🪓概要
木材を伐採・加工するための道具。幅広の刃に対して垂直に柄を付け、重みを利用して振るうことで、木の繊維を断ち切る。現代では斧をメインに木を伐ることは少ないが、チェーンソー主体の現代林業でも枝払いやクサビ打ちなど補助的に用いられる。
また武器としても用いられ、大きさ(面積)が剣や槍に比べて大きい為、見た目のインパクトで相手を委縮させるという2次的な効果もある。
なお、実際に武器として扱う場合には……
- (特に工具としての斧を転用した場合)リーチが短く攻撃手段が単調になりがちである。
- 重心が手元から大きく離れているため(同重量の刀剣と比較して)連続攻撃に向かない。
- 振る刃物の宿命として、振る向きと刃先の向きを一致(この一致させる行為を刃筋を立てる、通すと呼ぶ)させないと威力が減衰し、破損の可能性が高まる。
以上のような欠点も存在する。
手斧は災害時に救助用具(所謂ブリーチャー・エントレンチツール)としても使用され、窓や扉、壁等を破壊する、バール代わりにこじ開ける、等の様々な状況で活躍している。国によっては消火器と並んで各所に設置されている場合もある。
陸上自衛隊でも救助用具として「ピック付き手斧」の名称で広く配備されており、災害派遣で用いられる個人用器材の一部に含まれている。
軍隊・自衛隊では他にも装甲車などに車載工具として、さらには早期警戒機や電子戦機などにも積まれており、不時着時は脱出用に使われるだけでなく、軍事機密を消去する為にプログラムを消去したコンピューターを、更に斧で物理的にも破壊する事がマニュアルで定められている。
創作物での扱い
創作作品においては上述通り、見た目のインパクトなどからキャラクター差別化の意味合いで採用されることがある。
その場合、手斧形状で登場することもあるが、所謂"巨大武器"として比較的登場することが多くなっている。扱われ方としてはハンマーや大剣のように扱われ、大重量にかかわらず乱舞攻撃を繰り出したり体を回転させて周囲を切り裂いたりするなど、夢のある表現もあまり珍しくなく表現されている。その際、設定としては魔法の力による斧の軽量化または使用者自身の筋力増強化される場合や、特殊な金属・加工技術によって見た目に反して軽いなどのパターンが見受けられる。
以上のことから見た目と実際の筋力が一致しないという設定が可能なファンタジーワールドであれば、巨大な斧を可憐な美少女が振り回す、などという見た目アンバランスな組み合わせもある。
関連キャラクターは斧使いを参照。
種類
工具としての斧は種類に関わらず単に「斧」とタグ付けされることが多い。
名称 | 解説 |
---|---|
アックス | 木を伐採するための斧。木の繊維を横から切断するため、刃は薄く鋭い |
ハチェット | 手斧。片手で扱える大きさで、枝を払ったりするのに用いる |
モール | 薪割り用の斧。木の繊維を縦に割り裂くために刃が厚く楔状。スプリッティング・アックス |
鉞(まさかり) | 製材用の刃先幅が広い斧。はつり |
鉞(えつ) | 古代中国の青銅製大斧。斧頭の重さは6kgに達するものもあり、罪人の処刑に使用された。鉞(まさかり)とは別のもの |
石斧 | 石で斧頭を作ったもの。石器時代には大切な道具 |
バトルアックス | 工具の斧(アックス)と区別するための名称。戦闘用の手斧 |
フランキスカ | 投擲用の手斧、フランシスカとも |
トマホーク | アメリカ先住民族の手斧。投擲して武器として使うが、日常生活の道具でもある |
ブージ | インドの斧。棍棒の先に特殊な形状の片刃ナイフを組んで斧としたもの |
ポールアックス | 槍に斧を付けたもの。斧の部分は鎧の上から打撃を与えるために使用 |
