曖昧さ回避
マメ科フジ属の「藤」は―
本稿では順に解説する。
1.の概要
藤の花には、他のマメ科植物同様にレクチンを中心とした毒性が含まれている。
これを人が一度に多量摂取すると吐き気、嘔吐、眩暈、下痢、胃痛などを起こすおそれがあり、重症化すると胃腸炎にもなるため注意が必要。
因みに、樹皮や豆の莢にはウイスタリン、種子には有毒性アルカロイドの一種であるシチシンといった毒が含まれている。
また花は可食でき、シロップ漬けや天ぷらなどにして十分に加熱すれば食べることができる。それでも大量に食せば、上記にある食中毒を発症するため日常的に食事することは推奨されない。
2.の概要
漫画『鬼滅の刃』に登場する蟲柱・胡蝶しのぶは、自身の医学・薬学によって、藤の花から抽出した毒を使って鬼を退治する特異な鬼殺隊士。
しのぶが調合した藤の毒は、超生物である鬼を死に至らしめる猛毒を発揮する。ただし一般の鬼ならば有効な戦術だが、強い鬼が相手だと藤の毒はその高い再生力で分解されるばかりか、その鬼を通じて鬼舞辻無惨や他の鬼に毒の成分が共有されてしまい、抗体を作られる危険性(リスク)もあるなど諸刃の剣である。
この事をしのぶ本人は承知しており、相対する鬼によって藤の毒の調合を変えて対応している。
そして戦闘中に毒を注入するため、主武器「日輪刀」は切っ先と柄付近を残して刃の部分を大きく削ぎ落した細剣のような特殊形状で製作されている。
また鞘には、納刀時に刀身へ仕込む毒を変えたり調節できるからくり仕掛けが施されている。この仕組みは、しのぶと刀匠である鉄地河原鉄珍しか知らないらしい(アニメ20話『大正コソコソ噂話』より)。
つまり医学・薬学の高い専門知識と、これを戦闘で活かす高等技術を有する者が編み出した戦術『蟲の呼吸』であり、鬼の攻撃を掻い潜り毒を突き刺して悪鬼滅殺する。
関連タグ
(鬼の)致死量700倍の服毒
胡蝶しのぶが編み出した、正しく捨て身の戦術。それは戦いで使う藤の毒では倒せないであろう強い鬼・上弦の鬼と遭遇した際に選択する奥の手。
鬼とって栄養価の高い女性(自身)は食べられる事を想定し、予め長い期間をかけて己が服毒して作った多量で高濃度の藤の毒で確実に致命傷を与える作戦。
最終章・無限城編で対峙した上弦の鬼・童磨は、しのぶの姉・胡蝶カナエを帰らぬ人にした仇であり、相手に気取られぬよう彼女は怨敵へ立ち向かい…。
言葉通り命を削る常軌を逸した戦法を考案し、そして実践したしのぶに後悔はなかったのだろうか。前述にある通り、藤は生物にとって有毒物質を含んでおり、長い期間を要したとはいえこれを大量に摂取して、しのぶの体調は非常に危険であったと容易に想像できる。
しのぶと交流した人たちの反応では―
- 聴覚に優れる善逸が、しのぶの身体の“音”は「独特で規則性がなく、ちょっと怖い」と感じていた
- 嗅覚に優れる炭治郎が203話で藤の香りをしのぶの匂いと連想している
- 副作用からなのか、顔色が悪いことを義勇が気づいている(キャラブック2より)
という印象があり、これらと照らし合わせれば初登場時点から既にその身体は深く蝕まれていた事が示唆されている。
ファンアート・二次創作では、上記の事柄からしのぶが自らの身体を犠牲にする関連の作品も投稿されている。また作中で服毒の仕方は詳細不明だが、藤の花は可食も出来ることから、花びらを食べたり、藤から抽出した毒液を服用など、作品によって描かれ方は様々。
そして人前では、しのぶが自身に行っている異常な決意を気取られないよう振る舞っていたと窺える事から、独りで毒の副作用に耐えている様子を描いた創作もみられる。
この考えに至るまでの苦悩(しのぶ本人には他の剣士のように頸を斬って戦う実力がない現実)や、どのような心情(寿命を削る事に対して自他への配慮)を抱えていたかは計り知れないが、確かな事実は犠牲の精でなく覚悟をもって、しのぶは挑んだということである。