概要
2022年6月22日公示、7月10日投開票の選挙。
注目点
コロナ禍やウクライナ侵攻など国内外の課題が多いなかで開催された選挙であり、各党とも高齢の議員の引退に伴う入れ替わりもあった。
新人候補の中には自民の生稲晃子やれいわ新撰組の水道橋博士、日本維新の会から中条きよしとタレント出身候補も各党出馬。
「表現の自由」を打ち出す新人候補も自民から現役漫画家の赤松健、立憲民主党からは風俗嬢の労働運動やAV新法に取り組んできた活動家の要友紀子(父親も労働運動家)が出馬、賛否両論もありつつ話題となった。
反ワクチン主義の小規模政党が後述の参政党やごぼうの党など乱立したため、反ワクチン勢力のうち国民主権党が出馬を断念するという珍事も発生した。
しかし前年の第49回衆議院議員総選挙での野党共闘が不調に終わったことなどで当初から自民党優位が予測されていた。
野党でも社民は特に状況が厳しく、用意できた候補も8人のみに留まりそのうち1人は87歳の元議員という人材の払底ぶりで、党首の福島自身も危機に立たされ夫の海渡雄一弁護士がSNSで必死の運動を行う事態に至った。
さらに選挙が始まってから立憲民主党が「神奈川県で擁立した2人の候補のうち1人を見捨てると発表」という迷走に陥り野党支持者の間でも不協和音が起こった。
しかし投開票日のわずか2日前に安倍晋三銃撃事件という衝撃的な事件が起こる。
選挙日程に変更はなかったものの、事件当日閣僚は全員一旦東京に戻り候補達も夕方以降の活動を取りやめた。
自民党候補は翌日の最終日に活動を再開して多くが喪章をつけて街頭に立ったが、今井絵理子だけは家族や支援者に聴覚障害者がいる事情から安全を考慮して街頭活動を中止しSNSのみで最終日活動した。
野党含む各党とも「暴力には屈しない」と声明を打ち出しつつの当日を迎えることとなった。
結果
予想通り自民党が勝利となったが比例は1議席減って大差とまでは行かず、銃撃事件は大勢への影響は少なかったとみられる。
安倍を喪ったことから勝利の喜びもなく、特に安倍と親交が厚かった候補は勝利会見が涙ながらの沈痛なものになった場面も多かった。
安倍元総理銃撃事件と旧統一教会の関わりが報道される中、公明党の応援を断った小野田紀美が圧勝し、政治と宗教が再び注目された。
立憲民主党は大敗北とまではいかないものの6議席を減らす厳しい結果に終わった。
衆院から鞍替えの辻元清美が復帰したものの有田芳生等知名度の高い現職が複数落選。
小沢軍団の候補が青木愛以外悉く敗北し、小沢一郎のさらなる影響力低下を印象付けた。
国民民主党も議席減、こちらも労組系候補以外が不調であった。
日本維新の会が比例票において立憲民主党を抜き、野党第一党に躍り出たものの微増にとどまった。
松野明美や青島健太等タレント出身候補や猪瀬直樹の返り咲きが注目されたが、選挙区では本拠地の大阪近辺以外は伸びなかった。この状況を「敗北」と自ら位置づけ、松井一郎が代表辞任を表明。
社民党は政党要件はなんとか保持したものの候補は福島瑞穂一人しか当選しなかった。
日本共産党も選挙区では次世代エースとして推される山添拓がゼロ打ちを決めたものの他地区では振るわず全体では2議席減らし、比例も3人と伸び悩み実務に定評のあるベテランの大門実紀史が議席を失った。
れいわ新選組は左派の著名人達の支持を取り付け、ダンスイベントなどで支持者の熱狂を煽る宣伝方法をとった。
党首山本太郎が辛勝、他にタレントの水道橋博士ら2人が当選したが幹事長の高井崇志をはじめとした旧民主党系の議員経験者は全員が落選した。
Youtubeの影響力を使ったミニ政党が躍進したことが今回の大きな特徴である。反ワクチンで右派新党の参政党はネット宣伝と連携した街頭活動で支持者の熱狂を煽る方式で1議席を獲得した。しかし同じく新興政党で反ワクチンの「ごぼうの党」は大物Youtuberの支持を取り付けるも議席獲得がならず、戦略の差が露骨に出ることとなった。
またNHK党からは暴露系Youtuberのガーシーが当選して議論を呼んだ。
右派の小規模政党である新党くにもり、日本第一党(在特会系)などは議席確保ができなかった。
「表現の自由」を打ち出した候補は明暗が分かれた。伝統的にオタクは保守層が多いといわれ、漫画家の赤松健がゼロ打ちで当確のうえ52.8万票と言う大量得票を叩き出して(特定枠を除けば)比例党1位の大勝利となったが、同じ自民党比例代表でオタク業界支援を訴える現職の藤末健三は票が割れたこともあり敗北。統率や票割りがほぼ不可能なオタク票の強力さと扱いの難しさを表すこととなった。
立憲民主党比例代表では上記の要友紀子がセックスワーカーの権利を訴えて水商売の従業員やAV女優の元を歩いて支持者開拓を行い、区議から転身した栗下善行が表現規制反対を主張するという二兎追う路線になったものの、両者とも票が伸びず落選した。
タレント系候補も自民党・日本維新の会では当選者が続出したが、立憲民主党では振るわなかった。
以前から「ちょっとしたことで逆転が起きる」と言われている参院選全国比例だが今回もその傾向は自民党候補で顕著に起き、当日中の当確を決めた候補達ですら「苦しい戦い」と漏らすほどだった。
当初好調だった今井絵理子が中盤以降失速し苦戦しつつなんとか当選、自衛隊出身の現職宇都隆史等業界系候補が落選した一方、上述の赤松の陣営は中盤に苦戦をアピールしたことで逆に支持層が奮起、これまで政治的発言を控えてきたプロ漫画家達が多数支援に名乗り出て票数を急速に伸ばす結果となった。
立憲民主党及び国民民主党では比例当選はほとんどが労働組合系の組織票持ち候補に占められることになった。
結果としては、各党とも手放しの勝利はなくそれぞれの苦さと課題を改めて抱えることとなった。
後日
COVID-19のオミクロン株が急拡大の時期と被ったこともあり、やはり三密になりやすい環境ができたのか選挙後に候補や応援に回った現職国会議員に感染者が続出。
自民からは河野太郎・牧島かれん、当選したばかりの候補からは水道橋博士(れいわ)・山添拓(共産)・辻元清美なども感染。
反ワクチン政党はマスクなしでの移動や集会をひけらかしていたものの「コロナはただの風邪」という立場であり支持者や候補は元々ごく軽症の場合検査に行くこともないため、これらの党付近の感染拡大状況は不明である。