あらすじ
ある木こりが泉のそばで木を切っていると、手が滑って斧を泉に落としてしまった。
困っていると、泉の中から女神が金と銀の2丁の斧を携えて現れ、「お前が落としたのはこの斧か」と尋ねた。木こりが正直に「いいえ、私が落としたのは鉄の斧です」と答えると、木こりの正直さに感心した女神は、鉄の斧、金の斧、銀の斧、合計3丁の斧を与えた。
その話をきいた、隣家に住む欲深な木こりが泉に出かけてわざと斧を落としたところ、同様に女神が2丁の斧を携えて現れ「お前が落としたのはこの斧か」と尋ねた。欲深な木こりが「それは私の斧です」と手を差し伸べると、女神は「お前は嘘をついた。だから斧は返さない」と言い放ち、泉の中へと消えてしまった。
概要
イソップ寓話のひとつ。一般には「金の斧銀の斧」「正直な木こり」などという題名で紹介されることも多い。
『欲張って嘘をついたりすると、もともと持っていた自分のものまで失う羽目になる』という教訓を与える物語である。
実はイソップ寓話の原典では「泉」と「女神」ではなく、「川」にたまたま通りすがったギリシャ神話の男神「ヘルメス」が木こりを試すという話になっている。
明治から大正にかけては海外の作品の舞台を日本に置き換えた翻案作品が多数作られていたが、本作が日本で翻訳され広まって行く過程で「ヘルメス→水星明神→水神→水の女神」といったイメージの変化があったとされている。
確認できる中で、この寓話で斧を拾う者を女神とした最初の例は、1907年(明治40年)に出版された、東基吉『子供の楽園 : 教育童話』収録の「金の手斧」です。
まったく和風にアレンジされており、樵(きこり)の名は「正直正助」、彼が河に手斧を落としてしまい泣いていると、河の中から「美しい女の神様」が現れるというものです。女神もまた和風で弁才天のようですが、弁才天は元を辿ればインドの水の女神サラスヴァティーなので適役ではあります。 ──『金の斧、銀の斧』の女神について
後代の改変
漫画やゲームなどに登場する、この寓話をモチーフとした設備・アイテムなど。物を放り込むとグレードアップして返ってくるというご都合主義的なところが多い。
泉にゴミを不法投棄するという社会風刺やパロディも少なくない。
人によっては金と銀の斧は渡すが落とした鉄の斧を返していないと勘違いして伝わっている事もあり、そこから派生して「元々のでなければ嫌だ」という人にもグレードアップのつもりで別の物を渡す(そして「これじゃなくて落とした鉄の斧を返せ」といくら言っても、正直者への見返りとして同じ事しかしない)融通の利かない存在としてギャグに使われることもある。
有名どころでは『ドラえもん』のひみつ道具「きこりの泉」がある。きれいなジャイアンの強いインパクトで知られるようになったものであろう。また、『それいけ!アンパンマン』に登場するいずみのせい(伊予弁を話す怪しいおじさん)は正直な落とし主に優れたアイテムや金のアイテムを与えるが、それを断られると感心して本人をゴールド化してしまう。
他には漫画『キン肉マン』では黄金のマスク編において太古のキン肉王家が始祖・シルバーマンとその兄・ゴールドマンのマスクを得るに至った過程でこの話がパロディされており、そこでは原典(?)通り「川で年老いた男神が~」という筋書きになっている。
しかしコミカル要素の強い回想シーン故、「欲の皮が張りすぎて一番豪華な金のマスクを指そうとしたら間違って自分のマスクを差した」という身も蓋もない話になっている。
『ウルトラかいじゅう絵本』シリーズでは斧がフライパンになっており、そのタイトルが「きんのフライパンぎんのフライパン」。男神枠にウルトラマンキングが充てられている。