間的余裕が生まれやすいため、時に職員がスマホでできる私用の手続きなどを勤務時間中に消化する場合も少なくない。
余談
蛇足だが、今日の就労支援事業はほぼ身体や精神に障害をもつ者しか利用の余地がないことから、「就労継続支援(就労移行支援)事業を利用する者=障害者」というステレオタイプが浸透している。実際、YoutuberのSyamu_gameが就労支援事業を利用したことを発表したことで(過去の奇妙な行動も相まって)、Syamuは行政お墨付きの障害者なのだと視聴者から憶測を呼んだ。