- 2010年10月頃からRedditで流行していた変顔やコラージュなどの犬のネタ画像やネットミーム。最初に投稿されたのは短文をちりばめたサモエド犬の画像だった。
- 1.の流行の中で生まれた、日本の柴犬「かぼすちゃん」の画像を元ネタとするネットミーム。
- 2.をモチーフとして生み出された仮想通貨(暗号資産)のティッカーシンボル。
- 2.3.を愛好するイーロン・マスクがトップに就く米国の政府効率化省(Department of Government Efficiency)の頭文字。
本記事では主に2.3.について扱う。
2.の概要
2010年2月に飼い主がブログに投稿していた、両手を重ねた流し目の柴犬の写真(記事トップ画像参照)が、同年に生まれたばかりのDogeミームの流行に乗る形でRedditに転載された。この時は特にブームなどにはならなかった。
しかし2012年にTumblrで「Fuck yeah, Doge」というブログが立ち上げられると徐々にDogeミームが一般の英語ユーザーにも広がるようになり、その中で2013年7月以降に件の柴犬の写真をコラ画像の素材として用いたものがズバ抜けた人気を示すようになった。そしてこれが世界的ムーブメントとなり、この柴犬の写真がDogeミームそのものの象徴となった。
ミーム化後わずか半年で仮想通貨となったり(次項にて解説)、オレオやストックホルムの地下鉄のキャラクターとして使われたり、SNS上の親ウクライナ運動「北大西洋同志機構(NAFO)」のアイコンとして使われたり、アメリカ最大の自動車レース「NASCAR」のレーシングカーに描かれたりと、いちミームの枠を越えたワールドワイドな存在となって愛された。
英国のニュースサイト「The Tab」によるネット投票では、「2010年代最高のネットミーム」に選出された。
各Dogeミームに共通する楽しみ方としては、犬の心境を勝手に想像した上で短文の台詞をいくつも散りばめるような、いわゆる「文字コラ」が一般的である。文字フォントは「Comic Sans」が多い。
挿入される台詞は「So+名詞」や「Very+名詞」のような、文法はおかしいが意味や感情は伝わるような短文で、さらに時々誤字も含まれており、未熟かつ舌っ足らずで犬が喋りそうな感じの英語が使われる。また感嘆詞の「Wow」も定番である。これに犬の可愛いらしさが組み合わさることで、英語話者がプッと吹き出してしまうようなユーモアが作られる。
↑文字コラの例
ちなみにこのDogeの英語を明らかに意識したような表現が、2015年発売の『ゼルダの伝説 トライフォース三銃士』の北米版のある場面で使われた際、ファンからは「面白い」「世界観を壊す」と賛否両論を巻き起こしたことがあった。
文章が無いものも多く、この場合はDogeの姿が食パンやら筋肉マンやら、面白おかしく改変される。中にはサングラスをかけていたり、表情そのものが改変されている場合もある。
↑食パン化の例
3.の概要
2013年12月6日にライトコインのブロックチェーンからフォーク(分岐)する形で、Dogeを名前とアイコンをモチーフとした仮想通貨「Dogeコイン」が開発された。
元々は値動きの激しい仮想通貨と、それに対する投機行動を揶揄する意図で開発された「ミームコイン」だが、Dogeコインはジョークで終わらずに実用的な側面を得るために精力的な改良と成長が続けられ、2024年時点では第8位のシェアで約240億ドルの時価総額と、それなりの規模を有している。
価格や手数料は安く、さらに決済速度はビットコインの10倍にも達するといった強みから、「草コイン」(時価総額の低いマイナーな仮想通貨)界隈では基軸通貨として用いられており、草コイン全体の価格が基本的にDogeコインと連動している。
発行上限が存在しないため価値は上昇しにくいが、2017年と2021年(後述)に1000%超えの大暴騰を経験している。
毎年4月20日は「国際ドージデー」で、この日に近づくと価値が上昇するアノマリーがあるとかないとか。
Dogeコインのコミュニティ「Own The Doge」では、DOGEを「Do Only Good Everyday(毎日素晴らしい行いのみをしよう)」と読み替え、Dogeにまつわるイベントの開催やチャリティ活動などを行っている。
冗談にルーツがあるという点からも分かる通り、金銭的な利益追求より感情的な豊かさの方を求める部分が強いことからか、コミュニティとしての結束があるのがこの仮想通貨の一番の特徴と言えるかもしれない。
YouTubeではDogeコイン誕生にかこつけて「Doge Coin Hype Video Contest」(Hypeは誇大広告、刺激的な広告の意味)が開催され、多くの動画投稿者たちが腕を競った。
↑コンテスト優勝作品。仮想通貨ブームの中、Dogeコインがライバルコインや批判を差し置いて、ロケットで月に行くような勢いで暴騰していく様子を軽快なBGMと共に映している。
自身も柴犬を飼っているイーロン・マスクがこれに出資していることでも知られており、2021年にイーロンがDogeコインについてたびたび言及した上、彼のTwitter(現X)買収に絡んで「DogeコインをTwitterの公式トークンとするかもしれない」などという予測が仮想通貨市場を駆け巡ったことから、3000%超という凄まじい大暴騰を引き起こした。