ハルバード | どちらかと言えば薙ぎ払いに特化した槍であり、矛槍に分類される |
ルーンアックス | ファイナルファンタジーシリーズで最強クラス(または2番目に強い)の斧といえばこれ |
ピッケル | 登山用のツルハシに似た斧 |
防火斧(Fireaxe) | 前述した災害時用の救助工具。米製のゾンビ映画などのパニック物でお馴染みの真っ赤な斧(別に返り血とかではなく、災害用として元から赤く塗装されている)、と言った感じで創作では圧倒的に「偶々近くにあった武器」として登場する事が多い |
文化
権威の象徴
斧は古来から権力や武力など力の象徴と考えられ、紋章のモチーフとして用いられる。また、漢字の「王」の字は斧の形に由来するという説がある。
古代ローマの高位公職者の周囲にはリクトルという護衛官が配置されており、彼らは柄の周りに棒を巻き付けた斧(あるいは斧を括り付けた棒の束)「ファスケス」を持ち歩いていた。実用的な武器・処刑用具というよりは人々を束ねる者の権威を表す儀杖に近いもので、日本語では儀鉞、束桿、権標などと訳される。また、このファスケスが「ファシズム」の語源とされている。
神話・宗教・信仰
神話において英雄が斧を使った話は数多く存在するが、飽くまで当たり前の道具という扱いなのか、その人物を代表するエピソードとして扱われることは稀であり、剣や槍などに比べ名のある特別な武器として登場することもほとんど無い。しかし彫刻や絵画で斧を持った神が描かれるものは少なくない。
振り下ろす動作が天から落ちる雷と結びつけられたのかは定かではないが、多くの神話や宗教において雷神が斧を持つとされ、雨による土砂崩れや落雷で大木が倒れるなどして出土した石器時代の石斧が雷神の落とし物「雷斧」と考えられたこともある。
古代の宗教には生贄を捧げる為の重要な道具であり、紀元前2000年頃に栄えたクレタ島のミノア文明では両刃斧(ラブリュス)やそれを模した装飾品が最も神聖な神器とされた。
日本では古くから樹木の伐採に用いる斧の側面に3本と反対側に4本、計7本の筋彫り「七つ目」が施されていた。7本の筋で七柱の神を祀っている、「三を四ける=身を避ける」で危険を回避するなど理由は諸説あるが、概ね林業や山仕事での安全を祈願するためのものと考えられる。これを示す根拠として、すでに伐採された材木を加工する斧には七つ目が少ない事が挙げられる。
故事成語、成句
巨大な車に対して鎌を振るうカマキリのように、自分の実力も顧みず無謀な勝負を挑むことの例え。
古代中国でカマキリの前脚を斧に見立てていたことに由来する。
- おじいさんの古い斧(Grandfather's old axe)
英語の成句。何度も部品を取り換えた新しい斧を「祖父の代から使っている古い斧」だと言うある種のジョーク。
構成要素が全て入れ替わった場合それが最初と同一のものだと言えるのか、というパラドックス「テセウスの船」の一例として扱われる。
斧の名を冠した技
実在
フィクション
- グランドアクスクラッシャー:天牢星ミノタウロスのゴードンの技。高速で右腕を振り下ろし対象を粉砕する。
- ゴムゴムの戦斧(オノ):モンキー・D・ルフィの技。空高く伸ばした足を振り下ろして踏み砕く。
- トマホークチョップ:ジェロニモの技。斧のような威力の手刀。
- 金の斧銀の斧(プレシャスメタルアックス):キャベンディッシュの技。片手剣である愛刀デュランダルを両手持ちで振るう。
- (スーパー)トマホーク:甲虫王者ムシキングでガゼラツヤクワガタが使うわざ。前方からの体当たりを繰り返して押し飛ばし、後ろへひっくり返ったところで大アゴを振り下ろす。スーパートマホークは最初の体当たりが加速しており、上空までふっとばしてから大アゴを振り下ろす。