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神皇正統記

じんのうしょうとうき

南北朝時代に記された歴史書。同時代の『梅松論』が北朝視点なのに対し、こちらは南朝の視点から記された。
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有名な初めの一節編集

大日本(おおやまと)は神国(かみのくに)なり。天祖(あまつみおや)始めて基(もとい)を開き、日神(ひのかみ)長く統(とう)を伝へ給(たま)ふ。わが国のみこの事あり、異朝にその類なし。この故に神国といふなり


翻訳編集

大日本は神国である。天祖国常立尊がはじめてこの国の基をひらき、日神すなわち天照大神がながくその統を伝えて君臨している。我が国だけにこのことがあって、他国にはこのような例はない。それゆえにわが国を神国というのである。


注記編集

ただし、当時の日本では「日本は神国であり、また国である」という慣用句が有り、神仏習合の信仰から「インドは仏・菩薩が歴史上の人物である釈迦やその弟子達として垂迹し、中国では孔子老子などの聖人として垂迹したのに対して、日本では神道の神々として垂迹した」という意味に使われる場合が多かった。

この一節を「他国に対する日本の優位性を意味するもの」とするか「日本と他国には優劣は無く、ただ、国ごとの特異性として、インドが『仏の国』で中国が『聖人の国』なのに対して日本は『神の国』である」の意味なのかは一考の余地が有る。


概要編集

後醍醐天皇による政治の失敗と光明天皇を奉じる北朝との戦いで敗れた南朝の退勢を立て直すため、転戦していた北畠親房は東国にてこの書物を記し、新帝後村上天皇に献上した。神代から後醍醐天皇の崩御、後村上天皇の即位までの歴代天皇の即位・改元・享年など皇位継承を記すことによって、南朝の正当性(とりわけ皇室と公家を中心とした朝廷政治を理想とする)を主張した書物となっている。


天竺(インド)や唐土(中国)と比較して(※1)日本の皇統が万世一系で続いていることなど、天皇の超越的性格を三種の神器と合わせて説き、神国思想を強く打ち出したことにより、後世に大きな影響を与えた(水戸学皇国史観など)。


(※1)一方でこれらの国が生んだ聖人(釈迦、孔子など)に対しては、自身も仏教に帰依して儒学に精通していた親房個人は尊敬している箇所も存在する。


余談編集

神皇正統記では天皇の一覧・系譜も書かれているが、天皇の代数に関しては「第○代・第×世」という独特の記載がされており、著者の北畠親房が正統な天皇と考えた後醍醐天皇の男系先祖のみが「第○代・第×世」と記載されており、途中で天皇となった男系子孫の系譜が途絶えた天皇は「第○代」とのみ記載されている。

要は、神皇正統記では「第○代」は何人目の天皇かの意味で、「第×世」は後醍醐天皇に行き着く男系の系譜における何人目の天皇かを意味する。

つまり、神皇正統記では後醍醐天皇の男系先祖でない天皇や女性天皇はどんな名君でも「中継ぎの天皇」「傍系の天皇」扱いで、後醍醐天皇の男系先祖に当る天皇はどんな暗君暴君でも「正統な天皇」扱いとなっている

ただし、北畠親房は「正統な天皇か?」と「その天皇は名君か? それとも暴君・暗君か?」は分けて考えていたようであり(何せ、名君には正統性が有り、暴君・暗君には正統性が無いと考えると、一歩間違えば天皇制そのものを否定する考えにつながりかねない)、北畠親房からして「正統な天皇」でも批判すべき点は批判し、「中継ぎの天皇」「傍系の天皇」であっても評価すべき点は評価している。

(なお、神皇正統記での天皇の代数は神功皇后を天皇として数えているなど、現在の宮内庁の公式見解とは異なる)


関連タグ編集

後醍醐天皇:後醍醐帝による朝廷政治復活、能力による人材登用に対しては称えているものの、 新政策については批判している。

足利尊氏:後醍醐天皇から一字を拝領したのを無視して「高氏」と表記するなど敵視。他にも「徳のない盗人」など散々に批判し、尊氏=逆賊とする姿勢を徹底しており、それも後世に影響を与えた。

北畠顕家:彼が奥州に赴任した時の喜び、若くして先立ったことへの悲哀を簡潔な中に込めて記している。

続神皇正統記梅松論:いずれも北朝視点から記された史書。


南北朝時代 北畠親房 歴史書 日本神話 仏教 神道 儒教

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