しかしイーロンが「単にDogeコインのユーモアセンスが好きと言うだけ(=政治的意図や利用意図はない)」と発言したことや、公式トークン化の期待が不発に終わったことから、今度は最高値から80%もの暴落に見舞われた。
その後の2023年4月にはTwitterのイーロンのアイコンと、同アプリ起動時の表示ロゴがDogeに一時的に差し差し替えられたことが物議を醸した(イーロンの主張によれば「以前とあるTwitterユーザーからの要望に『アイコンをDogeにしてくれ』というのがあったので、彼との約束通りアイコンをDogeのものに変更した」とのこと)。
2024年の米国大統領選挙では、マスクが支援するドナルド・トランプ共和党候補が勝利。これによりマスクは新省庁「政府効率化省」(Department of Government Efficiency)の要職に就くが、意識したのかは不明だがこの頭文字も「DOGE」であり、組織ロゴにも柴犬が用いられた。
この一連のマスクの成功に合わせて、Dogeコインも大幅な上昇を見せた。
Dogeコインから派生したミームコインとして2020年に「Shiba Inuコイン」、2021年には「Baby Dogeコイン」も誕生しており、2024年時点でShiba InuコインはDogeコインの次に時価総額の大きいミームコインとなっている。
モデルの柴犬について
この「世界一有名な柴犬」「インフルエンサー犬」のモデルとなった柴犬は、千葉県佐倉市で暮らしていた「かぼすちゃん」という名前の雌犬である。
元々は動物に乱雑な扱いをしていたブリーダーの廃業に伴い殺処分される寸前で、ボランティア団体によって保護され愛護センターに持ち込まれた19匹の内の1匹。飼い主となる女性がたまたまインターネットで里親募集サイトを見かけ、引き取った。
ちなみにかぼすちゃんの仲間の多くは、病気(犬フィラリア症など)に掛かっていたこともあって結局殺処分されてしまい、その点でも飼い主との出会いは運命を感じさせるものであった。
「かぼす」というのは保護した団体が付けた名前である。由来は不明だがカボスのような丸顔だからではないかと飼い主は推測しており、ピッタリな名前だと思ったのでそのままにしたそうだ。
飼い主は普段は「かぼちゃん」と呼んでいた。
誕生年は不明だが飼い主の推測では2005年、そして誕生月日は飼い主が迎え入れた日から11月2日ということになっている。
写真の出処となったブログは2009年6月開設で、かぼすちゃんとの生活と四季折々の風景を綴っていた。
飼い主は動物の保護活動に熱心で、その後も保護団体から引き取った猫の「つつじ」ちゃん、「ぎんなん」ちゃんも加わり、3匹の仲睦まじい様子が投稿されている(のちに猫の「おにぎり」ちゃん、ハムスターの「プリン」ちゃんも家族に加わっている)→
上のように海外ではミームとして人気であったが、日本国内では4番目に人気のある犬ブログという地位をすでに築いていた。愛犬家たちには海外のアンダーグラウンドなネット文化など知る由もなく、そのためミーム化されていることには飼い主もファンもしばらくの間気づかなかったらしい。
2021年には、かぼすちゃんの飼い主が友人の助けを借りてチャリティオークションに有名なDogeの画像も含めたかぼすちゃんの写真数枚をNFTとして出品したところ、なんと合計で5億円以上という値段で落札された。
売上金は、国内外の子どもの人権を守る団体や貧しい地域に学校を建てる活動を行っているNPO、孤児の支援をする団体などに全て寄付したという。
ミームが誕生して10周年となった2023年の11月2日、かぼすちゃんの18歳の誕生日祝いとして佐倉市と「Own The Doge」により、かぼすちゃんのモニュメント(銅像)がお披露目された。また11月2日を「国際ドージデー」とする(仮想通貨の国際ドージデーとは異なる)という声明も発表された。
2024年2月にはマンホール化もされた。
2022年12月に急性の肝胆管炎と慢性リンパ性白血病に罹ってしまい、一時危篤状態となったが、治療の甲斐あって無事に回復した。
その1年半後の2024年5月24日、かぼすちゃんは飼い主に見守られながら、静かに息を引き取ったことが報告された。
お別れの会には世界中からDogeの愛好家や愛犬家が追悼のために来日し、イーロン・マスクも追悼のコメントをTwitterから改名したばかりの「X」に投稿した。千葉県の地方紙「千葉日報」は一面大見出しで訃報を掲載し、大手新聞社でも取り上げられた。
飼い主は「かぼちゃんを通じて世界中の人々と深い交流を持てたことが幸せだった」とコメントしている。
関連イラスト
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外部リンク
- かぼすちゃんとおさんぽ。 - 発祥となったブログ。
- 今夜のご飯は何ですか? - 2010年の全ての元凶となる写真がアップされている記事。
- The Verge - 2014年に飼い主が愛犬のミーム化・仮想通貨化を知った時の記事。英語に堪能な友人の力を借りて、海外の取材に応じた旨も詳しく書かれている。
- かぼすちゃんとおさんぽ。 - 2016年にLivedoorブログへと移転した後のブログ。
- ありがとう、かぼちゃん! - かぼすちゃんの訃報を伝える記事。